2025年10月21日、高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に選出されました。日本で初めての女性首相の誕生です。テレビのニュースでこの映像が流れたとき、子どもからこんな質問をされるかもしれません。
「ねえ、どうしていままで女性の首相がいなかったの?」
多くの親御さんが「うーん、たしかにね……」と、一瞬言葉に詰まってしまうのではないでしょうか。女性が首相になれないわけではない。でも、これまでいなかった。その「なぜ」を、どう説明すればいいのか。
じつは、この素朴な疑問こそが、社会の仕組みや私たちの「当たり前」を見直すチャンスなのです。今回は、家庭でどう説明すればいいか、一緒に考えてみましょう。
目次
「なりにくかった」3つの理由を話してみよう
子どもに説明するときは、「誰かが悪かった」のではなく、「社会全体の仕組みがそうだった」と伝えることが大切です。ここでは、みっつの視点から考えてみましょう。
(1)政治の世界の働き方が、誰にとっても大変だったから
日本の政治の世界は、男性・女性を問わず、とても厳しい環境でした。
国会議員の仕事は夜遅くまで続くことが多く、長時間働くことが当たり前。地元との関係づくりも欠かせず、家族との時間をもつのが難しい世界です。
そんななか、社会では「お父さんは仕事、お母さんは家庭」という役割分担が長く続いてきました。その結果、育児や家事を主に担うことが多かった女性にとって、政治家を続けることがより難しくなっていたのです。
最近では、育児に積極的に関わるお父さんも増え、働き方そのものを見直す動きが出てきています。
💬 話し方のヒント
「昔は、お父さんもお母さんも、それぞれ大変だったんだよ。お父さんは長い時間働いて、お母さんは家のことをたくさんやって。いまは、みんなで助け合えるようになってきたんだね」
(2)「リーダーは男の人」という思い込みがあったから
「政治家」「社長」「科学者」と聞いて、頭のなかにどんな人の姿が浮かびますか?もしかしたら、男性の姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。
これは、そうした職業に就いていたのが特定の人たちに偏っていたため、私たちの頭のなかに固定されたイメージができてしまったからです。こうした無意識の思い込みを「アンコンシャス・バイアス」と言います。
これは男性・女性どちらにもある思い込みで、たとえば「看護師」と聞くと女性をイメージする人が多いように、職業とイメージが結びついてしまうことがあります。
男性看護師も、女性政治家も、実際には昔からいました。ただ、数が少なかったために目立たなかっただけ。少しずつ、多様な人が活躍する姿が見えるようになってきています。
💬 話し方のヒント
「昔は『こういう仕事にはこういう人』って決まっているように見えたけど、実際はいろんな人ができるんだよね」
(3)見えない壁──「ガラスの天井」があったから
「ガラスの天井」という言葉があります。これは、能力があっても、見えない壁によって上のポジションに進めない状況を表す言葉です。
ガラスでできた天井は、透明で見えないけれど、たしかにそこに存在している。誰かが意図的につくったわけではなくても、社会の仕組みや慣習のなかで、自然とできあがってしまった壁のことです。
実際、日本の国会議員のうち女性は衆議院が15.7%、参議院が25.4%という割合。G7諸国のなかでも、いまだに最も低い水準にあります。
どんな世界でも、「初めて」何かをする人には特別な困難があります。政治の世界に限らず、新しい分野に挑戦する先駆者は、既存のルールや慣習に合わせながら道を切り開かなければなりません。周りに同じ立場の人が少ないと、相談相手も少なく、孤立感を感じやすいものです。
これは性別に限った話ではありません。たとえば、伝統的に女性が多かった職場に男性が入る場合も同じ。保育士や看護師を目指す男性も、見えない壁を感じてきました。
大切なのは、誰もがこの「ガラスの天井」を破りやすい社会をつくること。そうすれば、性別に関係なく、やりたいことに挑戦しやすくなります。
💬 話し方のヒント
「『ガラスの天井』っていうのは、透明で見えないけど、上に行こうとすると頭をぶつけちゃう壁のこと。でも、勇気を出して一歩踏み出す人がいるから、その壁に少しずつヒビが入って、次の人が通りやすくなるんだよ」

家庭でできる “考える会話” のコツ
子どもと一緒に社会について考えるとき、親が「先生」になる必要はありません。一緒に考える「パートナー」として、こんな会話を試してみてください。
1. ニュースを「すごいね!」で終わらせない
「女性が初めて首相になった」というニュースを見たら、「すごいね!」だけで終わらせず、「なんでいままでいなかったんだろう?」「これからどう変わるかな?」と一緒に考えてみましょう。答えがすぐに出なくても大丈夫。一緒に考えるプロセスが大切です。
2. 日常のなかでリーダー像を広げる
学校の委員長、クラブ活動のキャプテン、家族の職業など、身近な話題で「いろんな人がリーダーになれるね」と話してみましょう。女性の医師、男性の保育士、さまざまな人がさまざまな仕事をしている例を挙げると、子どもの視野が広がります。
3. 言葉の使い方を少し変えてみる
「女の子でもできる」という言い方は、「本来は男の子の仕事」という前提が隠れています。「誰でもできる」「やりたい人がやればいい」と言い換えるだけで、ニュートラルな価値観が伝わります。

家庭で使えるQ&A例
これまで女性は首相になろうとしなかったの?
ううん、目指した人はいたよ。でも、なりやすい環境が整っていなかったんだ。今回初めて首相になったということは、社会が変わってきた証拠だね。
男の人と女の人、どっちが首相に向いてるの?
性別で向き不向きは決まらないよ。大切なのは、その人がどんな考えを持っていて、どんな行動をするか。性別じゃなくて、「その人自身」を見ることが大事なんだよ。
○○ちゃん(自分)も首相になれる?
もちろん! 性別に関係なく、誰でも目指せるよ。大切なのは「やりたい」と思う気持ちと、そのために学んだり努力したりすること。自分のやりたいことを自由に選べる時代になってきているんだよ。
未来の「あたりまえ」は、いまの会話から
高市早苗さんが首相になったことは、歴史的な出来事です。でも、これは「ゴール」ではなく「はじまり」。
子どもたちが大人になるころには、「女性だから」「男性だから」と言わなくてもいい社会になってほしい。誰もが、性別に関係なく自分の道を選べる──そんな「あたりまえ」をつくるための一歩は、家庭のなかで「なぜ?」を話すことから始まります。
子どもの素朴な疑問は、社会を見つめ直すきっかけです。完璧な答えを用意する必要はありません。一緒に考え、一緒に学ぶ。その姿勢こそが、子どもたちの未来をつくっていくのです。
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- 衆議院の女性議員比率は2024年の時点で15.7%。世界186か国中139位。
- 北欧諸国では女性議員が40%を超える国も。
- 働き方改革により、性別に関係なく家庭と仕事を両立しやすい環境づくりが進行中。
こうしたデータを知ることで、「日本のいまの位置」が見えてきます。そして、これからどう変わっていけばいいのかを、子どもと一緒に考えるきっかけになるでしょう。
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(参考)
*1 厚生労働省|アンコンシャス・バイアスを学ぼう
*2 朝日新聞|ガラスの天井とは?日本の事例や壊れたはしごとの違いなどわかりやすく紹介
*3 内閣府男女共同参画局|政治分野における男女共同参画の状況













