朝、玄関で動かなくなるわが子。「行きたくない」の声に寄り添いたい。でも、心のどこかで「また今日も……」とため息が漏れる。
夏休み明けから秋にかけて、登校しぶりへの対応が続くと、子ども以上に親が消耗してしまうことがあります。そして多くのママが、疲れている自分に気づいたとき、こう思ってしまいます。「子どもが一番つらいのに、私が疲れたなんて言っちゃいけない」と。
今回お伝えしたいのは、「親が自分をケアすること」は、わがままどころか、子どものためにも理にかなっているということ。研究をもとに、その理由と、いまの生活に少しずつ足せるセルフケアをご紹介します。読み終わるころには、「私も休んでいいんだ」と、少しだけ呼吸が深くなっているはずです。
目次
親のストレスは、子どもに“伝わりうる”
まず知っておきたいのが、「ストレス伝染」と呼ばれる現象です。「私が不安な顔をすると、子どもも不安になる気がする」。そう感じたことのある方は多いと思いますが、この直感は、研究でも裏づけられつつあります。
母親と乳児を対象にした実験では、母親だけが別室でストレスのかかる課題を経験したあとに再会すると、赤ちゃんの心拍反応が母親のストレス反応を映すように変化したことが報告されています。(カリフォルニア大学サンフランシスコ校、心理学者サラ・F・ウォーターズ氏ら)*1 言葉を交わさなくても、親の緊張は子どもに伝わりうる。そんな可能性を示した研究です。
これを聞いて、「じゃあ私がイライラしたせいで……」と自分を責める必要はまったくありません。むしろ逆です。親の心の状態が子どもに影響しうるからこそ、親が自分の心を整えることは、子どもの安心を支えることにもつながると考えられます。つまりセルフケアは、立派な「子育ての一部」といえます。「子どものために」とがんばり続けてきた方ほど、この視点は支えになるでしょう。自分を後回しにすることと、子どもを大切にすることは、じつはイコールではないのです。

「がんばり続ける」より「資源をひとつ足す」
子育てのストレスが長く続くと、心が消耗しきってしまう「ペアレンタル・バーンアウト(親の燃え尽き)」という状態に至ることがあります。近年、世界中で研究が進んでいるテーマです。こどもまなびラボの夏休み明けに「不登校」が増えるのはなぜ? 親が知っておくべき子どものSOSサインと対処法でも紹介しているように、夏休み明けは不登校が増えやすい時期といわれています。*2 登校しぶりのように、終わりの見えにくい対応が続く時期は、まさにこの慢性的なストレスがかかりやすいとき。だからこそ、予防の考え方を知っておくことが役立ちます。
923人の親を2つの時点で調査した研究では、燃え尽きに至るかどうかは、ストレスの量だけで決まるのではなく、「リスク要因」と「支えになる資源」のバランスで説明できることが示されました。(ルーヴァン・カトリック大学、心理学者モイラ・ミコライチャク教授ら)*3 この研究が示唆するのは、とても希望のある視点です。すべての悩みを解決しなくても、完璧な親にならなくても、天秤のもう一方に「自分を支える資源」をひとつ足せば、バランスは変わりうるということ。
パートナーや友人に10分話を聞いてもらう。好きな飲み物をゆっくり飲む時間を確保する。登校しぶりという大きな課題を前にすると小さく見えるかもしれませんが、こうした「足し算」が、燃え尽きを防ぐための現実的な一歩になります。「あれもこれもできていない」と引き算で自分を評価するのではなく、「今日は資源をひとつ足せた」と数えてみてください。
自分に優しい親ほど、子育てのストレスが低い傾向に
「自分をケアする」というと、何か特別な活動が必要に思えるかもしれません。でも、一番身近なセルフケアは、「自分への声のかけ方」を変えることです。つらいときに自分へやさしいまなざしを向ける態度は「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」と呼ばれ、こどもまなびラボの「今日も私、えらい」から始めよう。ママが自分をほめていい科学的な理由でも紹介しているように、心理学で研究が積み重ねられています。*4
8〜18歳の子どもをもつ333人の親を対象にした調査では、つらいときに自分を責めるのではなく、自分に思いやりを向けられる親ほど、子育てストレスが低い傾向が見られました。子どもに落ち着いて向き合う姿勢(マインドフル・ペアレンティング)が、その関係の一部を支えていることも示されています。(コインブラ大学、心理学者マリア・ジョアン・グヴェイア氏ら)*5
「今日も行けなかった。私の関わり方が悪いのかな」と自分を責める代わりに、「こんな状況なら、疲れて当然だよね」と、親友にかけるような言葉を自分にもかけてみる。それだけでも、心の負担が少し軽くなることがあります。自分への思いやりは、練習で育てていけるものと考えられています。最初はぎこちなくても大丈夫。「疲れて当然」「よくやってる」。短いフレーズをひとつ決めて、繰り返し使ってみましょう。

今日からできる「自分への足し算」3つ
1. 「疲れた」を禁句にしない
「疲れた」と口に出すことは、弱音ではなく、自分の状態を把握する大切なセンサーです。手帳やスマホに、今日の疲れ具合を10点満点でメモするだけでもかまいません。
2. 1日10分の「ママの休み時間」を予約する
子どもが寝たあとでも、朝の5分と夜の5分に分けてもOK。「空いたらやる」ではなく、先にカレンダーに入れてしまうのがコツです。
3. ひとりで抱えず、話せる相手をひとり決める
パートナー、実家、ママ友、スクールカウンセラー。「この件はこの人に話す」と決めておくだけで、心の逃げ道ができます。学校への相談は、がんばりが足りない証拠ではなく、子どもを支えるチームづくりです。
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登校しぶりへの対応は、先の見えないマラソンのように感じられる日もあるでしょう。だからこそ、走り続ける親自身の水分補給が欠かせません。あなたが自分に優しくすることは、決してわがままではなく、わが子の安心の土台を守ること。今夜はまず、今日一日をがんばった自分に、温かい飲み物を一杯どうぞ。それは立派な、明日への準備です。
FAQ(よくある質問)
Q. 自分のケアに時間を使うと、子どもに悪い気がしてしまいます。
A. 親の心の状態は子どもにも伝わりうることが、研究で示されています。飛行機の酸素マスクと同じで、まず自分が呼吸できてこそ、隣の子どもを助けられます。自分をケアする時間は、子どもを支えるための準備でもあります。
Q. 疲れがひどく、何もやる気が起きません。これも燃え尽きでしょうか?
A. この記事だけで判断することはできませんが、朝起きるのがつらい、子どもと関わる気力が湧かない状態が続くようなら、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や自治体の相談窓口など、専門家に話してみることをおすすめします。早めに相談しておくと安心です。
Q. パートナーが登校しぶりに無関心で、負担が偏っています。
A. 「協力して」という抽象的なお願いより、「火曜の朝だけ送りを代わって」のような具体的で小さな依頼から始めると、動いてもらいやすくなります。役割をひとつ渡すことは、あなたの資源をひとつ増やすことでもあります。
(参考)
*1 Waters, S. F., West, T. V., & Mendes, W. B. (2014)|Stress Contagion: Physiological Covariation Between Mothers and Infants. Psychological Science, 25(4), 934-942.
*2 こどもまなびラボ|夏休み明けに「不登校」が増えるのはなぜ? 親が知っておくべき子どものSOSサインと対処法
*3 Mikolajczak, M., & Roskam, I. (2018)|A Theoretical and Clinical Framework for Parental Burnout: The Balance Between Risks and Resources (BR2). Frontiers in Psychology, 9, 886.
*4 こどもまなびラボ|「今日も私、えらい」から始めよう。ママが自分をほめていい科学的な理由
*5 Gouveia, M. J., Carona, C., Canavarro, M. C., & Moreira, H. (2016)|Self-Compassion and Dispositional Mindfulness Are Associated with Parenting Styles and Parenting Stress: The Mediating Role of Mindful Parenting. Mindfulness, 7(3), 700-712.









