教育を考える 2026.10.6

「10歳の壁」は小3・小4・小5で違う。学年別に起きること8つと親の対応

「10歳の壁」は小3・小4・小5で違う。学年別に起きること8つと親の対応

「3年生から急に算数がわからなくなった」
「4年生になって口答えが増えた」
「5年生、友だち関係で泣いて帰ってきた」

どれも「10歳の壁」のひとことで片づけられがちな出来事です。けれど、並べてみると起きている中身はまるで違います。算数のつまずき、口答え、友だち関係の涙。じつはこの3つ、ひとつの「壁」の別々の面なのです。学年ごとに何が起きているかが分かれば、「うちの子だけ?」という不安は、「いま、この段階か」という見立てに変わります。

「10歳の壁」は1年では終わらない。小3で始まり、小5で形になる

「10歳の壁」は「9歳の壁」「小4の壁」とも呼ばれます。呼び名が複数あるのは、この変化が起きる時期に幅があるからともいえます。文部科学省は、9歳以降の小学校高学年の時期を「自分のことも客観的にとらえられるようになるが、一方、発達の個人差も顕著になる」時期と説明し、そのために「自己に対する肯定的な意識を持てず、劣等感を持ちやすくなる」と述べています。*1

9歳は小3の後半から小4の前半。つまり壁は、小3のうちに始まり、小4で本番を迎え、小5で新しい形に落ち着いていくのです。

小3までを「オタマジャクシ」、小4以降を「カエル」の時代と呼び、子育ての対応も変えるとうまくいくと説く専門家もいます。(花まる学習会代表・高濱正伸氏)*2 親御さんの目に、小3と小5のわが子が「別の生き物」に見えるのは、見間違いではありません。

そして、この変化を「壁」ではなく「飛躍」ととらえる見方もあります。こどもまなびラボのインタビューでは、「内面が変化する分、行動が停滞したように見えますが、じつは内面が深化しているのです」と語られています。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)*3

こどもまなびラボでは、「10歳の壁」の全体像と4つの対処法をこちらの記事、心の面をこちら、自己肯定感との関係をこちらにまとめています。ここからは、それらを学年ごとに分解します。

壁際で2人のこどもが背伸びをして両手を上げている様子

小3・小4・小5で起きること8つを、学習・心・友だち関係の一覧にする

番号は本文の見出しと対応しています。

学年 学習 心 友だち関係
小3
壁の足音
①算数が「目に見えないもの」を扱いはじめる(わり算・小数・分数) ②まだ「なんでもできる」と思っている 「みんなと仲良くできる」と疑わない(②に含む)
小4
壁の本番
③「なんとなく」で解けていた問題が解けなくなる(がい数・角度・面積) ④自分を外から見はじめ、比べて落ち込む ⑤「みんなと仲良く」が崩れ、好き嫌いが生まれる
小5
壁の向こう側
⑥「なんのために勉強するの?」と問いはじめる(割合・単位量あたり) ⑦気持ちが「ひとつじゃない」と分かり、親には「うるさいな」 ⑧仲間集団が閉じ、トラブルが見えにくくなる

小3は、壁の「足音」が聞こえる学年

①算数が「目に見えないもの」を扱いはじめる

小1・小2の算数は、「りんごが4個あって、2個食べたら残りは?」のように、頭のなかに絵が描ける問題が中心でした。小3では、学習指導要領に沿って、わり算、小数、分数が入ってきます。*4 「12÷3」はまだ「12個を3人で分ける」と絵にできますが、「0.3」や「1/3」は、りんごの絵では描き切れません。理科と社会も小3から教科として始まります。

「3年生から急に算数がわからなくなった」というとき、つまずいているのは多くの場合この切り替えです。計算が遅いのではなく、絵に描けないものを頭のなかで扱う練習が、まだ始まったばかりなのです。

②まだ「なんでもできる」と思っている

一方で、小3の心はまだ明るい時期です。9歳ごろまでの子どもは、誰もがなんの疑いもなく「みんなと仲良くできる」と思っているといいます。ある研究データでは、困っている人を見れば素直に「助けてあげたい」と行動できていた子どもが、10歳になるとそうした行動を起こさなくなる変化も見られたそうです。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)

また、「自分はなんでもできる」という根拠のない万能感を抱いたままでは、社会にスムーズに適応できないとも述べています。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)*5 小3は、この万能感がまだ残っている時期ともいえます。

つまり小3は、学習だけが先に難しくなり、心と友だち関係はまだ幼さを残す時期です。算数でつまずいても、本人はそれほど気にしていないこともあります。このズレが、小3の特徴です。

💬 小3の声かけ例

  • ✓「0.5って、ピザで言うとどのくらい?」
    抽象的な数を、いったん絵に戻して聞く
  • ✓「今日の理科、なにを見たの?」
    「なにを習った?」ではなく、見たもの・触ったものを聞く
  • ✓本人が平気な顔をしているうちは、親も平気な顔でいる

紫のランドセルを背負い、笑顔で駆け出す小学生の女の子。後ろにほかの子どもたちが続いている。

小4は、壁に正面からぶつかる学年

小4は、学習・心・友だち関係の3つが同時に動きます。「10歳の壁」の本番です。

③「なんとなく」で解けていた問題が、解けなくなる

小4の算数には、がい数、角の大きさ、面積、折れ線グラフ、小数と整数のかけ算・わり算が入ります。小4ごろから「がい数」「角度」といった実体験に重ねづらい問題が増え、勉強面でつまずく経験が増えることも、「10歳の壁」の要因のひとつとされます。(子育て・教育の専門家・鈴木邦明氏)

また、発達には個人差があるため、抽象的思考をまだ獲得していない子どもが、分数やわり算の学習でつまずいてしまうことがあるといいます。(臨床心理士・大須賀隆子氏、取材当時は帝京科学大学准教授)*6

小4で「3年生くらいまでは勉強面で心配することなんてなかったのに」と感じる親御さんがいるのは、3年生くらいまでは「なんとなく」で解けていた問題が、4年生以降は理解できていなければ正解できない学習内容へと変わっていくためと考えられます。*7 小4のつまずきは、頭のよしあしではなく、「絵に描けないもの」への切り替えが間に合っているかどうかの差ともいえます。

④自分を外から見はじめ、比べて落ち込む

「4年生になって口答えが増えた」。この変化の裏で、子どもの目は初めて自分自身に向いています。文部科学省の言う「自分のことも客観的にとらえられるようになる」時期の到来です。

自分を外から見られるようになると、隣の子も同じ目で見えるようになります。「○○ちゃんは計算が速いのに、自分は遅い」。こうして他者と比べ、劣等感を抱きやすくなる時期でもあります。ただ、自分と友だちを比べられるようになるからこそ、広い視野で物事をとらえたり、「もっと頑張ろう」と高みを目指したりできるようにもなります。落ち込みは、成長の副作用なのです。

反抗期というと中学生のイメージがありますが、小学校中学年くらいから「前思春期」が始まっているともいわれます。この時期の子どもは、生理的な発達にともなう変調、対人関係の難しさ、自我の形成にともなうしんどさなど、いくつもの大変さを同時に抱えているといいます。(学校心理士スーパーバイザー・医学博士 芳川玲子氏)*8 自我が芽生えて気持ちが不安定になる時期なので、親の干渉がうっとうしく感じられるのも、自然な変化といえます。

⑤「みんなと仲良く」が崩れ、好き嫌いが生まれる

10歳になると「バスの隣の席は○○ちゃんがいい」「○○ちゃんには座ってほしくない」と思いはじめ、ずっと「みんなと仲良くできる」と思っていた自分自身と、自己矛盾を起こすようになるといいます。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)

親から見ると「急に意地悪になった」「特定の子とばかり遊ぶ」と映ることもあります。でも、好き嫌いが生まれたのは、相手を一人ひとり別の人間として見られるようになった証拠です。文部科学省の資料でも、「ギャングエイジ」とも言われるこの時期には、閉鎖的な仲間集団が生まれると説明されています。小4は、その入口に立っています。

💬 小4の声かけ例

  • ✓「前より10点も上がったね」
    兄弟や友だちではなく、過去の本人と比べる(家庭教育の専門家・田宮由美氏)
  • ✓「お母さんも小さいとき同じ失敗をしちゃったんだ」
    「だからダメって言ったのに」の代わりに、親の失敗談を話す。「失敗してもいい」という安心感が、子どもの挑戦心を高めるといいます(井戸ゆかり氏、取材当時は東京都市大学人間科学部教授)
  • ✓「面積って、この床にタイルが何枚しけるかってことだよ」
    抽象語を、家のなかの具体物に1度つなぐ

男の子がひとりで読書をしている様子

小5は、壁の向こう側が見えてくる学年

小4から始まった「カエル」の時代が、小5で形になってきます。小4で崩れた万能感の代わりに、新しい自分の輪郭ができはじめます。

⑥「なんのために勉強するの?」と問いはじめる

小5の算数には、割合と百分率、単位量あたりの大きさ(速さを含む)、分数の通分、平均が入ります。「3割引」「時速40km」「1個あたり」。どれも目の前にある量ではなく、量と量の「関係」を扱う単元です。小4で「絵に描けないもの」に切り替わった算数が、小5では「関係を考えるもの」にもう一段上がります。

「高学年になってから成績が伸びなくなった」という相談は非常に多く、小さいころからたくさんの習い事をしている家庭では、小4ごろから成績が伸び悩むケースが多いといいます。(教育専門家・小川大介氏)習い事で予定が埋まると、学んだことを振り返る時間がなくなることも、弊害のひとつに挙げられています。

さらに高学年になると、物事を深く考えるようになるぶん、「そもそも、なんで勉強しなきゃいけないの?」と自問しはじめる子もいます。学習習慣について、「誰かに命令されて嫌々やるのは習慣ではない」と話す教育者もいます。(松尾英明氏、取材当時は千葉大学教育学部附属小学校教諭)「親に言われたから勉強する」が小5で止まるのは、怠けではなく、勉強の目的を自分で問えるようになった表れととらえることもできます。

⑦気持ちが「ひとつじゃない」と分かり、親には「うるさいな」

10歳前後になると、自分の内面に向かう視点を得て、作文にも大きな変化が表れるといいます。運動会の前日なら、「ワクワクするような気持ちだけじゃなくて、不安な気持ちや絶対に負けたくないという気持ちもある。気持ちってひとつだけじゃないんだな」といったことも書けるようになるそうです。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)

その同じ力が、親には「うるさいな!」「いまやろうと思ってたのに!」という形で向かってくることがあります。親に「こうしなさい」と行動を修正されることで脳の情報は整理されますが、言われた側は、せっかく育った神経細胞のネットワークを勝手に「刈り込まれる」と感じてしまう。「親がうざい」は、脳が引き起こしている感情のひとつなのです。(脳科学者・中野信子氏『中野信子のこども脳科学 「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!』フレーベル館)

⑧仲間集団が閉じ、トラブルが見えにくくなる

「5年生、友だち関係で泣いて帰ってきた」。小4で生まれた好き嫌いは、小5で「集団」になっていきます。文部科学省は、この時期の子どもが遊びなどで自分たちで決まりをつくって守るようになる一方、閉鎖的な仲間集団が発生し「付和雷同的な行動が見られる」と説明しています。

10歳ごろに「他者意識」が発達して他人との比較で自分を認識するようになると、嫉妬などの感情も生まれ、気に入らない相手を無視したり悪いうわさを流したりする「関係性攻撃」につながる場合があるといいます。(臨床心理士・大須賀隆子氏、取材当時は帝京科学大学准教授)殴る蹴るではなく、無視とうわさ。そのぶん、親や先生の目には見えにくいことがあります。

10歳以降は行動範囲も広がります。難しい時期の子どもに拒絶されないよう、ちょっと距離を置きながらも子どもを見守り、「なにかあればいつでも相談に乗るよ」という気持ちを伝えてほしいといいます。友だちとのもめごとについても、いじめなどの深刻な場合を除いて、自分で解決する経験をさせることが、子どもの伸びしろにつながるそうです。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)

💬 小5の声かけ例

  • ✓「集中して勉強してるね」「そのまんが、面白そうだね」
    心配なときではなく、うまくいっているときに声をかける
  • ✓「お母さんだったらこうするかもしれないな」
    「謝っておいで」ではなく、自分で考える余地を残す
  • ✓「3割引って、いくら安くなるんだろうね」
    レジ前で、割合を「自分の得」に変えて聞く

壁の高さは、それまでに積んだものの高さでもある

10歳ごろの子どもの「飛躍」は、それまでの親による教育、インプットが花となって開きはじめたことの表れだといいます。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)

「3年生から算数が」「4年生から口答えが」「5年生で泣いて帰ってきた」。どれも、親御さんの育て方が間違っていた合図ではありません。子どもが、幼児の世界から一段上の世界に登っている途中の音なのです。

***

今夜、ひとつだけ。「今日、一番むずかしかったのはどれ?」と聞いてみてください。算数のページでも、友だちのことでも、答えはなんでもいい。学年ごとに変わっていくその答えが、いま子どもがどの段にいるかを教えてくれます。

FAQ(よくある質問)

Q. 小3ですでに算数につまずいています。小4に備えて先取りしたほうがいいですか?

A. 先取りを急ぐ前に、いま習っているわり算・小数・分数を「絵に戻して」理解できているかを確かめてみてください。小4のがい数や面積も、小5の割合も、土台には「目に見えない数を頭のなかで扱う力」があります。ピザやお金やタイルで、抽象的な数を1度具体物に戻す。その往復を小3で重ねておくと、小4で新しい単元が来ても同じ手が使えます。

Q. うちの子は小5ですが、「壁」らしいものがまったく見えません。心配したほうがいいですか?

A. 文部科学省がこの時期の特徴として「発達の個人差も顕著になる」と書いているとおり、変化の表れ方も時期も子どもによって異なります。壁が目立たないまま過ぎていく子もいれば、少しあとから変化が見えてくる子もいます。問題の答えを「なんとなく」ではなく理由をつけて説明できているなら、抽象的な考え方への切り替えが進んでいるサインのひとつと考えてよいでしょう。どちらの場合も、親がすることは変わりません。うまくいっているときに声をかけ、困ったときに相談できる相手でいることです。

Q. 口答えが増えたとき、叱ってはいけないのですか?

A. 叱ってはいけないわけではありません。ただ、「うるさいな」の裏では、自分を外から見る目と自我が育っています。叱るときは態度そのものではなく、「その言い方だと聞き取れないから、もう1回言って」と、伝え方だけを短く直すと届きやすくなります。また、心配なときにだけ声をかけると、子どもは心を閉ざしやすくなります。頑張っているとき、楽しそうにしているときのひとことを増やしてみてください。

Q. 友だち関係のトラブルに、親はどこまで出ていいですか?

A. いじめなどの深刻な場合を除いて、自分で解決する経験をさせることが子どもの伸びしろになるといいます。(法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生氏)たとえば、暴力や持ち物への被害がある、無視やうわさが続いて登校をしぶるといった場合は、大人が動くタイミングです。迷ったときは、担任の先生やスクールカウンセラーに早めに相談してください。それ以外は、「お母さんだったらこうするかもしれないな」と選択肢を示し、決めるのは本人に任せてみてください。

(参考)
*1 文部科学省|3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題.
*2 高濱正伸(2018)『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』青春出版社(青春文庫).
*3 こどもまなびラボ|「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」! 親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由
*4 文部科学省|小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編.
*5 こどもまなびラボ|「10歳の壁」は飛躍のチャンス。「壁」を飛び越えるための言葉かけ
*6 こどもまなびラボ|「10歳の壁」「9歳の壁」「小4の壁」とは? 子どもの発達段階を意識した4つの対処法
*7 こどもまなびラボ|高学年で成績が伸びなくなる子の4つの共通点
*8 こどもまなびラボ|反抗期を「ありがたい」と考える親の神対応。「うるさいな!」は自立への第一歩です