子どもの習い事は英語にしようかな、それともピアノがいいかな? このように迷う方も少なくないはず。
一見まったくの別物に見える「語学」と「音楽」。でも実は、この2つは深く関係しています。
実際のところ、音楽の習い事と英語学習は、どう関わっているのでしょうか? 海外の研究事例をもとに解説します。
音楽のレッスンを受けている子どもは外国語習得能力が高い
音楽を習うことで耳が良くなり、英語のリスニング力が上がるというのは、なんとなく想像できますね。でも実は、それだけではありません。
なんと、正確に発音する力、言葉を記憶する力、文法の判断力、文章の理解力においても、音楽経験が豊富な人はそうでない人に比べて優れているようです。
メルボルン大学のGary E. McPherson教授は、音楽経験の豊富な人に見られる高い言語能力として、こんな力を挙げています。
- 目にした単語のリストや短い言葉を覚える
- 例外的なスペルの単語を正しく発音する
- 文法の正誤判断をする
- 複雑で長い文章を理解し、記憶する
(引用元:Gary E. McPherson, The Child As Musician: A Handbook of Musical Development (2015), Oxford University Press.)
Gary教授はさらに、子どもに特化し、このような先行研究の事例を挙げています。
たとえ子どもの年齢やIQは同じでも、楽器を習っていたり、音楽のレッスンを受けているだけで、こんなにも差が出るのだとか。
- (6~12歳)発音・語彙・文章理解力において外国語を習得する能力が高い
- (6~9歳)文中に足りない単語を見つける等、文章を精読する力が優れている
- (8~9歳の男児)綴りのミスが少ない
- (8~11歳)語彙が多い
(引用元:Gary E. McPherson, The Child As Musician: A Handbook of Musical Development (2015), Oxford University Press.)
つまり、音楽を習うことは、外国語学習全体によい影響を与えるというのです。
英語の聞き取りトレーニングで、音楽を聞き分ける能力まで向上
そして、その逆もあります。フィンランドのユヴァスキュラ大学のRiia Milovanov氏とMari Tervaniemi氏は、英語の正確な発音を聞き取る力と、音楽の音そのものの聞き取り能力の関係を調べました。
実験に参加したすべての子どもたちが、8週間にわたって、週に5回、5~7分間の、英語の聞き取りトレーニングを受けました。主に、母語のフィンランド語には存在しないような英語の音を聞き分ける練習で、トレーニング前後に発音と音楽の聞き取りテストが実施されました。
すると、このトレーニングを通して、子どもたちの英語の音を聞き分ける能力が伸びたのはもちろんのこと、なんと音楽の音そのものを識別する能力まで伸びていました。これは特に、トレーニング後に英語力の伸びが大きかったグループにおいて顕著だったようです。
英語の学習によって、音楽の力も伸びる。意外に思われるかもしれませんが、やはり外国語の発音と音そのものの聞き取りは、共通するところがあるのですね。
英語の発音が上手な子どもは、音色の区別やリズム感に優れている
外国語の音を正しく聞けることができれば、自分で話すときに正確な発音もしやすくなります。聞けない音は、自分で発することもできません。リスニングとスピーキングは深く関係しているのです。
上記でご紹介したフィンランドの研究者は、言語の発音スキルと音楽スキルの関係も調べました。まず、フィンランド語を母国語とする子どもを、英語の発音が良い20人とそうではない20人に分けます。
両方のグループに、音の高低や大小、リズムや長さ、音色の区別や音の記憶保持力などを総合的に判断する音楽のテストを受けてもらい、その成績を比較しました。
その結果、英語を正確に発音できていた子どもたちのほうが、音楽のテストにおいても秀でていることが判明します。具体的には、音の高低や音色の区別、リズム感において優れていたのだとか。
冒頭のGary教授が並べたデータも示唆しているように、正しく発音する力と音楽のスキルは、密接に結びついているのですね。
幼い頃に音楽を習うと、一生にわたって外国語に強くなる?
音楽と語学が双方によい影響を与えるのはわかった。でも、学校での英語の勉強や様々な科目の宿題に加えて、ピアノなどの習い事を長期間続けるのは、実際のところ難しい。そう思った方もいるかもしれません。
でも安心してください。アメリカのノースウェスタン大学の発表によると、幼少期に1~5年間の音楽経験がある子どもは、それだけで複雑な音の脳内処理能力が高まり、言語と音楽に対する知覚能力が育つそう。
神経生物学者のNina Kraus教授は、こう話しています。
幼少期の音楽の習い事は、お子さんの一生をよりよいものにします。たとえ音楽のレッスンを受けるのは短い間でも、一生にわたって、その子の学習能力と聞き取り能力を高めてくれるのです。
(引用:NORTHWESTERN NOW|Little Music Training Goes A Long Way)
ピアノを始めたものの、長続きしなくて1年でやめてしまった。バイオリンを習っていたが、学校が忙しくなりやめてしまった……。中にはこんな方もいるかもしれませんね。
しかしたとえ短い期間でも、音楽にふれた経験は、決して無駄にはなりません。一生にわたり、音楽は学習全般によい影響を与え続けてくれるのですから。
そして幼少期の音楽経験は、その後の外国語学習にも、一役買ってくれることでしょう。
(参考)
Gary E. McPherson, The Child As Musician: A Handbook of Musical Development (2015), Oxford University Press.
NORTHWESTERN NOW|Little Music Training Goes A Long Way
NCBI| The Interplay between Musical and Linguistic Aptitudes: A Review
NCBI| Recent and past musical activity predicts cognitive aging variability: direct comparison with general lifestyle activities.
Google Books|The relationship between music and language