教育を考える/芸術にふれる/アート/デザイン/本・絵本 2019.3.28

“ミッフィー” 生みの親、ディック・ブルーナの世界。子どもたちに希望をあたえる「うさこちゃん」絵本

長野真弓
“ミッフィー” 生みの親、ディック・ブルーナの世界。子どもたちに希望をあたえる「うさこちゃん」絵本

うさぎの大人気キャラクターのひとつ、ミッフィー。その愛すべき “うさこちゃん” を生み出したのは、オランダのグラフィックデザイナーであり絵本作家でもあるディック・ブルーナです。

こどもから大人までを魅了し続ける絵本の数々には、彼のこだわりと深い想いが詰まっています。可愛いだけではない、子どもたちにたくさんの気づきをくれるディック・ブルーナの世界をご紹介します。

ディック・ブルーナってどんな人?

ブルーナは1927年にオランダ、ユトレヒトで生まれ、両親の豊かな愛に恵まれて育ちました。子どもの頃から絵を描くことが大好きで、父親が出版社経営だったこともあり常に本に囲まれた環境のなか、レンブラントやゴッホの画集に特に衝撃を受けたそうです。

第二次世界大戦中に疎開した際は生活が大変ながらも、思う存分絵を描くことに没頭、充実した日々を過ごしました。父親の会社経営は継ぎませんでしたが、その出版社で年間100冊以上の装丁や宣伝用ポスターのデザインをこなすなど、グラフィックデザイナーとして成功を納めます。

26歳で初めてのオリジナル絵本を出版。2017年に89歳で亡くなるまで120冊以上の絵本を自身のアトリエで全てひとりで描き続けました

ブルーナのこだわり「シンプルであること」

ブルーナのいちばんのこだわりは、「シンプルであること」。それはフランスの画家マティスから大きな影響を受けたどり着いた、揺るぎない彼のこだわりなのです。

「子どもたちには、いろいろ知ってもらいたいし、多くのものを感じてもらいたい」けれど、押しつけるのは好きではないし、教えるという視点に立つことも嫌います。なぜなら、「子どもたちが自分のイマジネーションを使って、自然に吸収していくのがいちばんの学び方だと思うから」

(引用:講談社編集(2018),『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』, 講談社.)

そして、絵本に現れる彼のこだわりが次の3つです。

【線は手描き】
ブルーナは定規などを使わず手描きにこだわりました。そこには「絵本を通じて温かい気持ちを届けたい」という創作の原点が込められています。手描きならではの少し “震える線” はブルーナの “心臓の鼓動”、そして彼の個性なのです。

【厳選ブルーナカラーで表現する世界】
色には特にこだわりがありました。白と黒以外に使う色は6色のみ。茶色とグレーは動物を描くために必要に迫られて加えた2色で、思い入れがあるのは「赤」「黄」「青」「緑」の4色です。それぞれ独自の色味を作り上げるまでに2年も費やしたのだそう。絵本の中では、ミッフィーの気持ちを表したり、場所の使い分けに活用されています。

赤:ブルーナの赤はオレンジ寄りの穏やかな色味。嬉しい、幸せな気持ちを表現する色として多用され、ミッフィーも大好きな色です。
黄:親しみやすさや温かさを表しています。家の中の場面にもよく使われています。「赤と緑があたたかいのは、黄色が入っているから」とブルーナにとっても特別な色だったようです。
緑:ブルーナ曰く「伝えたいことを伝えるために必要な色」。屋外の場面でよく使われます。
青:怖さ、寒さ、悲しさ、不安を描くときに使われています。

どれも主張の強い色ながら、お互いを引き立てあい、優しく馴染むカラーバランスで、色を見ただけでミッフィーの絵本だとわかるオリジナリティがあります。色の意味を教えなくても、きっと子どもたちはその色から多くを感じ取ることでしょう。

【12場面構成】
ブルーナの絵本は基本的に12場面で描かれています。それは “子どもの集中力の限界は10分” なので、その間に読みきれるようにという配慮なのです。

ミッフィーが教えてくれること

ブルーナが生み出したミッフィーは、庭にいた小さな白うさぎのお話を息子さんにしたことから始まりました。それが今や世界50カ国以上で出版され、今でも世界中の人たちに愛され続けています。ギリギリまでシンプルに仕立てたイラストに込められた想いはミッフィーを通して子どもたちに語りかけられます。

🐇何気ない日常がテーマ
家族で海に出かけてあまりに楽しくて遊び疲れてしまう、お気に入りのぬいぐるみをなくして悲しくなってしまう、家族にお誕生日をお祝いしてもらって嬉しかった、など誰でも体験する日常が描かれているので、自分とリンクして物語に共感できます。

🐇全てがハッピーエンド

僕の作る絵本はみな、ハッピーエンドになるんです。なぜなら読み終えたときに心に残るあたたかさこそ、小さな子どもたちを強くするに違いないからです。

(引用:講談社編集(2018),『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』, 講談社.)

ブルーナはたとえお話の中で悲しいことが起こっても、「物事には常に先があり、どんなときにも人生には続きがある」ということを子どもたちに伝えたかったのです。ハッピーエンドは「辛いことがあっても希望を忘れないで」というブルーナのメッセージでもあるのです。

🐇キャラクターは常に正面を向いている
ちょっと不自然に思える場面でもミッフィーはいつも正面を向いています。それは、嬉しいときも悲しいときも子どもたちとまっすぐ向き合っていたいというブルーナの深い愛が込められています。

子どもたちは、ミッフィーを通してイマジネーションを羽ばたかせ、いろいろなまなびを自然に感じとります。そして大人になってもそのあたたかな感情が心の片隅に残るからこそ、彼の絵本は長い間愛され続けているのでしょうね。

ディック・ブルーナ絵本、厳選3冊

日本で出版された63冊の中からお子さまにオススメの3冊をご紹介します。

『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん』(福音館書店)
ディック・ブルーナ/文・絵
松岡享子/訳

絵本としてはチャレンジングな ”身近な人の死” をテーマにしています。大好きなおばあちゃんがある日亡くなってしまい、葬儀や家族が悲しむ様子が静かに語られます。その後、うさこちゃんはおばあちゃんが好きだったお花を持ってお墓参りに行き、おばあちゃんに話しかけます。最後はほっこりとした気持ちでお話は終わります。“死” を子どもに教えることはとても難しいですが、悲しい事実を率直に伝え、その後のあり方を示すことで、子どもたちは自然に少しずつ “人間の一生” を受け入れていくのでしょう。こんな悲しいテーマをシンプルに描いても、読み終わった後に温かな感情を残すブルーナはやはり素晴らしいと思わずにはいられません。

『うさこちゃんびじゅつかんへいく』(福音館書店)
ディック・ブルーナ/文・絵
松岡享子/訳

子どもの美術館デビューのとき読むのにぴったりの1冊です。うさこちゃんが抽象画や彫刻などいろいろなアートを見て素直な感想をいうのですが、知識より何より、「自分が感じて楽しむことが大切」というブルーナの想いが伝わってきます。はじめての美術館鑑賞後、うさこちゃんは「大きくなったら画家になるの」と言いましたが、子どもそれぞれの感想が楽しみですね。

『うさこちゃんのゆめ』(福音館書店)
ディック・ブルーナ/作

文章のない、イラストのみの絵本です。うさこちゃんと、うさこちゃんそっくりな茶色のうさぎさんが雲にのって遊んでいるような場面のみが綴られていて、子どもたちの想像力を発揮するのにぴったり! 一緒にストーリーを考えて楽しんでみてください。

ディック・ブルーナ作品に会いにいこう!

折しも、2019年4月20日からベルナール・ビュフェ美術館(静岡県長泉町クレマチスの丘)で「美術館に行こう!ディック・ブルーナに学ぶモダンアートの楽しみ方」が開催されます。

『うさこちゃん、びじゅつかんへいく』の内容に沿って、ベルナール・ビュフェの作品を見られるような趣向が凝らされていて、ブルーナの制作方法を体験できるコーナーもあるようで、楽しそうですね。施設内には「ビュフェこども美術館」も併設されているので、お子さん連れでも安心して楽しめます。自然とアートに触れにぜひ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。

<ベルナール・ビュフェ美術館>
「美術館に行こう!ディック・ブルーナに学ぶモダンアートの楽しみ方」
会期:2019年4月20日(土)〜9月29日(日)
開館時間:入館は閉館の30分前まで
1・11・12月 10:00〜16:30
2・3・9・10月 10:00〜17:00
4・5・6・7・8月 10:00〜18:00
休館日:水曜日(祝日の場合はその翌日)・年末年始
入館料:大人 1000円(900円)/高・大学生 500円(400円)/中学生以下 無料
※学生の方は学生証等をご提示ください
※障害者手帳ご持参の方は半額になります
※( )内は20名様以上の団体割引料金です
☆7月10日はベルナール・ビュフェの生誕記念日につき無料でご入館いただけます

(参考)
講談社編集(2018),『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』, 講談社.
ディック・ブルーナ文・絵/松岡享子訳(2008), 『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん』,福音館書店.
ディック・ブルーナ文・絵/松岡享子訳(2008), 『うさこちゃん、びじゅつかんへいく』,福音館書店.
ディック・ブルーナ作(2010), 『うさこちゃんのゆめ』,福音館書店.
福音館書店|うさこちゃん
dickbruna.jp 日本のミッフィー情報サイト
ウィキペディア|ディック・ブルーナ
NHK|2017年4月26日(水)“ミッフィー”に魅せられて
ベルナール・ビュフェ美術館