からだを動かす/ダンス 2018.2.28

努力は必ず自分に返ってくる! 楽しみながら身につく運動能力と精神力。DANCEWORKS KIDS MAR先生インタビュー

編集部
努力は必ず自分に返ってくる! 楽しみながら身につく運動能力と精神力。DANCEWORKS KIDS MAR先生インタビュー

ここ10数年でぐっと身近になったヒップホップダンス。テレビやネットの動画などで目にする機会が多い子どもたちにとっては、もはや日常の一部として溶け込んでいます。

さらに2012年に中学校の授業でダンスが必修化されたことを皮切りに、ヒップホップダンスが子どもたちの学びの場において大きな役割を果たすことになりました。

でも私たち親世代にとっては、やっぱり少しとっつきづらい印象も拭えません。そもそも日本人にはあまり馴染みのないヒップホップダンス。どのようにして日本文化に浸透し、これほどまでに急成長を遂げることができたのでしょうか? その鍵は、ヒップホップダンスが成長過程における子どもたちの身体と心に良い効果をもたらしていることが関係していそうです。

そこで今回は、キッズヒップホップダンスの先駆者であり、渋谷のダンススクール『DANCEWORKS KIDS』の校長兼アドバイザーも務められているMAR先生に「キッズダンスの今」と「ダンスが子どもの成長に与える影響」について、たっぷりとお話をうかがいました。

キッズダンスを取り巻く環境の変化

ーーご自身もダンサーとしてご活躍され、これまでたくさんのキッズダンスチームをプロデュースして数々の大会を制覇されてきたMAR先生ですが、ご自身のダンスとの出会いを教えてください。

MAR先生:
僕は長崎県の佐世保というところで育ったんですが、小学生のころにちょうどテレビで「ダンス甲子園」が流行ってまして。単純に「かっこいいな~」と。もちろん僕が小さいころなんてダンススクールは今ほど普及していなかったし、ましてや東京と違って地方都市になると、ますますダンスを習う場所や先生はいない。だから見よう見まねで、公園や河川敷で踊る日々でした(笑)。

ーーでは習い事としてダンスを教わったわけではない?

MAR先生:
スクールには通っていないです。ただ、お兄ちゃんがダンスをしているという友だちがいたので、その子に休み時間にステップを教えてもらって、遊びの延長のような感覚でダンスを始めました。

ーー確かに当時は「先生にダンスを教えてもらう」という環境においては、今ほど恵まれていませんでしたよね。現在では、MAR先生が校長兼アドバイザーを務められている『DANCEWORKS KIDS』をはじめとして、全国各地にキッズのダンススクールの輪が広がってきました。

MAR先生:
うちのスクールでは4歳から19歳を対象としていますが、ジャンルやレベルによってクラスを分けています。子どもによってダンスを始める時期も違えばレベルも違う。だからこそ、その子に応じたレッスン体制が必要になるんです。

ただ、小学校高学年から中学生くらいになると、部活が忙しくなったり受験をする子もいたりして、ダンスレッスンに時間が割けなくなる状況が増えてきます。残念ですが、このタイミングで一度ダンスから離れてしまう子が多いんです。

一方で、最近は幼稚園生の入会がとても増えてきています。

ーーそれはなぜだと思いますか?

MAR先生:
今ちょうど幼稚園に通う子を持つ親御さんの年代でしょうね。若い頃ダンスが流行りだした世代と言いますか、自分も若い頃ダンスをやりたかったな、という親御さんが子どもに習わせるというパターンが多いのではないでしょうか。

このようにきっかけは親であっても、通い続けるうちに子ども本人がダンスの楽しさを知ってハマっていくようですね。

ーー昨今のダンス人口の増加は、やはり学校教育のダンス必修化が影響していると肌で感じられますか?

MAR先生:
それが……ダンス界ではすごく影響されるだろうと言われていたんです。でも実際蓋を開けてみると、さほど影響はありませんでした(笑)。

ーー意外ですね! 学校で習うからスクールに通わないと、と入会する子も多そうだと思っていました。

MAR先生:
僕自身はあまりそういった子はいないように感じます。ただ、すでにダンスを習っている子からは、「学校用のダンスは簡単すぎる」という声もありますね。

そうそう、実際は子どもたちよりも、逆に学校の先生がレッスンに通い始めているんですよ。

ーー大人の初心者クラスにですか? それは熱心ですね。現状では学校の方針や先生の熱意によって、ダンスの授業のレベルに差があるという話はよく耳にしますよね。

MAR先生:
そうなんです。今の時代は学校に一人か二人は本格的にダンスを習っている子どもが確実にいます。だからこそ、熱心な先生はプレッシャーを感じてしまうのかもしれませんね。そんな先生たちに対しては、気負いすぎず、気楽に音楽に乗ることをまず覚えてください、とお伝えしています。子どもたちに指導するときにも、それを一番大切にしてほしいので。

基本的な筋力が備わるヒップホップダンス

ーーでは次に、ヒップホップダンスが子ども成長に及ぼす影響について、具体的にお聞きします。日常生活ではあまり使わない動きをすることは、子どもの身体にどのような変化をもたらすのでしょうか?

MAR先生:
まず足腰がすごく強くなります。今の子どもたちって、昔に比べて極端に外遊びをする時間が減ってきていますよね。だから外で遊ぶことで勝手に身につく筋力が足りていない。中高生になると身体もできあがってくるのでダンス上達のためにも筋トレをすることをすすめますが、幼稚園・小学校低学年あたりの成長過程の子に筋トレをさせるわけにはいきません。だからこそ、外遊びの中で自然に身につく筋力が必要になるんです。でも今は、自分の身体を支えられない子、「けんけんぱ」やスキップができない子がとても増えています。まず片足で立てない。

ーー基本的な筋力やバランス感覚がついていない、と。

MAR先生:
僕はまず、最初に教えるステップとして「けんけんぱ」をリズムに合わせてさせるんですね。スキップのリズムも同じです。最初はできなくても、1~2ヶ月もしたらちゃんとできるようになりますよ。当たり前の動作ですが、ダンスをするための基礎になるので、そこはしっかりと身につけさせます。

また、筋力やバランス感覚が備わってくると、マット運動や跳び箱、鉄棒が得意になりますね。余談ですが、レッスンの合間の休憩中に子どもたちに跳び箱のやり方を教えてあげることもあります。僕が馬になって(笑)。あと壁に向かって逆立ちをして教えてあげることも。そうやってレッスンの延長で楽しみながら身体の使い方を教えてあげると、案外すんなりできるようになるものなんです。ダンスだけじゃなくて、身体を動かす楽しさや苦手を克服する喜びなんかも伝えていきたいですね。

ーーでは次に、身体面に限らず表現力や協調性などダンスをすることでどのようなことが身につくと思いますか?

MAR先生:
やっぱり確実に集中力は養われますよ。とくに幼稚園生のクラスなんかは入ってくる子はほぼ集中力ないですからね(笑)。でもそれが、レッスンを重ねるごとに集中できる時間が長くなり、いつのまにか自分から真剣な取り組みができるように変わってくるんです。

ーー先生から見て「この子変わったな」という子はいますか?

MAR先生:
もちろんいっぱいいます! 最初はモジモジしていても、音楽が流れ始めた瞬間にスイッチが入って踊り出すようになるんですよ。

子どものタイプも十人十色で、それぞれに個性があるべきだと僕は思います。ただ「この子は伸びる」と感じる子には共通点があるんですね。それはレッスンを受けているときの目の輝き、真剣さが他とは違う。そして今日できなかったことが次の週にはできるようになっている。それって家でちゃんと練習しているということなんです。当たり前のことですが、練習しなければ絶対にできるようにならないんですから。

覚えが早いとか遅いとか、個人差があるのは当然です。でも努力する姿勢が備わっていなければ、ダンスは絶対に上達しません。才能やセンスではなく、努力して苦手を克服したり、自分に負けそうな気持ちに打ち勝ったりすることで、その先にある喜びや成功をつかめるのがダンスの良いところなんです。そしてその「努力することの大切さ」をダンスを通じて学んでもらうことで、勉強や他のスポーツなど子どもたちの日常生活にも反映されればいいな、と思います。

勝負のときこそリラックスすることが大事

ーー先生が子どもたちに指導する際は、どのようなことを心がけていますか?

MAR先生:
1クラスだいたい30人くらいいるんですが、どんなに人数が多くても一人一人にしっかりと声が行き渡るように気をつけています。子どもによってモチベーションが違ったり、またその子自身も常に変化し続けていったりするので、個人個人の「今求めているもの」を先生がしっかり把握してあげることが必要ですよね。一対一のコミュニケーションというものを一番大事にしています。

例えば、ダンスに対する気持ちがすごく高まっている子やプロを目指している子には厳しく指導することもあります。どんなに幼くても、それがその子のためになるからです。でも逆に、お母さんに言われてただなんとなく始めたような子には、まずは楽しんで踊ることを教えます。この段階でダンスの厳しさを教えても逆効果だから。ゆっくりでも一個一個のステップを覚えて、それをクリアした喜びを感じてもらいたいんです。

あと僕が全ての子どもたちに伝えたいのは、「努力したらご褒美が形となって返ってくるよ」ということ。コンテストで賞をもらえたり、オーディションに受かったり、その達成感や喜びが「よしまた頑張ろう!」という力になるからです。

ーー大きな大会に向けてチームが一つにならなければならない時、どのようにして一致団結させるのでしょうか?

MAR先生:
まずは全員の目標を統一させることが大切です。大会前の段階になると、もうみんな練習はすごく真剣にやってくれているので、休憩時間などレッスン以外の時間に団結力を高めることを意識していますね。ダンスの時間以外のコミュニケーションを大事にすることで、本番に向けてすごくいい状態を作り上げることができます。誰一人として違う方向を向かないように、みんなで同じ目標に向かうことができれば、チームの雰囲気は格段に良くなるんです。

ーー仲間の存在、それは子どもにとって心強いですね。ではいざ本番を迎えたとき、緊張やプレッシャーに負けてしまいそうな子どもにはどのように声をかけますか?

MAR先生:
そういう子に対して、僕はあえて「失敗してもいいんだよ」と声をかけます。「今まで練習してきたことは決して楽なことじゃないし、必死に努力してきたことも知ってる。失敗しても全然大丈夫。誰も笑わないし恥かかないから、思いっきりやってみてごらん」って。変なプレッシャーを与えないようにリラックスさせて、「君はこれだけ頑張ってきたんだよ」と自信を持たせてからステージに立たせます。

ーーでは最後に、ダンスをやっている子、やりたいと思っている子にメッセージをお願いします。

MAR先生:
「自分にできるかな?」という不安や自信のなさから、ダンスをやりたくても踏み出せない子がいるのなら、そんな心配はまったくないということを伝えたいです。また、「うちの子にできるかしら?」と心配されている親御さんも同じです。できないことは絶対にないんです。ダンスは誰でもできます。

テクニックやセンスよりも、まずはダンスを楽しいと思う気持ちや仲間と一緒に踊って嬉しいという気持ちを大切にしてほしい。だからこそ、もっとたくさんの子どもたちにダンスというものに関わってもらえたら、僕も先生としてとても嬉しく思います。

***
インタビューを終えて、今まで自分とは縁遠かったヒップホップダンスがぐっと身近に感じられるようになりました。踊ることを楽しむ気持ちと、努力を惜しまず決して諦めない心がダンスを上達させるんですね。

子どもの好奇心やチャレンジ精神を伸ばすために親ができること。それは挑戦できる環境を用意してあげること、そして子どもの頑張りをたくさん褒めて認めてあげることだけなのかもしれませんね。

【プロフィール】
MAR
DANCEWORKS KIDS 校長・アドバイザー
今や世界に誇れる日本のダンス文化の一つ「キッズダンス」の先駆者。1990年代後半、日本初となるプロキッズダンスチームを生み出し、一世を風靡した。その後もシーンを担う数多くの有名キッズチームを輩出。全国各地のダンサーが彼のレッスンを受講するために足を運ぶ。コレオグラフと育成、共に最強の実力をもち、現在のキッズダンスシーンを作り、支え、走り続ける存在。

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