2019.3.5

“リビング学習でかしこくなる” は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由

“リビング学習でかしこくなる” は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由

まるで学校や塾の先生のように、子どもに勉強を教えている教育熱心な親御さんもいるかもしれません。でも、それは家庭教育で本当に重要なことではないと指摘するのは、ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さん。では、その「家庭環境で本当に重要なこと」とはどんなものでしょうか。小川さんは「子どもの『成長したい』という意欲をつくること」、そして「子どもが心地良く勉強できる環境づくり」だと語ります。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

学校、地域、家庭——3つの教育が人間を育てる

家庭環境の大切さをお伝えする前に、大前提として教育には3つの種類があり、それぞれに役割があることを知っておいてほしいと思います。その3つとは、「学校教育」「地域教育」「家庭教育」です。

まずは学校教育」の意義についてです。学校教育がなかった古い時代の教育というのは、地域と家庭だけでおこなわれていました。でも、それでは当然のことながら得られる知識が限られてしまいます。学校とは、まとまった体系的な知識を学び、課題に取り組める場です。しかも、親や地域の大人とはちがう専門性を持つ教師が、子どもの成長の度合いに合わせて適切な課題を与えてくれる。そういう意味で、いうまでもなく学校教育は重要なものです。

地域教育は、多様性を知るために重要なものです。地域の祭りや習い事の教室で、年代も価値観も異なる多くの人たちと会う。そうして子どもは自分の世界を広げていきます。学校にも多くの人間が集まりますが、学校は一定の体系のもとに成り立っていて、その教育は基本的に一方通行。本当の意味での多様性は学校教育ではなく、地域教育で知るものなのです。

そして、親御さんが大きな役割を果たすのが家庭教育。家庭教育のもっとも重要な要素は、「子どもに安心感と自信を与える」こと。家族とのふれあいのなかで子どもは自分の存在を認められ、「自分は生きていていいんだ」と安心し、自信を持つ。それが「成長したい」という意欲、成長の土台をつくるのです。

家庭教育のもうひとつの重要な要素として、「誰よりも親が子どもの近くにいる存在」であることが挙げられます。子どもは自ら学び行動する力を持っていますが、その力を発揮するにはあることが必要です。それは、親による「フィードバック」です。

学校で先生に褒められた話をしたら、お父さんがよろこんでくれた。一生懸命にスポーツの練習をしていたら、見学に来ていたお母さんが微笑みながら見ていてくれた。自分の言葉や行動に、いちばん近くで見てくれている親がなにかを返してくれるから、子どもはさらに動こうとする。もちろん、「もっと頑張ろう!」と思う。それが子どもの原動力になるのです。

家庭「教育」というと、どうしても学校教育のような勉強を家でもさせることのように思ってしまう親御さんもいますよね。でも、家庭教育とはそういうものではない。子どものなかに「勉強が楽しい」「できるようになったらうれしい」というマインドを育ててあげることがなによりも重要なのです。

勉強部屋にこだわらずに集中できる空間を選ぶ

そういうマインドを育てることは大切ですが、一方で、「家庭」という場が勉強に適した環境であることも確かです。「リビング学習」という言葉を知っている人なら、「東大生の多くがリビングで勉強していた」という話も耳にしたことがあるでしょう。

ただ、「東大生にはリビング学習経験者が多かったから、リビング学習をすればかしこくなる」と勘違いしている人も多いようです。しかし、残念ながらリビングで勉強をするだけで東大に行けるほど学力が上がるわけではありません

東大に受かるような勉強ができる子どもは、自分がいつどんなやり方で勉強をすれば効率的か、楽なのかを感覚としてつかんでいます。たとえば、「数学をやるときには時計の音すら聞こえない静かなところでやりたい」とか、「生物の勉強は眠くなるから喫茶店のほうがいい」といった具合に自己分析ができている場合が多いようです。ノートなど筆記用具の使い方から勉強のメニューのつくり方、タイムテーブル、そして場所の選び方まで、自分なりのスタイルをきっちりつかんでいるのです。

上記のように自己分析できる子たちですから、勉強をするからといって勉強部屋だけにこもるような方法を彼らは選びません。たとえば、「リラックスして柔軟にものを考えたいときは、家族の会話や生活音がちょっと聞こえるシチュエーションでやりたい」というふうに考えることもあるのです。勉強部屋だけにこだわらず、さまざまな勉強をするにあたってそれぞれベストの空間をチョイスした結果、気がついたらリビングの滞在時間が長くなっていた――それだけのことなのです。

ただ、頭がいい子どもはリビング学習の比率が比較的高くなることは、じつは理にかなっています。なぜなら、どういうときに人間が集中しやすいというと、リラックスできる空間にいて、かつ適度な緊張感と安心感がある」ときだからです。それは、まさにリビングです。一方、自分ひとりの空間である勉強部屋は、あくまでも自分だけの世界ですから緊張感はなく、集中力も下がりやすい場所だと考えることができる。

もちろん、これは大学受験を控えた受験生に限ったことではありません。むしろ自分で環境をつくったり選んだりすることが難しい小さな子どもがいる親御さんこそ、きちんと知っておくべきことではないでしょうか。勉強だからと勉強部屋に缶詰めにしても、勉強の内容によっては逆に子どもがまったく集中できないこともあるのです。

子どもがいまやろうとしている内容を、もっとも心地良く集中してやれる場所はどこかと子どもと一緒に考え、ベストな環境を選んであげてください。親は、世界中の誰よりも子どものそばにいて、好き嫌いをいちばんわかってあげられる存在なのですから。

親も子もハッピーになる最強の子育て
小川大介 著/ウェッジ(2018)

■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧
第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法
第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由
第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法
第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方

【プロフィール】
小川大介(おがわ・だいすけ)
1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。