教育を考える 2018.8.14

ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた

[PR] 編集部
ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた

心理学者ジャン・ピアジェ (1896~1980)をご存じですか? スイスで生まれ育ったピアジェは、生涯に50冊以上の本と500本以上の論文を著し、多くの学者に影響を与えた人物です。心の発達を研究する「発達心理学(developmental psychology)」の分野で大きな功績を残し、その理論は世界中で知られています。大学で教職課程を修めた人なら、教育心理学の授業で習ったかもしれませんね。

ピアジェが唱えた「発生的認識論(genetic epistemology)」は、教員だけでなく、看護師や保育士を目指す人たちにも学ばれています。子どもが心身をどのように成長させていくかを知ることで、子どもの発達を支援しやすくなるためです。子ども特有の言動に「どうしてそんなことするの?」とイライラせず、意図を理解して適切に指導することが可能になります。

ピアジェの理論を活用できるのは、教師や保育士だけではありません。子どもの教育に真剣に取り組んでいるみなさんにとっても、ピアジェの理論を学ぶことは、教育や子育てのストレス軽減につながります。親の意図しない行動を子どもがとったとしても、「この子はこうやってまわりの世界を認識し、成長していくんだ」「大人がもっているような能力を、まだ獲得していないんだ」と納得し、肯定的にとらえることができるでしょう。

そこで今回は、心理学者ピアジェの唱えた理論のエッセンスを、できるだけわかりやすくご紹介しますね。

心理学者ピアジェの人物像

ジャン・ピアジェが生まれたのは1896年、フランスとの国境に近い、スイスのヌーシャテルという街。父親のアルトゥールは歴史学と文献学を修め、ヌーシャテル大学では文学教授でした。ピアジェはアカデミックな家庭で育ったと言えます。

ピアジェは最初、生物学に興味をもっていました。認識の発達に関する研究者が集まる「ジャン・ピアジェ協会」によると、ピアジェは11歳のとき、白スズメについて短い論文を書いたそう。これが研究者としてのキャリアの始まりです。その後、ピアジェは研究を進めて軟体動物の研究で博士号を取得しました。

ピアジェは精神分析学に関心を抱くようになり、フランスで心理学を学びます。そして1921年、ジュネーヴにあるジャン=ジャック・ルソー教育研究所の所長として招かれ、教育学・児童心理学の研究を進めました。ピアジェは複数の大学で心理学や社会学などを教えつつ、1955年に発生的認識論国際センターを立ち上げ、1980年に亡くなるまでセンター長として研究を続けました。私生活においては、1923年に結婚。3人の子どもに恵まれ、彼らの知的発達を観察したそうです。

ピアジェの「発生的認識論」とは

応用言語学が専門の大澤真也教授(広島修道大学)によると、ピアジェの発生的認識論において重要な概念のひとつが「段階的発達」。大澤教授は以下のように説明しています。

これは成人としての最終的な段階に達する前に、子どもは感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の4つの段階を経るというものである。発達の速さや達成度合いには個人差があるが、どのような環境であるかにかかわらず子どもはこれら4つの段階を普遍的な順序で経験していくと考えられている。

(引用元:広島修道大学学術リポジトリ|ピアジェとヴィゴツキーの理論における認知発達の概念 : 言語習得研究への示唆 太字による強調は編集部が施した)

では、子どもの知的発達における4つの段階を順に見ていきましょう。

感覚運動期(sensorimotor stage)(0~2歳)

感覚運動期の特徴は、「循環反応(circular response)」および「対象の永続性(object permanence)」。『ブリタニカ国際大百科事典』によると、循環反応とは「反応した結果が再び刺激となって同一あるいは類似の反応が反復されること」。たとえば、ふと何かを触ってみたら感触がおもしろかったので、何度も触ってみる、といったことです。

次に、対象の永続性について。たとえば、生まれてまもない子どもの眼前におもちゃがあったとして、大人がそれに布をかぶせて見えなくしてしまうと、子どもはおもちゃがなくなったと思ってしまいます。しかし、感覚運動期の後半には、布をかぶせられて視界から消えても、子どもはおもちゃがまだそこにあると認識できるようになります。これが、対象の永続性を理解しているということです。

なお、ピアジェは、感覚運動期の段階で赤ちゃんの「模倣行動(imitative behavior)」が発達すると論じました。乳児心理学を専門とする大藪泰教授(早稲田大学)によると、ピアジェの理論における模倣行動の発展水準は以下の3つに分類されます。

  • 手の運動と発声の模倣期(~生後8カ月頃):
    自分が見たり聞いたりできる、自分と相手の動作・発声のみを模倣できる
  • 顔の模倣期(生後8カ月~12カ月頃):
    見ることのできない自分の表情を、相手の表情に近づけられる
  • 延滞模倣期(生後18カ月~):
    相手の動作を記憶し、あとから模倣できる

前操作期(pre-operational stage)(2~7歳)

前操作期の特徴は「自己中心性(egocentrism)」と「中心化(centration)」です。大澤教授によると、自己中心性とは「世界を主観的な視点からしか見られないこと」。相手の立場になって想像できず、たとえば自分の知っていることは当然相手も知っているだろうと思い込んでしまいます。

中心化とは、『ブリタニカ国際大百科事典』によると「対象のうち最も目立つ側面だけに注意を集中して、それ以外の部分を無視すること」。たとえば、口径の広いビーカーに水を入れ、その水を子どもの眼前で細長いビーカーに移し替えます。すると、子どもは高くなった水面ばかりに意識が向き、水の量が増えたと思い込むでしょう。この思い込みは、中心化という特性によるものです。

前操作期の子どもの認識について重要なキーワードは、「実念論(realism)」「アニミズム(animism)」「人工論(artificialism)」の3つです。自分が小さい頃を振り返ってみると、覚えがあるのではないでしょうか。

  • 実念論:自分のものの見方が絶対的だと思い込む
  • アニミズム:非生物にも人間のような思考や感情があると思い込む
  • 人工論:自然物も人間がつくったと思い込む

 
さらに、前操作期は、2~4歳を「象徴的思考期(symbolic function substage)」、4~7歳を「直観的思考期(intuitive thought substage)」と分けられます。象徴的思考期の子どもは、もののイメージをつくり上げて頭のなかに保存し、あとで取り出して使えるようになります。目の前にないものを思い出し、絵に描いたりすることが可能なのです。

また、直観的思考期の子どもは、経験したことのない状況を説明するとき、絵本のような空想ではなく理性を用いるようになるそう。たとえば、「家が地面から生えてきた」ではなく、「人間が材料を組み合わせて家を建てた」と言うようになります。

ピアジェの心理学2

具体的操作期(concrete operational stage)(7~11歳)

英マンチェスター大学で心理学を教えているソール・マクロード氏によると、子どもは具体的操作期の段階から論理的思考を獲得し始めるそう。しかし、抽象的なことや仮定についてはまだうまく考えられず、「みかん」や「机」のように具体的な物にのみ論理を当てはめることができます。

具体的操作期の段階で重要なのは、子どもが「保存(conservation)」の概念を理解できるようになることです。容器に入った液体を別の容器に移し替えるなどして物の見た目が変わっても、量や数が変わるわけではないことがわかるようになります。

たとえば、10個のおはじきを横1列に並べるとします。子どもと数を確認したあと、おはじきを円状に並び替えます。そして、子どもにおはじきの数を質問し、数えるまでもなく「10個」と答えられたなら、「数の保存」という概念を獲得しているのです。

形式的操作期(formal operational stage)(11歳〜)

形式的操作期になると、抽象的なものや仮定についても考えられるようになります。

マクロード氏によると、子どもが形式的操作期に入ったかどうかを確かめるには、「ケリーはアリーより背が高く、アリーはジョーより背が高いとしたら、身長がいちばん高いのは誰かな?」のような質問をするとよいそうです。形式的操作期にいる子どもは、頭のなかだけで考えて答えを出せます。一方、絵を描かないと考えられない子どもは、まだ具体的操作期にいるそうです。

ピアジェの「構成論」とは

ピアジェの理論が説明されるとき、「構成論(constructivism)」あるいは「構成主義」という言葉がよく使われます。簡単にご説明しましょう。

まず、構成主義の反対は「実証主義(positivism)」です。学習環境デザインを専門とする久保田賢一教授(関西大学)によると、実証主義の特徴は以下のとおり。

実証主義の見方では、<現実>は人と独立して世界に実在している。(中略)そして見つけ出した<現実>を<こころ>に正確に写し取ったものが「知識」であると考えられている。人の<こころ>は本来空っぽであり、世界に実在する<現実>を<こころ>にコピーすることが学習であり、それを蓄積することで学習が進むと見なされる。

(引用元:J-Stage|構成主義が投げかける新しい教育 太字による強調は編集部が施した)

一方、構成主義の特徴は以下のとおりです。

構成主義では、<現実>は人が世界と交わることで構成されると考える。つまり、人と独立した<現実>は存在しない。(中略)「知る」とは、人がその<こころ>の中で世界をつくり出す過程に他ならず、その意味でも私たちの住んでいる世界は自分自身によりつくり出されたものである。

(引用元:同上 太字による強調は編集部が施した)

教育の場において、実証主義と構成主義の違いははっきりと現れます。実証主義の場合、教師の役割は、生徒の心に情報を「書き写す」ことです。教師が生徒に問いを投げかけ、生徒が応答し、教師がフィードバックする。この流れを繰り返して授業が進みます。実証主義の学習において、生徒は受け身の存在です。

一方で、構成主義の場合、生徒は「積極的に意味を見つけ出すために主体的に世界と関わる存在」です。そのため、学習とは「学習者自身が知識を構成していく過程」であり、「共同体の中での相互作用」を通じて行なわれるものだとされます。

つまり、生徒が能動的に学習できるように導くのが、構成主義的な教育です。ピアジェの発生的認識論は、子どもが自分のなかで発達段階を形成していくと主張しているため、構成主義的な立場をとっていると言えます。

なお、発達心理学を専門とする佐藤公治教授(北海道文教大学)によると、ピアジェの「相互作用説(interactivism)」においては、大人との相互作用(互いに働きかけ、影響を及ぼすこと)よりも年齢の近い子どもどうしの相互作用が重視されています。「同じような発達段階にあって、かつ自分とはやや異なった視点や認識の仕方をしている仲間」とメッセージをやりとりすることで「認知的葛藤(cognitive conflict)」が生まれるそう。

発達心理学を研究する林昭志氏(上田女子短期大学)によると、認知的葛藤とは、「いくつかの両立しがたい情報に接したときに、生ずる疑問、当惑、矛盾、驚きのことであり、すでにもっている既有知識と新しい知識の間に一定のずれがある場合に生ずるもの」。認知的葛藤によって知的好奇心が発生し、物事をよりよく認識できるようになるそうです。つまり、ピアジェの理論においては、子どもどうしのコミュニケーションが認知発達に及ぼす影響が重視されているのです。

ピアジェ理論における「道徳」

ピアジェは、子どもの道徳観にも発達段階があると主張しました。

他律的道徳観(5~9歳)(heteronomous morality)

他律的道徳観の段階にある子どもは、他人のつくったルールや法律に従うことが道徳で、それらのルールは絶対に変えられないものだと思っています。そして、ルールを破ると厳しい罰を受けなければならないと信じています。

他律的道徳観の特徴のひとつは、行動の意図よりも結果を重視して善悪を判断すること。たとえば、親が掃除するのを手伝おうと思い、洗剤を大量にこぼしてしまったAちゃんと、洗剤で遊んでいたら少しだけこぼしてしまったBちゃんがいるとします。他律的道徳観の段階にいる子どもに、どちらがより悪いか尋ねると、Aちゃんが悪いと答えるのです。

自律的道徳観(9~10歳)(autonomous morality)

自律的道徳観の段階にいる子どもの道徳観は、自分自身のなかにあるルールに左右されるようになります。自律的道徳観の段階にいる子どもは、絶対的な善悪は存在しないことを理解し、他人の視点からも考えられるようになるそう。他人の意図や状況も考慮に入れ、ルールや道義的責任、罰などについての判断力が大人に近づくのです。

自律的道徳観段階の子どもは、行動の結果だけでなく意図も考慮して判断するようになるため、上記の質問ではBちゃんが悪いと答えるのが一般的だそうです。

ピアジェの心理学3

2人の心理学者:ピアジェとヴィゴツキーとの違い

ピアジェとよく比較される心理学者に、ソビエト連邦のレフ・ヴィゴツキー(1896~1934)がいます。ヴィゴツキーは、教育学を中心とした幅広い分野で知られている「発達の最近接領域(Zone of Proximal Development:ZPD)」を提唱したことで有名です。

看護学を専門とする島田智織教授(茨城県立医療大学)および江守陽子教授(岩手保健医療大学)は、ZPDを以下のように説明しています。

ZPDとは、すでに自分ひとりでできる活動と、今は他者の力を借りることで乗り越えられる領域のズレを指す。このズレは、明日にはじぶんひとりでできるようになるという発達可能性を有した領域である。端的に表現すると発達ののびしろということになるだろう。ズレを解消しつつZPDを拡張していくことが学習者の発達だということになる。

(引用元:茨城県立医療大学|発達の最近接領域とは何か;助産学教育のための学習理論 太字による強調は編集部が施した)

ピアジェの理論とヴィゴツキーの理論の大きな違いのひとつは、上述した「相互作用」についての考え方です。

ピアジェは、子どもの認知発達の過程において、大人との相互作用より子どもどうしの相互作用を重視しました。子どもは友だちとの対話を通し、自分と異なる考えに触れることで、認知的葛藤を抱えます。その葛藤を解決することで子どもの認知が発達する、というのがピアジェの考えです。つまり、相互作用は認知発達のきっかけでしかなく、相互作用が認知発達に直接影響しているわけではない、ということ。

一方、ヴィゴツキーの理論では、相互作用が子どもの認知発達に直接影響していると考えられています。佐藤教授の言葉を借りると、相互作用とは「新しい知識の形成のための情報を提供する場」。そのため、相互作用の相手としては、子どもに新しい情報をもたらせるような大人・年長者が重視されます。

また、大澤教授の言葉では、ピアジェの理論において「子どもは自分自身で知識をつくり上げていかなければならない」のに対し、ヴィゴツキーの理論における子どもは「ZPDにおいて他人の助けを必要」としており、「最初は他人の助けを借りなければタスクを遂行できない」ものの、やがて「自分の力で遂行できるようになる」のです。

ピアジェ教育とは

ここまで見てきたように、ピアジェの提唱した理論は、さまざまな分野に影響を及ぼしています。なかでも、ピアジェの考えを特に意識した教育は「ピアジェ教育」と呼ばれています。

愛知県で幼稚園・保育園を展開している学校法人・聖英学園は、同学園の特徴のひとつとしてピアジェ教育を掲げています。聖英学園によると、ピアジェ教育とは以下のような教育です。

先生に教えられるのではなく、子どもがあそびの中で自分から働きかけ、その環境の手応えを感じ取り、豊かな刺激を受け取ることによって、子どもは自分自身を発達させていく創造的教育をピアジェ教育といいます。ピアジェ教育は知識を身に付ける教育ではなく、知恵を出せる子どもを育てる教育です。

(引用元:学校法人 聖英学園|ピアジェの部屋 太字による強調は編集部が施した)

また、ピアジェに監修された教材を用いた幼児教育が「ピアジェ教育」と呼ばれること。ピアジェの理論を取り入れた教材を開発・販売している幼年教育出版株式会社は、ピアジェが直接監修した「世界唯一の教材」として「ファーストシリーズ」を幼稚園・保育園向けに提供しています。ピアジェの発達段階理論に基づき、子どもが楽しみつつ好奇心をもって取り組めるよう、体系的に構成されているそうです。

ピアジェを知るためにおすすめの本

ピアジェ自身についてもっとよく知りたい、ピアジェの理論をきちんと学びたいと思ったのなら、どれか一冊、本を通読してみるのがよいでしょう。おすすめしたい書籍を2冊紹介します。

『ピアジェ入門』

波多野完治氏の『ピアジェ入門』は、ピアジェの理論のエッセンスを簡潔に説明するだけでなく、ピアジェの人物像や、ピアジェの理論がどのように受容されたかなどにも紙幅が割かれており、ピアジェについて全体的に知りたい人には最適です。文体が丁寧でわかりやすいため、難解な専門書とは一線を画しています。

『発生的認識論』(白水社、1972年)

発生的認識論』は、ピアジェ自身の著書を訳したもの。手にとりやすい文庫本です。心理学だけでなく、哲学や数学の分野で論じている章もあり、一部は難解。しかし、発達段階の部分だけでも、提唱者自身の言葉で読む価値はあります。

***
子どもの発達について考えるなら、ぜひ知っておきたいピアジェの理論。現代日本における保育や教育に大きな影響を及ぼしています。親としても、ぜひ意識しておきたいものですね。

(参考)
The Jean Piaget Society|About Piaget
広島修道大学学術リポジトリ|ピアジェとヴィゴツキーの理論における認知発達の概念 : 言語習得研究への示唆
名古屋大学学術機関リポジトリ|対人相互作用と認識発達に関する研究:文献展望
コトバンク|循環反応
コトバンク|中心化
Simply Psychology|The Preoperational Stage of Cognitive Development
Simply Psychology|Concrete Operational Stage
Simply Psychology|Formal Operational Stage
Simply Psychology|Piaget’s Theory of Moral Development
J-Stage|赤ちゃんの模倣行動の発達-形態から意図の模倣へ-
J-Stage|構成主義が投げかける新しい教育
MentalHelp.net|Early Childhood Cognitive Development: Intuitive Thought
MentalHelp.net|Early Childhood Cognitive Development: Symbolic Function
Southwest Psychometrics and Psychology Resources|4. Piaget and Cognitive Development
北海道大学学術成果コレクション|発達と学習の社会的相互作用論(1)
茨城県立医療大学|発達の最近接領域とは何か;助産学教育のための学習理論
学校法人 聖英学園|5つの特徴
学校法人 聖英学園|ピアジェの部屋
幼年教育|ファーストシリーズ