この秋、32年ぶりに日本で開かれるアジア競技大会。中継を見ていると、オリンピックではなじみの薄い競技がいくつも登場します。なかでも子どもが思わず身を乗り出すのが、ネットをはさんでボールを足で蹴り合う「セパタクロー」です。
そのセパタクローで、長く頂点に立ち続けてきたのがタイ。大会の公式SNSでも「絶対王者」と紹介されるほどの強さです。
「タイってどこにあるの?」と子どもに聞かれたら、地図で場所を探したあとにも、話の続きがあります。
手を合わせるあいさつ、スプーンとフォークの食卓、くるんと丸い文字。タイの暮らしには、親子の会話が広がる入口がたくさんあります。
今日は、遠すぎず近すぎない「ほほえみの国」を、親子で旅してみましょう。
目次
「セパ」はマレー語、「タクロー」はタイ語。ふたつの言葉からできた競技
こどもまなびラボの「オリンピックと何が違う? 『アジア競技大会ってなに?』を親子で3分で知る」でも紹介したように、アジア競技大会では、カバディやセパタクローなど、アジアで親しまれてきた競技が行われます。*1
セパタクローという名前は、ふたつの国の言葉からできています。「セパ」はマレー語で「蹴る」、「タクロー」はタイ語で「ボール」。9世紀ごろから東南アジアの各地で遊ばれてきた、伝統ある球技がルーツです。*2
ルールは「足のバレーボール」をイメージすると分かりやすいでしょう。手や腕は使わず、足や頭でボールを相手コートに返します。トップ選手のアタックは時速140kmにもなり、アジア競技大会では1990年の北京大会から正式種目になっています。アクロバティックなアタックの迫力から、「空中の格闘技」と呼ばれることもあります。
地図を開いてみると、タイとマレーシアは南北に隣り合っています。国境をこえて同じ遊びが受け継がれてきたことが、競技の名前からも伝わってきます。
タイの国土は日本の約1.4倍。日本との時差は2時間で、日本が夜8時ならタイは夕方6時です。「タイの子は、いまごろ夜ごはんかな」と、時計と地図を見比べるだけで、テレビの向こうの国に、暮らしている子どもたちの姿が浮かんできます。
試合を見たあとは、ふくらませた風船で「手を使わないラリー」をしてみるのも楽しい遊びです。
何回続けられるか親子で数えてみると、選手たちの足さばきが、また違って見えてきます。

手を合わせて「サワッディー」。朝も昼も夜も、同じあいさつ
タイのあいさつは「サワッディー」。朝・昼・晩で言葉を使い分ける必要はなく、「おはよう」も「こんにちは」も「こんばんは」も、これひとつで通じます。語尾には、ていねいな言葉を添えます。
話す人が女性なら「サワッディー・カー」、男性なら「サワッディー・クラップ」。「ありがとう」は「コップクン・カー」「コップクン・クラップ」です。
そして、言葉と一緒に行うのが「ワイ」と呼ばれるしぐさ。胸の前で両手を合わせ、軽く頭を下げます。
手のひらはぴったりくっつけず、花のつぼみのように少しふくらませるのが美しい形とされています。
明日の朝は、「おはよう」の代わりに、手を合わせて「サワッディー・カー」と声をかけてみてください。
お子さんが男の子なら「サワッディー・クラップ」で返してもらう。親子で語尾を言い分けるだけで、朝の玄関がちょっとした外国になります。
言葉にしぐさを添えることには、覚えやすさの面でもよい働きがあるようです。
目で見て、耳で聞いて、体を動かす。ひとつの言葉に手がかりがいくつも重なることで、記憶に残りやすくなると考えられています。
手を合わせる「ワイ」は、タイの礼儀であると同時に、タイ語を覚える手がかりにもなってくれるしぐさです。

スプーンとフォークで食べる国。タイ料理は「ひと口だけ」から
タイの食卓には、お箸ではなくスプーンとフォークが並びます。お皿のごはんにおかずをのせ、左手のフォークで右手のスプーンに食べる分を寄せて、口に運ぶ。スプーンのふちは、ときにナイフの代わりにもなります。フォークを食べ物に突き刺すことは、果物以外ではあまりありません。*4
家でカレーやチャーハンを食べる日に、「今日はタイ式で食べてみよう」と声をかけてみてください。
フォークでスプーンにごはんを寄せる動きは、慣れないうちは意外と難しく、親子で笑いながら挑戦できます。いつもの献立が、少しだけ旅気分に変わります。
タイ料理というと辛いイメージがありますが、辛さ控えめの料理もたくさんあります。鶏のだしで炊いたごはんにゆでた鶏肉をのせた「カオマンガイ」や、甘いもち米にマンゴーを添えた「カオニャオ・マムアン」は、子どもにも親しみやすい味です。
もちろん、初めての味を口にするまでには時間がかかる子もいます。ひと口でやめても、それで充分です。
「食べてもいいし、少しでもいい」という気軽な出会いを、何度か重ねていくこと。
旅先のレストランや近所のタイ料理店、スーパーのアジア食材コーナーで出会うひと口ひと口が、いつか「好きな味」へとつながっていく可能性があります。

くるんと丸い文字と「マイペンライ」。言葉から見えるタイの気質
タイ文字は、小さな輪っかのついた独特の形をしています。13世紀の終わりごろ、カンボジアのクメール文字をお手本につくられた文字で、いまは42の子音文字に、母音や声調の記号を組み合わせて書きます。*6
輸入食材のパッケージや、タイ料理店の看板、中継に映る応援の横断幕。身近な場所で、タイ文字を探してみてください。
「この丸いの、なんて書いてあるんだろう?」と想像するだけで、読めない文字が楽しい謎解きになります。
ほかの国の言葉にふれる経験については、こんな研究があります。
この研究の対象は、ふだんの生活でほかの言語にふれていた子どもたちです。それでも、「世界には、自分と違う言葉で話す人がいる」と感じる経験は、相手の立場から考えるきっかけのひとつになりそうです。中継から聞こえてくるタイ語のアナウンスも、その小さな入口になります。
そして、タイでよく耳にする言葉が「マイペンライ」。
「大丈夫」「気にしないで」という意味で、だれかが謝ったときや、物事が予定どおりに進まなかったときに、にこっと笑って使われます。「ほほえみの国」と呼ばれるタイのおおらかさが、このひとことに詰まっています。
お子さんがあいさつの語尾を言い間違えたら、手を合わせて「マイペンライ」。小さな失敗も、親子で笑い合える合言葉に変わります。
段取りが思いどおりにいかなかった日に、自分に向けて小さくつぶやいてみるのも、タイの人たちから借りられる気持ちの切り替え方です。
赤・白・青・白・赤の5本のしま模様で、名前は「三色旗」という意味です。青は国王、白は宗教、赤は国家と国民の団結心を表しているとされています。試合中、選手のユニフォームや応援席の旗に、この3色を探してみてください。
タイの伝統的なお正月は、4月中旬の「ソンクラーン」。もともとは仏像や年長者の手に水をそっとかけ、清めと敬いの気持ちを伝える行事で、いまでは街じゅうで水をかけ合うにぎやかなお祭りとしても知られています。2023年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されました。
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セパタクローの絶対王者は、手を合わせてあいさつし、スプーンとフォークで食卓を囲み、うまくいかない日には「マイペンライ」と笑う国でもあります。そんな暮らしを少し知ってから中継を見ると、タイの選手が決めた1本のアタックにも、親子で拍手を送りたくなるはずです。今日の夕ごはんは、「サワッディー」のひとことから始めてみてはいかがでしょうか。
FAQ(よくある質問)
Q. タイと日本の時差はどのくらい?
A. 2時間です。日本が夜8時のとき、タイは夕方6時。日本からバンコクへは、直行便なら行きはおよそ6〜7時間です。
Q. タイ料理は辛いものばかりですか?
A. 辛さ控えめの料理もたくさんあります。鶏のだしで炊いたごはんにゆでた鶏肉をのせた「カオマンガイ」や、甘いもち米にマンゴーを添えた「カオニャオ・マムアン」は、子どもにも親しみやすい味です。麺料理などは、テーブルに置かれた調味料で自分好みの味に整えるのがタイ流です。
Q. 「サワッディー・カー」と「サワッディー・クラップ」はどう使い分けるの?
A. 話す人が女性なら「カー」、男性なら「クラップ」をつけます。相手の性別ではなく、話す本人の性別で決まるので、親子で語尾が違っても大丈夫です。語尾をつけると、ていねいで感じのよいあいさつになります。
(参考)
*1 こどもまなびラボ|オリンピックと何が違う? 「アジア競技大会ってなに?」を親子で3分で知る
*2 笹川スポーツ財団|セパタクローの歴史・ルール・道具
*3 Tellier, M. (2008)|The effect of gestures on second language memorisation by young children. Gesture, 8(2), 219-235.
*4 タイ国政府観光庁|タイ料理
*5 Wardle, J., Herrera, M. L., Cooke, L., & Gibson, E. L. (2003)|Modifying children’s food preferences: the effects of exposure and reward on acceptance of an unfamiliar vegetable. European Journal of Clinical Nutrition, 57(2), 341-348.
*6 国際協力銀行(JBIC)|第1章 概観(国土、民族、社会、歴史等)
*7 Fan, S. P., Liberman, Z., Keysar, B., & Kinzler, K. D. (2015)|The Exposure Advantage: Early Exposure to a Multilingual Environment Promotes Effective Communication. Psychological Science, 26(7), 1090-1097.









