教育を考える 2018.10.22

子どもの「生きる力」がぐんぐん育つ! 家庭でできるピアジェ教育アプローチ。

編集部
子どもの「生きる力」がぐんぐん育つ! 家庭でできるピアジェ教育アプローチ。

スイスの発達心理学者のジャン・ピアジェという名は、心理学や教育学に関心がある人にとってはお馴染みかもしれません。当サイトですでに公開済みの記事『ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた』にもたくさんの反響がありました。

ピアジェは、子ども独自の発達段階があることを突き止め、子どもの認知発達を「感覚運動期(sensorimotor stage)」「前操作期(preoperational stage)」「具体的操作期(concrete-operational stage)」「形式的操作期(formal-operational stage)」の4段階に分けて提唱しました。

それまで考えられていた「子どもは小さい大人にすぎない」という概念は覆され、今では彼の理論は幼児教育の要となっています。このピアジェ教育とは、どのようなものか、また家庭でできることにはどんなことがあるのかを考えてみます。

ピアジェの認知発達:感覚運動期(sensorimotor stage)0~2歳

子どもはまず、自分の動きと感覚で外の世界を学んでいきます。赤ちゃんは、グーの形で握りしめた自分の手を口の中に何度も入れようとしたり、手に握ったガラガラを繰り返し振って音を出したりする時期がありますね。この「吸う」「叩く」といった動作を繰り返して、それに対して何度も反応することを「循環反応」と言います。

また、生まれて間もない子どもは、目に見えていないものはそこに存在しないと判断します。しかし子どもたちはこの時期をとおして、目には見えないけれど「そこにある」状態を理解するようになります。お気に入りのぬいぐるみをタオルで隠すと、子どもはぬいぐるみがなくなったと感じるのだそう。しかし成長するにつれ、タオルで隠れていて見えないけれどぬいぐるみは存在しているという「対象の永続性」を理解できるようになります。

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ピアジェの認知発達:前操作期(preoperational stage)2~7歳

この時期の子どもは、相手の立場で考えることがまだできないので、自分が知っていることは正しく絶対であり、相手も当然同じように理解していると思い込みやすい段階にあります。また、自分が「言葉」を使って考えたり伝えたりできるようになると、生き物以外にも感情があると思い、太陽や星、花などを描くときに顔を書き込むことや「ごっこ遊び」を頻繁に行います

さらに、1つの基準で物事を判断することが多い時期でもあります。例えば、ジュースを分けるとき、自分のコップに最後の一滴が入れば一番たくさんジュースを入れてもらえたと喜んだり、径の小さいコップであっても最もかさが高ければ自分のジュースが1番たくさん入っていると納得したりします。上の子と同じようにしてほしいとヘソを曲げないように、下の子にこの方法を使ったという経験はないでしょうか?

ピアジェの認知発達:具体的操作期(concrete-operational stage)7~11歳

この時期の子どもたちは認知発達が劇的に変わり、形が異なる2つのコップに入れられたジュースのかさが違っていても、もしかすると同じ量ずつ入っているのかもしれないと考えることができます。物事を体系的にとらえ、論理的に考えることができるようになるのです。

ピアジェの認知発達:形式的操作期(formal-operational stage)11歳~

前段階の具体的操作期にはできなかった抽象的な思考は、形式的操作期に入ると可能になります。例えば「AはBより重く、BはCより重い。AとCではどちらが重いか」という問題のような、仮定された命題から結論を導く「仮説演繹的思考」が身に付きます。算数の文章題を解くとき、問題に添えられた挿絵や図解がなくても頭の中でイメージして対応できるのもこの段階に当てはまります

この形式的な思考を展開して、身の回りにすでに存在している事物以外のことを理解し、道徳や哲学、社会、政治といった抽象的なものの考え方ができるようになるのです。

生きる力を育てる「ピアジェ教育」

ピアジェの理論をもとに開発された教材を使った幼児教育を「ピアジェ教育」と称し、これを取り入れている幼稚園や保育園もあるため、お子さんの入園先を検討するときに見聞きした人もいるでしょう。

子どもが自ら感じとり働きかけて得る学びは、これからの時代に必要となる「生きる力」を育てるのに必要不可欠なものです。

ピアジェは、子どもについて次のようなことを明らかにしています。

  • 子どもは小さなおとなではなく、各発達段階でそれ特有の感じ方や考え方をする独自の存在である。
  • 子どもはおとなの思考とは異なり、頭だけで考えるのではなく、身体も使って考える
  • 子どもの思考は論理的というよりも直感的であり、それだけに想像力が豊かにはたらく。
  • 子どもは人とのかかわりの中で、物事を自分の立場だけからみる自己中心的な見方を脱して、相手の立場にも立って考える見方が生まれ、自分の立場と相手の立場とをうまく協調させるようになっていく
  • 子どもの思考力は、正しい知識が累積されて発達していくのではなく、子どもが自分の考えの過ちに気づき、自ら修正していく活動を通して発達する。
  • 子どもが発達するには、遺伝や成熟のような個人の素質的なものだけでもなければ、訓練のような環境からのはたらきかけだけでもなく、子どもが自ら周りにかかわり、周りからの反応に即して子どもが新たな仕方でかかわっていくという相互作用が不可欠である。

(引用元:幼年教育|教育理念)太字は編集部にて施した

知識の詰め込みではなく、子ども自身が身体を使って自身で周りへ関わること、周りからの反応を受けてさらに関わる相互作用によって、積極的に考え、動き、学ぶことを大切にしているのです。

家庭でできるピアジェ教育アプローチ2

【幼児期~小学校低学年】家庭でできるピアジェ教育

家庭でもピアジェの提唱する教育アプローチに取り組むことはできます。

その場合は、先に述べた4つの認知発達に合わせることが大切です。こどもまなび☆ラボをご覧になっている方のお子さんに多い、幼児期から小学校低学年ごろは、ピアジェが提唱した認識発達の段階では「前操作期」にあたります。

今回はその「前操作期」にぴったりな、家庭でできるピアジェ教育を2つご紹介しましょう。

【ごっこ遊び】

相手の立場で物事を考えることがまだできない「前操作期」には、子どもたちの大好きな「ごっこ遊び」をたくさんすることをおすすめします。

とはいえ、悪役をやらされたり、お客さん役を永遠に演じなければならなかったり……、親にとって「ごっこ遊び」の相手をするのは、なかなかおっくうだったりしますよね。

しかし、この「ごっこ遊び」、教育効果がかなり高いのです。子どもはいろいろな人や物になりきることで、他者を演じることになります。そして、その人や物の気持ちや考えを、子どもなりに一生懸命想像するのです。そうすることで、他者(ときには物)への興味関心が高くなり、理解度がぐんぐん深まりますよ。

【料理の手伝い】

1つの基準で物事を判断することが多いこの時期の子どもには、食事の準備を手伝わせるのも効果的です。「おたまに1杯ずつスープをよそってくれる?」と、大きさや形の違う器に入れさせてみてください。同じ量なのに、見た目が変わることに気づくきっかけになるでしょう。

また、一緒にスーパーに行って、煮物に使う里芋を選ばせます。そして、その里芋を洗って皮をむくまでを見せてあげてください。里芋を洗うのは子どもにお願いしてもいいかもしれませんね。皮をむき終わった里芋も触らせてみましょう。

こうすると、店頭に並んでいたときの里芋の色洗ったあとの里芋の色皮をむいた里芋の手触りを覚え、五感をフルに使って学び取る「具体的操作」の段階へ進む足がかりにもなります。

それぞれの段階に見られる特徴を取り入ながら、大人から知識を与えるだけでなく、子どもが自分で感じて気づける機会を作るようにするのが大切です。

***
IT化やAIの発達によって、これから私たちがより豊かに生きていくには「知識より知恵」をいかに使っていけるかがカギとなります。子どもたちには、早い段階から物事の見方や考え方を身につけさせ、情報をいかに取捨選択し、その中から新しいものを見つけ出す力を養わせるピアジェ教育は、これからの社会にますます必要とされる考え方といえるでしょう。

(参考)
こどもまなび☆ラボ|ピアジェの心理学を知れば、子どもの発達がよく分かる!? 有名な「4つの発達段階」をまとめてみた
幼年教育|教育理念
学校法人聖英学園|ピアジェの部屋
北海道家庭医療学センター|人はどうやって認知発達をしていくのか?
幼年教育情報サイト ポプリス|ピアジェ理論への招待「子どもから出発する」幼児教育
Wikipedia|子どもの発達
橋本夏夜子, 水津久美子, 井上睦恵, 横山佳代子, 藤田千恵子, 足立蓉子, 長坂祐二, 三島正英(2011),「ピアジェの発達心理学にもとづく食に関する指導の授業実践」, 山口県立大学学術情報 4, 89-95, 2011-03-31.