教育を考える/本・絵本 2018.8.9

なぜ食い違う?『親が読ませたい本』と『子どもが読みたい本』。うまく折り合いをつける秘訣

編集部
なぜ食い違う?『親が読ませたい本』と『子どもが読みたい本』。うまく折り合いをつける秘訣

子どもには、長く読み継がれてきた名作をたくさん読んで豊かな心を育んでほしい。親はそう願うものです。その一方で、彼らが手に取るのは、何度も読んで一言一句覚えてしまったお気に入りの1冊だったり、主人公とその仲間がドタバタ劇を繰り広げるシリーズものだったりすることが少なくありません。

親が「読ませたい本」子どもが「読みたい本」は往々にして食い違うもの。本を読むことが好きになった子どもの興味を失わせないよう、親子間でどうやって折り合いをつければ良いのか考えてみます。

何度も同じ絵本を読んでほしいとせがむ子どもとの折り合いのつけ方

絵本の読み聞かせをすると、子どもから「もういっかい」「さいしょから」とリクエストをされることがよくあります。いつも同じ絵本ばかりでどこがそんなに面白いのだろうか、たまにはほかの物語も楽しんでほしい、と思ったことはありませんか?

公立保育園での現場経験が豊富な保育士の安井素子氏は、同じ本を読んでほしいとせがむ子どもの心理を「いないいないばあ」を楽しむ心理と比較して、次のように述べています。

「いないいないばあ」を楽しむ時期の子は、記憶することができるようになり、予測したとおりのことが起きることを喜ぶ。それから、転んでも転んでも、起きあがって歩こうとする時期がある。気に入ったおもちゃをずっと大事にしていたり、同じフレーズばかりをおもしろがって言っていたりする時期もある。
どうも子どもたちのなかで、「くりかえす」って意味のあることで、そのことでまちがいなく成長しているようなのだ。

絵本を読み終えて、「もっかい」と言ったら、また読んでもらえる経験をすること。それから、「もっと見たい!」という意欲や「おもしろい! 大好き!」という気持ち、「結果を得られて満足する」という充実感。こういうことは、子どもたちにとってとても大事なことだと思うのです。

(引用元:Kaisei web(偕成社)|保育士によるはじめての絵本選び第3回「もう1回!」子どもが同じ本ばかり読みたがります

この「いないいないばあ」による繰り返し遊びは、発達心理学の面でも子どもの記憶力アップにつながるとされています。お茶の水女子大学名誉教授の内田伸子氏によると、「いないいないばあ」をしてたくさん笑うことで、子どもの脳内では快・不快感情を司る偏桃体が「快」を感じとり、その後ろにある海馬が活発に動くようになるのだそう。

一時本やテレビ番組で多く取り上げられたことから、海馬が記憶力に欠かせない脳の一部であることはよく知られています。脳が楽しいと感じる繰り返し作業によって記憶力がアップするのであれば、何度も同じ本を読んでほしいというリクエストには応えてあげたほうがよさそうですね。

しかし、同じことの繰り返しで子どもたちは心が安定し、記憶力も向上するとはいえ、実際に何回も何日も同じ本を読み聞かせをする親は大変です。そして、子どもの「読んでほしい」に応えるあまり、親がガマンして辛そうにしている様子は、子どもに「本は面白くないもの」と印象づけてしまいます。そういうときは「今日は3回までね」と事前に読む回数を区切ったり、「明日もう1回読んであげるね」と続きがあることを伝えたりすると良いでしょう。

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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似たような本を選んで買おうとする子どもとの折り合いのつけ方

書店で「好きな本を選びなさい」と子どもに言ってみたけれど、ついつい「この本はちょっと良くない」とか「毎回このシリーズじゃなくて、たまには違うものを買ったら?」などと、選び方に口を出してしまうことはないでしょうか。親はせっかく買い与えるのであれば、子どもには “良質でためになる”、そして “さまざまなジャンルの” 本を選びたいと思うものです。

子どもが選んだ本に対して親はどのように対応すれば良いのか、教育評論家の親野智可等氏が自身のサイトで具体的な例を挙げています。

[問題]
小学2年生の息子は自動車大好き人間です。見る本といえば自動車の本だし、遊ぶおもちゃといえば自動車のおもちゃです。友達と遊ぶときも自動車ごっこだし、絵を描けば自動車の絵です。親としては、もっと別のことにも興味を持たせた方がいいのではないかと心配になってきました。幼稚園や保育園の子ならともかく、来年はもう小学3年生なのです。

そんなある日、本屋に行きました。さっそく息子は自動車の本を3冊選んで、買って欲しいと持ってきました。あなたの行動は、次のどれになりそうですか?

A.その自動車の本を3冊買ってやり、もう1冊、親が読ませたい本を買う
B.その自動車の本を3冊買ってやる
C.その自動車の本を2冊買ってやり、もう1冊は親が読ませたい本を買う
D.その自動車の本を1冊買ってやり、もう2冊は親が読ませたい本を買う

(引用元:親力講座|子どもの好きな本vs親が読ませたい本。読書好きにするには?

このケースで親野氏がすすめているのは
A.その自動車の本を3冊買ってやり、もう1冊、親が読ませたい本を買う
です。

子どもは好きなことや得意なことから伸ばしてやることが大切で、まずは子どもの興味を満たすことを優先するべきだと言います。そのうえで、別のことへの興味を促すためのプラスαの1冊を買い与えるのが良さそうです。もちろんそこで親の価値観を押しつけすぎないように気をつけましょう。

何冊も本を買い与えることが難しければ、子どもが選んだ本をなるべく買ってあげるようにして、親が買い与えたいと思う本は図書館で借りるという手もあります。親が読ませたい「名作」は、たいてい図書館にそろっているものです。

親が読ませたいと思う本をどうやって読ませるか

子どもが読みたい本との折り合いをつけながら、名作やロングセラーも手に取ってほしいと思うものです。しかし、こうした親心に対して、編集者であり著述家の松岡正剛氏は、「子どもに読ませたい本」として挙がる数々の本は、誰にとっても良い本とは限らない、と注意を喚起しています。同じ人が同じ本を読んだとしても、いつどんなきっかけで読むか、自分の心がどのような状態かによって、本の魅力に引き込まれることもあれば、そうでないことも。

つまり、少し極端ですが「良い本だから」「名作だから」という理由で、子どもに本を読ませることにメリットはほとんどないとも言えそうです。子どもがいつもと違う本を手に取るように親が促せる一番効果的な方法、それは「親がその本を楽しそうに読んでいる姿を見せること」と松岡氏は提案しています。

また親も、子どもが読んでいる本を読んでみると、その本について親子で話すことができます。意外と子どもは本の内容を理解していて、大人が気づかない視点を突いてきて、ドキッとさせられることもあります。本を介してコミュニケーションをとりながら、子どもがどんなことに興味をもっているのかを探るのです。その結果、「こんな本もあるけれど、次に読んでみない?」と、さりげなく子どもの読書の幅を広げていくことも可能になります。

***
読ませたいと思う本があったら、子どもの隣で実際にその本を広げて、読んでいる姿を見せましょう。パパやママが面白がっている本には何が書いてあるんだろう、と子どもが興味を示したら大成功。「これを読みなさい」と手渡すだけでなく、一緒に読むことが、読ませたい本と読みたい本の折り合いをつける最善の方法と言えそうです。

(参考)
ポプラ社|小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙
親力講座|子どもの好きな本vs親が読ませたい本。読書好きにするには?
Kaisei web(偕成社)|保育士によるはじめての絵本選び第3回「もう1回!」子どもが同じ本ばかり読みたがります
AERA.dot|「いないいないばあ」遊びが赤ちゃんの脳にいい理由
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