「これがいい」と子どもが主張しても、親の都合で「こっちでがまんしなさい」——そんな子どもの考えを無視した会話ばかりしていませんか?
そのままでは、「どっちでもいい」「みんなに合わせる」と考えを言えないまま大人に育ってしまうかもしれません。
心理学では、このように自分の感情をコントロールする力を「自己抑制」と呼びます。日本の子どもは、がまん強くて協調性があります。でもこの「自己抑制」の傾向が強すぎるとも言えます。
一方で世界では、協調するだけではなく、きちんと「自分の考えを伝える力=自己主張」が求められています。研究では、自己抑制と自己主張の両方を育てることが、子どもの健やかな発達にとって重要だという結果も。
そこでこの記事では、家庭でできる「伝える力=自己主張する力」を育てる3つの方法を紹介します。
目次
家庭でできる!「伝える力」を育てる3つの方法
1. 気持ちを言葉にする習慣をつくろう
「なんとなくイヤ」ではなく、「どうしてイヤだったのか」「どんな気持ちだったのか」を言葉にする練習をしましょう。
- 寝る前に「今日うれしかったこと」「がんばったこと」「悲しかったこと」を1つずつ話す。
- 絵本を読んだあとに「主人公はどんな気持ちだったと思う?」と聞く。
- 「怒っちゃダメ」ではなく、「怒るってどういうことかな?」と一緒に考える。
感情の言葉が増えると、子どもは自分の気持ちを整理しやすくなります。研究でも、感情語彙が豊かな子どもほど、気持ちを理解し、相手を思いやれることが分かっています。
2. 「どう思った?」を1日1回、聞いてみよう
家庭で「あなたはどう思う?」と聞かれる回数が多い子どもほど、自分の考えをもつ力が育ちやすいといわれています。
- 「今日の給食どうだった?」→「何がおいしかったの?」と理由を聞く。
- 「お友だちと遊んで楽しかった?」→「どんなところが楽しかった?」と深める。
- 「ケンカしちゃったの?」→「そのときどう思った?」「相手はどう思ったかな?」と考えさせる。
答えに正解はありません。大事なのは「話せたこと」を認めること。
- NG:「そんなの違う」「ダメでしょ」(即座に否定)
- OK:「そう思ったんだね」→「でも、こんな見方もあるよ」(受け止めてから、別の視点を提示)
「そう思ったんだね」「話してくれてありがとう」と伝えるだけで、子どもは安心して自分の意見を話せるようになります。
3. “ちがっても大丈夫” を体験させよう
意見を言うことを怖がる子どもは、「人と違うのは悪いこと」と感じていることが多いです。でも、「ちがう=おもしろい」と体験できると、発言への不安が減ります。
- 家族会議で週末の予定を「話し合い」で決める。
- 「ママはこう思うけど、あなたはどう思う?」と聞き返す。
- 意見が分かれたら、「そういう考え方もあるね」と認め合う。
例:週末の過ごし方
- お母さん「公園に行きたいな」→子ども「僕は家で工作したい」→「そっか、工作も楽しいよね。じゃあ午前中は公園で遊んで、午後は工作する?」
「違ってもいい」と感じられることで、子どもは自分の考えを安心して伝えられるようになります。

自己抑制はブレーキ、自己主張はアクセル|世界との比較
「がまんしなさい」と言うこと自体は悪くありません。でも、それだけを繰り返すと、子どもは「自分の考えを言ってもいい」と思えなくなってしまうことがあります。
日本では「空気を読む」「みんなに合わせる」ことが美徳とされてきました。でも、世界に目を向けると、子育ての価値観は国によって大きく異なります。
自己抑制(がまん)と自己主張、どちらも大切
がまんはブレーキ、自己主張はアクセルとよく例えられます。どちらか一方ではうまく走れません。両方あるからこそ、自分らしく前に進めるのです。
教育学者・佐藤淑子氏によると、日本・アメリカ・イギリスの3カ国では、こんな違いがあるといいます:
「自己主張すべき場面でも抑制すべき場面でも自己主張するアメリカ」
「自己主張すべき場面では主張し、抑制すべき場面では抑制するイギリス」
「自己主張すべき場面でも抑制すべき場面でも抑制する日本」
(佐藤淑子『イギリスのいい子 日本のいい子 自己主張とがまんの教育学』中公新書、2001年)
わかりやすいですね。世界の国々が「自己主張」を大切にしていることがわかります。OECDや英国の教育機関による調査でも、自分の意見を伝える経験が子どもの主体性を高めるとされています。
またイギリスは、自己抑制と自己主張のバランスを重んじています。日本も独自の協調性を大切にする文化を大切にしつつ、自己主張できる力を育てていくとよいでしょう。
自己主張とわがままは別
心理学では、自己主張とわがままは別のものとして区別されます。
わがまま = 思い通りにならない苛立ちを相手にぶつけること
つまり、「自分の気持ちを言葉にできる力」こそが自己主張。感情をぶつけるだけの「わがまま」とは、まったくちがうことを注意しておきましょう。

すべての土台は「安心できる関係」
ただし、どんなに良い方法を知っていても、子どもが「どうせ聞いてもらえない」と感じていれば、意味がありません。
安心できる親子関係こそ、がまんと自己主張を支える土台です。
「言ってくれてありがとう」——この一言が、子どもの心を安心させます。「言っても大丈夫」「聞いてもらえる」という信頼があるからこそ、子どもは自分の気持ちを言葉にできるようになるのです。
***
親ができることは「聞く」「問う」「認める」。
- 聞く:途中で口をはさまず、最後まで聞く。
- 問う:「なぜ?」「どうして?」と理由を聞く。
- 認める:内容よりも「話してくれたこと」をほめる。
がまんも、自己主張も、どちらも子どもの成長に欠かせない大切な力。たとえ小さな一言でも、「あなたの考えを大切にしているよ」という姿勢が、子どもの “伝える力” を伸ばしていきます。
(参考)
佐藤淑子著(2001),『イギリスのいい子 日本のいい子 自己主張とがまんの教育学』, 中公新書.
ダイヤモンド・オンライン|自己主張できる子を育てたければ内容ではなく「勇気」を認めよ
NHK|「がまん」って大事なの?
和歌山大学教育学部 教育実践総合センター紀要|幼児の自己制御機能の発達研究
Chartered College of Teaching|Pupil voice and agency: Exploring the evidence-base
NIH/PMC|The Development of Children’s Emotion Vocabulary from 4 to 11 Years of Age
Brookings Institution|Talking about emotions: How to support children’s social and emotional development through language













