本・絵本 2026.7.28

恐竜も宇宙も響かないなら。子どもの心に火をつける「変わり種図鑑」

恐竜も宇宙も響かないなら。子どもの心に火をつける「変わり種図鑑」

図鑑は子どもにいいと聞いて、思いきって1冊。ところが、あんまり開いてくれない。せっかく選んだのにな、と少しさみしくなる。そんな経験はありませんか。

じつは、その図鑑が悪いわけでも、お子さんの興味が足りないわけでもありません。ただ、入り口がいまのその子にぴったり重なっていなかった、それだけのことなんです。

図鑑の世界は、思っているよりずっと広くて自由です。今回は、定番のとなりにある「変わり種図鑑」をジャンルごとにご紹介します。「え、そんなテーマで1冊あるの?」という驚きこそ、子どもの心に火をつける入り口になります

「定番を読まない」は、失敗じゃない

恐竜、動物、昆虫、宇宙など。図鑑の王道テーマは、たしかに多くの子が夢中になります。でも、すべての子が同じ入り口から入るわけではありません。

わが子が定番の図鑑を素通りしても、それは「本が嫌い」でも「知的好奇心がない」でもありません。ただ、その子の「おもしろい」のツボが、たまたま別の場所にあるだけ。生き物の名前を覚えるより、意外なジャンルに目を輝かせる子もいます。

大切なのは、正しい図鑑を与えることではなく、その子の「おもしろい」に図鑑のほうを近づけていくこと。そう考えると、選択肢は一気に広がります。

芝生の上に寝転がり、虫眼鏡で本を読む男の子

ジャンル別・変わり種図鑑の世界

ここからは、定番の次に手に取りたい変わり種を、タイプ別に見ていきましょう。「これはうちの子が興味をもちそう」というものが、きっと見つかります。

1. 生き物の「意外な一面」を切り取る

🦔 意外な一面タイプ

まずは、生き物を「ちがう角度」から見せるタイプ。「ざんねんないきもの事典」は、一生懸命なのにどこかざんねんな生き物を紹介するシリーズで、小学生が選ぶ本の総選挙で1位に輝いたこともある大ヒット作です。「うんち」に注目した図鑑もあります。動物園に長く勤めた著者が哺乳類のうんちを写真つきで紹介していて、知ると、その動物がぐっと身近になります。

そっくりな動物の見分け方を図解した図鑑もあります。この手の図鑑は「見たあとに確かめたくなる」のが魅力。持って動物園に行けば、小さな探検になります。

2. 食べものの「知らない顔」を見せる

🍖 食べものタイプ

毎日の食卓が学びに変わるのが、食べもの系です。「切り身の図鑑」は、スーパーの切り身が体のどの部分なのかを教えてくれるシリーズ。魚の巻と肉の巻があり、食べながら聞いてくる「これ、なんのお肉?」にそのまま答えてくれます。

いちごの品種ごとの断面を集めた「だんめん図鑑」や、全国の給食を集めた図鑑も。「こんなメニューが給食に出るの?」という驚きは、遠い土地への興味の入り口にもなる、身近な図鑑テーマかもしれません。

3. 「さわる・めくる・しかける」で体験する

✋ 体験タイプ

読むだけでなく、手を動かして楽しむタイプもあります。ページをめくると生き物が見ている世界が広がる「しかけ図鑑」、機械の仕組みをめくりながら学ぶ図鑑、立体をさわって組み立てる算数の図鑑など。文字を読みはじめる前の子でも、しかけを動かすうちに夢中になれます。

4. 「美しさ」で心をつかむ

🎨 美しさタイプ

写真そのものの美しさで魅せる図鑑もあります。黒い背景で魚やクラゲの色を際立たせた海の生き物図鑑や、生きたままの色を写した昆虫図鑑など、まるで画集のよう。大人のほうが夢中になることも。「勉強のため」という気負いを手放して、ただ「きれいだね」と眺める時間も、立派な楽しみ方です。

4つのタイプを下の表にまとめました。お子さんの「へえ!」がどこに近いか、探してみてください。

タイプ こんな図鑑 こんな子におすすめ
🦔 意外な一面 『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)、『うんちくいっぱい 動物のうんち図鑑』(小学館)、『世界一まぎらわしい動物図鑑』(小学館) 生き物好き、笑えるものが好きな子
🍖 食べもの 『切り身の図鑑』(全2巻・星の環会)※図書館向け、『日本全国給食図鑑』(フレーベル館)※図書館向け、『いちご だんめん図鑑』(小学館) 食べることが好き、食卓で質問が多い子
✋ 体験する 『仕掛絵本図鑑 動物の見ている世界』(創元社)、『めくって学べる きかいのしくみ図鑑』(学研)、『さわって学べる算数図鑑』(学研) 文字を読みはじめる前の子(親子で)、手を動かすのが好きな子
🎨 美しさ 『世界で一番美しい海のいきもの図鑑』(創元社)、『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』(学研) 絵を描くのが好き、じっくり眺めるのが好きな子

※「図書館向け」とあるものは、書店では見つかりにくい本です。図書館で探してみてください。

親子で読書している様子

なぜ「変わり種」は、こんなに刺さるのか

「たしかにうちの子、こういうのが好きかも」と感じたなら、それには理由があります。

行動経済学者ジョージ・ローウェンスタインは、好奇心が生まれる仕組みを「情報のギャップ」で説明しました。人は「これくらいは知りたい」と思う水準と、いま自分が知っていることのあいだにすき間を感じると、それが埋めたくてたまらない “足りなさ” の感覚になり、好奇心が湧く、というものです。(カーネギーメロン大学、行動経済学者ジョージ・ローウェンスタイン氏)*1

「うんち」や「ざんねん」が強いのは、まさにここ。動物は知っていても、その動物のうんちは知らない。この小さなすき間が「知りたい!」の火種になります。網羅的な定番図鑑が興味の「面」を広げるものだとすれば、変わり種図鑑は、興味の「点」に深く刺さるものだと言えるかもしれません。

この好奇心には、うれしいおまけもあります。雑学クイズを使ったある研究では、好奇心が高まっているときに知った答えほど記憶に残りやすく、とくに自分の予想がはずれて「へえ!」と驚いたような答えは、約10日後の記憶テストでもよく覚えていた傾向があると報告されています。(カリフォルニア工科大学、認知神経科学者ミン・ジョン・カン氏ら)*2

「え、そうだったの!」という驚きは、ただ楽しいだけではなく、その知識を深く心に刻む働きも持っているのかもしれません。変わり種図鑑の「びっくり」は、子どものなかに長く残っていくのです。

電球にIDEAという文字

今日、いちばん簡単にできること

とはいえ、いきなり新しい図鑑を買う必要はありません。まずは、お子さんが最近どんなことに「へえ!」と反応していたか思い出してみてください。虫のうんち、電車の仕組み、珍しい形の野菜。その小さな反応が、次の一冊を選ぶヒントです。

そしてもし、図鑑を開いて「これなに?」と聞いてきたら、それはチャンス。「なんだろうね、一緒に見てみようか」と、ページをめくってみてください。大事なのは答えを出し惜しみすることではなく、答えにたどりつくまでを一緒にやることです。

子どもの「なぜ?」をめぐる研究では、質問にきちんと説明が返ると、子どもは納得したりさらに質問を重ねたりして対話を続け、逆に説明が返らないと同じ質問を繰り返す傾向があると報告されています。(ミシガン大学、発達心理学者ブランディ・フレイジャー氏、スーザン・ゲルマン氏ら)*3

答えを一緒に探す時間そのものが、子どもの「もっと知りたい」を伸ばしていきます。毎日でなくてかまいません。気が向いたときに、少しだけ。完璧に選ぼうとしなくて大丈夫。その子の「おもしろい」に寄り添う本を、肩の力を抜いて探してみてください。
***
図鑑は、たくさん並べるのが目的ではありません。目を輝かせる1冊に出会えたなら、それで充分です。入り口はなんだっていい。その驚きの先に、広い世界が待っているはずです。

FAQ(よくある質問)

Q. 変わり種図鑑ばかりで、定番の図鑑を読みません。かたよりが心配です。

A. 心配いりません。入り口がなんでも、そこから「もっと知りたい」が広がれば、いずれ定番の図鑑にも自然に手が伸びていきます。まずは目の前の「おもしろい」を大事にしてあげてください。ひとつのテーマを深く掘る経験は、知識のかたよりではなく、興味の土台になります。

Q. まだ文字が読めない年齢です。図鑑は早いでしょうか。

A. 早くありません。写真やイラストを眺めるだけでも得るものがあります。めくったりさわったりできるしかけ系の図鑑なら、文字を読む前の時期でも手を動かしながら楽しめます。「これなに?」と聞かれたら、となりで一緒に見てあげるところから始めてみてください。

Q. どの一冊を選べばいいか、やっぱり迷います。

A. お子さんが最近「へえ!」と反応したものを思い出すのが近道です。それでも迷うときは、図書館でいろいろな図鑑を見せてから選ぶのがおすすめ。実際にどれに興味を持つのか見てから決めれば、失敗が減ります。選ぶ主導権をお子さんに残すことも、大切なポイントです。

(参考)
*1 Loewenstein, G. (1994)|The psychology of curiosity: A review and reinterpretation. Psychological Bulletin, 116(1), 75-98.
*2 Kang, M. J., Hsu, M., Krajbich, I. M., Loewenstein, G., McClure, S. M., Wang, J. T. Y., & Camerer, C. F. (2009)|The wick in the candle of learning: Epistemic curiosity activates reward circuitry and enhances memory. Psychological Science, 20(8), 963-973.
*3 Frazier, B. N., Gelman, S. A., & Wellman, H. M. (2009)|Preschoolers’ search for explanatory information within adult-child conversation. Child Development, 80(6), 1592-1611.