テストで90点を取ってきたわが子に、思わず「あと10点で満点だったのに」。習い事で3位に入っても、口から出るのは「次は1位を目指そう」。そして夜、子どもの寝顔を見ながら「どうしてあんな言い方をしてしまったんだろう」と落ち込む。そんな経験はありませんか。
SNSを開けば、よくできるほかの子の姿が次々と目に入ってくる時代。わが子を思えば思うほど、声かけが厳しくなってしまうのは、ある意味で自然なことです。
その厳しさは、わが子の可能性を信じているからこそのもの。じつは、高い目標を掲げて子どもを厳しく導こうとする子育てには、気をつけるべきポイントがあります。この記事では、タイガーペアレントの傾向が分かる5つのチェックリストと、いまの熱心さはそのままに親子関係をあたためる、今日から「足せる」3つの習慣を紹介します。
目次
「タイガーペアレント」とは?世界中で議論を呼んだ厳しすぎる子育て
タイガーペアレントとは、高い目標を設定し、子どもの学業成績や習い事の成果を何よりも重視する子育てスタイルのこと。2011年、自身の子育てをつづった著書『タイガー・マザー』を発表し、世界中で大きな議論を巻き起こしたのが、アメリカ・イェール大学のエイミー・チュア教授です。日本の「教育ママ・教育パパ」像とも重なる部分の多い子育て観と言えるでしょう。
・高い目標を課し、学業や習い事の成果を何よりも重視する
・親が決め、子どもを管理することで結果を出させようとする
・その厳しさはすべて「子どもの将来のため」だと考えている
確かに、短期的には成果が出ることもあります。チュア氏の娘たちは難関大学に進学し、ピアノとバイオリンでも一流の腕前を身につけました。けれどもチュア氏自身、娘との激しい衝突を経験し、自らの子育てを見直したことを著書のなかで明かしています。
では、長い目で見るとどうなのでしょうか。厳しく育てられた子どもたちのその後を追いかけた研究があります。
「子どものため」を思った厳しさが、成績にも心にも、そして親子の絆にもマイナスに働きうる。親としては胸が痛む結果です。ただし、これは「熱心な親ほど失敗する」という意味ではありません。同じ研究で最ものびのびと育っていたのは、温かさを土台にした「支援的」な家庭の子どもたち。つまり、厳しさと熱心さは別物なのです。

つい、やっていませんか?タイガーペアレント傾向5つのチェック
どの項目も、「わが子にはよい人生を歩んでほしい」と真剣に願うからこそ、やってしまいがちなことばかり。自分を責めるためではなく、立ち止まるきっかけとして、気軽に確認してみてください。
□ 90点の答案を見ると、まず「あと10点」が頭に浮かぶ
□ 友達との遊びやゲームの時間を「もったいない」と感じてしまう
□ 「疲れた」「嫌だ」と言われると、「甘え」という言葉が浮かぶ
□ 怒ることで言うことを聞かせる場面が増えている
□ 「いまの楽しさ」より「将来のため」が判断の基準になっている
いくつ当てはまっても、大丈夫。当てはまるのは、それだけ真剣に子育てに向き合ってきた証拠だからです。とはいえ、行きすぎた教育熱の背景には、「この子は無事に生きていけるのだろうか」という親自身の不安があるのです。つまり厳しさの正体は、不安になるほど深い愛情。だからこそ、その熱心さを手放す必要はありません。いままでの関わりに、次の3つの習慣を「足す」だけでよいのです。
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熱心さはそのままでいい。今日から「足せる」3つの習慣
タイガーペアレントから抜け出すために、何かを「やめる」必要はありません。いままでの関わりに、次の3つをひとつずつ足していきましょう。
1. アドバイスの前に「そうなんだね」を足す
夕方の慌ただしい時間に「疲れた」「行きたくない」と言われると、つい「甘えないの」と返したくなるもの。それは、ここで休ませたら周りに遅れてしまうのでは、という心配の裏返しです。
そこで試してほしいのが、励ましや正論の前に、「そうなんだね」「疲れたんだね」とひとこと受け止めること。そのうえで、たとえば休みの日の過ごし方や夕食のメニューといった小さなことから、「今日はどっちにする?」と子どもに選んでもらい、答えが出るまで口を挟まずに待ってみましょう。自分で選び、その選択を受け止めてもらう。この積み重ねが、子どもの「自分で決める力」を育てていきます。
こう足してみる 「疲れたんだね。今日はどんなことがあったの?」
意見を却下するのでも、すべて受け入れるのでもなく、まず気持ちだけを受け取る。それだけで子どもは「聞いてもらえた」と感じ、親子の会話が少しずつ変わり始めます。
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2. 予定表に「何もしない時間」を足す
空いた時間を見つけると、「もうひとつ習い事を」と考えたくなるのは、わが子の可能性を少しでも広げたい親心です。ただ、予定の詰め込みすぎには、思わぬ落とし穴があります。
あれもこれもと習い事で埋める代わりに、意識して「ぼーっとする時間」を残してあげましょう。「暇だな」「何をしようかな」と考えるなかで、子どもは初めて自発性を発揮し、「何をしているときに自分は幸せなのか」という人生の羅針盤を手に入れていくのです。
習い事を減らす必要はありません。いまあるスケジュールのなかに、空白をひとつ確保するだけで大丈夫。まずは週に半日だけ、あえて何も予定を入れない時間をつくってみませんか。退屈そうにごろごろしている姿も、羅針盤づくりの真っ最中だと思えば、少し頼もしく見えてきます。
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3. 結果の前に「プロセスへのひとこと」を足す
90点の答案を前に、「あと10点」と思う気持ちを無理に消す必要はありません。口に出す前に、ひとことだけ足せばよいのです。「90点取れたんだね。どの問題が一番難しかった?」
つい言いがち 「どうして100点じゃないの?」
こう足してみる 「前回より10点上がったね。どこを工夫したの?」
◆ 習い事の順位
つい言いがち 「次は1位を目指そう」
こう足してみる 「3位おめでとう。どこが上達したと感じる?」
◆ 毎日の取り組み
つい言いがち 「まだ足りないよ」
こう足してみる 「この分野、得意になってきたね」

結果だけを見られていると、子どもは失敗を恐れて、新しい挑戦を避けるようになります。反対に、努力や工夫の過程に目を向けてもらえた子どもは、結果に関係なく「やってみよう」という意欲を保ち続けられるのです。比べる相手は、ほかの子ではなく、昨日のわが子。それだけで、同じ90点がまったく違って見えてきます。
そしてこの声かけ、じつは親自身にも効きます。「今日も怒ってしまった」ではなく、「今日はひとこと受け止められた」。自分のプロセスも、わが子と同じようにほめてあげてください。
***
厳しさの奥にあるのは、わが子を思う深い愛情です。その愛情の向きを、「結果」から「気持ちとプロセス」へ、ほんの少しだけずらしてみる。完璧な親になる必要はありません。まずは今日、「そうなんだね」のひとことから。その小さな一歩を踏み出せるのは、これまで真剣に子育てへ向き合ってきた親だからこそです。
FAQ(よくある質問)
Q. タイガーペアレントと「教育熱心な親」は何が違うのですか?
A. 熱心さそのものは問題ではありません。分かれ目は、子どもの気持ちや選択の余地があるかどうか。目標を親だけが決め、子どもの「嫌だ」「疲れた」に耳を貸さない状態が続くと、タイガーペアレント型に近づいていきます。
Q. 厳しくしないと、わがままな子になりませんか?
A. 「厳しさを見直すこと」と「ルールをなくすこと」は別です。本文で紹介した444家族の研究でも、最も発達によい結果と結びついていたのは、あたたかい関わりを中心とした「支援的」な家庭でした。まず気持ちを受け止めて、それからルールを一緒に話し合うのがおすすめです。
Q. すでに厳しくしすぎたかもしれません。手遅れでしょうか?
A. 手遅れということはありません。親子関係は何歳からでも修復できます。「言いすぎたね、ごめんね」と伝えることも、子どもの気持ちを尊重する立派な第一歩。今日の「そうなんだね」から始めれば大丈夫です。
(参考)
*1 Kim, S. Y., Wang, Y., Orozco-Lapray, D., Shen, Y., & Murtuza, M. (2013)|Does “Tiger Parenting” Exist? Parenting Profiles of Chinese Americans and Adolescent Developmental Outcomes. Asian American Journal of Psychology, 4(1), 7-18.
*2 Barker, J. E., Semenov, A. D., Michaelson, L., Provan, L. S., Snyder, H. R., & Munakata, Y. (2014)|Less-structured time in children’s daily lives predicts self-directed executive functioning. Frontiers in Psychology, 5, 593.
*3 Gunderson, E. A., Gripshover, S. J., Romero, C., Dweck, C. S., Goldin-Meadow, S., & Levine, S. C. (2013)|Parent Praise to 1- to 3-Year-Olds Predicts Children’s Motivational Frameworks 5 Years Later. Child Development, 84(5), 1526-1541.









