どこへ連れていっても「いい子ですね」と褒められる、わがままを言うなど親を困らせるようなことは絶対にしないーーそんな “いい子” に育ってほしいと願う親御さんは多いはずです。
しかし実際には、そのような “いい子” はいくつかの問題点を抱えており、そのまま成長するとさまざまな不調が出てくるといいます。もし今、お子さんが無理をして “いい子” を演じているのなら、親子の関係性や子どもへの対応の仕方、声かけなどを見直す必要があるかもしれません。
いい子症候群の特徴
教育カウンセラーの諸富祥彦先生によると、親に褒めてもらいたくて自らが頑張る力を発揮する「一般的な良い子」と、親の期待に過剰に応えようとするいわゆる「いい子症候群」には決定的な違いがあるといいます。
子どもはみんな、お父さんやお母さんから褒めてもらいたいもの。それは当然の感情であり、褒めてもらうことを目的に良い行いをするのはごく一般的な子どもの特徴です。しかし「いい子症候群」に当てはまる子どもは、褒められることよりも、親が不機嫌になることを恐れ、どうしたら親が喜ぶのかを常に考えてしまうのです。
その特徴とは一体どのようなものなのでしょうか?
- 言動が受け身
- 自己主張が苦手
- 感情表現が乏しい
- 親の指示がないと不安になる
- 小さな決断も自分ではできない
おとなしい子、内気な子、優等生タイプの子とは少し違う「いい子症候群」は、親がどう思うか、親からどう思われるかが何よりも大事なのです。親の期待に応えられなければ自分の存在価値を認められないので、自分の意思を主張できなくなります。また、一見素直で従順ですが、実は自分を押さえ込んでいるため、突然感情を爆発させることもあるので注意が必要です。
つまり「いい子症候群」とは、「大人の顔色をうかがい、先回りして親の期待に応えようとする自主性のない状態」であるといえます。問題は、期待されている「答え」(=正しい言動)を先取りするうちに、それが自分の意思であるかのように錯覚してしまうこと。いい子を演じている自覚がないまま成長すると、どのようになってしまうのでしょうか。
成長後にも強い影響を及ぼす「いい子症候群」
幼少期に親の前で「いい子」でい続けると、思春期には次のような言動が目立つようになります。
- 親の目の届かない場所で溜まったストレスを発散させるようになる
- お友だちをいじめる側になったり、先生の言うことを聞かずに困らせたりと、問題行動が表面化することもある
- トラブルの回避方法がわからないまま成長するので、コミュニケーション能力が低下してしまう
- 自分の感情に鈍感になり、喜怒哀楽をはっきりと表現できず相手の期待に沿った反応しかできない
さらに「いい子症候群」のまま大人になると、たとえば友人と外食するときにメニューが決められない、という問題に直面します。自分が何を食べたいのかわからず、他者の好みや判断に任せてしまうのです。幼少時に親から聞かれたときも、実は「親に喜ばれるメニュー」を選んでいるため、その思考パターンが染みついていることが影響しています。
ほかにも会社で上司に間違いを指摘されただけで、自分が否定されたと思い込み、「悪いのは自分じゃない、相手が悪いんだ」とキレてしまうことも。否定されると存在価値が揺らぐ傾向があるので、責任の所在が常に自分ではなく、他者にずれてしまうのです。
『ほめると子どもはダメになる』(新潮社)の著者で心理学博士の榎本博明氏は、「親がコントロールしやすい子、つまり親の言いなりに動く子は自立できない心配がある」と述べています。自分で考えて動くことができない “指示待ち” の思考が身についてしまうと、判断力も実行力もないまま社会へと出ることになるので、子ども自身の将来のためにも「いい子症候群」からの脱却が望まれます。
「いい子症候群」を引き起こす最大の要因
子どもを「いい子症候群」にしてしまう一番の要因として、親が子育てで自分の欲求を満たそうとしていることが挙げられます。子どもへの期待が強すぎて、親が子どもに依存しているのです。
親と子どもは違う人間であり、子どもはひとりの独立した個人である。そのことを忘れてしまうと、親は一方的に自分の理想を押しつけて、子どもはその期待に応えようと無理をしてしまいます。
「いい子にしなさい!」「言うことを聞きなさい!」
「なんでいい子にできないの?」「なんで言ったことができないの?」「ほかの子はできるのになんでできないの?」
これらの言葉を言われるたびに、子どもは親の期待に応えられない自分を責めるようになるでしょう。
できないことを残念がって失望した表情を見せたり、小さな成長を「できて当たり前」だと褒めなかったりしていませんか? また子どもが関心のあることに興味が持てず、子どもの気持ちを無視した行動をとっていませんか?
小さな子どもにとって、親は絶対的な存在です。自分の本当の気持ちを伝えられる親子関係でなければ、子どもはいずれ親に対して心を閉ざしてしまうでしょう。子どもが「いい子症候群」になってしまうのは、性格の問題ではありません。親子の関係性こそが最大の要因です。だからこそ、お互いの人格を尊重して、本音を認め合える関係を築く必要があるのです。
親の意識が変われば子どもも変わる!
わが子が「いい子症候群」かもしれないと不安を感じているのなら、お子さんに対する言動を少し変えてみるといいかもしれません。
■子どもの自主性を尊重する
どんなに幼い子どもでも、必ず自分の意思を持っているものです。子ども自身に選ばせる機会をたくさん与えてあげてください。その積み重ねによって「自分は認めてもらった」という自信や責任感へとつながります。
たとえば一緒に買い物に行ったとき、お子さんに「今日のサラダに使うトマトはどれがいいかな? ○○くん、一番おいしそうなトマトを選んでくれる?」と選ばせてみましょう。そして食事のときも「○○くんが選んでくれたトマト、すごくおいしいね!」と伝えてあげてください。お子さんの自信につながり、自己肯定感が高まります。
■まずは親の気持ちを子どもに伝える
親自身の気持ちを伝えて、子どもが自分の感情を出しやすい親子関係に変える努力が必要です。「お母さんはこう思ってるけど、○○ちゃんはどう思う?」と聞いてあげてください。親と子の意見は別ものだとお互いに認識することが大切です。
たとえば毎朝の洋服選びのとき、親が決めたものを無理に着させたり、子ども自身が選んだものにダメ出しをしたりしていませんか? 「○○ちゃんが選んだお洋服、可愛いね。でも今日は寒くなるみたいだから、もう少し暖かい格好をしたほうがいいと思うんだけど、どう思う?」と、子どもの意見を一度認めてあげましょう。親と子が対等に意見を言い合える関係づくりを心がけてみてください。
■ルールや決まりにとらわれすぎない
ルールを重視しすぎて大人の理想を押しつけてしまわないようにしましょう。家の中であれば、多少気ままに過ごしても誰にも迷惑はかけません。のびのびと過ごすことで、「自分の意思で行動してもいいんだ」という安心感を与えてあげてください。
子どもがのんびり過ごしていると、ダラけているように見えて心配になりますが、「早く宿題をやっちゃいなさい!」と命令や指示をするのではなく、「何時になったら宿題を始める?」と聞いてみましょう。お子さんが自分の意思で行動できるように促してあげることが大切です。
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「いい子でいてほしい」と願うのは親ならば当然です。しかし、過剰な期待を子どもに寄せるあまり、子ども自身が「親が望むいい子」であろうとすると、いずれどこかで無理が生じてしまうでしょう。そうならないためにも、親も子も理想を追い求めすぎずに、子ども本来の個性を認めてあげることが大切なのですね。
(参考)
ベネッセ教育情報サイト|「いい子症候群」とは?どんなお子さまに当てはまるの?
exciteニュース|子を“いい子症候群”にする親の特徴
exciteニュース|いい子症状群のまま大人になると、どうなる?
PHPファミリー|親がかける言葉で、子どもの人生が変わる