「期待してるよ、って言ったら、顔が曇った」「きっとできるよ、は励ましのつもりだったのに」「じゃあ、期待しないほうがいいの?」
テストの前、試合の前、発表会の前。わが子の背中を押したくて口にした言葉が、なぜか背中を重くしているように見える。そんな場面に、心当たりはありませんか。
じつは、期待そのものが子どもをつぶすわけではありません。同じ「期待」でも、向けている先によって、子どものやる気や挑戦する力は反対の方向に動きます。境界線は5つ。どちら側にいるかは、親がふだん口にしている言葉で見分けられます。
目次
期待そのものは、子どもを伸ばす力になる
絵本を読み聞かせたあと、こうなってほしいという思いを込めて「○○ちゃんみたいだね」と声をかけ、あとは子どもを信じ続ける。何度も繰り返すうちに期待が現実化し、子どもの行動が変わっていくそうです。(絵本スタイリスト、景山聖子氏)*1
相手に期待すると、相手もその期待に応えようとし、期待どおりの結果につながっていく。教育心理学で「ピグマリオン効果」と呼ばれる現象です。期待は、子どもを引き上げる力になります。「期待しないほうがいい」が答えではありません。
ところが、同じ期待が、子どもを見えなくさせることもあります。親の「期待」や「不安」は、子どもを見るときのフィルターのようなもの。強すぎる期待は「期待していないことについては許さない、認めない」という態度に表れ、親はフィルター越しに「親が見たいことだけを見る」ようになるといいます。(精神科医・青山渋谷メディカルクリニック名誉院長、鍋田恭孝氏)*2
期待が「信じて待つ」から「こうあるべき」に変わったとき、それは子どもを引き上げる力ではなく、押さえつける力に変わってしまいます。

伸ばす期待・つぶす期待を分ける境界線は5つ
では、どこから先が「こうあるべき」なのでしょうか。5つの境界線で見ていきます。
| つぶす期待 | 伸ばす期待 |
|---|---|
| 1. 結果に期待する(点数・順位・合格) | 1. 取り組みに期待する(工夫・粘り・見直し) |
| 2. 親の目標を子どもに期待する | 2. 本人が決めた目標に期待する |
| 3. 誰かと比べて期待する(きょうだい・友だち) | 3. 過去のその子と比べて期待する |
| 4. できなかったとき、失望を見せる | 4. できなかったとき、悔しさに共感する |
| 5. 「次も」と先に置く | 5. 「いま」を認めてから、信じて待つ |
境界線1. 「結果」に期待するか、「取り組み」に期待するか
「100点、期待してるよ」。結果への期待は、裏を返せば「100点でなければ期待外れ」というメッセージにもなります。「100点とってえらいね」は、「100点とれなければえらくないよ」と言っているのと同じだと指摘しています。(臨床心理士、田中茂樹氏)*3
期待も同じで、結果に向けた期待は、結果が出なかった日に、そのまま評価の下げ幅になってしまいます。
小学5年生を対象にした一連の実験では、問題を解いたあとに「賢いね」と知能をほめるグループと、「よく頑張ったね」と努力をほめるグループに分け、その後の様子を調べました。知能をほめられた子どもたちは、失敗しにくいやさしい課題を選びやすく、難しい問題で失敗したあとは意欲や成績が下がる傾向が見られています。自分の得点を実際より高く報告する子の割合も、努力をほめられた子どもたちより高めでした。一方、努力をほめられた子どもたちは、失敗したあとも「もっと取り組みたい」という意欲を保ち、成績も伸びていたとのこと。(研究当時コロンビア大学、クラウディア・ミューラー氏・キャロル・ドゥエック氏)*4
ほめ言葉についての研究ですが、期待の向け先にも同じことがいえそうです。「結果を出す子」への期待は挑戦を遠ざけ、「取り組む子」への期待は挑戦を後押しする。期待をどこに向けるかが、子どもが難しい課題に手を伸ばすかどうかに関わっていると考えられます。
たとえできなくても、そのプロセスを認める言葉がけをすれば、自己肯定感は高まると述べています。(東京都市大学人間科学部教授、井戸ゆかり氏) 「間違えたところを見直してたね」「最後まで考えてたね」。期待は、点数ではなく、その子のやり方に向けてみてください。
境界線2. 「親の目標」か、「本人の目標」か
「レギュラーになれるって信じてる」「あの学校、行けると思うよ」。その目標は、誰が決めたものでしょうか。株式会社バンダイが2019年に実施した「子どもの習い事に関する意識調査」では、習い事を始めるきっかけの約6割が「親の意向」でした。*5 親がやらせたいことと、子どもがやりたいこと。そのズレの上に期待を乗せると、子どもは親の目標を背負って走ることになります。
幼い子どもが、靴ひもを結ぼうとしている場面を思い浮かべてみてください。不安な親は「困っているんだ」と思い込み、つい「手伝おうか?」と手を出しがち。けれど子どもにとって、はじめての挑戦はワクワクする楽しいものです。だからこそ、まずは子どもの考えを問い、「わからない」と返ってきたら「じゃ、相談しようか」と対話してほしいと話しています。(精神科医・青山渋谷メディカルクリニック名誉院長、鍋田恭孝氏)
「どこまでいきたい?」と聞いて出てきた目標なら、親の期待は、後ろから支える力になります。親が先に決めた目標への期待は、どれだけ優しく言っても、前から引っ張る力になってしまうもの。
境界線3. 「誰か」と比べるか、「過去のその子」と比べるか
「お姉ちゃんはできたんだから」「○○くんに負けないでね」。比較を土台にした期待は、勝っているあいだしか効きません。親が優越感にひたるために、他の子と比べてわが子を持ち上げるようなほめ方には要注意だと警告しています。(心理学博士、榎本博明氏)*6 比較の意識が強くなると、他人へのねたみや敵対心が生まれやすく、追い越されたときのダメージも大きくなりがちです。
比べる相手を変えてみましょう。こどもまなびラボの記事「子どもが〇〇になる、3つの「超危険なほめ方」。 脳科学者がすすめる「正しいほめ方」とは?」でも紹介しているように、人より頑張ったことを評価するのではなく、親が気づいた「よい変化」を伝えることをすすめています。(児童精神科医、故・佐々木正美氏)
たとえば「昨日よりも3回も多く跳べたね」「先週間違えたところが上手に弾けるようになったね」。過去のその子と比べた期待は、誰にも追い越されることがありません。
境界線4. できなかったとき、「失望」を見せるか、「悔しさ」に共感するか
期待が子どもを伸ばすかつぶすかは、期待を口にした瞬間よりも、期待どおりにいかなかった日の親の反応に左右されます。
こどもまなびラボの記事「子どもの自己肯定感が下がってしまう、教育熱心なのに残念な親の3タイプ」でも取り上げたとおり、親からの大きすぎる期待を感じ取った子どもは、親を喜ばせようとして理解したフリをしたり、好奇心を失って妥協したりするようになると説明しています。(『100万人が信頼した脳科学者の 絶対に賢い子になる子育てバイブル』著者、ジョン・メディナ博士)
同記事では、期待に応えられないわが子に怒ったり失望したりする親の姿が、子どもに「学習性無力感」(何をしても無駄だと感じ、行動しなくなる状態)を引き起こす可能性にも触れています。「期待してたのに……」のひとことと、そのときの表情を、子どもはよく見ているものです。
できなかった日にかける言葉は、ふたつで充分。ひとつめは「悔しいね」です。親が共感するだけで、子どもは負けたにもかかわらず「自分の持っている感情は間違っていない」と自信をつけられるとのこと。(モンテッソーリ教育を掲げる「吉祥寺こどもの家」、百枝義雄氏)*7
ふたつめは、「いいチャレンジだったよ!」「毎日頑張っていたよね」といった、取り組みを認める言葉。結果ではなく毎日の行動や努力を親が言葉にすることで、子どもは再び挑戦する力を身につけられると語っています。(日本ストレスマネジメント学会事務局長、小関俊祐氏)
境界線5. 「次も」と先に置くか、「いま」を認めてから信じるか
「この調子で次もがんばるのよ」。いい結果が出た日に、つい出てしまう言葉です。将来への期待を込めたこのほめ方は「いつも○○すべき」というプレッシャーにつながりやすいため、「次回」や「未来」ではなく「いま」の姿を認めてほしいと注意を促しています。(認定心理士、中垣俊子氏)
「それでこそうちの息子だ」「お母さんも鼻が高いわ」も同じです。子どもの行動で親の価値が上がるような言い方をすると、子どもは「お母さんのために○○しなければ」とプレッシャーを感じてしまいます。*8 子どもの手柄は、子どものもの。一緒に喜ぶだけにとどめましょう。
信じている気持ちは、「次も」と先に置かなくても伝わります。読み聞かせのあとの「○○ちゃんみたいだね」も、ほんの短いひとことでした。今日の姿を認めて、あとは待つ。それだけで、期待は「こうあるべき」に変わらないまま、子どもに届きやすくなります。

「期待してるよ」の言い換え例5組
5つの境界線を、ふだんの言葉に置き換えると次のようになります。
| 言いがちなひとこと | 言い換え |
|---|---|
| 1. 「100点、期待してるよ」 | 「間違えたところ、見直してたね。そこを見てたよ」 |
| 2. 「レギュラーになれるって信じてる」 | 「このシーズン、どこまでいきたい?」 |
| 3. 「お姉ちゃんはできたんだから、できるよ」 | 「先週より、長く続けられるようになったね」 |
| 4. 「期待してたのに……」 | 「悔しいね。いいチャレンジだったよ」 |
| 5. 「この調子で次もがんばってね」 | 「今日、最後までやったね。それで充分」 |
5組に共通するのは、言葉の矛先が「これから出る結果」から「いま見えている取り組み」に移っていること。「失敗したら怒られる」「うまくやらなくちゃ」というプレッシャーを感じていない子どもは、勉強やスポーツなど、何事に対しても楽しみながら取り組めるといいます。(「百ます計算」で知られる教育者、陰山英男氏) 右側の言葉は、どれもそのプレッシャーをそっと外してくれる言葉です。
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「期待してるよ」と声をかけてきたこれまでが、間違いだったわけではありません。わが子を信じているからこそ、出てきた言葉です。変えるのは、期待の量ではなく、向け先だけ。次にその言葉が出そうになったら、昨日お子さんががんばっていたことをひとつ思い出して、それを言葉にしてみてください。
FAQ(よくある質問)
Q. 「期待してるよ」という言葉自体は、もう使わないほうがいいですか?
A. 使ってかまいません。気をつけたいのは言葉そのものではなく、向け先です。「100点、期待してるよ」のように結果に向けると落差が生まれますが、「毎日続けてるところ、見てるよ」のように取り組みに向ければ、同じ期待が支えになります。言う前に「これは結果の話か、取り組みの話か」と1度だけ確かめてみてください。
Q. 受験や大会など、結果が避けられない場面ではどうすればいいですか?
A. 結果に触れないのではなく、結果の手前にある行動を言葉にします。「落ちたらどうしよう」が頭にある時期ほど、「今日は過去問を1年分やったね」と事実を伝えるだけにしてみてください。結果が出たあとは、よかった場合も悪かった場合も、まず「悔しいね」「よくやったね」と気持ちと取り組みを受け止めてから、次の話に移ります。
Q. 本人に目標を聞いても「別に」「わからない」としか返ってきません。
A. 精神科医の鍋田恭孝氏が話すように、「わからない」と返ってきたら「じゃ、相談しようか」で大丈夫です。親の目標を代わりに置くのではなく、「レギュラーと、楽しく続けるの、どっちが近い?」と選択肢を2つ出して選んでもらうと、小さくても本人の目標になります。選んだあとは、親の希望を加えずにそのまま受け止めましょう。
Q. 期待を向けないと、子どもがサボってしまいそうで不安です。
A. 期待を減らすのではなく、向け先を変えるだけです。取り組みに期待を向けると、親は子どもの行動をかえって細かく見るようになるため、子どもも「見られていない」とは感じにくくなります。ほめ言葉の研究でも、努力をほめられた子どもたちは、失敗したあとも「もっと取り組みたい」という意欲を保つ傾向が見られました。
(参考)
*1 こどもまなびラボ|100回叱るより1冊の絵本。「ピグマリオン効果」を引き出す読み聞かせで、幸せを現実のものに
*2 こどもまなびラボ|子どもを見えなくさせる「期待と不安」というフィルター。親子は一心同体?
*3 こどもまなびラボ|子どもが〇〇になる、3つの「超危険なほめ方」。 脳科学者がすすめる「正しいほめ方」とは?
*4 Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998)|Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
*5 こどもまなびラボ|子どもの自己肯定感が下がってしまう、教育熱心なのに残念な親の3タイプ
*6 こどもまなびラボ|自慢が多い子は承認欲求が強い。自己主張がエスカレートする原因は「親の褒め方」だった
*7 こどもまなびラボ|子どもの「負け」をどう褒める? 成長スピードの速い子の親がしている2つのこと
*8 こどもまなびラボ|「褒められ依存症」になってない? ズルをする・本番に弱くなる子どもたち









