2019.7.23

人気絵本作家いわむらかずおさんが語る「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」

編集部
人気絵本作家いわむらかずおさんが語る「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」

世界中で1,500万部を超えるロングセラー絵本「14ひきのシリーズ」(童心社)を知っていますか? 緑豊かな里山で暮らす、野ねずみの家族の幸せな日常が描かれた全12冊の絵本です。誕生35周年を迎え、世代を超えて愛され続ける本シリーズを、一度は手に取ったことのある方も多いのではないでしょうか。

その作者であるいわむらかずおさんの作品には、大自然を舞台にした物語がたくさん! 今回は人気絵本作家のいわむらかずおさんに、自然が丁寧に描かれたいわむらさんの絵本の楽しみ方と、親子の読み聞かせの意義についてお話をうかがいました。

「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」2

絵本が自然体験の入り口になるように

絵本が自然体験の入り口になっているといいな、と思うんです。自然の体験というのは、自ら進んでやる行動の中で、いろんな発見が生まれてくるものですね。草むらや雑木林をゆっくり歩いたり、池の水をすくってみたりすることで、自分でいろいろなことに気づきます。

絵本「14ひきのシリーズ」でやっていることも、じつは同じ。ページをめくれば、はじっこにいる小さなアリやクモが目にとまる。草の陰にてんとう虫が見える。

こんなふうに、絵を見ていると、いろいろな発見があるでしょう。それは実際に自然の中を歩いて、さまざまな生きものたちに出会ったり、何か新しいものを見つけたりするのと、同じことですよね。

自然の中で「自ら発見する」経験がとても大事だと思っているので、それができるように、自然の様子を細かく描いているんです。もちろん、あくまでも疑似体験だけれども、それでも絵本が自然体験に興味を持つきっかけになるといいですよね。

「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」3

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絵の細部にまで目を向けて、発見してほしい

『14ひきのひっこし』『14ひきのあさごはん』(童心社)には、「……はだれ?」「……はなに?」という問いかけを入れています。絵の細部にまで目を向けて、発見することを楽しんでほしい、という思いを伝えるためにわざと、そういう問いかけをしているんです

じつは絵本を作っているとき、「こんなのないほうがいいんじゃないか」という意見もあったんです。でも、この本の意図がよく伝わるように、最初の何冊かには入れたほうがいいと思って、私の意思で入れました。

問いかけがあると、お子さんは一生懸命探して答えますよね。それも含めて楽しんで読んでもらえたら嬉しいですね。

「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」4

じっくり、ゆったり。絵本には読者の意思が働く余地がある

絵本を読み聞かせるとき、お母さんがページをめくろうとすると、「まだダメ!」「もっと見る!」と、子どもが主張することがありますね。

このように、絵本には、読者の意思が働く余地があるんです。テレビのような映像だと、なかなかそうはいきませんね。生放送の番組を「ちょっと止めて」なんて、難しいでしょう。

今のメディアは、流す側の意思で、一方的にすーっと流れてきます。それを受け取る側はただ、流れていくのをぼんやりと見ることしかできません。でも絵本はそれと違って、機械的に進むものではないですよね。受け取る側が主体的に味わうことができるんです

ページをめくる手を止めて、何かをじっくり探したり、お母さんとの会話をゆったり楽しんだりする子どもが自分の意思で読み進めていく。とても大事なことだと思います。

「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」5

読み聞かせは、読み手と聞き手の強い人間関係を生む

読み聞かせは、読み手になる大人と、聞き手になる子どもとの間に、強い人間関係を生むと思うんです。

例えば、子どものときに、お母さんなり、お父さんなりに絵本を読んでもらう。そして、大人になったときに、昔お母さんに何度も読んでもらったな、と思い出す。その絵本を手にしたら、たとえお母さんはもうそこにいなかったとしても、お母さんの声が聞こえてくる。

あるいは、お母さんの膝の上に乗って読み聞かせをしてもらう。すると、お母さんの体温が伝わってくる。その絵本と一緒に、お母さんの温もりにふわっと包まれる感覚を覚えていて、ずっと後になっても、ふとあの温かさを思い出す。そんなこともありますね。

これは、すごく大事なことだと思うんです。もちろん、読んでもらう子どもにとって大きな影響を与えるだけでなく、読む側の大人にとっても宝物のような時間になるでしょう。読み聞かせには、そういう両者の強い関係を生む力があるんですね。

「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」6

■ 「14ひきのシリーズ」作者・いわむらかずおさん インタビュー一覧
第1回:人気絵本作家いわむらかずおさんが語る「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」
第2回:無関係だと感じたら、好奇心は育たない。「自然体験」「農業体験」は命の仕組みを学ぶチャンス!
第3回:絵本と自然が出会う場所。物語の世界が広がる「いわむらかずお絵本の丘美術館」

■ いわむらかずお絵本の丘美術館 イベント取材記事
自然体験デビューにぴったり! 絵本と自然が出会う場所「えほんの丘」の『とんぼいけ観察会』

【プロフィール】
いわむら かずお
1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひき」シリーズ、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの? To See My Friend!』(童心社)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。