テストの点数を見て、つい小言を言ってしまった。「勉強しなさい」と言った直後に、後悔した。のびのび育てたい気持ちと、学習習慣をつけさせたい気持ちの間で揺れる。低学年の子を育てていれば、そんな夜があるかもしれません。
中学進学でつまずく「中1ギャップ」を乗り越える鍵として「自学力」を挙げるのが、『中学生からの勉強のやり方(動画つき・アップデート版)』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。著者は塾・プラスティーを経営する清水章弘さん。ふたりの子を育てる親でもあります。
自学力の芽は、じつは未就学から小学校低学年にこそ育てられるといいます。鍵は「学習サイクルを回す楽しさ」と、親の「仕組みづくり」。清水さんが、家庭での実践とあわせて語ってくれました。
取材・構成/こどもまなび☆ラボ編集部
【プロフィール】
清水章弘(しみず・あきひろ)
「勉強のやり方」を教える塾 プラスティー代表
1987年、千葉県船橋市生まれ。海城中学高等学校、東京大学教育学部を経て、同大学院教育学研究科修士課程修了。東京・京都・大阪で「勉強のやり方」を教える塾プラスティーを運営しながら、全国の学校・教育委員会でアドバイザーを務める。TBS「ひるおび」等のテレビ番組で、コメンテーターとしてレギュラー出演中。著書は『面白いほど成績が上がる 中学生からの勉強のやり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。2児の父。
目次
低学年こそ「学習サイクルを回す楽しさ」を
本のなかで、自学力を「自分で考えて、自分で学び、振り返って、次に活かし、継続する力」、一言で言えば「自分で勉強を続ける力」だと書きました。この芽は、小さいうちから育てられます。
小さいうちは、子どもの興味関心に従って自由にのびのび学ぶのがいちばん良い、と教育学的には語られてきました。それは本当に正論です。ただ、小学校高学年や中学生になってから学習習慣を1からつけようとすると、ものすごく大変なのです。
学校のカラーテストに合わせた対策も、低学年にはナンセンスだと思われがちで、それ自体は正論です。ただ、目標を立てて成果を出すプロセスを、高学年になって初めて経験しようとすると、これもまた大変です。
できないことが、できるようになる。この楽しさ自体は、逆上がりでも何でも同じです。それを「学習」というフィールドでも、早くから体感させてあげたいのです。
だから僕は、未就学から小学校低学年の間にこそ、「学ぶ楽しさ」だけでなく「学習サイクルを回す楽しさ」を味わわせてあげたいと考えています。対策をする、結果が出る、それが楽しい、得意になると授業まで楽しくなる。このサイクルを回す経験を、早めにさせてあげるのです。
ポケモンでカタカナ、ちいかわで小テスト
我が家の例をお話しします。うちの子どもたちはポケモンが好きなので、カタカナはポケモンで学びました。
漢字の50問テストの前日には、娘が宿題で間違えていたら「じゃあ、小テストを作ってあげるよ」と手書きのテストをつくります。そこにちいかわでも何でも、好きなキャラクターを描いてあげるだけで、子どもはすごくテンションが上がるのです。
本人にとってはテスト対策というより、「ちいかわで盛り上がっている」時間です。でも結果的に、成果を出すサイクルを回すことを楽しんでいる。お子さんの好きなものなら、キャラクターは何でもかまいません。
全部が内発的な動機でなければダメだなんて、無理な話です。興味がある分野もない分野も、あるに決まっています。興味が湧きにくい分野には、外側からモチベートするものがあっていいのです。
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テストの点数が悪くても、本人は「全く悪くない」
点数が悪くて怒るのは、小学校低学年にはナンセンスだと思っています。中学3年生の定期試験の点数が悪いのと、低学年のカラーテストの点数が悪いのは、全く別の話です。低学年のテストの点数が悪くても、本人は全く悪くありません。
小さな子どもは、基本的にメタ認知ができません。もう一人の自分から自分を観察しにくい中で、たとえば授業中に「集中できていないな、よし集中しよう」と自分を律するのは難しい。集中できるかどうかは、先生やクラスとの相性といった環境で決まります。
それなのに点数で叱ると、テストが怖くなったり、勉強そのものが嫌いになったりするリスクのほうが上回ってしまうのです。
本のなかでは、これを「学習性無力感」という言葉とあわせて説明しました。「これだけやったのにできなかった」を繰り返すと、「どうせやってもムダだ」と、やってもできないことを学習してしまうのです。点数だけを見るのはまちがった反省で、正しい反省は「何をすべきだったのか」を考えることです。
叱る代わりに、親は「仕組み」をつくる
親がすべきなのは、「うちの子は、どういうやり方ならできるようになるかな」と考えることです。我が家も忙しいので、勉強にかけられる時間は多くありません。
それでも、50問テストの前は朝15分だけ早く起こす。子どもが寝た後に、10分で小テストを作っておく。そういうことは仕組みとして作っています。本人のせいにせず、仕組みをつくってあげることが大事なのです。
声かけも同じです。「勉強しなさい」と言われれば、「今やろうと思ったのにやる気がなくなった」となるのが普通です(笑)「何時から始める?」と聞かれたほうが、自分で決められる。自分で決めたルールのほうが守りやすく、「自分がルールメイキングをしている」という自覚も芽生えます。
漢字と計算だけは先取り。予習で「イイ気分」を
仕組みづくりの具体策としておすすめなのが、漢字と計算の先取りです。小学校の勉強の基本は、漢字と計算だからです。
たとえば夏休みに、2学期・3学期分の漢字を先に終わらせておく。小学3年生なら、小3の分まで終わっていれば、あとの学期は気持ちよく進められます。4年生・5年生の分まで先取りする必要は、必ずしもありません。冬休みや春休みに、次の学年の分を少しずつ進めておけば十分です。
本のなかで、予習のイイコトとして「授業中に『イイ気分』を味わえる」ことを挙げました。みんながつまずくところで「あれ、僕はできるぞ!」と思える体験が、その教科を好きにさせるのです。漢字と計算が得意であることは、自信を持って学校に行くための、すごく大切な土台になります。
「予習すると、授業が暇になりませんか」と聞かれることもあります。でも、退屈だから学校に行きたくない、とまでなるのはごく少数の話です。子どもは、たとえば「ドッジボールをしたいから」「友達と遊びたいから」学校へ行くものですから。
忙しい家庭は「答え合わせ」だけ一緒に
共働きなどで時間がない家庭は、勉強を全部見ようとしなくて大丈夫です。我が家もそうですが、丸付けだけ、一緒にやってみるのはどうでしょうか。子どもの正答率や苦手がわかる、いちばんコスパのいい関わり方だからです。
答え合わせは、その子の「できない」が見つかる瞬間でもあります。見つかったら、それを次の小テストや朝の15分に回せばいい。仕組みづくりの入り口として、まずここから始めてみてください。

小さな成果を、努力とセットで盛大に褒める
最後に、いちばん伝えたいことです。まずは小さな成功体験を感じさせてあげてください。たとえば、明日の小さな漢字テストや計算テストです。
子どもは「苦手」と「嫌い」が結びつきやすい。逆に「得意」だと「好き」だと錯覚しやすいのです。そして錯覚したら、ハマって本当に好きになります。だからこそ、小さな成果を出させて、得意だと思わせてあげることに意味があります。
そのとき、結果だけを褒めるのではありません。「寝る前に一緒に復習したから伸びたね」と、努力を具体的にセットにして盛大に褒めてあげてください。何をしたから伸びたのかがわかれば、子どもは次も自分からその行動を選べるようになります。それが「自学力」の芽なのです。
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ちいかわを描いた手書きの小テスト。朝の15分の早起き。話を聞きながら浮かんだのは、叱る代わりに手を動かす親の姿でした。「本人は全く悪くない」という言葉は、子どもを甘やかす言葉ではなく、親の役割をはっきりさせる言葉なのだと思います。
点数に反応するのではなく、仕組みで応える。ちいかわの絵が描けなくても、丸付けを一緒にやることならできる。今夜の答え合わせから、始められそうです。
※第1回では、子どもとAIの向き合いかたと、家庭で決めたい「3つの絶対ルール」を聞いています。
【清水章弘さん ほかのインタビュー記事はこちら】










