インタビュー/教育を考える 2025.3.9

親が困る質問の代表格。「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」にはこう答える

親が困る質問の代表格。「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」にはこう答える

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「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」と子どもから聞かれたとき、あなたならどう答えるでしょう? ついはぐらかしたくもなりますが、性教育を専門のひとつとする臨床心理士の高山恵子さんは、「正しい知識を教える絶好のチャンス」だととらえてほしいといいます。その具体的な答え方をレクチャーしてもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもからの質問は正しい知識を教えるチャンス

子どもから「赤ちゃんはどこからくるの?」と聞かれたときを想像すると、どう答えていいかわからないという親御さんはたくさんいます。

このときに注意してほしいのは、「知らないよ」「鳥さんが運んでくるんだよ」などとはぐらかしたり嘘をついたりしないことです。子どもはいずれ真実を知ることになり、嘘はバレますから、親子関係に悪影響が及ぶ可能性もあります。

この質問は、一般的に3歳〜5歳頃の子どもに多く見られます。性的な意味合いからではなく純粋な好奇心からそう聞いているだけのことですから、「正しい知識を伝えられるチャンスだ」と前向きにとらえてほしいのです。

そのときには、性教育の絵本を使うことがおすすめです。その理由は、絵があることで、まったく知識のない子どもでも理解しやすいから。女の人の脚と脚のあいだには3つの穴があること、前から順に「おしっこが出る穴(尿道口)」「赤ちゃんが出る穴(膣口)」「うんちが出る穴(肛門)」だということ、「赤ちゃんが通る道(膣)」があってその出口が膣口だということを教えましょう。

また、帝王切開で生まれる子どももいますから、「赤ちゃんがうまく道を通れないときは、お医者さんがお母さんのおなかを切って手助けしてくれることもあるんだよ」と、ここでも正しい知識を伝えてください。

加えて、子どもがこの質問をしてきたときは、「お腹が大きい女の人は、赤ちゃんを大切に育てているんだよ。だから電車では席を譲ろうね」といった具合にマナーなど社会性を育むチャンスでもあるので、教えどきを逃さないようにしてほしいと思います。

パパに抱っこされる新生児

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「アタッチメント(愛着)」を育み、親子間の信頼関係を築く

子どもがもう少し成長すると、「セックスってなに?」と聞かれることも出てきます。このときにも、同じように絵本を使って丁寧に正しい知識を伝えてあげましょう。

男の人と女の人はそれぞれ赤ちゃんのもとになるものをもっていること、赤ちゃんが生まれてくる穴に大きくなったおちんちんを入れることがセックスだということ、赤ちゃんのもとになるものが一緒になったときに赤ちゃんができることを教えます。

虫などの生き物に興味をもつ子どもは多いですから、「カブトムシの交尾って知ってるよね? それもセックスだよ」と教えるのも手です。いずれにせよ、いやらしいことや性的なことというのではなく、先生になって授業でもしているつもりで正しい知識を淡々と教えることがポイントです。

そして、これは根本的な話になりますが、子どもに正しい性の知識を伝えたりよりよい方向に導いたりするためにも、親子のあいだにきちんと信頼関係を築いておくことが大切です。信頼関係が築けていれば、「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」といった疑問を子どもがもったときに限らず、性に関して悩んだり困ったりしたときに、親にちゃんと相談してくれるからです。

そうするには、いわゆる「アタッチメント(愛着)」を育むことが不可欠です。日常的なスキンシップや肯定的な言葉かけ、子どもの感情に寄り添って共感することなどで、アタッチメントと信頼関係は強化されていきます。

家族三人の写真

「なんで早く言わなかったの!」はNGワード

逆に、NGだと認識してほしいのは、子どもから相談をされたときに「なんで早くいわなかったの!」という言葉。大人と比べて経験に乏しく成長過程にある子どもは、とても繊細です。そのため、「自分の体がどんどん変わってきた」「友だちとおちんちんのかたちがちがう気がする」といった些細なことでも大きな不安に襲われます。「性器にかゆみがある」「同級生に体を触られる」といったトラブルを抱えているような場合なら、その不安はさらに大きなものになり、親にもなかなか相談できないものです。

しかし、親は、子どもの言動に対して評価してしまいがちです。そのため、子どもがなんらかの相談してきたときにも、つい「もっと早く相談してくれたらよかったのに!」という言葉が口をつくのです。

でも、子どもは子どもなりに悩んだり困ったりして、「これは自分ではどうにもならない」「やっぱりお父さんとお母さんに相談しよう」と、勇気を振り絞って相談してくれたのです。そのタイミングが親側の勝手な希望とずれただけなのですから、子どもを責めてはいけません。

せっかく子どもが相談してくれたのに「言うのが遅い」と責めると、子どもは親に対してSOSを発さなくなってしまいます。ひとりで悩みを抱え込んでしまうようになり、親子間の信頼関係は崩れていくでしょう。「そんなこと聞かないの!」や「そんなの大したことじゃないでしょ」などの言葉ももちろんNGです。これらの場合、質問や相談する相手があなたではなく、信頼性が怪しいネットや友人に変わってしまうかもしれません。

代わりに、「よく相談してくれたね、嬉しいよ」という言葉を伝えてください。そうすれば、子どもは「お父さんとお母さんは自分の味方だ」と感じ、その後も事あるごとに相談してくれるようになります。親としてこれほど安心できることはありませんよね。

高山恵子先生

親子で話そう! 性のこと
高山恵子・佐々木睦美 著/Gakken(2024)
親子で話そう!性のこと表紙

■ 臨床心理士・高山恵子さん インタビュー一覧
第1回:3歳から始める性教育、基本のキ。嫌なときは「No!」と言う練習をしよう
第2回:専門家に聞いた「性器いじりへの対応」と「性器のケアを習慣にする年齢」
第3回:親が困る質問の代表格。「赤ちゃんはどこからくるの?」「セックスってなに?」にはこう答える

【プロフィール】
高山恵子(たかやま・けいこ)
東京都出身。NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。アメリカ・トリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。帰国後、児童養護施設、学校、保健所での発達相談や保育所・幼稚園での巡回指導で臨床に携わる。専門はADHD児・者の教育とカウンセリング。当事者であり専門家でもある経験を活かし、ハーティック研究所を設立。教育関係者、保育者などを対象としたセミナー講師としても活躍中。『しからずにすむ子育てのヒント 新装版』(Gakken)、『自分のよさを引き出す33のワーク』『発達障害・愛着障害・小児期逆境体験(ACE)のある親子支援ガイド』『2E 得意なこと苦手なことが極端なきみへ』(いずれも合同出版)、『発達障害の子どもに自立力をつける本』(講談社)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。