あたまを使う/非認知能力 2026.7.2

七夕の短冊、子どもの願いが「恐竜になりたい」でいい理由

七夕の短冊、子どもの願いが「恐竜になりたい」でいい理由

七夕が近づくと、幼稚園や保育園、小学校で短冊を書く機会がやってきます。笹の葉に願い事を結ぶわが子の横で、ふと書かれた文字に目をやると「恐竜になりたい」「人魚になりたい」。思わず「もうちょっと、こう……」と言葉に詰まったことはありませんか。

まわりの子は「サッカーが上手になりたい」「逆上がりができるようになりたい」なんて書いているのに。そんな比較がよぎって、つい「ほかにない?」と聞き直してしまう。その気持ちは、わが子の成長を願うからこそ生まれるものです。立派な願い事を書いてほしいと思う親心は、とても自然なものだと思います。

でも、もしその「○○になりたい」という空想まじりの願いが、子どもの育ちにとって意味のある力の表れだとしたら、どうでしょう。今回は、子どもの空想的な願い事を発達科学の視点から見つめ直してみます。

「恐竜になりたい」は、想像力がはたらいている証拠

「恐竜になりたい」「人魚になりたい」という願いを、大人はつい非現実的なものとして受け取ってしまいます。けれど子どもの頭のなかでは、いま目の前にない世界を思い描き、自分がその世界の一員になっている姿を、ありありとイメージする作業が起きています。

この「いまここにない状態を心のなかでつくり出す力」は、発達心理学では空想志向(ファンタジー・オリエンテーション)と呼ばれているそうです。空想の世界に入り込みやすい子と、現実的な遊びを好む子がいて、その傾向は3歳ごろからあらわれはじめると言われています。

注目したいのは、空想志向の強さが、その後の思考力とつながっていたという報告です

4 〜 6歳の子ども106名を対象にした調査では、空想にもとづく想像をよく働かせる子どもほど、自分の衝動をおさえる力(抑制)や、注意を切り替える力が高い傾向にあったとされています。(米・セント・メアリーズ大学、心理学者ジリアン・ピエルッチ氏ら)*1

つまり「恐竜や人魚になりたい」と書ける子は、現実とは違う世界をありありと思い描く力を、すでに発揮しているのかもしれません。その願いは、頼りない空想ではなく、これから伸びていく思考力の土台が動いているサインとも読めるのです。

机の上に置かれた2体の恐竜のフィギュアを使い、手を伸ばしてごっこ遊びに参加している様子

空想する子のほうが、実行機能が伸びたという実験

「関連があった」という調査は、空想する力が高い子は思考力も高い、という同時の関係を示すものです。では、空想する経験そのものが、思考力を押し上げるのでしょうか。それを確かめた実験があります。

3 〜 5歳の子ども110名を対象に、5週間にわたって毎日15分ずつ、空想的なごっこ遊び(たとえば「月へ行く」「鳥になる」といった現実にはありえない設定の劇遊び)に取り組んでもらったところ、現実的な遊びをしたグループや、ふだんどおり過ごしたグループには見られなかった作業記憶(ワーキングメモリ)の向上が確認されたそうです。(米・アラバマ大学、心理学者レイチェル・ティボドー氏ら)*2

作業記憶とは、目標に向かって思考や行動を整理する「実行機能」と呼ばれる脳の司令塔のような働きの中核をなす力です。やるべきことを一時的に覚えておきながら、考えを進めていく力のことで、学びや人間関係の土台になります。

さらに同じ実験では、空想への入り込み方が深い子どもほど、得られた伸びも大きかったと報告されています。「恐竜になりきって部屋を歩きまわる」「人魚になりきって泳ぐまねをする」ような、現実を超えた設定にのびのびと入っていく経験が、子どもの脳にここちよい負荷をかけていると考えられるのです。

下の表に、空想的な願いや遊びと結びつくとされる力を整理してみました。

子どもの様子 働いていると考えられる力
「恐竜や人魚になりたい」と願う いまない世界を思い描く想像力
なりきって役を演じ続ける 注意を保ち、切り替える力
空想の設定やルールを守って遊ぶ 衝動をおさえる力(抑制)
「もし〇〇だったら」と問いを広げる 知りたいと思う探究心

宇宙の絵が描かれた黒板の前で、手づくりのロケットを掲げる子ども

空想は、知りたい気持ちの入り口にもなる

空想する力は、思考の整理だけでなく、知ろうとする姿勢ともつながっているようです。

4 〜 5歳の子ども34名を対象にした調査では、空想志向の強さが、科学につながる探究心(身のまわりのことに「なぜ?」と問いを向ける傾向)と独立して結びついていたと報告されています。(米・サンノゼ州立大学、発達心理学者モーリーン・スミス氏ら)*3

考えてみれば、「恐竜になりたい」「人魚になりたい」という願いの先には、いくつもの問いがひそんでいます。恐竜はどうしてあんなに大きくなれたんだろう。人魚は海のなかでどうやって息をしているんだろう。空を飛ぶってどんな感じなんだろう。空想は、そうした「知りたい」の入り口になっていくのです

だからこそ、短冊に書かれた空想的な願いは、心配しなくて大丈夫です。むしろ「恐竜になったら、まず何したい?」と一緒に空想を広げてあげるほうが、子どもの想像力にとっては豊かな時間になります。

願い事そのものより、応え方を少しだけ変えてみる

子どもの願いを聞いたとき、つい「すごいね」で終わらせて、「じゃあ字の練習しなきゃね」と現実の課題にすり替えたりしがちです。願いを否定する必要はありませんが、ほんの少し応え方を変えるだけで、空想はもっと広がります。

たとえば短冊を前に、こんなひとことを足してみる。「恐竜になったら、どこを歩いてみたい?」「人魚になったら、海のどこに住みたい?」。子どもは喜んで、自分の空想の世界を語りはじめるはずです。その語りこそが、頭のなかで物語を組み立て、ことばにする練習になっていきます。
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今年の七夕は、わが子の短冊に書かれた願いを、そのまま受け取ってみる。子どもが想像した願いには、これから伸びていく力が、たしかに宿っているのですから。

FAQ(よくある質問)

Q. 願い事がいつも空想ばかりで、現実的な目標を持てるか心配です。

A. 空想と現実を区別する力は、年齢とともに育っていくとされています。いま空想的な願いを楽しめること自体が、想像力が豊かに働いているサインです。現実的な目標は、もう少し大きくなってから少しずつ持てるようになっていきます。いまは空想の世界を一緒に楽しんであげて大丈夫です。

Q. 毎年同じキャラクターの願い事ばかり書きます。問題ないでしょうか。

A. 好きなものに繰り返し気持ちを向けるのは、その対象への愛着や集中が続いている表れです。同じテーマでも、去年と今年で「なりたい理由」が変わっていることがよくあります。「去年と何が変わった?」と聞いてみると、子どもの心の成長が見えてくるかもしれません。

Q. 「立派な願い事を書きなさい」と言ってしまいました。傷つけたでしょうか。

A. 一度の声かけが子どもの空想を止めてしまうことはまずありません。次の機会に「この前の願い事、ママもう一回聞きたいな」と興味を向けてあげれば、子どもはまた安心して空想を語りはじめます。応え方は、いつからでも変えられます。

(参考)
*1 Pierucci, J. M., O’Brien, C. T., McInnis, M. A., Gilpin, A. T., & Barber, A. B. (2014)|Fantasy orientation constructs and related executive function development in preschool. International Journal of Behavioral Development, 38(1), 62-69.
*2 Thibodeau, R. B., Gilpin, A. T., Brown, M. M., & Meyer, B. A. (2016)|The effects of fantastical pretend-play on the development of executive functions: An intervention study. Journal of Experimental Child Psychology, 145, 120-138.
*3 Smith, M. C., & Fusaro, M. (2021)|Imagination and Fantasy: Correlates of Preschoolers’ Science Relevant Inquisitiveness. Imagination, Cognition and Personality, 40(4), 393-417.