「ちょっと注意しただけで泣く」「習い事を1回でやめたがる」「打たれ弱いのは私に似たのかな……」
叱られたあとに引きずる姿や、はじめての場面で固まる姿を見て、「この子はストレスに弱いのでは」と、その原因を性格や遺伝に求めてしまうお母さんは少なくありません。
じつは、ストレスに強いか弱いかを分けているのは、生まれつきの性格そのものではなく、出来事をどう受け止めるかという「捉え方」と、それを支える幼少期の「非認知能力」です。50社を超える企業を担当してきた精神科産業医の吉野聡氏は、ストレスに強い・弱いの違いを「物事の捉えかたの違い」だと述べています。上司に怒られたとき、「嫌だったけど、ためにはなった」と受け止める人と、「どうせ自分なんてダメだ」と受け止める人。ストレスに強いのは前者で、その違いは性格と育った環境によるところが大きいのだそうです(参考: こどもまなびラボ|ストレスに強い人と弱い人。幼少期の「非認知能力」の育み方に違いあり)。
捉え方は、幼少期の経験のなかで少しずつ育っていきます。ならば、いまのわが子がどこまで育っていて、どこがこれからなのかを、10個の□で見てみましょう。空欄になった□は弱さの証拠ではなく、これから親が言葉を渡していく場所です。
目次
ストレスに強い子と弱い子を分けるのは「非認知能力」の育ち方です
厚生労働省の「平成30年 労働安全衛生調査」では、仕事で強いストレスを感じている労働者は58.0%でした。*1 裏を返せば、同じ社会で「強いストレス」にはなっていない人が4割いるということです。
産業医として通算1万人以上と面談してきた武神健之氏は、比較的ストレスに強い社会人には、子ども時代に非認知能力がしっかり育まれてきたという共通点があると説明しています。目標に向かってがんばる力、ほかの人とうまくかかわる力、感情をコントロールする力。武神氏はこれを「総合的人間力」と呼び、ストレスに強くなるためには認知能力を上まわる非認知能力が必要だと述べています。
この力を子どもの姿に置き換えたのが、「メンタルが弱い子」と「メンタルが強い子」8つの違いや、幼少期に育てるべき3つの力です。そこにある「違い」と「力」を、日常のわが子の行動に当てはめられるよう、ひとつずつ□に分けたのが次のチェックリストです。

ストレスに強い子と弱い子の違い10項目をチェックしてみましょう
ここ1〜2か月のお子さんの様子を思い浮かべながら、「わりと当てはまる」ものに□をつけてください。年齢によっては、まだ当てはまらなくて当然の項目もあります。当てはまるかどうかより、「どこがまだ育っている途中か」を見るためのリストです。
【気持ちの切り替えと捉え方】
□1. 叱られたあと、しばらくすると自分で気持ちを切り替えられる
□2. 「悔しかった」「怖かった」と、いまの気持ちを言葉にできる
□3. 友だちに返事をもらえなかったとき、「聞こえなかったのかな」と別の理由を考えられる
□4. うまくいかなかったとき、「ここまではできた」とできた部分を言える
【挑戦とやり抜く力】
□5. はじめてのことにも「やってみる」と言える
□6. 一度でうまくいかなくても、もう一回やろうとする
□7. 「自分はこれが得意」と言えるものがひとつある
【人とのつながりと自分への信頼】
□8. 困ったとき、「手伝って」「わからない」と自分から言える
□9. はじめて会う子とも、しばらくすると一緒に遊びはじめる
□10. 不安なことや嫌だったことを、親に話しにくる
1〜4は、吉野氏の言う「捉え方」に直結する項目です。感情に「悔しい」「怖い」と名前をつけて眺められる子ほど、感情に呑み込まれにくくなります。心理学ではこうした力を「感情のラベリング」と呼びます。5〜7は、メンタルが強い子の「まずは試してみよう」と挑戦する姿勢と、精神科医の中嶋泰憲先生が挙げる「得意分野をつくる」に対応します。8〜10は、レジリエンス(逆境から立ち直る力)の研究で重視される「助けを求められる力」と、臨床心理学者の深谷和子先生が折れない心の要素に挙げる「愛し愛されること」「友だちとのかかわり」にあたります。
当てはまった数で、いまの育ち方をこう見ます
7〜10個。捉え方・挑戦・つながりの三つの土台がそろって育っています。いまの関わりをそのまま続けてください。空欄が、この先の伸びしろです。
4〜6個。幼児から小学校低学年では、もっとも多い層です。「気持ちの切り替え」だけ空欄が多い、というふうに偏りが見えれば、次の3つの手順のどれから始めるかが決まります。
0〜3個。「やっぱりこの子は弱いんだ」と読む必要はありません。ストレスに向き合う土台が、まだ育っている途中というだけです。年齢が低いうちは、2や8は親が言葉を先に渡してはじめてできる項目です。また、5人に1人はいるとされる「HSC(人一倍敏感な子)」の場合、生まれつきの気質として傷つきやすさが強く出ます。繊細な子に「もっと自信をもちなさい」と無理強いせず、特性を理解したうえで折れない心を育てていくのが、強い子の親のスタンスです。
家庭でできる3つの手順は、「してあげる」より「しない」ことから始まります
心理療法士で『メンタルが強い子どもに育てる13の習慣』の著者であるエイミー・モーリン氏は、子どものメンタルを鍛えるために親が注意すべき点として、「子どもの感情を抑えようとしない」「過保護にならない」「親の意見を押しつけない」を挙げています。じつは、チェックリストの空欄を埋めていくのは、親が新しく何かを足すことではなく、いつもの関わりをひとつ「しない」ことなのです。
手順1: 「泣かないで」の前に、気持ちに名前をつける(□1〜4に効く)
子どもが怖がっていると、親は良かれと思って「おおげさね」「たいしたことじゃないよ」と安心させようとします。ところがこれでは、子どもは「怖いと感じた自分は間違っているの?」と受け取り、感情を抑え込むようになりかねない、とモーリン氏は指摘します。
- まず「怖いと感じているんだね」「それは悔しかったね」と、子どもの気持ちをそのまま言葉にします。励ますのはこのあとです。
- 落ち着いてきたら、「どこまではできた?」と、できた部分から一緒に探します。
- 最後に「○○ちゃんならきっと乗り越えられるよ」と、ひとことだけ背中を押します。
順番が肝心です。先に名前をつけてから励ますと、子どもは「悔しかった。でも次はこうしよう」という捉え直しを、親の言葉をなぞる形で体験できるのです。
手順2: 先回りをひとつ減らして、「どうする?」と聞く(□5・6・8に効く)
「宿題やったの?」「忘れ物ない?」と毎日しつこく聞くことは、子どものメンタルを強くするにはマイナスでしかない、とモーリン氏は言います。メンタルが強い子の親は、間違った結果になっても子どもが自分で気づき、乗り越えられると信じて、ある程度は成り行きに任せます。白梅学園大学の増田修治教授も、「何時になったら勉強できそう?」と子どもに選択権をわたすことが、非認知能力を伸ばすうえで大切だと説明しています。
- 毎日先回りして言っていることを、ひとつだけ選びます(「明日の準備は?」など)。
- その一言を、「どうする?」「自分でやる? いっしょにやる?」に置き換えます。
- 忘れ物をしても、次の日の朝に「今日はどうする?」ともう一度だけ聞きます。
「手伝って」と言えた日には、「頼ってくれてうれしい」と受け止めてください。助けを求めることは弱さではない、という体験が□8を埋めていきます。
手順3: 結果より途中を褒めて、「味方だよ」を言葉にする(□7・9・10に効く)
深谷和子先生は、折れない心を育てるうえでもっとも重要なのは自己肯定感だと述べています。それを育てる親の関わりが、「結果よりプロセスを褒める」「人とのつながりを感じさせる」です。(参考: こどもまなびラボ|“折れない心” の育て方)
- 「上手にできたね」の代わりに、「このあいだより10回も多く跳べたね」と、前とくらべて伸びた部分を言葉にします。
- うまくいかなかった日も、褒める側に入れます。武神氏は、「うまくいかない」経験もストレスを柔軟に受け止める助けになると説明しています。
- 週に一度でいいので、「お父さんとお母さんは○○ちゃんの味方だよ」「どんなことでも相談にのるからね」と、そのまま口に出します。
「味方だよ」は言わなくても伝わっていると思いがちですが、子どもにとっては、言葉で聞いてはじめて確かめられるものなのです。

「打たれ弱いのは私に似た?」の答えは、性格ではなく、いま育てている途中の力にあります
「ちょっと注意しただけで泣く」のは、感情に名前をつける力が、まだ親の言葉を借りている段階だからです。「習い事を1回でやめたがる」のは、「もう一回やろう」に至るまでの小さな成功体験が、まだ足りていないからです。どちらも性格の欠点ではなく、育っている途中の力です。そして、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン氏らの40年の追跡調査によれば、非認知能力はその後の認知能力を発達させます。幼少期に育てるこの力は、ストレス耐性だけでなく学力の土台にもなるのです。
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10個すべてに□がつく必要はありません。今夜、空欄だったひとつを思い出して、「それは悔しかったね」と、気持ちの名前をひとこと渡してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 3〜4歳の幼児でも、このチェックリストは使えますか?
A. 使えますが、当てはまる数は少なくて当然です。とくに「気持ちを言葉にできる」「手伝ってと言える」は、親が「悔しかったね」「いっしょにやる?」と言葉を先に渡すことで、あとからできるようになる項目です。幼児期は数を数えるよりも、手順1の「気持ちに名前をつける」だけを続けるのが向いています。
Q. 当てはまる数が少なかった場合、すぐに直したほうがいいですか?
A. 一度に全部を埋めようとしなくて大丈夫です。空欄が多かった領域(気持ちの切り替え/挑戦/つながり)をひとつ選び、対応する手順をひとつだけ始めてください。メンタルが強い子の親に共通するのは、何かを足すことより、先回りや励ましの前置きを「しない」ことです。
Q. 敏感で傷つきやすい子(HSC)の場合、項目が当てはまらないのは仕方ないのでしょうか?
A. 生まれつきの気質として傷つきやすさが強く出る子はいます。その場合、「もっと自信をもちなさい」と無理強いするのは逆効果です。チェックリストは弱さを測るものではなく、どの土台から育てるかを決めるためのものなので、手順1の「気持ちに名前をつける」から始め、□がひとつ増えたら十分と考えてください。
Q. 親自身が打たれ弱いと、子どもも打たれ弱くなりますか?
A. ストレスに強いか弱いかは、性格や育った環境の両方が関わるもので、親の性格だけで決まるものではありません。むしろ、親が「うまくいかなかったけど、こう学べたよ」と自分の失敗の捉え直しを口に出して見せることが、子どもにとっていちばん身近なお手本になります。親自身が完璧に強くある必要はありません。
*1: 厚生労働省|平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況









