教育を考える 2024.10.8

子どもの「居心地のいい場所」が成長を妨げる? コンフォートゾーンからの脱出法

子どもの「居心地のいい場所」が成長を妨げる? コンフォートゾーンからの脱出法

あなたのお子さんは、新しいことに挑戦するのを躊躇していませんか? 多くの子どもたちが、慣れ親しんだ環境や日常の中で安心感を得ています。しかし、この「居心地の良さ」が、時として子どもの成長を妨げる壁となることがあるのです。

専門家によると、子どもの潜在能力を引き出すには、この安心できる領域(コンフォートゾーン)から一歩踏み出すことが重要だといいます。では、親として私たちに何ができるでしょうか?

この記事では、子どもの可能性を広げるために、コンフォートゾーンから抜け出すサポート方法を、勉強、スポーツ、人間関係の3つの観点から紹介します。あなたのお子さんの隠れた才能を開花させるヒントが、きっと見つかるはずです。

「コンフォートゾーン」とは?

私たちの日常生活には、快適で安心できる領域があります。みなさんのなかにも、長年勤めている職場や行きつけの飲食店、学生時代からの友人たちとの集まりなど、居心地がよい場所や人間関係を大切にしている人も多いのではないでしょうか。これを「コンフォートゾーン」と呼びます。

コンフォートゾーンの外をぐるりと取り囲むのが、「ラーニングゾーン」と呼ばれるチャレンジ領域です。行ったことがないお店に行ったり、初めて会う人と話したりと、適度に負荷がかかる領域を意味します。不安やストレスを感じやすい人にとっては、その刺激を苦手だと感じます。

さらにラーニングゾーンの外側に広がるのは「パニックゾーン」です。この領域では、自分の能力をはるかに超える水準を求められるため、肉体的にも精神的にも必要以上の負荷がかかって追い込まれることがあります。

知り合いもいない、言葉も通じない外国で一人ぼっちになるイメージです。安心できる要素がなく、これまで積み上げてきた自信や実績が一切役に立たない状況では、どんな人でも過度なストレスやプレッシャーを感じてしまうでしょう。それが「パニックゾーン」です。*1

続いて、子どもたちが「コンフォートゾーン」から「ラーニングゾーン」へ一歩踏み出すことの重要性について、詳しく解説していきます。

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コンフォートゾーンにいるだけでは成長できない!?

子どもたちにとっても、慣れ親しんだ環境や状況、つまりコンフォートゾーンは心地よく、安全だと感じます。しかし、この「ぬるま湯状態」に長くいることは、子どもたちの成長を阻む恐れもあるのです。

目標実現のスペシャリストであるメンタルコーチの大平信孝氏は「不安はないが成長や進歩もないコンフォートゾーンに比べて、適度な不安状態であるラーニングゾーンは学びや成長が得やすいと述べています。適度に不安を感じている状態は、心のどこかで「今のままではよくない」と思っている証拠。いい意味での緊張感とパニックには陥らない冷静さ、そして前向きな意識があるラーニングゾーンは、学びや成長を得やすい領域なのです。*2

ゾーン分けの図
(画像は編集部で作成:*2)

たとえば勉強面において、教育評論家の石田勝紀氏は、5段階評価の通知表が「オール3」などの平均レベルにいる子について、居心地のよさから危機感がなく上昇志向も生まれにくいと指摘しています。逆に、「オール4」や「オール5」のレベルにいる子は、「勉強して上のゾーンを目指す傾向がある」のだと言います。ラーニングゾーンにいる子は、やはり成長しようとする意欲が強い傾向があります。*3

スポーツでも同様に、「もうちょっと練習すればレギュラーになれそうだけど、いまのままでも楽しいし、激しい練習をして疲れるのも嫌だな……」と言い訳ばかりしていると、いつまでたっても技術やテクニックが上達することはないでしょう。成長には新しい挑戦が不可欠であり、コンフォートゾーンに留まり続けると、せっかくもっている潜在能力を十分に引き出せない可能性があるのです。

人間関係においても、コンフォートゾーンの居心地のよさに甘んじてしまうことで、新しい出会いから世界が広がるチャンスを逃してしまうことも。そのままの自分を受け入れてくれる仲間の存在は大切ですが、ときには違う価値観の友人と話して刺激を受けることも、成長する過程で必要です。

新しい経験や挑戦は、不安や恐れをともなうこともありますが、それを乗り越えることで子どもは大きく成長します。保護者の役割は、子どもが安全にコンフォートゾーンを出る機会を提供し、サポートすること。ただし、急激な変化は逆効果になる可能性があるため、段階的にアプローチしていきましょう。

次項では、「勉強面」「スポーツ面」「人間関係」の3つのジャンル別に、コンフォートゾーンから抜け出す方法を解説していきます。

コンフォートゾーンから抜け出す02

コンフォートゾーンから抜け出す方法:勉強編

「いつも平均点くらいだし、いまのままでも問題ないんじゃない?」と、子どもだけでなく親も心のどこかで思っているのなら、コンフォートゾーンから抜け出すことは難しいでしょう。本当はもっと上を目指せるのに、現状に甘んじているなんてもったいないと思いませんか? ここでは、学習面におけるラーニングゾーンへ進むためにできることをご紹介します。

■通知表“オール4” や “オール5” の世界をイメージさせる!

前出の石田氏によると、レベルの違う世界を知ることで「子どもの行動は見違えるように変わることもある」のだそう。たとえば、「通知表がオール4のゾーンに入ったらどんな世界になると思う? 今より少しは気分よくない? さらに言うと、点の取り方がわかってくるからオール3のゾーンよりも勉強が楽になっていくよ。成績が上がれば嬉しいし、学校生活も楽しくなるかもね」など、いまより上のレベルの世界を具体的にイメージさせるとよいでしょう。*3

■「ちょっと難しいけど達成可能」な目標を設定する

一般社団法人日本手帳マネージメント協会代表理事の高田晃氏は、コンフォートゾーンから出るために大事なのは、「ちょっと難しいかもしれないが、本気で挑戦すれば達成できるかもしれない、というレベルの目標」を設定することだと言います。たとえば、算数の問題集の少し先のページの問題を解いてみるなど、現在の学習レベルよりも少し難しい問題に挑戦させましょう。これにより、子どもは適度な刺激を受けながら、自信をつけていくことができます。*4

コンフォートゾーンから抜け出す03

コンフォートゾーンから抜け出す方法:スポーツ編

スポーツの世界において、「楽しいから」「慣れているから」だけの理由で現状に満足していては成長はありません。自分から上を目指して行動してもらうためには、親としてどのような後押しをすればいいのでしょうか。

■小さな成功体験を積み上げる

「スポーツひろば」代表の西薗一也氏は、足の速い子と遅い子を比べて、「成功体験の差がトレーニングの負荷の違いとなって、足の速さの差をさらに広げる」と指摘しています。つまり、「一番になって気持がよかった」という成功体験をまた味わいたいがために、全力で走るようになるのです。たしかに、成功体験がないと「自分なんてこんなものだろう」と力を抜くのは容易に想像できます。「昨日よりも速く走れたね」「前よりも高く飛べるようになったね」など、過去の本人と比較しながら成功体験を積み上げてあげましょう。きっとコンフォートゾーンを抜け出せるはずです。*5

■目標設定と自己評価をおこなう

国際コーチング連盟認定アソシエイトコーチである刈谷洋介氏は、「コンフォートゾーンを抜け出すのに重要なのは明確な目標設定」だと述べています。目標は短期的なものと長期的なものをバランスよく設定しましょう。5本シュートを決める、10回以上ボールを奪う、など数字を入れるとより具体的ですね。また、定期的に振り返って自己評価をおこなうことで、モチベーションにも左右されにくくなります。*6

コンフォートゾーンから抜け出す04

コンフォートゾーンから抜け出す方法:人間関係編

最後に、人間関係のコンフォートゾーンを抜け出すためにできることを解説していきます。新しい人々と出会いや異なる価値観に触れることで、子どもの視野は広がり、社会性が育まれます。

■積極的な異文化体験を

前出の刈谷氏が勧めるのは、異文化交流です。外国人コミュニティのイベントに参加したり、海外の子どもたちとオンラインで交流したりすることで、多様性への理解を深めることができるでしょう。それにより、新たな視点や経験を得ることができて「知らないもの・こと」への抵抗感がぐんと下がります。するといつのまにか、コンフォートゾーンから抜け出してラーニングゾーンへ突入していることでしょう。

■コミュニケーションスキルを磨く

コンフォートゾーンを出るには、自分の気持ちや考えを適切に表現することも大切です。アルバ・エデュ代表の竹内明日香氏は、これからの時代はさまざまな場面で「自分のメッセージを相手に効果的に伝える力=プレゼン力」が求められる、と指摘します。そのためには、ロールプレイングゲームを通じてあらゆる状況でのコミュニケーションを練習したり、さまざまな本や映画などを通じて相手の気持ちを理解し、共感する能力を鍛えるのがおすすめ。うまくコミュニケーションが取れるようになると自信につながり、より幅広い人間関係を築きたくなります。*7

***
居心地のよいコンフォートゾーンから抜け出すことは、ときに不安や恐れをともないます。しかし、自分の力でそれを乗り越えた先には、目を見張るような成長が待っているでしょう。親としては、子どもの挑戦を応援し、サポートする体制を整えるのが唯一できることなのかもしれません。

文/野口燈

(参考)
(*1)参考・カギカッコ内引用元:ダイヤモンドオンライン|コンフォートゾーンから抜け出して、人も組織も成長しよう
(*2)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|最も成長できるのは適度に〇〇を感じるとき。学びを得やすい「ラーニングゾーン」への入り方
(*3)参考・カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|何事も平均「オール3の人」が変わるための超発想
(*4)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|確実に達成できて成長につながる「目標設定」のコツ。“〇〇ごとに書き出すのが効果的
(*5)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|運動神経は成功体験で伸びる! 運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い
(*6)参考・カギカッコ内引用元:COACHING-L|変化を恐れずに進む:コンフォートゾーンからの脱却ガイド
(*7)参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|世界で通用する「話すちから」を鍛えよう! 『アルバ・エデュ』竹内明日香さんインタビュー【第1回】