兵庫県の甲子園球場で行われていた、第100回全国高校野球選手権大会。ここで旋風を巻き起こしたのが、秋田県立金足農業高等学校です。
秋田県勢103年ぶりの決勝進出を果たし、最終的に大阪桐蔭高校に敗れはしたものの、見事準優勝に輝いた金足農業。私学全盛のなか数少ない公立の出場校であり、ベンチ入りメンバーは全員が地元の秋田県出身です。決して “野球エリート” とは言えないチームが成し遂げた偉業は、全国民に大きな感動を与えてくれました。
これは単なる奇跡だったのでしょうか。いいえ、そうではありません。じつは、金足農業について調べてみると、この快進撃の裏側に、秋田県の “あるプロジェクト” が隠れていることがわかります。
このプロジェクトをヒントに、皆さんも、子どものための『目標達成プロジェクト』を家で実施してみませんか?
金足農業大躍進の秘密! 秋田県「高校野球強化プロジェクト」
その “あるプロジェクト” とは「高校野球強化プロジェクト」のこと。じつは秋田県勢は夏の甲子園において、1998年から2010年まで13年連続で初戦敗退と低迷していました。そこで、秋田県全体の高校野球力の底上げを図るべく、教育委員会や高校野球関係者らが一丸となり、2011年に同プロジェクトが発足したのです。
具体的には、県外の強豪校や社会人チームの監督経験者をはじめ、スポーツ医科学に精通した専門家らをアドバイザーとして招聘。学校への訪問指導はもちろん、県外の強豪校と積極的に練習試合を実施したり、投手を集めた講習会では球速や回転数を調べて動作解析を行なったりするなど、実績者の知見やコネクション、科学的手法なども駆使しながら、県として総力をあげてプロジェクトを推進してきました。
プロジェクト発足の2011年には、県勢の能代商(現能代松陽)が3回戦に進出、さらに2015年には秋田商が県勢20年ぶりの8強入りを果たすなど、その成果は目に見える結果となって現れ始めます。そして「甲子園4強」を目標に掲げた2018年、金足農業は見事、秋田県に準優勝盾をもたらしたのでした。
大谷翔平選手の夢を叶えた「目標達成用紙」
本題の『目標達成プロジェクト』に入る前に、野球界から、もうひとつ参考例を挙げましょう。秋田県のお隣に位置する岩手県が生んだスーパースター、大リーグ(エンゼルス)で活躍する大谷翔平選手です。
彼は高校時代、「8球団からドラフト1位」という目標を掲げました。そして、それを達成するために必要な要素を、3×3の9つのマス(目標達成用紙)を使い、72個の具体的なアクションとして落とし込んだのです。
8球団からドラフト1位をもらうために必要な8つの要素として、大谷選手がまず考えたのは「体づくり」「コントロール」「キレ」「メンタル」「スピード160km/h」「人間性」「運」「変化球」。そして、たとえば「スピード160km/h」を出すために必要な要素を、「軸でまわる」「下肢の強化」「体重増加」「体幹強化」「肩周りの強化」「可動域」「ライナーキャッチボール」「ピッチングを増やす」というように、さらに8つに細分化しました(※下画像参照。ほかの「体づくり」や「コントロール」などについても同様です)。
こうして大谷選手は、目標達成に必要な具体的アクションを72個も炙り出したのです。その後の大谷選手の活躍は、説明するまでもありませんね。
目標を目標のままで終わらせない! 子どものための『目標達成プロジェクト』
甲子園での「秋田県勢躍進」という目標の達成のために、やるべきことを緻密に計画して遂行し続けた秋田県。「8球団からドラフト1位」という目標の達成のために、独自の目標達成用紙を用い着実に課題を解消していった大谷翔平選手。二者に共通するのは、まさに目標達成のための “アクションの具体化” という部分でしょう。
目標は、そのままでは手の届かない遠い目標のままです。達成のためにするべきことを具体化し確実に実行し続けることで初めて、手の届く距離にある “実現可能な物事” に変わります。実際、かつて花巻東高校を率いていた佐々木洋監督も、「大谷はボールを投げていたらたまたま160kmが出たのではなく、160kmを投げようと思って出した」と語っています。
負けず嫌いで元気な子どもたちは、心の中にいろいろな夢を抱いていることと思います。ここで言う夢とは、10年後や20年後に叶えたい “将来の夢” に留まらず、もっと身近な “小さな目標” “ちょっとした願望” も含まれます。「次の算数のテストで90点以上とりたい!」「友だちのA君には50メートル走で負けたくない!」「字をもっときれいに書きたい!」「そろばん1級に合格したい」「クロールで25メートル泳げるようになりたい!」などなど、子どもによってさまざまでしょう。
せっかくそういう目標を持っているのならば、子どもの成長のチャンスです。目標を目標のまま終わらせないために、ちょっとだけお子さまと時間をとって、「そのために何をするべきか?」を一緒に考えてみてはいかがでしょうか。たとえば、次の算数のテストで90点以上とりたいのならば、「毎日ドリルを2ページ進める」「不正解だった問題は次の日にもう1回解く」「解説を見てもわからなかった問題は必ず親に聞く」といった具合ですね。
アクション具体化の際の注意点は、親が無理やり決めるのではなく、子ども自身に考えさせることです。子どもは、親に強制されたことはなかなかやりたがらないものの、自分で決めたことであれば意欲高く取り組めることが、研究でもわかっています。また、『世界で800万人が実践! 考える力の育て方』の著者である飛田基氏は、アクション設定のポイントとして「行動が実行可能で、具体的であること」と説いています。
もしも、子どもが考えたアクションが、目標達成のためにはあまりにも物足りない(あるいは逆にあまりにも実行が難しすぎる)のであれば、親がうまく誘導してあげましょう。目安は “きちんと頑張れば実行できる” ぐらいのレベルですよ。
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金足農業高校の大躍進は、決して偶然というわけではなかったのですね。
目標を持った瞬間が、成長のチャンス。ぜひご家庭で、子どものための『目標達成プロジェクト』を実践してみませんか?
(参考)
朝日新聞デジタル|「監督の意識低い」外部指導者怒ったことも 秋田の強化
河北新報ONLINE NEWS|<甲子園>金足農、躍進の背景に秋田県の強化策 「4強入り」目標見事果たす
NewsPicks|大谷を怪物にした花巻東高校の「目標達成用紙」
ベネッセ教育情報サイト|子どもに自信をつけさせる! 目標の立て方【基礎知識編】
ダイヤモンド・オンライン|子どもに伝えたい!必ず目標を達成するための「5つのステップ」