教育を考える 2025.1.16

しっかり「甘えさせ」できてる? 0歳から9歳までの「甘えさせ」完全ガイド

編集部
しっかり「甘えさせ」できてる? 0歳から9歳までの「甘えさせ」完全ガイド

「抱っこ、抱っこ」

保育園へ行く朝の支度の真っ最中。3歳の息子が靴下を手に、目に涙をためて追いかけてきます。私は仕事に遅れそう。息子も靴下も自分で履けるはずなのに……。「甘やかしすぎ? でも突き放すのもかわいそう」。時間に追われる現代の子育て。そんななかで葛藤を抱えながら、毎朝イライラと焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。

発達心理学の最新研究によると、子どもの心の成長には「甘え」が重要な役割を果たしているといいます。甘えを上手に受け止めることで、子どもは安心して新しいことに挑戦できるようになることがわかっています。しかし、その受け止め方を間違え甘やかすと、かえって子どもの自立を妨げることも

では、子どもの健やかな成長を支える「甘えさせ」と、逆効果になりかねない「甘やかし」は、どう違うのでしょうか。また、限られた時間のなかで、どのように子どもの甘えに向き合えばよいのでしょうか。最新の研究と専門家の知見をもとに、子どもの健やかな成長を支える甘えさせ」の具体的な方法を年齢別でご紹介します

「甘え」は子どもの心を育てる重要なサイン

カリスマ保育士として知られるてぃ先生は、子どもの「甘え」は基地確認行動だと指摘します。子どもにとって親は安全基地。その基地が安全であることを確認できれば、子どもは安心して新しいことに挑戦できるようになるのです。逆に、基地の安全が確認できないと、子どもは不安から新しい体験を避けるようになってしまいます。またてぃ先生は、保育現場での長年の観察から、子どもの「甘え」には3つの重要な役割があると指摘します。

「甘え」が育む3つの力
  1. 心の安全確認
    →子どもは甘えることで、親や保育者との関係が安全であることを確かめる
  2. チャレンジ精神の土台
    →安全な関係が確認できると、子どもは新しいことに挑戦する勇気を得られる
  3. 感情コントロールの学習
    →甘えを通じて、自分の感情を表現し受け止めてもらう経験を積み重ねていく

 

実際の保育現場では、安心して甘えられる環境があることで、子どもたちの行動が大きく変化する様子が見られると言います。たとえば、新しい遊びに挑戦するとき、保育者に甘えることで安心感を得た子どもは、より積極的に取り組めるように。また、友だちとのトラブルの場面でも、保育者に気持ちを受け止めてもらえることで、徐々に自分で感情をコントロールできるようになるそうです。

また、東京学芸大学名誉教授の岩立京子氏は、子どもの「甘え」がもつ重要な意味についてこう説明します。「子どもの「甘え」は、親への信頼感を確認する大切な行動です。十分に甘えることができた子どもは、その経験を基に他者への信頼感を育み、将来の良好な人間関係の土台を築いていきます」

このように、子どもの「甘え」には成長を支える重要な要素です。しかし、ここで多くの親が「甘やかしすぎ」への不安に直面します。では、子どもの健全な成長を支える「甘えさせと、自立を妨げかねない「甘やかしは、どのように区別すればよいのでしょうか。

お父さんとお母さんが、子供の上屋根を作ってあげているイメージ図

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「甘やかし」はNG! 「甘えさせ」との本質的な違い

子育ての現場でもっとも多い悩みのひとつが「これは甘やかしすぎ?」という判断に関するものです。公認心理師の佐藤めぐみ氏は、この違いを明確に説明します。

佐藤氏によると、甘えさせ」とは子どもの心理的な要求に応える関わり方だと言います。子どもが不安を感じたときや、愛情確認をしたいときに示す甘えのサインに、温かく応えることを指します。この関わりを通じて、子どもは心の安全基地を得て、そこから少しずつ自立していく力を育んでいくそうです。甘えさせには2つの重要な要素があると指摘します。

「甘えさせ」の2つの重要な要素
  1. 子どもが求めてくる愛着行動を温かく受け止めること
    (例:「抱っこして」「お膝にのせて」という要求に応える)
  2. 子どもの「負の感情」に寄り添うこと
    (例:悔しい思いや悲しい思いをしたときに、その気持ちを受け止める)

 

一方の甘やかしとは、大人側の不安や都合が主導となる関わり方です。たとえば、子育ての不安から必要以上に手を出してしまったり、時間に追われて子どもの要求を物で解決しようとしたりすることを指します。この関わりは、子どもの自立心や我慢する力の発達を妨げかねません。甘やかしは、要注意な3つのパターンがあると言います。

「甘やかし」の要注意な3つのパーターン
  1. 物質的な要求を無条件に受け入れる
    (例:おもちゃをねだられるまま買い与える)
  2. 年齢相応にできることまで親がやってしまう
    (例:じょうずに靴下が履ける年齢なのに親が履かせる)
  3. 失敗を恐れて先回りする
    (例:高学年になっても持ち物の準備を親がする)

 

時間に追われる現代の子育てで、十分な甘えさせの時間が取れないと悩む声は少なくありません。しかし、佐藤氏は「大切なのは時間の長さではなく、関わりの質」と強調します。たとえば、子どもが話しかけてきたときは、たとえ短時間でも手を止めて目を合わせて聞いたり、朝の支度の前に、5分でも抱っこの時間をつくったり。

そんな日常の小さな場面での質の高い関わりが、子どもの心を満たしていきます甘えを受け止められないときは、その理由と見通しを具体的に伝えることも大切です。「いまは手が離せないけど、お風呂のあとにたっぷり甘えさせてあげるね」など、子どもが理解できる形で説明することで、待つ力も育っていきます。

抱擁している親子の画像

年齢で変化する「甘え」のサインと応え方

前述のてぃ先生は、保育現場での観察から、子どもの「甘え」は、どの年齢においても安全基地としての大人の存在が重要だと説明します。またフジテレビ「ホンマでっか!?TV」でもお馴染みの脳科学者の澤口俊之氏は、「子どもが甘えるのは、不安や恐怖を感じていて、そのストレスを解消するため」と説明します。

また澤口氏らの研究から、子どもの甘えと脳の発達には密接な関係があることがわかっています。そこで、子どもの健やかな成長のために脳の発達段階に合わせた「甘えさせ」の方法をまとめました。年齢はあくまでも目安ですので、それぞれの子どもの発達を見極めて対応してください。

【0-2歳:愛着形成の重要期】

この時期の「甘え」は、生きていくための本能的な要求です。泣く、後追いする、抱っこを求めるなど、直接的な形で表現されます。岩立氏は「特に0〜1歳では、頻繁な語りかけと笑いかけが大切」と説明します。「どうしたのかな」と語りかけたり、とにかく抱きしめてあげることで、子どもはお母さんの愛情を感じることができ、安心するでしょう。

0-2歳の「甘え」への対応
  • 泣いたら抱っこで安心感を与え、そのあとでゆっくり理由を探る
  • 「いい子だね」「上手だね」など、肯定的な言葉を意識的にかける
  • お風呂や着替えの時間を活用し、たっぷりと触れ合う
  • 遊び場では少し離れた場所で見守り、子どもが確認できる位置にいる

 

【3-5歳:自我の成長期】

自我が芽生えるこの時期、甘えは少し複雑に見えるかもしれません。しかし、「できるのに『やって』と言う」「赤ちゃん返り」といった行動も、じつは成長過程での自然な甘えのサインです。澤口氏は、「子どもの主張には、しっかりと耳を傾けることが大切」と指摘します。

3-5歳の「甘え」への対応
  • 絵本の読み聞かせを通じた密着時間を大切にする
  • まず受け止めてから「自分でできるよね」と促す
  • 「なぜ」「どうして」という理由を優しく聞く
  • できたときは具体的にほめる

 

【6-9歳:自立と挑戦の時期】

学童期に入ると、甘えは直接的な形では表現されにくくなります。「宿題を見て」「話を聞いて」など、「甘え」が間接的な形で現れることが多くなります。澤口氏は、「子どもが何かに熱中しているときは、本人の気が済むまでやらせてあげることが大切」と説明しています。この時期の甘えのサインを見逃さず受け止めることで、子どもは安心して学校生活や友人関係に向き合えるようになります。

6-9歳の「甘え」への対応
  • 興味をもったことは極力挑戦させる
  • 本人が満足するまで見守る
  • 直接的な手助けより、励ましの言葉をおくる
  • 失敗しても「次はうまくいくよ」と支える

 

甘えさせ」のポイントは、その時期の脳の発達に合わせること。特に重要なのは、子どもの気持ちに寄り添い、安心感を与えることです。これにより、子どもの脳は健やかに発達し、将来の学習意欲や社会性の土台が築かれていきます。

***
子どもたちにとって「たくさん甘えさせてもらった」という感覚は、自分に自信をもてるきっかけになります。それは、まわりの友達への優しさにもつながる大切な経験。それは、小学校に入ってからの学ぶ意欲や、友達づくりにもつながっていきます。

子育ては、思い通りにいかないことばかりかもしれません。でも、基本はとてもシンプルです。「甘えたい」という子どものサインに、出来る範囲でこたえてあげることちょっとした時間でも、子どもに向き合って上げること。子どもたちの成長にあわせた「甘えさせ」は、きっと子ども達の未来につながります。
※引用の太字は編集部が施した

(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもは「甘やかす」より「甘えさせる」! 甘えさせてもらえない子は将来こうなる
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもが甘えん坊すぎて困るなら、親はシンプルにコレをすればいい【てぃ先生インタビューpart2】
nobico|【年齢別】脳科学的に正しい「甘えさせ方」