教育を考える 2025.3.3

3歳から始める性教育、基本のキ。嫌なときは「No!」と言う練習をしよう

3歳から始める性教育、基本のキ。嫌なときは「No!」と言う練習をしよう

(この記事はAmazonアフィリエイトを含みます)

子どもに対する性教育について、「恥ずかしい」「難しい」などと判断し、敬遠する親御さんは多いものです。しかし、そのためらいによって子どもに危険が及ぶ可能性も否定できません。性教育を専門のひとつとする臨床心理士高山恵子さんは、もっとも重要なのは「ノーといえる子ども」に育てることだと語ります。そのことを踏まえ、性教育の第一歩について伺います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

性教育をはじめるタイミングは、子どもが興味をもったとき

日本は、アメリカなど主に欧米の先進国と比べて性教育の遅れを指摘されることが少なくありません。そもそも、性教育の必要性はどのような点にあるとみなさんは考えますか? それは、子どもが性被害に遭わないようにするためです。適切な性教育を受けておらず、自分自身の体が「守るべき大切なもの」だと認識していないために、性被害に遭ってしまう子どもは決して少なくないのです。

性教育というと、「恥ずかしい」「難しい」などと思いためらってしまう人もいるでしょう。でも、「性教育をしなければ、子どもが性被害に遭うかもしれない」と言われたらどうですか? 「恥ずかしい」「難しい」などといっている場合ではありませんよね。

では、性教育をはじめる適齢期はあるのでしょうか? このことについては、一概に言えるものではありません。なぜなら、「性にかかわることや体に対して子どもが興味をもったとき」がそのタイミングだからです。その時期は、子どもそれぞれに異なります。

ただ、一般的には3歳〜10歳くらいと考えていいと思います。その年代の子どもは、「うんち」や「おちんちん」といった言葉をおもしろがってよく使いますよね。そういった言葉が出てきたときに、性教育を始めていきましょう。

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「プライベートゾーン」について教えることが第一歩

性教育と聞くと構えてしまうかもしれませんが、難しく考える必要はありません。最初に実践してほしいのは、「プライベートゾーン」について教えることです。プライベートゾーンとは、「口・胸・性器・お尻」を指します。女の子には「水着で隠れるところと口」、男の子には「水着で隠れるところと口と胸」と教えると、子どもにもわかりやすいと思います。

プライベートゾーンは、大人にとっては性的な意味合いももつ場所ですが、子どもに対しては「体はどの部分も大事だけれど、そのなかでもとくに大事なところ」と伝えてください。「どうして?」と聞かれたら、「赤ちゃんが生まれることに関係している大事なところだからだよ」と説明してあげましょう。

教えるときには、わたしの著書など、体の構造をイラストで解説しているような性教育の書籍や絵本を使うことをおすすめします。視覚情報があることで、知識がまったくない子どもにも理解しやすいからです。いまはそういった本がたくさん出版されていますので、有効に活用してほしいですね。

加えて、プライベートゾーンについては、「自分ではない人が、勝手に見たり触ったりしないところ(自分で自分のものを触るのはOK)」「自分のものであっても、人がいる場所で見たり触ったりしないところ(人がいない場所ならOK)」ということも教えてください。その認識が子どもに根づけば、なにも知らないがために性被害に遭ってしまうリスクを大きく減らすことができます。

ただし、「自分ではない人に見せたり触らせたりしてはいけないところ」という伝え方はNGです。そう伝えると、子どもが性被害を受けたときに、「見せてしまった/触らせてしまった自分が悪い」と自分を責めてしまう可能性があるからです。悪いのは、あくまでも勝手に「見た側」「触った側」です。

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日常のなかで「ノー」という力を養う

プライベートゾーンの理解は、子ども同士の困った問題も防いでくれます。「お友だちとおちんちんの見せ合いっこしていると先生から連絡があった」「お友だちからプライベートゾーンをたびたび触られている」といったことに悩んでいる親御さんは多いものです。

このような問題の背景には、性教育の必要性に対する家庭ごとの認識の違いがあります。性教育に対する認識は家庭によって大きく異なり、積極的に性教育をしている親御さんもいればまったくしていない人もいます。そのために、子どもの行動にも違いが出てくるのです。

でも、プライベートゾーンについてきちんと教えておけば、少なくともわが子がお友だちに対してそういった行動をすることはなくなるでしょう。一方で、お友だちからの不適切な行動にどう対処するかという問題は残ります。

そこで必要になるのは、「嫌なことには『嫌だ』といっていいんだよ」と伝えることです。嫌なことに対して、はっきりと「ノー(NO)」といえるようになる練習が必要なのです。その練習のためにわたしがおすすめしたいのは、「ちょこっとチャット!」というカードゲーム形式のコミュニケーションツールです。

ちょこっとチャットカード

カードには「好きな絵本はなんですか?」「パパにやめてもらいたいことはなんですか?」などさまざまな質問が書かれていて、自分が引いたカードの質問に答えていくというシンプルなものです。

ただ、カードの質問には答えやすいものもあれば、ちょっと答えにくいものも含まれています。そして、「答えにくい質問はパスしていい」というルールになっています。そのため、自然と「ノー」という練習ができ、習慣化されていくというわけです。むかしから「ノーといえない日本人」といった言葉もありますが、大切な子どもを守るためにも、ぜひ「ノーといえる子」に育ててあげてください。

高山恵子先生が笑っている

親子で話そう! 性のこと
高山恵子・佐々木睦美 著/Gakken(2024)
親子で話そう!性のこと表紙

■ 臨床心理士・高山恵子さん インタビュー一覧
第1回:3歳から始める性教育、基本のキ。嫌なときは「No!」と言う練習をしよう
第2回:専門家に聞いた「性器いじりへの対応」と「性器のケアを習慣にする年齢」(近日公開)
第3回:親が困る質問の代表格。「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」にはこう答える(近日公開)

【プロフィール】
高山恵子(たかやま・けいこ)
東京都出身。NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。アメリカ・トリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。帰国後、児童養護施設、学校、保健所での発達相談や保育所・幼稚園での巡回指導で臨床に携わる。専門はADHD児・者の教育とカウンセリング。当事者であり専門家でもある経験を活かし、ハーティック研究所を設立。教育関係者、保育者などを対象としたセミナー講師としても活躍中。『しからずにすむ子育てのヒント 新装版』(Gakken)、『自分のよさを引き出す33のワーク』『発達障害・愛着障害・小児期逆境体験(ACE)のある親子支援ガイド』『2E 得意なこと苦手なことが極端なきみへ』(いずれも合同出版)、『発達障害の子どもに自立力をつける本』(講談社)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。