「4人もいるんですね! にぎやかですね〜。大変そう!」
初対面の方にそう言われることがよくあります。確かに、にぎやかです。食事もお風呂も寝かしつけも、毎日が小さな戦争のようなもの。でも、実際に本当に大変だと感じるのは、「人数が多いから」ではなく、「同じように接しても、全然うまくいかない」ということ。
私は4人の子どもを育てています。また、心理士として子どもの発達や親子関係にも携わってきました。同じ家庭で育ち、同じ親に愛されているのに、なぜこんなに違うの? そんな疑問に向き合いながら気づいた、多子世帯ならではの “育児のヒント” をお伝えできればと思います。
ライタープロフィール

病院勤務の心理士・理学療法士。4児の父としての実体験と専門知識を活かし、日常に役立つ子育て情報を発信しています。日々の奮闘と学びを通して、「完璧を目指さない子育て」の大切さを伝えたいと考えています。
目次
長男に通じた言葉が、次男には逆効果!?
長男が自転車の練習を始めたとき、うまくいかずに泣きそうになった彼に、私はこう声をかけました。「できるよ! パパは応援している!」すると長男は、歯を食いしばって何度もチャレンジし、最終的には自分で乗れるようになりました。
ところが、次男にも同じ声かけをしたときの反応は正反対。「できないって言ってるじゃん!」と怒って自転車を放り出してしまいました。この経験から、「同じ言葉でも、子どもによって伝わり方がまったく違う」ことを痛感しました。
じつはこれ、発達心理学でもよく知られていることです。心理学者トーマスとチェスによる「気質理論」では、子どもは生まれつきの特性(気質)により、刺激への反応や新しいことへの適応力などが異なるとされています(Thomas, A, & Chess, S, 1977)。
彼らの研究によれば、子どもの気質は大きく分けて「扱いやすい子ども(easy child)」「扱いにくい子ども(difficult child)」「時間をかけて慣れる子ども(slow-to-warm-up child)」の3つのタイプに分けられます。これは遺伝的な要素が強く、親の育て方だけでは変えられない部分があるのです。
たとえば、長男は「前向きな声かけ」で意欲が湧くタイプだったのに対し、次男は「できないことを認めてもらいたい」「不安を受け止めてほしい」タイプだったのかもしれません。こうした違いを知ることで、子どもに合った接し方が見えてきます。
💡日常で取り入れやすいヒント
・「同じように言ったのに…」と感じたら、“伝え方” を変えてみる
・「やってみようか?」「手伝おうか?」と、選択肢を提示して安心を与える
・「できるよ!」ではなく「難しいね。一緒にやってみようか」などの共感から始める
・兄弟姉妹でも「この子はこういうタイプ」と観察してみる
家族ルールと “仕組み化” でイライラ激減
4人分の支度や片付けを、親だけで管理するのは大変。そこで我が家では、「家庭内システム」を導入しています。たとえば、食器の片付けは曜日ごとに当番制、洗濯物は小学生組が自分で畳む、夜の読み聞かせは1人1日交代で「好きな絵本を選ぶ」など。
こうした “自分の役割やルール” があると、子どもも主体的に動きやすくなります。また、家庭のルールは一律ではなく、性格に応じて少しずつ調整しています。たとえば、几帳面な三女には「細かいチェックリスト」で仕事を管理させ、少しおおらかな次男には「ざっくり目標と自由裁量を」といった具合です。
行動心理学の視点では、「環境の構造化」が子どもの自立を促すことが知られています。心理学者B.F.スキナーの「オペラント条件づけ」の理論によれば、子どもが自ら行動し、その結果に喜びを感じることで行動が定着するとされています(Skinner.B.F.1953)。
我が家の「仕組み化」は、単に家事負担を減らすだけでなく、子どもたちそれぞれの「できた!」という達成感と自己効力感を育む機会にもなっているようです。
💡日常で取り入れやすいヒント
・家事や支度を「ゲーム化」して役割を明確に(タイマーを使ったり、チャレンジカードを作ったり)
・ルールは “完璧” より “子どもに合うこと” を優先(几帳面な子には細かい作業、活発な子には体を動かすタスク)
・「できたらシール」「自分で選ぶ」などで、達成感を引き出す
・年齢や能力に応じて役割をアップデートしていく(最初は「食器を運ぶだけ」→「洗う」→「全部任せる」)
比べるのではなく、「違いを知る」ことで楽になった
気づけば、私はつい比べていました。「長男のときはもっと話すのが早かった」「この子は人見知りが強い……大丈夫かな?」でも比べるたびに、自分も落ち込むし、子どもも萎縮してしまう。
脳科学でも、子ども一人ひとりの発達スピードは個人差が大きいことがわかっています。特に”前頭前野”という部分の発達には年齢差があり、「自制心」「集中力」などは同じ年齢でもかなり差が出ると言われています(Blakemore & Choudhury, 2006)。
たとえば、イギリスの心理学者サラ=ジェーン・ブレイクモア氏らの研究によれば、前頭前野は青年期まで発達し続け、その成熟度は個人によって大きく異なるとされています。つまり、「5歳なら5歳としてこれができて当たり前」という考え方自体に無理があるのです。
私たち親も、子どもたちも、それぞれのペースがあります。第一子と第四子では親としての経験も違えば、家庭環境も異なります。長女が赤ちゃんだったときは、私も妻も初めての育児で緊張していましたが、四女の時には余裕をもって接することができました。そうした環境の違いも子どもの性格形成に影響するのかもしれません。
💡日常で取り入れやすいヒント
・「この子はこの子」と、意識して心のなかでつぶやいてみる
・”できた”ことを、その子の過去と比べてほめる(「昨日よりも上手になったね!」)
・比較したくなったら、一呼吸おいて「違いを面白がる」視点に切り替える
・発達の道筋には個人差があることを思い出す(同じ目的地でも、行き方は人それぞれ)
親も子も「十人十色」を受け入れる余裕
当初、私は「公平に接しなければ」という思いが強く、子どもたち全員に同じ時間、同じ接し方をしようと頑張っていました。しかし、それは現実的ではないし、むしろ子どもたちの個性を無視することにもなります。
発達心理学者のハワード・ガードナー氏が提唱する「多重知能理論」では、人間の知能は「言語的知能」「論理数学的知能」「音楽的知能」「身体運動的知能」など複数の領域に分けられ、それぞれが独立して発達すると考えられています(Gardner, H, 1983)。
つまり、「この子は絵を描くのが得意、あの子は運動が得意」といった違いがあることを認め、それぞれの得意分野を伸ばしていくことが大切なのです。
我が家では今、「みんな違ってみんないい」を実践するため、週末に「それぞれの特技タイム」を設けています。長男は科学実験、次男はダンス、三女はお絵描き、四女はブロック遊びなど、それぞれの好きなことを家族みんなで観る時間です。子どもたちは自分の得意なことを披露できる喜びを感じ、他のきょうだいの特技も認め合えるようになってきました。
💡日常で取り入れやすいヒント
・家族のなかで「それぞれの得意なこと」を認め合う場を作る
・「公平」と「平等」の違いを意識する(平等=同じこと、公平=それぞれに合ったこと)
・親自身も「完璧な親」を目指さず、「今日できる最善」を大切にする
・子どもたち同士が互いの違いを認め合える言葉かけを意識する
違って当たり前の子どもたちと向き合うということ
4人の子どもを育てながら、私は何度も迷い、悩み、落ち込んできました。でも、子どもたちに教えられたことは、「子どもって、ほんとうに一人ひとり違う」という、当たり前のようで忘れがちな事実です。
心理学者のカール・ロジャースは「人は誰でも、自己実現に向かって成長する力を持っている」と述べています(Rogers, C.1961)。親の役割は、その自然な成長力を信じ、それぞれの子どもに合った環境を整えることなのかもしれません。
「同じように育てる」ことが正解ではなく、「その子に合った育て方を、一緒に探していく」ことが、私たち親の役割なのでしょう。そして、正解がわからないからこそ、子育ては「一緒に育つ」時間でもあります。
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多子世帯だからこそ見えてくる「きょうだいの違い」。それは時に戸惑いをもたらしますが、同時に「人は皆、違って当たり前」という、人生において最も大切な学びをもたらしてくれるのだと思います。
完璧じゃなくていい。むしろ、「うまくいかないときこそ、親子で成長のチャンス」——そんなふうに、やさしく前向きに考えられる子育てを、これからも続けていけたらと思います。
(参考)
・Blakemore, S. J., & Choudhury, S. (2006), “Development of the adolescent brain,” Journal of Child Psychology and Psychiatry, Vol.47, No.3-4, pp.296–312.
・Gardner, H. (1983), Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences, New York, Basic Books.
・Rogers, C. (1961), On Becoming a Person: A Therapist’s View of Psychotherapy, Boston, Houghton Mifflin.