からだを動かす/教育を考える/かけっこ/インタビュー/スイミング/スポーツ/外遊び・中遊び/運動能力 2025.7.7

子どもの運動能力が飛躍的に伸びる! ゴールデンエイジよりも重要な「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方

子どもの運動能力が飛躍的に伸びる! ゴールデンエイジよりも重要な「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方

子どもの運動能力が大きく伸びる期間として知られるのが、「ゴールデンエイジ」です。しかし、全国にスポーツスクールを展開、また部活動支援などスポーツを通じた社会貢献をミッションとして活動するリーフラス株式会社の市川雄大さんは、それ以前の「プレ・ゴールデンエイジ」こそが、運動能力向上のための重要な期間であると指摘します。そのプレ・ゴールデンエイジにおいて、子どもはどのように過ごすのが望ましいのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの運動能力は12歳までに9割が決まる!?

「ゴールデンエイジ」という言葉を見聞きしたことがあると思います。これは、子どもの「運動能力が飛躍的に伸びる時期」を指し、具体的な年齢についての考えは専門家によって多少異なるものの、一般的には9~12歳頃とされます。

また、その前段階の5~8歳頃を、運動の基礎を身につける準備期間として「プレ・ゴールデンエイジ」と呼び、ゴールデンエイジのあとの13〜15歳頃を、それまでに習得した技術の精度や応用力を磨いて高める期間として「ポスト・ゴールデンエイジ」と呼ぶこともあります。

これらの期間に運動能力が伸びる理由は、神経の発達にあります。「運動神経」という神経は実際には存在しないのですが、人間に備わる多様な機能のうち、神経機能がもっとも運動能力に寄与します。その神経の発達は非常に早く、生まれてから8歳頃までのあいだに約80%、12歳前後でほぼ大人と同程度の約90%にまで達します。そのため、ゴールデンエイジには神経の発達と比例して運動能力も高まるのです。

すでに大人になっているみなさん自身のことを考えてもらうと、より理解が進むかもしれません。子どもの頃なら、なにか新たなスポーツをはじめればどんどん上達したのに、大人になったあとで始めたことはなかなか上達しなかったという経験を持っている人もいるはずです。

これは、ゴールデンエイジが、「即座の習得」が可能な時期だからです。即座の習得とは文字どおり、その場ですぐに新たな動きや技を習得できること。ゴールデンエイジにあたる子どもは、たとえば自転車に乗るのでもなわとびの二重跳びでも、多くの子があっという間にできるようになりますよね。一方、大人はそうはいきません。みなさんのなかにも、たとえばゴルフをはじめて何年も経っているのに、一向にうまくならないという人もいるのではありませんか?

ゴールデンエイジの説明の図
※具体的な年齢についての考えは専門家によって多少異なります

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基礎づくりの「プレ・ゴールデンエイジ」が最重要

プレ・ゴールデンエイジ、ゴールデンエイジ、ポスト・ゴールデンエイジの話に戻しますが、それらの期間は明確にわけられるものではありませんし、個人差もあります。「グラデーション」のようなものであると捉えてください。

多くの子どもが9〜12歳頃に運動能力向上のピークを迎えますが、その時期に向けて5歳頃から徐々に運動能力が伸びやすくなり、15歳を過ぎるとその伸びがなだらかに鈍化していきます。ピークを迎えるのが早い子どももいれば遅い子もいます

私自身の考えですが、子どもの運動能力を高めるためにはプレ・ゴールデンエイジがより重要だと思っています。先にお伝えしたように、もっとも運動能力が伸びるのはゴールデンエイジなのですが、いわゆる「基礎づくり」にあたるのがプレ・ゴールデンエイジだからです。

極端な話になりますが、幼いときからまったく運動をしなかった子どもがいたとして、その子が6歳になった瞬間、人が変わったようにいきなり運動能力がぐんぐん伸びはじめるでしょうか? さすがにそれは現実的ではありません。

かけっこしている子ども

散歩も公園で遊ぶのも、紛れもない「運動」

ここからが重要なポイントですが、その肝心のプレ・ゴールデンエイジを、子どもはどのように過ごすのが望ましいのでしょうか? ここでみなさんに注意してほしいのは、「運動」という言葉の解釈です。親が「子どもの運動能力を高めたい」というとき、多くの人がイメージしているのは「スポーツがうまくなる」「学校のスポーツテスト(体力測定)で好成績を残す」といったことであるはずです。そのような考えから、「スポーツ教室に通わせよう」といった発想に至るのです。

でも、散歩だって公園で遊ぶのだって立派な運動です。しゃがんでアリの行列を延々と追いかけることなんて、多くの大人にとってはかなり負荷の高い運動でしょう。つまり、わざわざスポーツ教室に通わせなくても、親が止めない限り、子どもは日常生活のなかでつねに遊びまわって運動をし続けるのです。

ですから、公園で遊ばせるにも、「それは危ないからやっちゃダメ」というように、子どもの行動を必要以上に止めないでほしいのです。親からすると心配でしょうし、当然ながら命に危険が及んだり大怪我につながったりするようなことは避けなければなりません。

でも、いまの公園は、むかしの公園と比べて危険をなるべくなくすような環境になっているように感じます。親御さんの目が届くなかで、子どもが自らやろうとしていることをできるだけやらせてあげてください。高いところからジャンプしたら足が痛かった、プランコから手を放して地面に落ちてしまったなど、小さな怪我をすることはあるかもしれません。

でも、その失敗経験も、子どもの運動能力向上にとって大切なものです。大怪我にはつながらない安全圏のなかで、許容範囲の痛い思いや失敗をするからこそそこから学び、「今度はこうしてみよう」と子ども自身が考えることができるようになるのです。

市川雄大さま

■ リーフラス株式会社・市川雄大さん インタビュー一覧
第1回:子どもの運動能力が飛躍的に伸びる「ゴールデンエイジ」よりも重要な、「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方
第2回:「好きにやらせる・遊ばせる」が運動能力を育む最短ルート。親が子に「やらせる運動」はメリットなし!(※近日公開)
第3回:運動能力とともに「非認知能力」も高まる。運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい?(※近日公開)

【プロフィール】
市川雄大(いちかわ・ゆうだい)
1986年1月17日生まれ、埼玉県出身。リーフラス株式会社マーケティング部課長。中学から大学卒業までイギリスへ留学。筑波大学大学院修士(体育学)。その後、留学時に感じたスポーツのもたらす素晴らしい力を子どもたちに発信すべく、スポーツを通じた教育、指導に携わるために、リーフラス株式会社に入社。入社後、指導者としてサッカーや幼児スポーツを指導し、2014年に指導員個人部門年間最優秀賞を獲得。その後、支店長などの経験を経て、現在、子どもたちの非認知能力を育むための指導メソッド開発や非認知能力測定をする「みらぼ」の開発責任者や上智大学非常勤講師を務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。