教育を考える 2018.12.10

エリクソンの「発達段階」を知ろう。年齢別「発達課題」はクリアできてる?

編集部
エリクソンの「発達段階」を知ろう。年齢別「発達課題」はクリアできてる?

ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な『4つの発達段階』をまとめてみた」でもお伝えしたように、人間にはいくつかの「発達段階」があると考えられています。心理学者ジャン・ピアジェ (1896~1980)の場合、「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」という4つでした。

発達段階の区分や名称は、学者によって異なります。心理学者エリク・H・エリクソン(1902~1994)は、「乳児期」「青年期」「成人期」など8つの発達段階を提唱しました。こちらのほうがなじみ深く、イメージしやすいかもしれませんね。

エリクソンによる発達段階論は、教員志望者だけでなく、保育士を目指す人たちにも学ばれています。保育士試験で頻出のためです。保育士志望者はなぜ、エリクソンの理論を学ぶことを求められているのでしょう? それは、子どもならではの特性を理解し、発達段階を意識して接する必要があるから。

もちろん、子どもを持つ皆さんにとっても有用な知識です。我が子だけでなく、自分の発達段階も意識することで、人生観が新たになるかもしれません。今回はエリクソンの発達段階論を、できるだけ分かりやすくご説明しましょう。

心理学者エリクソンの人物像

エリク・H・エリクソンは1902年、デンマーク系ユダヤ人の母親からドイツで生まれました。父親は不明。エリクソンが3歳になると母親は小児科医と結婚し、彼が実の父親だと伝えましたが、エリクソンは信じられなかったそうです。

また、エリクソンは実の父親に似たのか金髪に青い目で、母親夫婦とは異なる見た目だったそう。そのためユダヤ教会では「異邦人」、地元の学校では「ユダヤ人」と呼ばれ、アイデンティティーに苦しんでいたようです。この頃の経験が、心理学者としての研究に影響しているのかもしれません。

学校を卒業後、エリクソンは画家を目指しましたが、やがて挫折。失意のうちに過ごしていたとき、ウィーンに学校を設立しようとしていた親友に呼び寄せられます。そこでエリクソンは教師として活躍し、周囲の人から才能を認められ、児童分析家となりました

1933年にドイツでヒトラー内閣が成立すると、反ユダヤ主義を恐れてエリクソンは米国に渡ります。そこで彼は次々と成果を挙げ、精神分析家・児童分析家として名声が高まりました。

イェール大学の人間関係研究所では文化人類学者たちと交友を深め、精神分析に文化人類学を取り入れることを思いつきます。その成果が、1950年に出版された『Childhood and Society』(『幼年期と社會』全3巻、日本教文社、1954~1956年/『幼児期と社会』全2巻、みすず書房、1977~1980年)に反映されているといえるでしょう。この本は発達心理学の古典的名著として知られています。

また、現代で「アイデンティティー」「モラトリアム」という心理学用語が一般的に使われるようになったのも、エリクソンの影響といえるでしょう。

エリクソンの「心理社会的発達理論」とは

エリクソンが提唱した論は、「心理社会的発達理論(psychosocial development)」と呼ばれています。人間の心理は、周囲の人々との相互作用を通して成長していくという考えです。その特徴は以下のとおり。

- 人間の発達段階を8つに分けている。
- 各発達段階に「心理社会的危機(psychosocial crisis)」がある。
- 人間は心理社会的危機を乗り越えることで、「力(virtue)」を獲得する。

発達課題(development task)」と呼ばれることもある心理社会的危機は、「〇〇対△△」というかたちで表されます。たとえば、18~40歳にあたる「初期成人期(young adult)」の心理社会的危機は「親密対孤立(intimacy vs. isolation)」。この時期、多くの人は、家族以外の他者との長期的で親密な関係を形成しようとします。うまくいけば、「力」として「愛情(love)」を獲得できるでしょう。

愛は人生を豊かにします。結婚生活にもかかせないものです。しかし、他者との関りを避けたりコミュニーションを適切にとれなかったりすれば、この発達段階における心理社会的危機を乗り越えられず、孤独に陥る、ということになります。では、心理社会的発達理論における8つの段階を順に見ていきましょう。

エリクソンの発達段階1:乳児期

乳児期(infancy)」という発達段階は、およそ0歳~1歳半にあたります。この時期に直面する心理社会的危機は「信頼感対不信感(trust vs. mistrust)」。

人間の赤ちゃんは無力で、一人では生きていくことができません。そこで、泣くことで助けを求め、母親をはじめとする周囲の人から世話されることで育ちます。このとき、周囲の人から適切なケアを受けられれば、赤ちゃんのなかで世界に対する信頼感が構築されます。「みんなは自分を助けてくれる」という気持ちです。うまくいけば、「期待(hope)」という力を得ることができます。

しかし、泣いても誰かが来てくれるわけでもなく、世話してもらえないとしたら? 赤ちゃんは世界に対する不信感を抱き、「誰も自分を助けてくれない」と思うようになります。そのため、赤ちゃんに対し適切なケアが行われないと、その子の人生観に大きな悪影響を与えてしまうと考えられています。

エリクソンの発達段階2:幼児前期

幼児前期(early childhood)」は、およそ1歳半~3歳にあたります。直面する心理社会的危機は「自主性対羞恥心(autonomy vs. shame)」。

この時期の子どもは、歩いたりしゃべったりするようになります。とても活発な子もいて、親の手を振りほどいて走り出したり、何に対しても「イヤ」と言ったり……などは、よく聞かれる話ですね。

子どもは積極的な挑戦や親のしつけを通し、排せつや着替えなど、赤ちゃんの頃は周りの人にやってもらっていたことを、一人でできるようになっていきます。親が子どもに、自分でやってみる機会を与え、適切なタイミングで手伝ってあげれば、子どもは自信をつけて、さらにいろいろやってみようという気持ちになれるでしょう。その結果、「意欲(will)」という力を獲得します。

しかし、親が子どもに先回りして何でもしてあげたり、挑戦して失敗した子どもを過度に叱ったりすればどうでしょう? 子どもの自主性は育たず、むしろ羞恥心を覚えてしまい、新しい物事に挑戦しようという意欲は生まれづらくなります。

エリクソンの発達段階3:遊戯期

3~5歳頃は「遊戯期(play age)」。「自発性対罪悪感(initiative vs. guilt)」が心理社会的危機です。

保育園や幼稚園で、友だちと活発に遊ぶ時期ですね。世界に対して強い興味を持ち、「どうして○○なの?」という質問を連発したり、ごっこ遊びをしたりします。とにかくエネルギーがあり余っている状態といえるでしょう。このような子どもらしい様子に対し、親がうっとうしがる態度を見せたり、過度に厳しいしつけを施したりすると、子どもは罪悪感を覚えてしまいます。

もちろん、公共の場所での適切なふるまいを教えるなど、適度なしつけは大切です。自発性と罪悪感のバランスがうまくとれれば、子どもは心理社会的危機を克服し、「目的意識(purpose)」という力を獲得できます。

エリクソンの発達段階4:学童期

およそ5~12歳は「学童期(school age)」です。克服するべき心理社会的危機は「勤勉さ対劣等感(industry vs. inferiority)」。

小学校に通いはじめ、勉強の楽しさを知る時期です。学期中や夏休みにこなすべき宿題が次々に出されるので、「計画的に課題を仕上げ、提出する」ということを覚えます。それを繰り返すことで自信がつき、自分には「能力(competency)」があるということを理解するのです。

しかし、勉強が最初から得意な子どもばかりではありません。数の概念が理解できなかったり、計画的な勉強のやり方がわからなかったりして困っている子もいます。

そのような状況に対し、周囲の大人が適切にサポートせず、ただ叱っているだけでは、問題は解決できません。子どもは「自分にはできない」と劣等感を抱き、その影響はのちの人生に暗い影を落とすことでしょう。子どもが劣等感を抱かず、かつ傲慢にもならないよう、適度に褒めたりアドバイスをしたりする必要があります。

エリクソンの発達段階5:青年期

12~18歳頃は「青年期(adolescence)」です。立ち向かうべき心理社会的危機は「アイデンティティー対アイデンティティーの混乱(identity vs. identity confusion)」。

思春期にあたるこの時期は、「自分って何だろう」「将来、どうやって生きていこう」など、自身について特に思い悩むときです。皆さんも「自分は何がやりたいんだろう?」「『自分らしさ』って何?」など、さまざまなことを考えた経験があるのではないでしょうか。

「自分はこういう人間だ」とある程度確信できるようになれば、アイデンティティーが確立されたといえ、「忠誠(fidelity)」という力が得られます。自分で選んだ価値観を信じ、それに対して貢献しようとすることです。たとえば、「○○の国民として義務を果たそう」「地球に住む生き物として、自然環境を守らなければ」などと強く思い、行動することが該当します。

一方で、アイデンティティーが確立できないと、「自分は何なのだろう」「何のために生きているのだろう」と悩みつづけることになります。共同体のなかに自分の居場所を見つけることが、アイデンティティーの確立につながるでしょう。

エリクソンの発達段階6:初期成人期

18~40歳頃は「初期成人期(young adult)」と呼ばれています。乗り越えるべき心理社会的危機は「親密対孤立(intimacy vs. isolation)」です。

生まれた家庭や学校を離れ、多くの人との関係を築く時期です。恋愛を経て結婚に至る人も多いでしょう。新たな家族や友人との長期的・安定的な関係を通し、「愛情(love)」という力を獲得します。幸福な人生を送ることにつながるでしょう。

しかし、他者に積極的に関わることをためらったり、長期的な人間関係を築くことを怠ったりすると、人間は孤独になります。家庭を持つことが難しくなってしまうでしょう。

エリクソンの発達段階7:壮年期

40~65歳頃は「壮年期(adulthood)」です。克服するべき心理社会的危機は「ジェネラティビティー対停滞(generativity vs. stagnation)」。

ジェネラティビティーとはエリクソンによる造語で、「次世代育成能力」などと訳されます。子どもを育てたり、職場の後進を育成したりなど、自身が属する共同体において後の世代に貢献することです。自分の時間やエネルギーを子どもや若者に使うことで生きがいを感じるという人も多いのではないでしょうか。これにより、私たちは「世話(care)」という力を獲得します。

一方、共同体に関与せず常に自分のことだけ考えて生きている……このような状況は「停滞」と呼ばれます。この年齢になると、「世界に自分の足跡を残せただろうか」と考える人もいるのではないでしょうか。次の世代に何も残せず「停滞」していると感じると、このあとの「老年期」で辛くなるかもしれません。

エリクソンの発達段階8:老年期

最後は、およそ65歳以上を指す「老年期(mature age)」です。乗り越えるべき心理社会的危機は「自己統合対絶望(ego integrity vs. despair)」。

多くの人が仕事を定年退職し、老後の生き方を模索していることと思います。寿命を前にして、これまでの人生を振り返ることもあるでしょう。それぞれの発達段階において、心理社会的危機を乗り越え、「力」を獲得できたでしょうか。満足のいく人生だったでしょうか。自分の死後に残るものはあるでしょうか? これらの質問に納得がいったならば、最後に「賢さ(wisdom)」を得られるでしょう。

しかし、自分の人生に満足がいかず、多くの後悔を抱えていたらどうでしょうか? 子どもの頃や青春時代、大人になってから……それぞれの発達段階に対し「こんなはずじゃなかった」という気持ちが強いと、人生をやり直したくなるかもしれません。しかし、時間を巻き戻せるわけはなく、寿命が迫っています。絶望的な気分となり、穏やかに余生を送る、というのは難しそうです。

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エリクソンの発達段階論を知ると、子どもへの接し方だけでなく、親である自分の人生にも思いを巡らすことになるのではないでしょうか。読者の皆さんの多くは、6段階目の「初期成人期」にいることと思います。それまでの6つの段階における心理社会的危機をクリアできていたか振り返りつつ、お子さんの心理社会的危機についても考えてみてください。

(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた
東京工芸大学学術リポジトリ|教育心理学的視点からエリクソンのライフサイクル論及びアイデンティティ概念を検討する
J-STAGE|E. H.エリクソンの心理社会的発達理論における「世代のサイクル」の視点
慶應義塾大学学術情報リポジトリ|エリクソンの発達論に関する一考察 : その基本的視座について
京都大学学術情報レポジトリ|E. H. Erikson のアイデンティティ理論と社会理論についての考察
東京国際大学|アイデンティティ概念の理論的背景と問題点について ―精神分析的観点による再検討のために―
Simply Psychology|Erik Erikson’s Stages of Psychosocial Development
Poole, Sarah and John Snarey (2011), “Erikson’s Stages of the Life Cycle”, Encyclopedia of Child Behavior and Development, Vol. 2, pp.599-603.