教育を考える/食育 2019.2.16

お弁当作りには学びがつまっている! 「生きる力」を育てる「弁当の日」ルール

長野真弓
お弁当作りには学びがつまっている! 「生きる力」を育てる「弁当の日」ルール

“BENTO”ブームが欧米を中心に巻き起こり、今やその言葉は世界共通語になりつつあります。アメリカのランチボックスといえば、サンドイッチにりんごが定番の簡単なものですが、日本のお弁当は「栄養バランスがよくヘルシー、しかも見た目も綺麗!」と高く評価されています。

小さなお弁当箱の中には、作り手の愛情、気遣い、センス、こだわりなどなど、さまざまな “想い” が詰まっています。その様は、まさに “日本の文化・美徳” で、とても日本的です。

そんな「学びが詰まったお弁当作りを子どもたちに」とブームを起こした方がいらっしゃいます。子どもたちが自分でお弁当をつくることによって「生きる力」を身につけてもらおうとされたのです。このすばらしい取り組みと、効果についてご紹介します。

地方の小学校で始まった「弁当の日」

「弁当の日」は、2001年に香川県綾川町立滝宮小学校の校長だった竹下和男氏が始めた取り組みです。

その効果が認められ、徐々に広がっていきました。その結果、2018年12月には、全国で「弁当の日」を実施する学校はなんと約2,000校に達するほどに。共同通信社がこの活動を支援しており、関連イベントなども実施されています。

竹下氏が「弁当の日」を始めるにあたっては、さまざまな “壁” があったそうです。例えば、刃物や火を扱うことによる安全性の確保、家庭環境の違いによる弊害、授業時間の確保、親の負担など。

しかし、何か新しいことを始めるときに問題があるのは当たり前。それを凌ぐメリットがあるのならばやるしかない。「案ずるより産むが易し」と決断、スタートを切られたのです。

■滝宮小学校「弁当の日」ルール
1. 弁当をつくるのは子ども。保護者は手伝わない。
2. 「弁当の日」の対象は5・6年生のみ。
3. 献立、食材の購入、調理、盛りつけのすべてを子どもたちの手で。
4. 実施するのは10月以降の第3金曜日で月1回。年間で5回。
※調理に必要な最低限の知識や技能は、1学期をかけて、5・6年生にだけにある家庭科の授業で指導する。

この取り組みが広がった現在、「弁当の日」は学校により独自のルールで実施されています。

福岡県福岡市立愛宕小学校稲益義宏先生は、「弁当の日」導入に際して生じるいくつかの難題を、独自ルールによって解決しました。まず、「弁当の日」は遠足などの行事のときのみ。これで授業時間を割かずに済みます。そして、活動を以下の4コースに分けました。

①完璧コース:自分だけで作る。買い物とご飯は、家族の協力もOK
②親子で弁当コース:親と一緒に作る
③おにぎりコース:おにぎりをむすんで、弁当におかずを詰める
④エンターテイメントコース:作ってもらった弁当を全部食べ、派手に感謝の言葉を伝える

(引用元:ひろがれ!“弁当の日”連載 第7回|子どもらをその気にさせたコース別の「イナマス方式」

ハードルを下げたこのルールは「イナマス式」として広がりを見せ、その後福岡では、原点の香川を凌ぐほど「弁当の日」を実施する学校が増えることになったそうです。

「弁当の日」という食育による5つの気づき

「弁当の日」で最も大切なのは、子どもが自分のお弁当づくりに参加すること。そこには竹下氏の強い思いが込められています。

子どもの生活は「まなび」「あそび」「くらし」の大きく3つの時間で占められています。「まなび」は学校「あそび」は地域「くらし」は家庭で主に営まれます。核家族化し、家族皆が忙しい現代では、「くらし」の質と時間が低下してきており、竹下氏はそれを危惧していました。この「くらし」の部分を補う活動が「弁当の日」なのです。そこには5つの大切な気づきがありました。

【1】知識や理解力が身につく
自分で買い出しすることで食材に詳しくなります。食べ物の種類、栄養価、味覚など、「弁当の日」実施1年後には明らかな知識向上が見られたそうです。また、買物することは、物価に対する経済的関心や、「なぜ中国産の野菜が多いのだろう?」などの社会的関心も呼び起こします。そして興味の広がりは知識を深めることにも繋がります。

【2】感謝の気持ちが芽生える
自分でつくることで “弁当の向こう側” が見えてきます。ある生徒は気づきます。お弁当に入っている鮭やお米は自分でつくったものではないことに――。お弁当のおかずになるまでに携わった人々の存在に気づき、感謝の心が生まれるのです。

また、ある生徒は「準備や早起きしてつくるのは大変。もうつくりたくない!」と思って気づきます。「お母さんは毎日こんなに大変なんだ……」。自分でつくったからこそ、いつもつくってくれる人への感謝の気持ちが芽生え、その気づきは心の奥に深く刻まれ、その後の生き方に影響を与えるでしょう。

【3】好き嫌いを克服
食べ物の好き嫌いには脳の扁桃体が作用しています。扁桃体は生死に関わるリスクを判断する機能を司っていて、身を守るべく “扁桃体がNOをだす食べ物=嫌いな食べ物” となります。しかし、その脳の判断は「自分で調理すること」で変えることができます。自分が調理したものほど安全なものはないからです。実際に、椎茸嫌いの子が自分で初めてつくった椎茸ご飯をおいしく感じることができたという例など、好き嫌い克服に料理が一役買えそうです。

【4】家族団欒を促す
子どもがお弁当づくりに取り組むとき、家族の協力が必要です。「弁当づくり」そのものは手伝わないとしても、メニューを相談したり、自分の手づくり弁当の感想や反省、お友だちのお弁当はどうだったのかなど、会話が増えます。さらに「家族皆で美味しいものを食べることは楽しい!」という気づきにつながれば大成功ですね。

【5】「食べることは生きることそのもの」と気づく
人はもちろん食べなければ生きていけません。これは「体の空腹感」を満たす行為です。しかし、もうひとつ、食べることで満たせるもの、それが「心の空腹感」です。そして「心の空腹感」を満たせるものは親が手間をかけた食事――。

例えばこんな例があります。忙しいお母さんが買ってきたお惣菜をお弁当としてそのまま持たせようとしたら、子どもは拒否しました。そこで、お弁当箱に詰めなおしてあげたところ、その子は大喜びでそのお弁当を持っていったそうです。ちょっとしたことで、食事に愛情は込められるのですね。「食べること」で心と体の両方が満たされてこそ人は生きていけることに、今こそ気づく必要があるのでしょう。

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「弁当の日」に対する懸念もいろいろあったなかでの竹下氏の実感は、「子どもたちはやらせればできる」ということ。周りの保護者や教職員の方が大変だったのは想像に難くないですが、そのことで大人も成長したのだそうです。竹下氏は、教育界最大のテーマ「生きる力」が子どもたちに足りない原因は、“やらせるべきことをやらせていない” ことにあるともおっしゃっています。

同氏の著書の中で何よりも印象的なのは、写真に写る子どもたちの生き生きとした笑顔です。「弁当の日」は登校一番にそれぞれのお弁当を見せ合い、興味津々だったそう。食べることは皆大好き。そこから学べることは、人としての根っこになる最強の体験学習であることは間違いありません。

子どもの調理体験、家庭でもぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。最後に、竹下氏が卒業生に送った感動的な言葉をご紹介します。

食事を作ることの大変さがわかり、家族をありがたく思った人は、優しい人です。
一粒の米、一個の白菜、一本の大根中にも「命」を感じた人は、思いやりのある人です。
食材が弁当箱に納まるまでの道のりに、たくさんの働く人を思い描けた人は、創造力のある人です。
自分の弁当を「おいしい」と感じ「うれしい」と思った人は、幸せな人生が送れる人です。
「弁当の日」で仲間が増えた人、友だちを見直した人は、人と共に生きていける人です。
「いただきます」「ごちそうさま」が言えた人は、感謝の気持ちを忘れない人です。

(引用元:竹下和男著(2003), 『シリーズ 子どもの時間3 “弁当の日“がやってきた』, 自然食通信社.)

(参考)
All About|子どもの力を引き出す「弁当の日」
NIKKEI STYLE|暮らしの知恵「弁当の日」、子供が手作り 生きる力を発見
共同通信社|弁当の日 応援プロジェクト
竹下和男著(2012), 『世の中への扉 弁当作りで身につく力』, 講談社.
竹下和男著(2003), 『シリーズ 子どもの時間3 “弁当の日“がやってきた』, 自然食通信社.
竹下和男著(2006), 『シリーズ 子どもの時間4 台所に立つ子どもたち』, 自然食通信社.
ひろがれ!“弁当の日”連載 第7回|子どもらをその気にさせたコース別の「イナマス方式」