教育を考える 2019.6.20

その習い事、子どもは本当に望んでいますか? 身近すぎる「教育虐待」の怖さ

編集部
その習い事、子どもは本当に望んでいますか? 身近すぎる「教育虐待」の怖さ

近年、虐待に関する悲しいニュースが続いていますよね。同じ子どもを持つ親として、心を痛めている方も多いのではないでしょうか。

しかし、こうした問題は決して他人事ではありません。なぜなら、虐待は悪意のもとになされるものだけではないから。「子どものためによかれと思って」なされた行動が、親の自覚のないままに虐待とみなされるケースもあるのです。特に、「教育虐待」にはその傾向があります。

「教育虐待」は、ここ数年で広まってきた言葉ですが、どのような行為を指すかご存知でしょうか? 「知らない」という方のなかには、気づかないうちに当てはまってしまっている方もいるかもしれません。

そこで今回は「教育虐待」「教育虐待を未然に防ぐ方法」についてお話しします。

「教育虐待」は子どもの将来に多大なダメージを与える

みなさんは、自分の子どもに下記のような「しつけ」や「教育」を行なっていませんか?

  • 宿題が終わっていないと、夜遅くまでやらせる
  • 解けない問題があると、「どうしてできないの?」と責める
  • 塾や習い事でスケジュール漬けにしている
  • 親子間の約束が守られなかったとき、厳しく責め立てる
  • 成績が悪いと、「努力が足りない」「人間のくず」などの暴言を浴びせる

 
一見、よくある「しつけ」や「教育」のように思われるかもしれません。しかし、これらの行為が子どもを過度に追い詰めた場合、「教育虐待」とみなされることがあります。

青山学院大学の古荘純一教授によると、「教育虐待」とは、教育を理由に子どもに無理難題を押し付ける心理的虐待のこと。2011年の「日本子ども虐待防止学会」で初めて発表された、新しい考え方です。

「教育虐待」を受けている子どもは、大人になってからも、他者からの指示がなければ動けなくなる恐れがあります。また、自信が持てない何をしても楽しめないなど、心の問題を抱えてしまうことも。学校生活や就職活動を機に不適応行動を起こす人も少なくありません。こうしたことから、「教育虐待」は子どもの将来に多大なダメージを与えるということがわかります。

身近すぎる「教育虐待」の怖さ2

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
PR

「子どものために」と言いながら子どもを追い詰める親たち

「教育虐待」という言葉を広めた武蔵大学の武田信子教授によると、教育虐待に走りやすい家庭は、下記のような特徴を持っている家庭が多いと言われています。

  1. 親自身が、経済的事情などで進学を諦めた経験がある
  2. 母親が不本意に仕事を辞めて、専業主婦になった
  3. 子どもの両親ともに高学歴で社会的地位が高い

 
上記の1と2の親が「教育虐待」をした場合の理由として考えられるのは、自らの生き方や学歴にコンプレックスを抱いているということ。子どもには同じ苦しみを与えたくないという強い思いから、自分が経験した失敗を避けるための教育に力を入れてしまいます。

一方、3の親の場合は “失敗知らず” ですが、逆に自らの成功体験に依存しているということが考えられます。自分の知らない道を子どもに歩ませることを極端に恐れ、子どもにも高学歴・社会的地位の高い大人を目指すことを強制してしまうのです。

社会福祉法人カリヨン子どもセンターの石井花梨事務局長いわく、教育虐待は決して特別な家庭に限った話ではないのだそう。表面的には「子どものために」という親心のもとに行なわれているのです。しかし、本当に子どものことを考えていると言えるでしょうか。本当に子どものことを考えていれば、子どもを追い詰めるほどの行為には至らないはずです。

そう考えると、「教育虐待」をしている親は、「子どものために」と言いながら、実際には自分のために、過度な「しつけ」や「教育」を行なっているのだと言えますよね。

身近すぎる「教育虐待」の怖さ3

その教育、本当に必要……? 子どもを見て考え直そう

とはいえ、「しつけ」や「教育」そのものを怠るわけにはいきません。親として、子どもに適切な「しつけ」や「教育」を行ないつつ、「教育虐待」しないようにするには、どうすればいいのでしょうか。

小児科医の高橋孝雄さんは、親の「しつけ」や「教育」が虐待になるかどうかの分かれ目は、「親の関心が子どもにあるのか、テストの点数や合格した学校などの成果にあるのか」であると言います。前者であれば、自分の行為によって子どもが追い詰められていたら、すぐに気づいて対処できるはずです。しかし、後者の場合、子どもの変化に気づけないまま、子どもを追い詰め続けてしまうとがあります。

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏いわく、現在の教育虐待には、「親自身の不安を解消しようとしている」という構造があるのだそう。我が子が新しい時代を生き抜いていけるのかが不安で、親が思う解決策を与えようと無理やり難関大を目指させたり、子どもの望まない習い事でスケジュールを埋めたりしてしまうのです。しかし、子どもたちがこれから生きていくのは、親たちが生きてきた世界とは全く異なり、予想もつかない世界。おおた氏は、親が与える解決策にはあまり意味がないと言います。まずは、「親は無力である」と親自身が自覚することが大切なのだそう。

「教育虐待」を未然に防ぐのに必要なのは、まず子ども自身に関心を持つことです。子どもの様子をよく観察し、今行なっている「しつけ」や「教育」が本当にその子に必要なのか、よく考えなくてはなりません。

たとえば、子どもが習い事に行くのを嫌がったとき、たまたま気分が乗らないだけなのか、ずっといやいや通っていたのか、はっきりさせることが必要です。そのうえで、なぜその習い事に通わせているのか、親の考えを伝えます。最後は、「続けるのか辞めるのか、あなたが決めていいよ」と、子どもの意思を尊重しましょう。

子どもの人生は子どものものであることを自覚したうえで、子ども自身の生きる力を信じてあげることが大切なのです。

***
子育てをしていると、子どもが自分の分身であるかのような錯覚につい陥ってしまうことがあるでしょう。だからこそ、より幸せな人生を歩めるように導かなくては、と考えてしまいます。

しかし、子どもは親と同じひとりの人間であり、親の分身ではありません。どんな人生を歩むことが幸せか、決めるのは子ども本人です。親が特別なことをしなくても、自分の思う幸せを追い求め、たくましく道を切り開いていきます。親は、それを一番近くで応援してあげればいいのです。

(参考)
こどもまなびラボ|「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには “決定的に足りない” 時間がある
日経DUAL|「勉強しなさい」エスカレートすれば教育虐待に
東洋経済オンライン|中学受験で教育虐待しやすい親の2つの特徴
東洋経済オンライン|「あなたのため」が「教育虐待」に変わるとき
プレジデントオンライン|なぜ「教育」という名の「虐待」が増えているのか
朝日新聞DIGITAL|しつけに名を借りた虐待… どの家庭でも起こりうる
「考える力」を伸ばす『地図育®』コラム|教育熱心も度が過ぎると虐待になる?あなたのその行動が”教育虐待”にならないように気を付けよう
日経DUAL|「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?