連日、ワールドカップの熱戦が続いています。優勝候補として必ず名前が挙がるのが、前回王者のアルゼンチン。水色と白のユニフォームは、テレビ中継でもひときわ目を引きます。
じつはこのアルゼンチン、日本から見ると地球のほぼ反対側にある、「いちばん遠い国」のひとつです。
遠い国だからこそ、少し調べてみるだけで、親子の会話が広がる発見がたくさんあります。今日はサッカーの勝ち負けからちょっと離れて、アルゼンチンという国そのものを、親子で旅してみましょう。
目次
地球のほぼ反対側。「いま何時?」から始まる世界の授業
日本から地面をまっすぐ掘り進めたとすると、出口はアルゼンチンの沖合あたり。それくらい、アルゼンチンは日本のほぼ真裏に位置しています。時差は12時間。日本がお昼の12時なら、アルゼンチンは真夜中の0時です。しかも南半球にあるので、季節も反対。日本が夏休みに入る7月、アルゼンチンの子どもたちは冬休みの真っただ中です。
そして、遠いだけでなく、とても大きな国でもあります。国土面積は世界8位で、日本の約7.5倍。南北に細長いため、北のほうにはジャングルが広がる暑い地域があり、南の端のパタゴニア地方には、真っ白な氷河の絶景が広がっています。ひとつの国のなかに、まるで別の惑星のような景色がいくつも同居しているのです。
このように、日本と比較することは、子どもにとって最高の教材になります。
地図や地球儀に触れることは、自分が直接行ったことのない場所どうしの位置関係を頭のなかで思い描く、抽象的にとらえる力の発達を後押しする可能性がある。発達心理学の分野では、そんな見方が示されています。(米ノースウェスタン大学、心理学者デイヴィッド・アットル教授)*1
キックオフの前でも、結果を知ったあとでも構いません。地球儀やスマホの地図アプリを開いて、「アルゼンチンってどこにあると思う?」と親子で探してみてください。「日本のほぼ真裏なんだって!」というひとことだけで、子どもの目はきっと輝きます。
見つけたら、日本からアルゼンチンまで、指でゆっくりたどってみましょう。太平洋を越えるルートと、アジアやアフリカを越えていくルート。どちらから行っても、とてつもなく遠い。その「遠さの実感」こそが、地図学習の入り口です。「向こうはいま夜だね」「季節は冬だね」。時計と地図を行き来するその会話が、そのまま文化を学ぶ時間にもなります。 
ひとつのカップを、みんなで回して飲む。「マテ茶」の国
アルゼンチンの人たちが毎日のように飲んでいるのが「マテ茶」です。おもしろいのは、その飲み方。マテと呼ばれるひとつのカップに、ボンビージャという金属のストローを1本さして、家族や友だちで順番に回し飲みをするのです。飲み終わったら、次の人へ。
公園でも職場でも、魔法びんとマテ壺を抱えた人たちが輪になっておしゃべりしている。そんな光景が、この国の日常です。マテ茶は飲み物であると同時に、「分け合う時間」そのものなのです。
この「分け合う」という行動は、子どもの発達研究でも長く注目されてきたテーマです。
1 〜 2歳児を対象にした実験では、分け合う行動は2歳になる頃までに自発的に見られるようになる一方、相手が「ほしい」という気持ちを言葉やしぐさで明確に示したときに引き出されやすいことが報告されています。(米ピッツバーグ大学、発達心理学者シーリア・ブラウネル教授ら)*2
つまり、分け合う心は「教え込む」ものではなく、大人が「ひとくち飲みたい」と素直に気持ちを伝えることで、自然と引き出されていくもの。おやつの時間にひとつのお菓子を一緒に分けてみる。それだけで、マテ茶の国の子育てを少しだけ体験できます。

日曜日は、家族みんなで「アサード」
アルゼンチンの週末の定番といえば「アサード」。炭火でじっくりお肉を焼く、アルゼンチン式のバーベキューです。日曜日になると親戚や友人が集まり、何時間もかけて焼いては食べ、おしゃべりをして過ごします。食べ終わってからも席を立たず、ゆっくり語らう時間まで含めてアサード。
ごちそうそのものより、「みんなで長くテーブルを囲むこと」が主役の文化です。
そして、家族そろって食卓を囲むことの意味は、研究の世界でも確かめられてきました。
子どもと若者を対象にした複数の研究を検証したシステマティックレビューでは、家族で一緒に食事をとる頻度が高いほど、抑うつなどの心の不調や、乱れた食行動といったリスクの低さと関連することが報告されています。(カナダ・オタワ大学、小児科医メガン・ハリソン氏ら)*3
ここで注目したいのは、この研究が示しているのが「何を食べるか」ではなく「一緒に食べる頻度」だという点です。つまり大切なのは、料理の豪華さではなく、同じテーブルを囲む時間そのもの。凝ったメニューを用意できない日でも、後ろめたく思う必要はまったくありません。

名字にイタリアの香り。「船から降りてきた」国
アルゼンチンの英雄、リオネル・メッシ。その名字「メッシ」は、じつはイタリア系です。メッシの家系をさかのぼると、19世紀にイタリアからアルゼンチンへ渡った移民にたどり着きます。
アルゼンチンには、「アルゼンチン人は船から降りてきた」という有名な言い回しがあります。
19世紀後半から20世紀前半にかけて、イタリアやスペインを中心に、海を越えてたくさんの移民がこの国にやってきました。いろいろなルーツをもつ人たちが集まって、ひとつの国をつくってきたのです。
ちなみに、アルゼンチンの公用語はスペイン語。「こんにちは」は「オラ(Hola)」、「ありがとう」は「グラシアス(Gracias)」です。地球の反対側の言葉をひとつ覚えるだけでも、子どもにとっては大きな冒険。試合を見ながら「オラ!」とあいさつごっこをしてみるのも楽しいものです。
そして、テレビ中継で選手の名前が映ったら、「イタリアっぽい名前はどれだろう?」と親子で探してみてください。名字ひとつから、国の歴史が見えてきます。
地球のほぼ反対側で、ひとつのカップを回し飲みし、日曜日には家族で何時間もテーブルを囲む。そして、船でやってきた人たちの子孫が、水色と白のユニフォームを着て戦う。そんな背景を少しだけ知っておくと、次にアルゼンチンの試合を見るとき、きっと見え方が変わっているはずです
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全部を覚える必要はありませんが、勝ち負けのその向こうにある「その国の暮らし」まで一緒に味わえたら、ワールドカップは親子にとって、最高の社会科の教科書になるのではないでしょうか。
FAQ(よくある質問)
Q. アルゼンチンと日本の時差はどのくらい?
A. 12時間です。日本がお昼の12時のとき、アルゼンチンは真夜中の0時。南半球にあるため季節も反対で、日本の夏はアルゼンチンの冬にあたります。
Q. マテ茶は子どもも飲めますか?
A. マテ茶にはカフェインが含まれるため、小さな子どもに飲ませる場合は量やこさへの配慮が必要です。おうちで「回し飲み」の雰囲気を楽しむなら、麦茶などノンカフェインのお茶で「マテ茶ごっこ」をしてみるのがおすすめです。
Q. なぜアルゼンチンにはイタリア系の名字が多いの?
A. 19世紀後半から20世紀前半にかけて、イタリアやスペインから大勢の移民が船で渡ってきた歴史があるためです。メッシをはじめ、代表チームにもイタリア由来の名字の選手が数多くいます。
(参考)
*1 Uttal, D. H. (2000)|Seeing the big picture: map use and the development of spatial cognition. Developmental Science, 3(3), 247-264.
*2 Brownell, C. A., Svetlova, M., & Nichols, S. (2009)|To Share or Not to Share: When Do Toddlers Respond to Another’s Needs? Infancy, 14(1), 117-130.
*3 Harrison, M. E., Norris, M. L., Obeid, N., Fu, M., Weinstangel, H., & Sampson, M. (2015)|Systematic review of the effects of family meal frequency on psychosocial outcomes in youth. Canadian Family Physician, 61(2), e96-e106.









