2020.5.29

もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて

もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて

(この記事はアフィリエイトを含みます)

「早く!」「だめ!」――親が子どもについ言ってしまう言葉です。でも、いくらそう声をかけても、子どもは親の思い通りに早く行動してくれませんし、だめなことだと理解してくれたのかもわかりません。いったい、どうすれば子どもに「早く!」「だめ!」と言わずにすむのでしょうか。幼稚園の園長を務めた経験もある、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生にアドバイスをもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/山本未紗子(インタビューカット)

大人と子どもはそれぞれ違う世界に住んでいる

「早く!」「だめ!」という言葉を一度も言わないまま子育てをすることは不可能でしょう。なぜなら、大人には大人のリズムがあり、子どもには子どものリズムがあるからです。大人は、社会を中心にして生きていて、子どもは自分の好きなことを中心に生きています。そもそも住んでいる世界が違うために、どうしても両者のリズムがずれてくる。そうして、子どものリズムが自分に合わないと感じると、親はつい「早く!」「だめ!」と言ってしまうのです。

もちろん、イライラして子どもをたたくなんてことはご法度です。かつては、そういう子育てがすすめられていたときもありました。子どもがなにかしてはいけないことをした場合、0歳台の子どもなら足の裏を、1歳台の子どもならお尻をぽんとたたくという教育メソッドが存在したのです。でも、たとえ0歳台の子どもでも、親の表情などから言わんとしていることが理解できることがわかってきたため、いまはきちんとコミュニケーションを取ることが重要だと考えられています。

そのコミュニケーションとは、ただ「早く!」「だめ!」と言うだけのことではありません。大切なのは、なぜ早くしてほしいのか、なぜだめなのか、その理由を必ず伝えること。なぜなら、子ども自身が納得して「じゃあ、そうしよう」と思えなければ、しつけは成功しないからです(インタビュー第1回参照)。

岩立京子さんインタビュー_子育てで「早く」「駄目」といわない方法02

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「ニンジン作戦」で子どもを楽しい方向にいざなう

しかし、子どもに早くしてほしい理由をどんなにきちんと伝えたところで、時間感覚や価値観が違う世界に住んでいる子どもは、なかなかそうできません。子どもの住む世界は大人とは違うということをしっかり認識したうえで、子どもが早くできるような、だめなことをだめだと理解できるような工夫やお膳立てを、親の側がする必要があります。

そのコツは、早くしてほしい理由やだめな理由を子どもに伝える際に、「楽しい方向」に導いてあげるということ。「誰かに怒られるよ」といった内容ではなく、たとえば幼稚園に遅れそうになっている場合なら、「幼稚園に早く行けたらお友だちとたくさん遊べるよ」というふうに、子どもが「じゃあ、早くしよう」と思えるような声かけをするのです。

基本的に、ただ「早く!」「だめ!」と言ってもコントロールしにくいのが子どもなのです。でも、「早くしたら楽しいことがある」とか「これをやめたら次にいいことがある」などと思えたら、子どもはきちんと気持ちを切り替えることができます。

これは、いわゆるニンジン作戦です。心理学における「強化」の理論をベースに、「子どもに対してニンジンを使うと、その後はずっとニンジンを増やし続けていかなければならない」という考え方も前にはありましたが、いまはそうは考えられていませんし、わたし自身もうまくニンジンを使うことには賛成です。

その理由は、子どもの世界を広げるきっかけになるからです。ニンジンをうまく使って子どもを楽しい世界にいざなってあげる。そうすることが、結果的に子どもにとってはプラスに働くはずです。

わかりやすいニンジンの例として、甘いジュースやお菓子があります。それらを完全に禁止している家庭もあるでしょう。でも、お菓子を食べたい子どもと食べさせたくない親のあいだでバトルが繰り広げられたら、それこそ親子関係自体が悪くなってしまう。そう考えると、適度にニンジンを使うことはなにも悪いことではないと思うのです。

岩立京子さんインタビュー_子育てで「早く」「駄目」といわない方法03

お膳立てで、子どもに「早くしよう!」と思わせる

忙しい朝に早く子どもに起きてほしいのなら、朝食だって立派なニンジンになりますよ。ただ「早く起きて!」という言葉をいくらかけても、子どもは大人とは違う世界に住んでいますから、なかなか起きてくれない。そんなことに悩んでいる人も多いでしょう。

でも、まだ寝ていたい子どもに対して、「早く!」と言うばかりか、まして「まったくもう!」なんて怒ったところで、子どもが素直に起きてくれるでしょうか? 人間には、心理学における反発理論という行動原理が働きます。怒られると、ますます反発しようとするのです。大人だって同じですよね? 自分に対して攻撃的な人に対しては反発したくなるでしょう。

そこで、子どもの好物をニンジンに使ってみましょう。トーストのにおいを漂わせたり、「今日はあなたが大好きな卵焼きだよ」「焼きたてを食べたほうがおいしいよ」と言ったりして、子どもが「早く起きよう!」と思えるような方向にいざなってあげるのです。そのようにお膳立てをして、「早く!」「だめ!」と言わないですむように考えてみてください

岩立京子さんインタビュー_子育てで「早く」「駄目」といわない方法04

遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践
岩立京子 監修/明石書店(2019)
遊びの中で試行錯誤する子どもと保育者 子どもの「考える力」を育む保育実践

■ 東京家政大学子ども学部教授・岩立京子先生 インタビュー記事一覧
第1回:イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てを楽にする、2歳までの「しつけ」のコツ
第2回:もう「早く!」なんて言わなくていい。“ニンジン作戦”で子どもを楽しい世界にいざなってあげて
第3回:子どもの失敗の機会を奪う「悪い先回り」を今すぐやめて、「いい先回り」をするための工夫とは?
第4回:「しつけもしっかりしたいけど、自主性も育てたい」親のこの考えが“完全に間違っている”理由

【プロフィール】
岩立京子(いわたて・きょうこ)
1954年生まれ、東京都出身。東京家政大学子ども学部教授。東京学芸大学名誉教授。東京学芸大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修士課程を経て、筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学心理学系技官を経て、1986に東京学芸大学講師となり、1991年に筑波大学で博士(心理学)を取得。その後、東京学芸大学で34年間にわたり保育・幼児教育の専門家養成に関わった後、現職に就く。2014年から2017年まで、東京学芸大学附属幼稚園長を兼任。主な著書に『幼児理解の理論と方法』(光生館)、『保育内容 人間関係』(光生館)、『たのしく学べる乳幼児の心理』(福村出版)、『乳幼児心理学』(北大路書房)、『新幼稚園教育要領の展開』(明治図書出版)、『子どものしつけがわかる本 がまんできる子、やる気のある子を育てる!』(主婦の友社)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。