教育を考える 2024.7.30

慎重すぎる子も、落ち着きのない子も大丈夫。子どもの個性の伸ばし方

長野真弓
慎重すぎる子も、落ち着きのない子も大丈夫。子どもの個性の伸ばし方

「うちの子、泣き虫で……もっとたくましくなってもらわないと心配」
「なにをやっても集中力がなくて、落ち着きもない……困ったな」

子どもの性格について、親の心配はつきないもの。「性格だから仕方ないの?」「個性として済ませてしまっていいの?」など、モヤモヤしていませんか。

じつは、子どもの「性格」や「個性」は変わります! 詳しく説明していきましょう。

「気質」は変わらない。でも「性格」「個性」は変わります!

泣き虫、引っ込み思案、落ち着きがない――など、子どもの「性格」や「個性」は、年齢を重ねるにつれて変化していきます

発達心理学の専門家で白百合女子大学教授の秦野悦子氏によると、「気質」は生まれつきのものだけれど、「性格」は成長とともに変わっていくものなのだそう。

「人間には生まれながらに持ち合わせた『気質』があります。気質とは、外からの刺激に対する反応のしかたの傾向(行動特性)のこと。たとえば、痛みに対して過敏な人もいれば、耐性が高い人もいます。そのような反応のしかたの傾向のことです。性格は、気質をベースにして人とのかかわりや環境などの影響を受けながら、成長とともに形づくられていくものですが、気質はその人の核となるもので、基本的に変わることはありません」

(引用元:たまひよ|かんしゃく持ち、引っ込み思案、泣き虫…子どもの性格って、変えられるの?)※太字は編集部が施した

つまり、子どもの性格は「気質」+「人とのかかわり」+「環境」でつくられるのです。とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃんの「気質」は、親であってもわかりませんよね。では、子どもの「気質」や「性格」はいつ頃から出てくるのでしょう?

秦野氏の見解では、子どもの「気質がはっきりと表れてくる」のは、表情が豊かになり、喜怒哀楽がはっきりと現れ始める生後2、3か月頃から。そして「性格がはっきりしてくる」のは、子どもの自我が芽生えて、自分の意思を積極的に表現するようになる2歳頃からとのこと。お母さん、お父さんを困らせる、あの “イヤイヤ期” の時期ですね。(カギカッコ内引用元:同上)

乳幼児発達論が専門で北海道大学大学院准教授の川田学氏もやはり、「気質」は変わらないと断言。一方で「個性」については変化する可能性を指摘し、子どもによっては「数か月の間に、大きく変化することもある」とも話しています。たとえば、乳児期に穏やかだった子どもが、驚くほど活発で精力的な性格に変わることもあるのだとか……。

〇〇ちゃんは積極的なのに、うちの子はいつも人見知りで……と、悩んでいる親御さんは多いのではないでしょうか? でも、心配ありません。「人間の成長・発達で興味深いところは、前向きで外向的・社交的に見える人が、意外とずっとそのままではないこと」と、川田氏が言うように、個性は変わっていくのです。

また、保育に関する多くの著書があり、保育施設・りんごの木代表の柴田愛子氏も、個性は変わるとしているひとり。そして、親が子どもの個性を心配する原因を、「自分の子どもを他の子と比べてしまい、『わが子の個性がずっと続いていく』と思いがち」だから、と分析しています。落ち着きがなかったり、慎重すぎる傾向があったりしても、子どもの個性は、集団生活を送るなかで、まわりの人や環境の影響を受けてどんどん変わっていくのです。

柴田氏によると、控えめだった子どもが周囲の影響を受けて、「なんでもいちばんになりたい」と意欲的な姿勢を見せることもあるのだそう。ですから、あまり心配せず、比較せずに見守っていきましょう。(カギカッコ内引用元:NHKすくすく子育て|子どもの個性どう伸ばす?

専門家の意見をまとめると、以下になります。

【気質】・・・変わらない(生後2、3か月頃から気質が出てくる)
【性格】・・・成長とともに変わる(2歳前後から性格がはっきり出てくる)
【個性】・・・成長とともに変わる

とはいえ、「いま、子どもの個性に困っている」「子どもの性格のせいで、毎日へとへとだ」などの悩みがある親御さんも少なくないでしょう。次項からは、「慎重すぎる子ども」「落ち着きのない子ども」の性格・個性ついて分析していきます。

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慎重すぎる子どもは「まわりをよく観察している」

子どもの「性格」や「個性」について悩む親御さんのなかで、特に多いのは「慎重すぎる子ども」「落ち着きがない子ども」の2つではないでしょうか。ここでは、その2つの性格・個性について考えていきます。

子どもが慎重すぎる場合、次のような行動が多いかもしれません。

  • 恥ずかしがって、友だちの輪に入っていけない。
  • 入園や入学、進学など、新しい環境になかなか馴染めない。
  • いつもなにかを心配して不安になっている。
  • やりたいことがあっても、失敗を恐れてなかなか実行できない。
  • 周りの様子を伺ってから行動に移すので、なにをするにも時間がかかる。

このような行動は、積極性に欠け、チャレンジ精神が乏しいと受け取られがちです。しかし、柴田氏は「慎重さが一生そのまま続くのは、あまりない」と指摘します。慎重すぎる子は、「中と外をよくわかっていて、外では力が入る」「警戒しながら、安心できる親の背中からいろんな子を観察している」のだそう。

つまり、場所や状況に応じて行動を変える賢さをもっているのです。親が「安心の基地」になることで、子どもは徐々に世界を広げていけます。無理に促すのではなく、子どもの挑戦を温かく受け止めてあげましょう。親の「背中を押さない努力」が大切だと柴田氏も話していますよ。(カギカッコ内引用元:同上)

そもそも「慎重である」ことは決して悪いことではありません。ポジティブな面にも目を向けてみましょう。臨床心理士の吉田美智子氏は、慎重な子どもの長所について、「周りの様子をよく見ている」ため、「自分が直接体験しなくても、どう振舞うべきか学んで」いるし、「予測を立てることも上手」と評価しています。(カギカッコ内引用元:Domani|「積極的な子」or「消極的な子」我が子はどっち⁉︎専門家が語る子育てポイント

周囲を気にして行動することは協調性に繋がりますし、よく考えて行動するならば、論理的思考力が高いのではないでしょうか。前出の川田氏は「いろいろな経験を積んで、個性が花開いていく」と述べています。成長していく子どもを見守っていきましょう。

娘を慰める母

落ち着きのない子どもは「発想力を広げている」

次に、「落ち着きのない子ども」の行動パターンを見ていきます。

  • 同じ場所にじっと座っていられず、そわそわしてしまう。
  • 動きがパワフルで、いつもせわしなく動き回っている。
  • 遊びでも勉強でも、ひとつのことに集中できず気が散りやすい。
  • 思ったこと、やりたいことを考えなしにすぐ言動に移してしまう。
  • おしゃべりが止まらず、場面を問わずよく話す傾向がある。

小学館Hugkumが、0~12歳の子どもをもつ親を対象に行なった調査によると、上記のような子どもの「落ち着きのなさ」を感じた親は、なんと約8割にのぼりました。多くの親御さんが、なにかしらの場面で「うちの子は落ち着きがない」と思っているのです。ですから、「子どもはそもそも落ち着きがないのだ」と考えてみませんか?

心理学者で東京学芸大学教育学部教授の松尾直博氏は、「発達的に見て、子どもはそもそも落ち着かないもの」であるとし、落ち着きのなさには「脳の成熟度」も関係してくると述べています。

落ち着きに関する脳の機能は、成熟が比較的ゆっくりなので、年齢が低いほど落ち着かないのは、ある程度当たり前のことです。3歳の子より6歳の子、6歳の子より12歳の子のほうが落ち着いているのは、落ち着きをコントロールする学習や経験の差だけではなく、脳の成熟の影響も大きいと考えることが大切です。

(引用元:ベネッセ教育情報|子どもの落ち着きがない原因と対応法を教育心理学の専門家が解説

つまり、年齢が低いほど落ち着きがないのは自然な発達過程なのです。脳の成熟と経験の積み重ねが、徐々に自制心を育てていきます。しかも、松尾氏によれば、落ち着かないからこそ、子どもの発想や可能性は広がるのだそうです。(カギカッコ内引用元:ベネッセ教育情報|子どもの落ち着きがない原因と対応法を教育心理学の専門家が解説

落ち着かない子どもにイライラしそうになったときは、「いま、わが子のクリエイティブな発想力が育っているのだ!」と考えてみましょう。

庭のホースで水遊びをする兄妹

子どもの「個性」を伸ばす考え方

最後に、子どもの「個性」を伸ばす考え方をご紹介しましょう。

考え方1:早い時期に子どもの「個性」を決めつけない

まず注意したいのは、早い時期に子どもの「個性」を決めつけないことです。柴田氏が指摘するように、「子どもの個性は流動的」。以前は慎重だった子どもが、活発な友だちとの出会いをきっかけに、魔法がかかったようにどんどんチャレンジする子に変化したという、柴田氏の実体験もありますよ。成長とともに、子どもの「個性」は変わるので、親は将来を予測して心配しすぎないようにしましょう。

考え方2:子どもの「個性」を伸ばそうと “親が頑張らない”

子どもの「個性」にキラリと光るものがあっても、親が「頑張って」伸ばそうとするのはNGです。そんな親のプレッシャーに子どもは苦しくなってしまいます。川田氏は、子どもの「個性」を高く評価する親の姿勢、いわゆる「親ばかパワー」は、ほどほどにすべきだと注意を促します。あくまでも主役は子ども。「子どもを追い詰めるほど強すぎない、おおらかな親ばかぐらいが、ちょうどいい」そうです。(カギカッコ内引用元:NHKすくすく子育て|子どもの個性どう伸ばす?

***
「おとなしすぎるから、もっと積極的になってほしい」「元気すぎるから、もっと落ち着いてほしい」など、親は子どもの性格・個性について、ないものねだりをする傾向にあるのかもしれません。しかし「子どもの個性は流動的」ですから、プレッシャーをかけずに、「おおらかな親ばか」で見守っていきましょう。

(参考)
たまひよ|かんしゃく持ち、引っ込み思案、泣き虫…子どもの性格って、変えられるの?
HugKum|子どもに落ち着きがない原因はなぜ?親ができる正しい理解と対処法
ベネッセ教育情報|子どもの落ち着きがない原因と対応法を教育心理学の専門家が解説
NHKすくすく子育て|子どもの個性どう伸ばす?
Domani|「積極的な子」or「消極的な子」我が子はどっち⁉︎専門家が語る子育てポイント