「今日の服、それで行くの?」
「決めさせると10分かかるから、つい親が決めちゃう」
「どこまで任せていいのか、線引きがわからない」
朝の玄関先、おもちゃ売り場、宿題の前。「自分で決めさせたほうがいい」とは知っていても、時間はないし、選ばせたら選ばせたで「それはやめて」と言いたくなります。
じつは、この「小さな決断を子どもに任せるかどうか」は、子どもの将来の幸福感につながる問題なのです。しかも、任せていい決断は年齢によってはっきり変わります。3歳の「どっち?」から、12歳の「うちのルールをどうする?」まで、20の場面を年齢別に並べました。
目次
所得や学歴より、「自分で決めた」経験が幸福感を左右する
日本国内の2万人を対象にしたアンケート調査をもとに、「所得」「学歴」「自己決定」「健康」「人間関係」の5つと幸福感との関係を分析した結果があります。幸福感に強く影響していたのは、健康、人間関係に次いで「自己決定」でした。所得や学歴よりも、「自分の意思で進路や就職を決めたか」のほうが、幸福感を左右していたのです。(神戸大学 西村和雄特命教授・同志社大学 八木匡教授)
📖 研究でも、こう言われています
自分で進路を決めた人は、自分の判断で努力するぶん目的を達成しやすく、成果に責任と誇りを持ちやすい。だから達成感や自尊心が高まり、幸福感につながる――。2万人調査の結果はこのように説明されています。(西村和雄・八木匡、2018年*1)
この調査で測られた「自己決定」は、進学や就職という人生の大きな選択です。それと「3歳の服選び」をつなぐのが、子どもの「自分で決める力」を育てるには、「子ども自身が自分で考えて、自分で物事を決める経験」を重ねることが必要だという考え方です。(玉川大学 大豆生田啓友教授)
どのおもちゃで遊ぶか、どの宿題から始めるか。そうした些細な決断を幼いころから積み重ねてきた子が、やがて進路という大きな決断も自分で下せるようになるのです。
こどもまなびラボでは以前、「自己決定力のある子ども」を育てるための3つのこと――小さなことを自分で決めさせる、宿題に手出し口出ししない、子どもの意見に「どうして?」と尋ねる――を紹介しました。下の一覧は、その3つを「いつ、どの決断を任せるか」の20場面に具体化したものです。

「任せていい決断」は、2択から始まってルールづくりで終わる
「小さなことを自分で決めさせる」と聞くと、何でも子どもに委ねればいいように思えます。じつは、任せ方には順番があるのです。
出発点は2択。子どもはだいたい2歳になるころには二者択一ができるようになっています。(日本小児科学会会長 高橋孝雄氏) 家庭でのモンテッソーリ教育も、「まずは2択から始め、徐々に選択肢を増やしていく」のが基本です。
(参考: こどもまなびラボ|特別な環境がなくても大丈夫! 家庭で実践できるモンテッソーリ教育)
次の段階は、条件を足すこと。子どもがなかなか決められないときは、頭のなかの決断材料が整理しきれていない可能性があります。(家庭教育の専門家 田宮由美氏)
「半袖と長袖、どっち?」に「今日は少し寒くなるみたいよ」を添えると、子どもは「寒くなるなら長袖」と、自分で条件を処理して決められるようになるのです。
小学生になると、決める対象は「物」から「時間の使い方」へ、さらに「家庭のルール」へ広がります。小学3年生くらいまでの「しつけ期」が過ぎたら、できるだけ子どもの行動に口出しをしないようにするべきだとされています(心理学者 諸富祥彦氏)。親がサポート役に回る時期は10歳ごろ。高学年は「何を着るか」ではなく「うちの決まりをどうするか」を任せていい年齢なのです。
(参考: こどもまなびラボ|“過保護” はやめなくてもいい!? 子どものために「本当はやらなくていい」7つのこと)
この順番のように、2択、条件付きの選択、時間の使い方、ルールと目標を、年齢帯ごとに5場面ずつ、計20場面に整理しました。

3歳〜12歳で「任せていい決断」20の場面と、親の言い方
3〜4歳は、「どっち?」の2択で5場面
この時期は、選択肢を親が2つに絞って差し出します。「服を選ぶ」「おもちゃを選ぶ」といった場面は小さな決断に最適だといわれています。(茨城県教育委員会『子育てアドバイスブック クローバー』) 子どもの選択が親の考えと少し違っていても、口出しせず見守るのがコツです。
5番の「身支度コーナー」は家庭でのモンテッソーリ教育の定番で、鏡やくしを子どもの手が届く場所に並べ、しまう場所やレイアウトも子ども自身に決めさせます。「自分で選んだ場所」だから、自分で片づけられるのです。
5〜6歳は、条件を足して選ばせる5場面
年長から入学前は、2択に「条件」を1つ添えます。「今日は寒くなるみたいよ」と添えるのがその代表です(前出・田宮氏)。さらに応用編として、その日のコーディネートを考える、気温を自分で考慮して服を選ぶことが勧められています。ここで自己決定力が育つと、自信や自己肯定感もいっしょに育つとのことです(前出・大豆生田教授)。
8番は「コップを3つ」のように数を入れておくと、3歳以降の「数の敏感期」に合って、決める楽しさと数の学びが同時に手に入ります。9番と10番は、「春から小学校なので、朝の支度を自分でできるようになろう」と目標を立てるときの問いかけです。
(参考: こどもまなびラボ|「○○しなさい」なんて言葉はもう必要ない。SMARTゴールで自律性がグングン育つ)
7〜9歳は、宿題と時間の使い方を任せる5場面
小学校低学年から中学年は、「どの宿題から」「どこで」「いつ」といった時間の使い方を任せていい年齢です。親がすべきなのは宿題を手伝うことではなく「足場づくり」です。(子育ち研究家 長岡真意子氏) 計画を一緒に立てる、場所を選ばせる、答えは教えない。決めるのは子どもです。
ここで我慢したいのが、「先にやったほうがいい宿題」を親が指定することです。小学生時代に親がつきっきりで宿題を手伝っているほど、年齢が上がるにつれて学業成績が下がる傾向があります。(社会学者 キース・ロビンソン氏・エンジェル・ハリス氏) 順番を決めるのも、宿題のうちなのです。
10〜12歳は、ルールと目標を任せる5場面
高学年は、家庭の決まりごとや自分の目標を任せていい時期です。家庭内ルールは親の指示ではなく「子ども自身で決めさせる」ことが推奨されています。(ライフコーチ ボーク重子氏) やってみて何か違えば、子ども自身がルールを変えてよい。改善を重ねることが、思考のしなやかさを鍛える機会になるのです。
17番の「英検とサッカー」は、夫婦で教育方針が違っても無理にそろえなくていいという例です。「今回はお母さんの意見に賛成。英検受けるよ」と、子どもが自分で選べる幅が残るからです。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ氏) 18番は、目標を「具体的に、期限つきで」立てるSMARTゴールの入り口。子どもは「やりなさい」と言われたからやるのではなく、やる理由と必要性が見えているからやるのだとされています。(前出・ボーク氏)

任せたあとに親がすることは、「どうして?」のひとことだけ
20の場面に共通する親の役割は、決めさせたあと口出ししないこと。そして代わりに「どうして?」と聞くことです。
「どうして?」は子どもの口癖であると同時に、大人が子どもに向かって発するべき言葉でもあります(元・筑波大学附属小学校副校長 田中博史氏)。「しっかり考えなさい」と言い聞かせても、子どもが本当に考えているかはわかりません。けれど、選んだあとに「どうして?」と聞かれた子どもは、「なぜそれを選んだのか」を考える機会を得るのです。「好きだから」と返ってきたら、「そっかぁ。どんなところが好き?」ともう一段。この繰り返しが、「選ぶ」を「考えて決める」に変えていきます。
***
「今日の服、それで行くの?」と言いたくなった朝は、その言葉を飲み込んで、「どうしてそれにしたの?」に置き換えてみてください。子どもが自分で決めたことに、理由を語らせる。10分かかる朝の服選びは、そのまま、幸福感につながる小さな自己決定の練習なのです。
よくある質問(FAQ)
Q. 決めさせると時間がかかります。急いでいる朝はどうすればいいですか?
A. 急ぐ日は、親が決めてかまいません。家庭でモンテッソーリ教育を取り入れる場合も、「時間には限りがあるので、できる範囲でいい」が前提です。時間のある日だけ選択肢を2つに絞って差し出すか、前の晩に「明日の服、どっちにする?」と決めておくと、朝の10分が消えます。毎朝でなくても、自己決定の経験は積み重なります。
Q. 子どもの選んだものが親の考えと違うとき、口出ししていいですか?
A. 安全や健康に関わること(真冬の半袖、道路への飛び出し)は親が線を引きます。それ以外の「柄が合わない」「その組み合わせはどうかと思う」は、口出しせず見守ってください。子どもの決断が親の考えと多少違っていても口出しせず見守るよう勧められています(茨城県教育委員会『子育てアドバイスブック クローバー』)。差し出す2択の段階で、親が許せるものだけを並べておくのがコツです。
Q. 「どっちでもいい」「わからない」と決められない子には、どうすればいいですか?
A. 頭のなかの決断材料が整理しきれていない可能性があります。「半袖と長袖、どっち?」に「今日は寒くなるみたいよ」と条件を1つ添えると、子どもは自分で条件を処理して決められるようになります。それでも決まらないときは、選択肢を2つに減らして、ひとつ前の段階に戻してください。
Q. 一覧の年齢と、うちの子の様子が合いません。年齢どおりに進めるべきですか?
A. 一覧の年齢は出発点の目安で、守るべき順番は「2択→条件付きの選択→時間の使い方→ルールと目標」のほうです。10歳でも決められなければ2択に戻り、6歳でも宿題の順番を決められるなら任せてください。段階を1つ戻すことは、後退ではなく、その子に合った練習の入り口です。
*1: 国立大学法人 神戸大学 プレスリリース「所得や学歴より『自己決定』が幸福度を上げる 2万人を調査」(西村和雄・八木匡、2018年)









