「もしかして、うちの子本番に弱いタイプかも……」。そんなふうに心配しているお父さんやお母さん、ご安心を。以下に紹介する内容をご家庭で実践すれば、きっと “本番に強い子” に近づけるはずです。
本番で力を発揮できない理由は……
運動会、発表会、学校のテスト、スポーツの試合。子どもが人前で実力を発揮する場面は、たくさんありますね。親御さんにとっては、子どもの成長が見られる楽しみなイベントだと思います。
ところが、普段の練習ではできているのに本番ではなぜか失敗、他の子は堂々としているのにうちの子は恥ずかしそうにモジモジ……なんてこと、ありませんか。親としては、ちょっとがっかりしてしまう瞬間ですよね。
本番に弱い、つまり、子どもが本番で本来の力を発揮できない理由の大半は「緊張」によるものです。
元サッカー選手であり、プロゴルファーの横峯さくらさんをはじめ、多くのプロアスリートやチームの専属メンタルトレーナーを務めてきた森川陽太郎氏は、著書の中でこう書いています。
「本番に強いか弱いかは、緊張するかしないかの違いではなくて「緊張していても実力が発揮できるか、できないか」の違いなのです。」
(引用元:森川陽太郎(2016),『本番に強い子の育て方』,ディスカバー・トゥエンティワン)
ご存じの通り、「緊張」は自然に湧きあがる感情です。緊張したくない、緊張しないように、と思ったところで、自分ではどうすることもできないのです。
ではいったい、緊張していても実力が発揮できるようになるには? そして、この「緊張」と子どもはどうやって向き合っていけばいいのでしょうか。
その答えとなる「効果的な親の言葉かけ」、「本番に強い子になるための方法」をご紹介していきましょう。
OKな言葉かけ、NGな言葉かけ
緊張しているお子さんに対し、どんな言葉をかけていますか?
「落ち着いて」
「リラックスしよう」
「大丈夫! 全然緊張なんかしていないよ」
つい、こんなワードで励ましていないでしょうか。
でも、森川氏によれば、実はこれらはすべてNGなのだそう。
「なぜなら、これらは感情を押し殺せと言っているのに等しい言葉だからです。(中略)「緊張」を感じているなら、「自分は緊張している」ということを、ありのままに受け入れることです。それが本番で実力を発揮するための大事な最初のステップなのです。」
(引用元:森川陽太郎(2016),『本番に強い子の育て方』,ディスカバー・トゥエンティワン)
では、次のような言葉かけはどうでしょうか。
「おばあちゃんも見に来ているんだから頑張って!」
「あなたなら絶対にできるはず」
実はこれもNGワードです。
東京成徳大学こども学部で発達心理学について教える富山尚子教授によれば、こういったプレッシャーを与えてしまうような言葉は、子どもをさらに緊張させてしまうことがあるとのこと。
ではいったい、どんな言葉かけをすればよいのでしょう。
富山教授は、「どれくらいできそう?」と声をかけるのが効果的だと言います。本人が「これくらいはできそう」と考える手助けをしてあげると緊張が和らぐのだそうです。
歌を歌う前に緊張している子どもとの対話を例にしましょう。
【OKな言葉かけ】
親:「どこまで歌えそう?」
子:「全部ダメかも……」
親:「そっか、でもサビの部分は歌えるかな?」
子:「サビは大丈夫だと思う」
親:「じゃあ、そこを頑張ろう!」
こんなふうに、子どもは自分ができそうなところを再確認すると比較的落ち着くケースが多いのだとか。
もし、「やっぱり全部無理!」と子どもが答えた場合は、次のようなイメージです。
子:「うん、それならできるよ!」
こんなふうに、小さなことでも子どもができそうなことを何か見つけてあげてください。そして、終わったあとは、本番でうまくできていたところを見つけて、それをきちんと伝えてあげることが大切です。
あまりうまくいかなかったときも、「〇〇ちゃんが舞台に上がっているだけでママは嬉しかったよ」と褒めてあげましょう。そうすれば、子どもは「自分なりにうまくできた!」と思え、「次は、こういうふうにやればきっとうまくいく」と考えられるようになります。
子ども自身が「うまくいかなかった」と思う経験が多く重なると、「次もうまくいかないのでは」とさらに緊張してしまう場合があるので、気をつけてあげたいですね。
ピアノの発表会、サッカーや野球の試合前、苦手な科目のテストを受ける際にも使えそうな言葉かけです。ぜひ実践してみましょう。
本番に強くなる方法、「OKライン」とは?
森川氏は、「自己肯定感」が本番で力を発揮するための大きなポイントになると言います。
例えば、「幼稚園の発表会では緊張したけど、泣かずに舞台にあがれた」「小学校の入学式では緊張したけど、自分から先生や友だちに挨拶ができた」というようなお子さんの経験、ありませんか。ここに意識を向けるのです。“緊張したけどできた” という成功体験を積み重ね、自己肯定感を育てることが、“本番に強い子” につながっていくと言います。
森川氏が提唱している方法のひとつ、「OKライン」をご紹介しましょう。日常生活の中でできる簡単なトレーニングで、子どもだけではなく、大人でも効果のある方法ですよ。
まず、自分が緊張してしまう場面やネガティブな感情になってしまう場面を想定します。そんな状態でも自分ができそうな行動を考えておき、それを実践できたら自分にOKを出し、“「できた」感” を味わいます。
例えば、お子さんが「授業で先生に急に指されたときに、慌ててしまい発言できなかった」としましょう。その場合、「次は、バタバタと慌てて立つのではなく、ゆっくり立ってから先生の質問に答えよう」というように自分ができそうな行動(=OKライン)を決めておくのです。それができたら、次は「より大きな声で発言しよう」というようにOKラインをもう一段階上のレベルにあげていきます。
「普段あまり話しかけられない子に話しかけられて、うまく話せなかった」なら、「次に話しかけられたら、目を見て挨拶をする」、それができたら「今度は自分から挨拶する」というように。
ポイントは、OKラインをいきなり高いところに設定しすぎないこと。自分ができそうなことを設定して、それをクリアすることによって自信が積み重なっていくのです。
まずは、緊張してしまうことや苦手なことを紙に書きだし、「これならできる」という行動を親子で一緒に考えてみるのがいいかもしれません。決して焦らずに、できることをひとつひとつクリアしていくようにしましょう。
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親のちょっとした言葉かけを通して、日々少しずつ自己肯定感を高めることで、いつのまにか「本番に強い子」に。それは、大人になったときにも役立つ能力ではないでしょうか。ぜひ実践してみてください。
文/鈴木里映
(参考)
森川陽太郎(2016),『本番に強い子の育て方』,ディスカバー・トゥエンティワン)
サカイク|「落ち着いて!」「焦らない!」はNGワード。本番に弱い子どもへの正しい声がけとは?
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