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「中学受験」は、子どもの将来を見据えて親ができるサポートのひとつと言えます。しかし、20歳で学習塾を創業して以来、35年以上に渡って子ども教育に携わってきた石田勝紀さんは、中学受験に伴うリスクも指摘します。中学受験に向いている子、そうでない子の特徴について、それぞれ解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
目次
親の都合で中学受験をさせても結果は伴わない
「中学受験」の話題を見聞きすることが増えていますが、首都圏など一部の地域で過熱状態にあることは間違いありません。中学受験向けの模擬試験や教育情報の収集を行なっている首都圏模試センターの集計によれば、2024年に首都圏1都3県で中学受験をした小学6年生の割合は、推計18.2%と過去最高を記録しています。
しかし、「みんなが受験するから」といった同調圧力、あるいは「自分が子どもの頃に受験に失敗したから」といった劣等感、はたまた「自分が楽しかったから子どもにも私学に行ってほしい」といった気持ちから子どもに中学受験を強いるのは避けたほうがいいでしょう。
それらはいずれも親の勝手な都合でしかありません。当の子どもにフォーカスしていないのですから、よく考えてみればおかしな話です。子どもの気持ちが伴っていなければ、勉強の成果だってついてこないのは目に見えていますよね。
そもそも、「塾」というものの存在を勘違いしている人も少なくないようです。多くの親が、「中学受験をさせたいが、うちの子は勉強が苦手だから」といった気持ちから子どもを学習塾に通わせます。でも、学校のテストや宿題があるうえに塾でもテストや宿題が課されるのですから、勉強が苦手な子にとっては大きな負担となり、親が思うような結果にはつながらないというのが実情です。
塾とは本来、「学校の勉強は簡単すぎて退屈だ」「もっと高度な勉強をしたい」と思っている子どものためにあるものです。中学受験を目指す子どもが通うような学習塾は、その最たるものと言えるでしょう。
「中学受験に向く子」と「中学受験に向かない子」
そのような視点から、中学受験に向く子のタイプが見えてきます。先に述べたような「学校の勉強が簡単すぎる」という子は、中学受験に向いています。「高度な勉強をしたい」と思っているのですから、一度塾に通わせれば楽しさを見出して熱心に勉強に取り組むはずです。
ほかには、たとえば「英語が好きで、国際的な仕事に就きたい」「将来的にITの分野で活躍したい」など、将来の方向性が定まっている子も中学受験に向いているタイプです。それぞれに独自性を打ち出している私立校には、自身の将来像が明確な子どもの希望に沿った学習環境が備わっている学校もあるので、夢に向かって邁進できるからです。
将来像が明確なタイプと重なる部分もありますが、特定の分野に対する知的好奇心が強い子も中学受験に向いているタイプですね。公立校の場合、学習においてはバランス型が求められます。要するに、あらゆる教科で好成績を残せる子のほうが内申点は高くなるわけです。すると、興味や能力が特定の分野に偏っている子はのちの高校受験で不利になりますから、中学受験を考えてもいいかもしれません。
あるいは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった診断をされている子にも、中学受験をおすすめします。発達障害の子どもたちに対して適切なフォローや学習指導ができる学校もあるので、親としては安心です。詳しく調べてみるといいかもしれません。
中学受験をしないほうが普通のルート!?
これらのことから言えるのは、残る大半の子どもたちは無理に中学受験をする必要はないということです。「学校の勉強が簡単すぎる」という子、小学生のときから明確な将来像を抱いている子、興味や能力が特定の分野に偏っている子、発達障害の子どもたちは、全体から見れば少数派です。
「まわりもみんな中学受験をするから」と焦る気持ちも理解できますが、中学受験をしないほうが普通のルートなのです。もっと言えば、東京など中学受験が盛んな地域の場合、公立のほうがのちのち子どもにとって有利に働くこともあるほどです。
「学校の勉強が簡単過ぎる」といった優秀な子どもたちが中学受験で私立校に行って抜けるため、公立校でしっかり勉強することで内申点が上がることも考えられます。そうして上位の都立高に進学し、最終的には中学受験をした子どもと同レベルの大学に進むことも珍しくありません。親の立場としては、経済的にもお得だと言えるでしょう。
それとは別の視点からも、中学受験をしないほうがいいと言える点があります。受験をする場合、「自分の学力よりも上位の学校を目指す」のが一般的です。わざわざ、現状の学力で行ける学校は目指しませんからそれは当然ともいえます。しかし、そうすると合格者のなかの下位でどうにか入学できたという子が出てきます。
「まわりはすごい子たちばかりだ」「自分も頑張ろう!」と刺激を受けて高みを目指せる子もいますが、「小学校では優秀だったのに、ここではビリだ……」と自己肯定感が大きく低下し、勉強に対するモチベーションを失ってしまうケースも多いのです。仮にその子が公立校に進んでいたなら、「自分はできるんだ!」という気持ちをもって意欲的に勉強を続け、大きく学力を伸ばせたかもしれません。そのようなリスクがあることも、ぜひ知っておいてください。
そして、中学受験をするしないにかかわらず、子どもが小学生のときにしかできないことを思いっきり経験させてあげてほしい。中学生になれば、学習内容もより複雑になったり部活を始めたりして、自由に使える時間はぐっと少なくなります。特に、なんらかの挑戦を伴うような自然体験は子どもの自己肯定感を大きく高めてくれるという研究結果がいくつも存在します。そうした体験は、子どもの生涯にわたって大きな財産となってくれるはずです。
『10年後、どんな親子関係でいたいですか?子どもを育てる7つの原則』
石田勝紀 著/大和書房(2024)
■ 教育専門家・石田勝紀先生 インタビュー一覧
第1回:後天的にだって「賢い子」は育てられる。わが子のタイプに着目すれば長所は確実に伸びていく
第2回:中学受験に「向いている子」「向いていない子」。教育のプロが教える4つの判断ポイント
第3回:「人間力」が高い子の親がしていること。完璧を目指さない7割の子育てが子どもを伸ばす(※近日公開)
【プロフィール】
石田勝紀(いしだ・かつのり)
1968年生まれ、神奈川県出身。教育者、著述家、講演家、教育評論家。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。国際経営学修士(早稲田大学)、教育学修士(東京大学)。1989年、20歳で起業し学習塾を創業。4500人以上の子どもたちを指導する。35歳で東京の中高一貫私立学校の常務理事に就任し、大規模な経営改革を実行。2016年からは「カフェスタイルの勉強会〜Mama Café」という子育て・教育の学びの会を全国で年130回以上主宰し、これまでに1万3000人以上の母親から相談を受けている。東洋経済オンライン連載「ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?」は、累計1億3000万PV。音声配信メディアVoicy「Mama Caféラジオ」は、1500日以上連続で配信しており、フォロワー数は1万8000人を超える。著書は『同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『頭のよい子が育つ家のしかけ』(日本文芸社)、『のびる子はやっている 最大効果を出す 小学生の勉強法』(新興出版社啓林館)、『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』(ダイヤモンド社)など全30冊。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。