「まだ寝ないの?」「朝、何回起こしても起きない」「習い事のあとだと、寝るのがどうしても10時になる」
夜は寝ない、朝は起きない。そのまま登校していく背中を見送りながら、お父さんお母さんの気がかりは、結局のところ「この子、授業中に頭が働いているのだろうか」に行き着きます。
多くのご家庭では、「何時に寝かせるか」を先に決めています。ところが、寝かせたい時刻と、子どもが実際に眠りにつく時刻は、毎晩少しずつずれていくもの。じつは、就寝時刻は「決める」ものではなく、起きる時刻から「逆算する」もの。年齢ごとの必要睡眠時間さえ押さえておけば、答えは表を引くだけで出ます。
目次
睡眠と学力の、見過ごせない関係
睡眠不足の子どもは、テストの点数や授業の理解度が下がりやすく、長期的には学力差にもつながるとされています。記憶を整理して定着させる働きが、睡眠中の脳で行われているためです。記憶の司令塔である海馬も、十分な睡眠がなければ働きが落ちると考えられています。(東京科学大学、駒田陽子教授)*1
体の成長にとっても、睡眠は欠かせません。睡眠中には成長ホルモンが分泌され、骨や筋肉の発達と記憶の整理が進みます。(元養護教諭、宍戸洲美氏)「寝る子は育つ」は、勉強にも体力にも当てはまる言葉です。
もうひとつ押さえておきたいのが、子どもの睡眠不足は「性格の問題ではなく、環境や習慣に起因する」という視点です。(元養護教諭、宍戸洲美氏)夜更かしはその子の気質ではなく、就寝時刻の設計の問題。設計を変えれば、変わる余地があります。
📖 調査でも、こう示されています
子どもの睡眠は、学年が上がるほど削られていきます。博報堂教育財団こども研究所が2025年1月、全国の小学4年生〜中学3年生600人を対象に行った調査では、平日の平均睡眠時間は小学生(4〜6年生)が8時間56分、中学生が7時間57分でした。平均就寝時刻は小学生が21時46分、中学生が22時46分で、中学生になるとおよそ1時間遅くなります。*2 小学生の平均でも、このあと紹介する推奨時間の下限「9時間」にわずかに届いていません。
睡眠不足が増えている背景や、質を高める寝具・照明の工夫は、こどもまなびラボの「子どもの睡眠時間が足りない……。心身の健康のために親がしてあげられること」で詳しく扱っています。ここから先は、「では何時に寝かせればいいのか」を、数字で決めていきます。

何時間眠れば足りる? 年齢別の目安
子どもは何時間眠れば足りるのでしょうか。米国睡眠財団(National Sleep Foundation)は、幼児(3〜5歳)に10〜13時間、小学生を含む学童期(6〜13歳)に9〜11時間、14〜17歳に8〜10時間の睡眠を推奨しています。*3 また、理想の目安として「5歳で11時間、小学生で10時間程度」を挙げる小児科医もいます。(文教大学、成田奈緒子教授・小児科医)財団の示す幅の、ちょうど真ん中あたりにあたる数字です。
※米国睡眠財団の推奨時間は1日あたりの合計で、幼児の場合は昼寝も含みます。
幼児の幅が小学生より長いのには、理由があります。脳は、「起きる、寝る、食べる」を担う「からだの脳」が0〜5歳頃に、言葉や知識を担う「おりこうさんの脳」が1〜18歳頃に、感情のコントロールや思考・判断を担う「こころの脳」が10歳頃から、という順番で育っていくと考えられています。(文教大学、成田奈緒子教授・小児科医)*4 土台となるからだの脳が育つ5歳頃までは、睡眠がそのまま脳を育てる時間になります。
「9時間なんて、とても……」と思われたお母さんもいるでしょう。ですが、この9時間は小学生の推奨範囲の下限です。ここを割る日が続くほど、記憶を整理して定着させる時間が、毎晩少しずつ削られていくことになります。
起床時刻から逆算する、就寝時刻の早見表
必要な時間がわかれば、あとは引き算です。就寝時刻=起床時刻−必要睡眠時間。起床時刻を先に固定するのは、朝は学校や園の時間で決まっていて動かせないから。動かせるのは夜だけです。
その引き算を、起床時刻ごとに済ませたのが次の早見表です。「目安」の行は専門家の示す理想の時間、「下限」の行は米国睡眠財団の推奨範囲の下端で計算しています。
表の見方はこうです。小学3年生で朝6時30分に起きるなら、目安の10時間を引いて20時30分。4歳で朝7時に起きるなら、目安の11時間を引いて20時。「習い事のあとだと10時になる」ケースを当てはめると、起床6時30分で睡眠は8時間30分。小学生の下限9時間を、その曜日だけ30分割っている計算です。
「20時台なんて、うちでは無理」。そう感じたご家庭ほど、まず「下限」の行を見てください。目安の行は目標、下限の行は守るライン。下限を守れれば、それだけで睡眠が延びるご家庭も多いはずです。
ひとつ注意があります。表の時刻は「布団に入る時刻」ではなく「眠りにつく時刻」です。布団に入ってから寝入るまでの時間のぶん、さらに前に見ておく必要があります。寝かしつけの工夫や、夜更かし・スマホ対策も含めて広く押さえたい方は、こどもまなびラボの「大谷翔平選手の10時間睡眠に学ぶ! 子どもの成績・体力が劇的に変わる睡眠術」にまとめています。

就寝時刻を10分ずつ前倒しする3ステップ
表で目標の時刻が出ても、今夜からいきなり1時間早く寝かせるのは、まずうまくいきません。「眠くない」と言う子を布団に押し込んでも、眠気は来ないからです。東京都医師会は、生活リズムを改善するなら「早寝」ではなく「早起き」から始めることを勧めています。また、早起きを1週間続けると、早寝・早起きの習慣がついてくるともいわれます。(文教大学、成田奈緒子教授・小児科医)そこで、夜ではなく朝から手をつける次の3ステップで進めます。
ステップ1:起床時刻を先に固定して、いまの就寝時刻を1週間書き出す
最初の1週間は、就寝時刻を動かしません。起床時刻だけを固定し、休日も同じ時刻に起こし、カーテンを開けて朝の光を入れます。体内時計は光で動くので、朝の光が「起きる時間」を体に教えてくれます。同時に、毎晩「実際に眠った時刻」をメモしておきます。目標との差が、ここで初めて数字になります。
ステップ2:差を10分刻みに分けて、3〜4日ごとに「寝る前の合図」を10分早める
たとえば現在21時30分、目標20時30分なら、差は60分=10分×6回。3〜4日ごとに10分ずつ前倒しすれば、3週間ほどで目標に着きます。動かすのは「布団に入る時刻」そのものより、その前の合図です。入浴の時刻、部屋の照明を落とす時刻、絵本を開く時刻。入浴は就寝の1時間前までに済ませ、照明は暗めにし、毎晩同じ流れを繰り返すと、それが「眠る合図」になるといわれます。(文教大学、成田奈緒子教授・小児科医)合図が少しずつ早まれば、眠気が来る時刻も前に寄せやすくなります。10分の差なら、子どもも「早く寝ろと言われた」とは感じにくいでしょう。
ステップ3:目標に着いたら、休日の起床時刻を動かさない
目標の時刻に着いたあとで崩れやすいのは、休日です。休日に遅く起きると平日との時差が生まれ、月曜の朝が重くなります。休日と平日の睡眠リズムの差が、時差ボケのように心身のリズムを乱すこの現象は、「ソーシャルジェットラグ」と呼ばれます。守るのは一点、休日も平日と同じ時刻に起きること。起床時刻さえ固定されていれば、就寝時刻も自然と戻りやすくなります。
「毎晩10時になってしまう」のは、親御さんの根気が足りないからではありません。逆算する表が手元になかっただけです。表があれば、答えは引き算で出ます。
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今夜は、明日の起床時刻から逆算した時刻をひとつ、表から拾ってみてください。そして最初の1週間は、寝る時刻ではなく起きる時刻だけを守る。始めるのは、それだけで十分です。
よくある質問(FAQ)
A. 翌朝の起床時刻をいつもどおりに保てば、リズムは崩れにくくなります。習い事の日は表の「下限」を目標に、帰宅後の入浴や消灯を少しずつ早めてみてください。遅れたぶんを休日の朝寝坊で取り返すのは避けましょう。
A. 表は「眠りについた時刻」で計算しているので、寝入るまでの時間は睡眠に含まれません。入浴を就寝1時間前までに終え、照明を暗めにして、毎晩同じ流れで過ごしてみてください。寝つけない日が続く、いびきが大きいなど気になる様子があれば、小児科で相談してみましょう。
A. やめさせる前に、長さと時間帯を見直してみてください。夕方近くまで眠ると、夜の眠気が来にくくなります。夕方まで眠ってしまった日も、翌朝の起床時刻だけはいつもどおりにしてリズムを戻しましょう。
A. 米国睡眠財団の推奨は、13歳までが9〜11時間、14〜17歳が8〜10時間です。逆算の考え方は同じなので、14歳以降は起床時刻から8〜10時間を引いた時刻を目安にしてください。
*1: こどもまなびラボ|大谷翔平選手の10時間睡眠に学ぶ! 子どもの成績・体力が劇的に変わる睡眠術
*2: 博報堂教育財団 こども研究所|どのくらい眠ってる?
*3: Hirshkowitz, M. et al. (2015)|National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health, 1(1), 40-43.
*4: こどもまなびラボ|子どもの睡眠時間が足りない……。心身の健康のために親がしてあげられること









