2022.5.6

「ごめんね」が聞こえず、ケンカに発展。マスク生活は子どもの「脳の発達」を遅らせる!?

長野真弓
「ごめんね」が聞こえず、ケンカに発展。マスク生活は子どもの「脳の発達」を遅らせる!?

コロナ禍以降、職場や学校など多くの場面で、「新たな生活様式」が浸透しました。そのひとつが、マスク生活。もう慣れてしまったという方も、まだ違和感があるという方もいるでしょう。

マスクをしている相手の表情は、わかりにくいですし、声も聞き取りづらいですよね。そんなマスク生活が長く続くことで、子どもの発達に影響はないのでしょうか。今回は、マスク生活と子どもの発達について考えてみます。

マスク生活が子どもの発達に影響を及ぼしている?

米ブラウン大学が発表した調査によると、コロナ禍以前に生まれた3か月~3歳の子どもたちに比べて、2020~2021年のコロナ禍以降に誕生した子どもたちは、言語、運動能力、認知能力など、成長全般において発達が遅れているということがわかりました。

この調査結果について、比較認知発達科学が専門の京都大学教授・明和政子氏は、「この報告が真実であるかどうかはさらに慎重に検証を重ねていく必要がある」としつつも、子どもの発達になにかしらの問題が起きていることは事実と述べています。

実際に、日本の保育現場からも、マスク着用と子どもたちの変化を関連づける声が挙がっているようです。比治山大学教授・七木田方美氏が行なった、広島県内の保育士約200人への調査では、65%以上の保育士が「変化があると感じている」(「変化があると強く感じている」も含む)と回答しており、具体的な変化としては、63%の保育士が「反応が乏しくなった」と答えています。

また、自由記述欄においては、以下のような回答もありました。

  • (保育士の)顔がわからないので不安がったり泣いたりする
  • どの先生から呼ばれたのかわからず、キョロキョロする
  • マスク越しに「モグモグ」と言われてもわからない。外してやって見せて、ようやくまねて口を動かす
  • 声が聞き取りづらいため、子どもが話に集中できない
  • 歌も絵本も(保育士の)口の動きが見えないので、まねて言葉を自ら発しようとする姿が少なくなったように思う

 
このように、子どもたちの活動性や発達にマスク生活が影響していることは間違いないようです。では、なぜマスク生活が原因で子どもたちの発育が遅れるのでしょうか? 次に詳しく見ていきます。

マスクが発達に影響する1

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マスク生活は、子どもの「脳の発達」を遅らせる!?

明和氏は、マスク生活は子どもの「脳の発達」に影響を与えると指摘し、その理由を以下のように説明しています。

 たとえば、生後半年前後から就学前頃までは、脳の視覚野という部分の発達の感受性期にあたります。他者の目や口の動き、口元から発せられる音声など、顔全体の豊かな動きや音を見聞きする経験が重要です。しかし、今、多くの人がマスクをしていることで、子どもたちはこうした経験を得ることが難しくなっています。

(引用元:女子SPA!|“マスク育児”が子どもの発達に影響?親・先生の表情がよめないリスク

脳が成長する大切な時期に、見たり聞いたりといった経験が不足してしまった場合、具体的にどのような問題が起きるのでしょう。

乳幼児期(0歳~6歳頃)

明和氏によると、生まれてから就学前頃までの乳幼児期は、「相手の感情を理解したり、言葉を身につけたりする重要な時期」なのだそう。この時期の子どもは、「目や口全体が豊かに動く表情を見ることで相手の気持ちを理解」します。

そして同時に、相手の「口元から発せられる音声」も聞きながら、その音声をまねしつつ言葉を獲得していくのです。しかし、親や先生がマスクを着用していると表情がわかりにくいため、言葉の獲得や相手の気持ちを理解する力がなかなか伸びません。

就学期(4歳~10歳頃)

就学期の子どもたちにも、マスク着用のマイナス効果は及びます。明和氏によると、4~10歳くらいまでは、「相手の視点に立って考えるを発達させる時期」とのことですが、マスク着用時は相手の表情が見えません。すると、相手の気持ちを察することが難しくなり、思いやりや我慢の心が育たないそうなのです。

たとえば、友だちにぶつかってしまった子が「ごめんね」と謝ったけれど、マスクのせいで声が聞こえずケンカに発展してしまった――など、明和氏は、「コミュニケーションに苦労する場面が増えている」と述べています。

まだ続くと予想されるマスク生活。この状況で、大人が子どもたちのためにできることはあるのでしょうか?

マスクが発達に影響する2

マスク生活でも、子どもの脳を発達させるコツ

最後に、マスク生活のなかでも、子どもの心や脳を発達させるコツをご紹介します。

■子どもにさまざまな表情を見せる

明和氏は、子どもが「表情に触れる機会」を増やしていくことが大切だと言います。子どもは大人のように、目だけで通じ合うということはありません。目や鼻、口元など、表情のなかのたくさんの情報を使って、相手の感情を理解していきます。家庭では、これまで以上に表情を見せることを意識してください。

また、乳幼児期は「む」「飲み込む」という動作を覚える時期です。マスクを外す家庭での食事時は、親の口の動きをよく見せるようにしましょう。

■親子スキンシップを積極的に

子どもの脳と心の発達には、スキンシップが効果的なようです。マスク生活が続く毎日でも、「家庭内で身体接触をともなう対面コミュニケーションができていれば、過度に不安に思う必要はない」と明和氏は述べています。

子どもをぎゅっと抱きしめたり、頭や体をなでたりといった安らぎのスキンシップをしてみましょう。子どもを膝に乗せての読み聞かせも◎ですよ。また、身体心理学が専門の『幸せになる脳はだっこで育つ』著者・山口創氏によると、「父親にすすめたいのは体遊びを兼ねたスキンシップ」とのこと。肩車やお馬さんごっこがよいそうです。

■笑顔が伝わる「前向きな言葉がけ」を

23年の保育士経験があるこどもコンサルタントの原坂一郎氏は、マスクをしていても笑顔が伝わる方法として、 “前向きな言葉がけ” を挙げています。子どもは、それまでの経験から、「やったね!」「頑張ったね」「かっこいいね」などの言葉を発する人の表情が、笑顔であることを知っています。ですから、マスクを着用していたとしても、その人の顔は「笑顔」だと認識できるのです。

ほめ言葉以外にも、「がんばろうね」「できるかな」「よかったね」などの “優しい言葉” でも笑顔は伝わるのだとか。子どもに対する前向きな言葉がけを、いま以上に意識してみましょう。

***
コロナ禍以降、子どもたちを取り巻く世界は大きく変わってしまいました。しかし、いまも「子どもたちには笑顔が満ちあふれ、そのかわいらしさはまさに天使そのもの」と原坂氏は言います。今後、どれだけ続くのかもわからないマスク生活ですが、子どもたちの健やかな心と脳の発達のために、大人はできるだけのことをしてあげたいものですね。

(参考)
女子SPA!|“マスク育児”が子どもの発達に影響?親・先生の表情がよめないリスク
ダイヤモンドオンライン|「マスク世代の子供」に知能低下リスク?専門家が考える対策とは
朝日新聞|マスク、黙食、密回避…制約だらけの日常 子どもの脳や心の発達は
FNNプライムオンライン|表情が見えにくいマスク生活、子どもの発達に影響は?「反応が乏しくなった」63%…奮闘する保育園【広島発】
比治山大学|保育者のマスク着用が保育や子どもに与える影響 COVID-19による影響調査
時事ドットコムニュース|コロナ禍が子供の脳と心に及ぼす影響産経新聞
産経新聞|【原坂一郎の子育て相談】マスクで子供に向き合う今 笑顔を伝える工夫を
PRTimes|マスク着用の習慣化による体の不調・変化に関する調査を実施。約半数がマスク生活のもたらす健康リスクを「何も知らない」一方、3人に1人がその症状を実感!
ボーネルンド|スキンシップは子育ての基本。肌の触れ合いは親も癒します
NHK|マスクが子どもの発達に影響?コロナ禍の子育て
medRxive|Initial Finding in a Longitudinal Observational Study of Child Health