あたまを使う/教育を考える/サイエンス 2018.11.22

卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌

卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌

日本が誇る世界的大企業・ソニーが運営する科学教育発展のための助成財団「ソニー教育財団」。主な活動は小中学校教員たちの支援ですが、なかにはソニー教育財団が直接的に子どもに学習の場を提供するものも存在します。それらはどんなことを目指したものなのでしょうか。公益財団法人ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さんにその目的を語ってもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

身近なものですごいものをつくる喜びを味わう「ものづくり教室」

ソニー教育財団では、「ソニーの教育助成論文」や先生たちの研修会、プログラミング教材の貸し出しなど、さまざまなかたちで小中学校の先生たちの支援をしています(インタビュー第1回第2回参照)。そういった間接的なサポートのほか、わたしたちが直接的に子どもたちに学習の場を提供する活動もおこなっています。

そのひとつが、「ソニーものづくり教室」という工作教室。子どもたちが自分の手でものをつくる楽しさを味わい、科学への興味、関心を深めて自ら学ぶ意欲を持つことを目指しています。開催場所は全国のソニーグループ関連の施設や近隣の学校。年間に約40回開催し、計1500人ほどの子どもたちが参加してくれています。2018年は、これまでに青森、山形、宮城、千葉、長野、静岡、京都、山口、長崎、大分、熊本などで開催してきました。

講師は、ソニーの技術者や「ソニー科学教育研究会」(SSTA)の先生です。なにをつくるかというお題を考えてくれるのも彼らです。お題は、たとえばタッパーウェアのようなブラスチックケースを使ったICレコーダーや、ペットボトルを使ったヘッドホンなど。100円ショップですべて手に入るような身近なものでも、その仕組みを知り、工夫次第ですごいものがつくれる。それこそ、科学の醍醐味ではないでしょうか。

ソニーの凄すぎる自然教室の全貌2
画像提供:ソニー教育財団

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「自然漬け」のなかで知る自分のなにかが変わる感覚

また、「科学の泉—子ども夢教室」もわたしたちが直接的に子どもたちに学習の場を提供している活動のひとつ。これは、2000年にノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生を塾長に、小学5年から中学2年までの28人の塾生と7人の現役教員でもある指導員が寝食をともにしながら「自然に学ぶ」サマーキャンプです。

スマホやゲーム機の持ち込みはもちろんNG。5泊6日の間、子どもたちにはそれこそ「自然漬け」になってもらいます。今年は、新潟の当間高原でおこないました。白川先生は学生時代に山岳部に所属されていたこともあり、82歳になったいまも背筋はしゃきっと伸びているし、山歩きが大好き。そして、子どもたちのことも大好きなんです。

メインの活動は、大自然のなかでさまざまな生きものに触れ、学年の異なる4人ひと組のグループで研究報告をするというものです。テーマは与えられるのではなく、子どもたち自身で決めて探求します。2018年のものを例に挙げると、カエルやカマキリ、トンボ、カナヘビ、メダカなどの生物について、運動能力、生息環境、食物としているもの、解剖による臓器の位置といったさまざまな視点からそれぞれの特徴をとらえ、研究成果を発表してくれました。

ソニーの凄すぎる自然教室の全貌3
画像提供:ソニー教育財団(本記事冒頭画像も同財団提供「科学の泉」)

ただ、白川先生は、この活動によって子どもたちに自然科学の知識を得てもらおうとしているわけではありません。そうではなく、5泊6日の間に「自分のなかになにかを発見」してほしいと願っています。虫を触ったことがなかった子どもが触れるようになった、そんなことでもいいのです。周囲の自然や初対面の人といった「環境」のちがいによって自分のなにかが変わる感覚——それを知ることが、子どもの成長に大きく関わるのですからね。

この活動は、2018年で14年目になりました。教室の卒業生は約400人になり、同窓会と言いますか、年に1回、ホームカミングデーのようなイベントもおこなっています。初期の卒業生はとっくに社会人。本当にいろいろな人間がいて、これが面白いんですよ。「科学の泉」の卒業生ですから、理系の道に進んだ人間が多いかというと、4割程度は理系ではありません。なかにはバレリーナになった、東大を出てお笑い芸人になったという卒業生もいます。

そして、白川先生は「これがいいんだ」とおっしゃる。「みんな理系に進む必要はない」と。科学とひと言で言っても社会科学、人文科学といろいろなものがあります。自然科学だけが科学ではありません。それは人間も同じこと。「この世にはいろいろな人がいるからいい、それが望むところだ」。これが白川先生のお考えなのです。

ソニーの凄すぎる自然教室の全貌4

※本記事は2018年11月22日に公開しました。肩書などは当時のものです。

■ ソニー教育財団理事長・高野瀬一晃さん インタビュー一覧
第1回:ソニーが“子ども投資”を59年間も続ける深い理由
第2回:世界のソニーが手がける「プログラミング教育サポート」
第3回:卒業生400人、みんな理系じゃないから面白い。ソニーの凄すぎる自然教室の全貌
第4回:日本人教員がビックリするのも納得。豪州が取り組むSTEAM(スチーム)教育の凄さ

【プロフィール】
高野瀬一晃(たかのせ・かずあき)
1954年1月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1990年、ソニー株式会社入社。資材調達のエキスパートとして1993年からドイツ、ハンガリー、フランス、スウェーデンなどヨーロッパ各国に赴任。2005年に本社へ復帰し、DI事業本部、テレビ事業本部の資材部門部門長、調達本部本部長、調達担当役員(SVP)などを歴任し、2015年に定年退職。その後、公益財団法人ソニー教育財団理事長を務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。