「習い事をしたい」と言って始めたのに、いざ行くと「抱っこして」「〇〇くんはできないからやらない」と泣いてしまう——。最初は「そのうち慣れるだろう」と思っていたのに、何もできずに帰る日が続くと、親としてもどうしていいのか迷ってしまいます。
「できなくてもとりあえずやってみよう」と励ましても、まったく響かない。一体、どんな声かけや関わり方が正解なのでしょうか。
お悩み:習い事に行きたがりません
習い事をしたいと本人の希望もあり始めたのですが、緊張するのか、いざ現場に行くと「抱っこして」「〇〇くんはできないからやらない」とネガティブモードに入ってしまい、何もやらずに帰る日が続きました。
「できなくても、とりあえずやることが大事」と言い続けてきましたが、あまり響かず……どう受け止めればいいか悩んでいます。(4歳男の子ママ)
今回は、実際の保護者から寄せられたこんなお悩みをもとに、習い事を始めたばかりで緊張している子への向き合い方を、小学校教員として2,000人以上の子どもと関わってきた筆者の経験からお伝えします。
監修者プロフィール
元小学校教員
小学校教員・英語専科教員として12年間勤務、これまでに2,000人以上の子どもたちを指導。現在は、教育分野での執筆活動をはじめ、クリエイターやファミリーサポート・里親支援など多方面で活動中。2児の母。
イギリスやアメリカへの留学経験を通じて学んだペアレンティングの視点を軸に、日本の家庭でも実践できるヒントをお届けします。
目次
1. 「やらない」の裏にある”緊張”を読み取ろう
まず知っておきたいのは、「やらない」「できない」という言葉の裏には、“甘え” に見えても “緊張” や “怖さ” が隠れていることが多いということです。
新しい場所、知らない大人や子どもたち、初めてのルールや雰囲気——。大人でも緊張するような状況に、小さな子どもが置かれているのです。
このとき、子どもの体は “守りモード” に入り、行動を止めることで安全を確保しようとします。つまり、「やらない」と言っているのは、「怖い」「どうしていいかわからない」というサインでもあります。
親ができる最初のサポート:「気持ちの通訳」になること
「怖かったんだね」「初めての場所でドキドキしたんだね」——。まずは、子どもの気持ちをそのまま言葉にして代弁してあげましょう。これを心理学では“感情のラベリング”と呼びます。*1
大人が代わりに気持ちを言語化してあげることで、子どもは「自分の気持ちをわかってもらえた」と安心し、少しずつ心が落ち着きます。
感情を言葉で表現することで、脳内の扁桃体の活動を抑え、気持ちを落ち着かせる効果があることが研究で明らかになっています。*2
🗣️ 感情にラベリングをする声かけ例
- 「緊張してるんだね。それは悪いことじゃないよ」
- 「できなくてもいいよ。今日は行けただけでえらいね」
- 「がんばりたい気持ちがあるから、緊張してるんだよ」
(参考記事)子どものいろいろな “イヤな気持ち” にどう寄り添う?「感情のラベリング」で育てる心の力【無料ダウンロード
「甘え」と「緊張」は区別しにくい
実際には、子どもの「甘え」と「緊張」は、はっきり分かれているわけではありません。「抱っこして」と甘える背景には、やはり不安や緊張があることがほとんどです。4歳のお子さんなら、なおさらその傾向が強いでしょう。
ただし、明らかに「ママの気を引きたい」という試し行動が主な理由の場合は、日常生活全体で子どもが十分に愛情を感じられているかを振り返ってみることも大切です。
いずれにしても、最初のステップは同じです。まずは気持ちを受け止めて、安心感を与えること。その上で、少しずつ挑戦を促していきます。

2. 「できる」より「やってみよう」の気持ちを育てる
親としては、「せっかく月謝を払っているのに……」と焦る気持ちも出てきます。でも、最初のうちは“結果” よりも “挑戦の一歩” に目を向けてあげることが大切です。
「行けた」「見られた」「先生にあいさつできた」——。たとえ1ミリでも進んだなら、それは大きな成長です。
「やった・できた」より「チャレンジした」を褒める
「今日は泣かなかったね」ではなく、「緊張してたけど、教室に入れたね!」のように、具体的な行動を認めるのがポイント。
これは「結果」ではなく「過程」を重視するプロセス志向の声かけで、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが提唱する「成長マインドセット(growth mindset)」を育てる言葉でもあります。*3
ドゥエックの研究によれば、能力をほめると子どもの知能が下がり、努力やプロセスをほめると子どもの知能が上がることがわかっています。”できるかどうか” より、”挑戦してみた自分を認める” 経験が、次の一歩を踏み出す力になります。
🗣️ プロセスをほめる声かけ例
- 「緊張してたけど、教室に入れたね!」
- 「先生の説明を最後まで聞けたね」
- 「お友達の様子を見ていたね。それも大事なことだよ」
- 「ママと一緒じゃなくても頑張ってたね」

3. 親の距離の取り方——近くで “見守る” ことが安心を生む
「ママ、そばにいて」と言われたら、つい「自分で行ってきなさい」と背中を押したくなるもの。
けれど、すぐに離れさせるより、安心できる距離から少しずつ離れるほうが、子どもは安定して挑戦できることが多いです。
「安心基地」があるからこそ挑戦できる
心理学のアタッチメント理論(愛着理論)でも、「安心できる大人が近くにいること」が、子どもの探究心や社会性の発達を支えると言われています。*4 イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱したこの理論では、養育者が「安全基地」となることで、子どもは安心して探索行動に向かうことができるとされています。*5
つまり、「そばにいること」は甘やかしではなく、“安心の土台づくり”なのです。
🗣️距離を縮めていくステップの例
- 初回:隣に座って一緒に見学する
- 次回:部屋の端から見守る
- 慣れてきたら:教室の外から声援を送る
- さらに慣れたら:待合室で待つ
習い事教室の先生が許す範囲になりますが、少しずつ距離を取っていくことで、「ママがいなくても大丈夫」という自己効力感が育ちます。

4. 「やめる=失敗」ではない
習い事を始めたばかりでも、ずっと続けてきた場合でも、子どもが「やめたい」と言い出すことがあります。
始めたばかりで「合わない」と感じる場合もあれば、これまで楽しく通っていたのに、急に「行きたくない」と言い出すこともあるでしょう。理由はさまざまですが、どうしても「続けられなかった」「根性が足りない」と感じてしまいがちです。
でも、「やめる」ことは “合わなかったと気づけた” という大事な経験でもあります。でも、「やめる」ことは “合わなかったと気づけた” という大事な経験でもあります。
幼児期から学童期にかけては、「得意」「不得意」や「自分に合う環境」を知る発達段階です。*6 すべての子が同じテンポで社会に慣れていくわけではありません。
また、ここで一度立ち止まって考えたいのが、「本人の希望」は本当だったのかということです。
子どもは親を喜ばせたくて「やりたい」と言うことがあります。友達がやっているから、親が勧めるから、なんとなく「やる」と答えただけかもしれません。もし、実際には親の期待や「やらせたい」という気持ちが大きかったのなら、子どもが嫌がるのは当然のことです。その場合は、無理に続ける必要はありません。
「やめても大丈夫」と伝える勇気を
子どもが「やめたい」と言うときは、いきなり説得せず、まずは「どうしてそう思うの?」と気持ちを聞いてあげましょう。たとえば「怒られるのが怖い」「みんながすごすぎて自信がない」など、本音の部分を丁寧に聴き取ることが、次のチャレンジにつながります。
🗣️やめたいと言われたときの対応
- まずは「どうしてそう思うの?」と理由を丁寧に聞く
- 「もう少し頑張って」と説得する前に、子どもの気持ちを受け止める
- 先生に相談して、環境調整ができないか探る
- やめることを決めたら、「挑戦したこと」を認める
子どもが「やめても親に受け止めてもらえた」と感じた経験は、”失敗しても大丈夫”という自己肯定感を育てます。それが、次の挑戦を後押しする原動力になります。
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習い事で緊張してしまう子への関わり方は、「無理に慣れさせる」ことではなく、「安心できる土台を作りながら、小さな一歩を認めていく」ことです。
筆者が多くの子どもを見てきたなかでも、緊張しやすい子は、人の気持ちをよく感じ取れる優しさをもつことが多いです。その感受性は、無理に変える必要のない、お子さんの大切な個性。親ができるのは、その個性を認めながら、「安心して挑戦できる環境」を一緒につくっていくことです。
(参考)
*1 信州大学機関リポジトリ|感情のラベリングの方法の違いが感情変化や認知的負荷に及ぼす影響の検討(信州心理臨床紀要)
*2 CiNii Research|感情のラベリングの方法の違いが感情変化や認知的負荷に及ぼす影響の検討
*3 草思社|マインドセット「やればできる!」の研究(キャロル・S・ドゥエック著)
*4 日本女子大学 心理学科|アタッチメント(愛着)とは
*5 日本心理学会|心理学ワールド 95号 ヒトのアタッチメント再考
*6 文部科学省|参考資料2 各発達段階における子どもの成育をめぐる課題等について[改訂]













