からだを動かす/教育を考える/かけっこ/インタビュー/スポーツ/外遊び・中遊び/運動能力 2025.7.9

「好きにやらせる・遊ばせる」が運動能力を育む最短ルート。親が子に「やらせる運動」はメリットなし!

「好きにやらせる・遊ばせる」が運動能力を育む最短ルート。親が子に「やらせる運動」はメリットなし!

「子どもの運動能力向上には、どのような運動や遊びをさせるか、その『質』が重要である」。そう言われると、「いかにも」と思ってしまうかもしれません。しかし、全国にスポーツスクールを展開、また部活動支援をはじめとするスポーツを通じた社会貢献をミッションに活動するリーフラス株式会社の市川雄大さんは、「遊びに質などという概念は存在しない」と断言します。その言葉に込められた真意とはどこにあるのでしょうか。遊びの本質と、子どもの運動能力向上の関係性を掘り下げていきます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

親がやるべきは、「子どもの好きにさせる」ことだけ

よく、「外遊びの『質』が子どもの運動能力を決める」といった話があります。なぜ、そういった意見が出てくるのかといえば、「ゴールデンエイジ」という言葉が家庭教育の場などに浸透してきたことが起因していると思っています。

ゴールデンエイジとは、子どもの「運動能力が飛躍的に伸びる時期」を指し、具体的な年齢についての考えは専門家によって多少異なるのですが、一般的には9〜12歳頃とされます。運動能力に大きく寄与する神経機能が急激に発達する時期であることから、ゴールデンエイジといわれているのです。(『子どもの運動能力が飛躍的に伸びる「ゴールデンエイジ」よりも重要な、「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方』参照)。

そして、多くの親にゴールデンエイジが知られるようになった結果、「子どもに良質な運動、あるいは良質な外遊びをさせたほうが、より運動能力が向上するだろう」といった考えに至っているのだと推測します。

ゴールデンエイジの時期に運動能力が大きく伸びるのは事実ですし、その知識も決して無駄なものではありません。でも、そもそも「遊びの質」ってなんでしょうか? 私個人としては、「遊びに質もなにもないだろう」と思っています。

ですから、親がやるべきことは難しくなく、外遊びや運動で子どもの運動能力を伸ばしてあげたいのなら、子どもがやりたいように自由にやらせてあげればいいのです。

「こんなふうに鬼ごっこをすると運動が得意になるから、そこを意識して鬼ごっこをしなさい」と子どもに教えたところで、素直に従う子どもがいますか? 仮にその指示に子どもが従ったとしたら、それはもはや遊びではありません。子ども自身の意思が伴わっておらず「やらされる」のですから、仮にその遊び方によって本当に運動能力が伸びるとしても、その伸びも大きなものでないでしょうし、子どもだって楽しくありません。

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親が「やらせる運動」が、子どもの才能を埋もれさせる

子どもが「やらされる」ということでいうと、たとえば「子どもをサッカー選手にしたい」と、子どもが幼いうちからサッカーばかりをやらせる親(保護者)もよくいます。そうして「足が速くなければならない」「ドリブルがうまくなければならない」と、スプリントやドリブルの練習ばかりをさせてしまうとどうなると思いますか?

たしかに、サッカーに必要なスキルを向上させられるという意味では、「質」が高い運動はできるでしょう。その結果として、本当にプロのサッカー選手を目指せるくらいに伸びてくれたら、すばらしいことなのかもしれません。でも、そこまでの才能がなかったとしたら、ただ親に命じられるままにサッカーだけをし続けてきた子になってしまいます。

もしかしたら、その子は野球の才能があったかもしれないし、水泳の才能があったかもしれません。つまり、子どものうちからひとつの運動だけをさせるということには、そうした本来の才能を埋もれさせてしまうリスクがあるということです。

一方、子どもがやりたいようにやらせると、子どもは「多様な種類の運動」を経験します。これこそが、とても重要なことなのです。

限定されないなかでたくさんの運動に挑戦すると、自分のなかで「向き不向き」が見えてきます。「なにができてなにができないか」が身を以て理解できるからこそ、長所を伸ばすため、または短所を克服するためにすべき目標設定ができるようになります。目標設定ができれば自らの意思で練習していくため、運動能力の向上が伴っていくことは言うまでもないでしょう。「やらされる」勉強では実力がつかないように、運動だって理屈は同じことです。

あるいは、多様な運動を経験するうち、先に述べたような自分の隠れた才能に気づく可能性もあります。これもまた、「向き不向き」がわかるからです。なにもサッカーをやらせるのが悪いというわけではありません。サッカーをするのだって、「子どもには絶対にフォワードをやらせる」ではなく、さまざまなポジションや動きを経験させることが大切です。そうするなかで、自分が生きる道をゴールキーパーに見出すことだってあるでしょう。

サッカーボール4つ

外遊びだけでなく、家のなかでの遊びも立派な運動

ただ、「子どもがやりたいようにやらせる」というと、「そもそも子どもが運動に興味を示さないから」という方もいるかもしれません。そういうケースでは、器具を用意することもひとつの手です。

たとえば、フラフープ、なわとび、一輪車、リップスティック(日本名ではブレイブボード)などを用意しておけば、それらに対して子どもが興味をもつ可能性は高いでしょう。また、そうした器具を使った運動では、普段は使わない筋肉を使ったり日常的には行なわない動作をしたりするので、体全体をバランスよく鍛えられます

あるいは、外での遊びに限らず、家のなかでできる遊びにだって立派な運動があります。手のひねりや指先の繊細な動作が必要な日本古来のお手玉やけん玉、あやとりなども運動能力に大きく影響します。また、これらはリズム感覚や空間把握能力の向上にもつながる遊びです。

いずれにせよ、「子どものため」と考えるあまり、親が運動を「押しつける」ことだけはやめましょう。子どもがやりたいようにやらせる環境づくり、または、運動をやらないのならやりたくなるような環境づくりを意識してほしいと思います。

市川雄大さま

■ リーフラス株式会社・市川雄大さん インタビュー一覧
第1回:子どもの運動能力が飛躍的に伸びる「ゴールデンエイジ」よりも重要な、「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方
第2回:「好きにやらせる・遊ばせる」が運動能力を育む最短ルート。親が子に「やらせる運動」はメリットなし!
第3回:運動能力とともに「非認知能力」も高まる。運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい?(※近日公開)

【プロフィール】
市川雄大(いちかわ・ゆうだい)
1986年1月17日生まれ、埼玉県出身。リーフラス株式会社マーケティング部課長。中学から大学卒業までイギリスへ留学。筑波大学大学院修士(体育学)。その後、留学時に感じたスポーツのもたらす素晴らしい力を子どもたちに発信すべく、スポーツを通じた教育、指導に携わるために、リーフラス株式会社に入社。入社後、指導者としてサッカーや幼児スポーツを指導し、2014年に指導員個人部門年間最優秀賞を獲得。その後、支店長などの経験を経て、現在、子どもたちの非認知能力を育むための指導メソッド開発や非認知能力測定をする「みらぼ」の開発責任者や上智大学非常勤講師を務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。