五感をつかう/健康を考える/食育 2026.7.24

「食べなさい」を「どっちが甘い?」に変えるだけ。苦手を”問い”にする偏食対策

「食べなさい」を「どっちが甘い?」に変えるだけ。苦手を”問い”にする偏食対策

「野菜、ひと口だけでも食べなさい」。毎日のように、そう口にしていませんか。栄養を考えて出した料理を残されるたび、つい声が強くなってしまう。その気持ちは、子どもの体をまっすぐに思っているからこそのものです。間違っていません。

ただ、じつは同じ食卓で、たったひとつ言い方を変えるだけで、子どもの手がお皿にのびやすくなることがわかっています。「食べなさい」という命令を、「どっちが甘いと思う?」という問いに変える。今日はこの小さな置きかえの話をします。

「食べなさい」がなぜ逆効果になりやすいのか

まず知っておきたいのは、子どもが野菜の苦味や酸味を避けるのは、わがままではないということです。苦味や酸味は、自然界では傷んだものや警告のサイン。それを敏感に避けようとするのは、体を守るために生まれつき備わった反応です。生まれたばかりの赤ちゃんが甘い母乳を好み、苦いものを嫌がるのも同じ仕組み。

つまり、野菜を口から出してしまうわが子は、危険を察知するセンサーがきちんと働いている証拠でもあるのです。

成長とともに食べられるようになっていくので、いまの「イヤ」は通過点だと考えて大丈夫です。そのうえで、知っておきたい研究があります。よかれと思った「食べなさい」が、その食べものの印象をかえって悪くしてしまうことがあるのです。

研究で分かっていること | 就学前の子どもを対象にした実験では、「全部食べてね」とプレッシャーをかけられた条件のほうが、かけられなかった条件よりも食べる量がむしろ減り、その食べものへの否定的な言葉も増えました。(アパラチアン州立大学、エイミー・ギャロウェイ博士)*1

もうひとつ知っておきたいのが、初めて食べたときの印象の強さです。うまくかめなかったり、強い苦味を感じたりすると、そのいやな感覚と味がセットで記憶に残りやすくなります。だからこそ、最初のひと口を「イヤなもの」ではなく「面白いもの」にしてあげることが、遠回りのようで近道になります。

フォークに刺さった茹でた人参を、大きな口を開けて食べようとしている子供の口元のアップ

命令を”問い”に変える。「どっちが甘い?」の力

そこで登場するのが、比べて食べる遊びです。ポイントは、答えが「食べてみないとわからない」ようにしておくこと。

たとえば、普通のトマトとミニトマトを並べて、「どっちのほうが甘いと思う?」と聞いてみます。子どもは予想を確かめたくなって、自分から口に運ぶかもしれません。きゅうりなら、うす切りにして片方に塩を振り、もう片方を塩水に5分つける。食べ比べると、塩水につけたほうはパリッと、塩を振ったほうはしんなり。仕組み(浸透圧)はすぐに理解できなくても、味と食感のちがいとして記憶に残ります。

題材は、身近なもので十分です。今夜の食卓にあるもので、こんなふうに比べられます。

比べるもの くらべ方 親の問いかけ
トマト ふつうのトマトとミニトマトを食べ比べる 「どっちが甘いと思う?」
ミニトマト 皮の色が濃いものと薄いものを比べる 「色が濃いほうが甘いかな?」
きゅうり 塩を振ったものと塩水に5分漬けたもの 「どっちがパリパリだと思う?」
同じトマト 冷やしたものと常温のものを比べる 「つめたいほうが甘い?」
にんじん 輪切りと細切りで口当たりを比べる 「どっちが食べやすい?」

「同じ野菜なのに、切り方や温度でこんなに変わるんだ」という発見は、それ自体が子どもにとって小さな驚きです。そして驚いたぶんだけ、その野菜は「知らないこわいもの」から「知っている面白いもの」に変わっていきます

大人でも、正体のわからない食べものには身がまえますが、「これは甘いトマトだ」とわかっているものは安心して口に運べますよね。子どもも同じで、「知っている」という感覚が、警戒心をやわらげてくれます。

なぜ、問いかけがこれほど効くのでしょうか。

ポイント | 命令された行動には「やらされ感」がつきまといますが、自分で予想して確かめる行動には「知りたい」がベースにあります。子どもは、言われたから食べるのではなく、自分の予想が当たったかを知りたくて口に運ぶ。この「自分で決めた」という感覚が、食べものへの印象をやわらかくします。

大事なのは、「食べなさい」と迫るのではなく、「どっちだと思う?」と一緒に考える側に回ること。命令ではなく問いにするだけで、苦手な食べ物が ”実験” に変わります。

トマト、ラディッシュ、キャベツ、きゅうりなどの新鮮な野菜に囲まれた中央のスペースに向かって伸ばされた、複数の子どもの手

「触って比べる」だけでもOK

「食べ比べのハードルすら高い」という日もありますよね。そんなときは、口に入れる前の段階、つまり触ったり眺めたりして比べるだけでも効果があります。

研究で分かっていること | 3 〜 4歳の子ども62人を対象にした研究では、本物の野菜や果物を使って感覚あそび(見る・触るなど)をしたグループは、ただ眺めただけのグループよりも、そのあとの試食で自分から口に運ぶ量が増えました。(デ・モントフォート大学、ヘレン・コウルサード博士)*2

トマトを手のひらで転がして重さを比べる、きゅうりの断面のにおいをかいでみる、ピーマンを半分に切ってなかの種を数えてみる。そんな ”食べる前の遊び” が、「食べてみようかな」のスイッチをそっと押してくれます。手で触れたり、においをかいだりして「知っている感じ」が増えると、口に運ぶときの心理的なハードルがぐっと下がるのです。

苦手な野菜から始める必要はありません。まずは子どもが好きな野菜で「比べる」「触る」を楽しんでみて、慣れてきたら少しずつ苦手なものへ広げていく。その順番のほうが、無理がありません。子どもにとっても、いきなり苦手なものと向き合うより、得意なもので成功体験を積んでからのほうが、ずっと取り組みやすくなります。

畑で収穫したトマトとカブを両手で高く掲げて、笑顔を見せる2人の女の子

「食べられた」より「気づけた」をほめる

比べる遊びのいいところは、たとえその日に食べられなくても、「皮の色が違う」「においが違う」と気づけたこと自体が成果になる点です。じつは、無理に食べさせなくても、味見の機会をくり返すこと自体が嗜好を変えていくことが分かっています

研究で分かっていること | ロンドンの小学校で行われた実験では、めずらしい野菜を毎日少しずつ味見する機会をもらった子どもたちは、その野菜を好きになり、食べる量も増えました。いっぽう、ごほうびをあげる方法では、はっきりした効果は見られませんでした。(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、故ジェーン・ワードル博士)*3

回数を重ねること、そしてその体験を、責めない楽しい時間にすること。それが、一番の近道でした。ごほうびで釣らなくても、叱らなくても、ただ楽しく比べる時間を積み重ねるだけでいいのです。だから、「食べられたね」だけでなく「よく気づいたね」と声をかけてあげてください。食べられなかった日も、比べて気づけたなら、それはもう前に進んでいます。

「甘いほうを当てられた」「においの違いがわかった」。そのひとつひとつが、その野菜と仲よくなる小さな一歩になっていきます。

ポイント | 「気づけたこと」をゴールにすると、親の気持ちも楽になります。「今日も食べてくれなかった」ではなく「今日は皮の色のちがいに気づけた」と受けとれる。食卓が ”採点表” でなくなると、親の声も自然とやわらかくなり、そのやわらかい空気こそ、子どもがいちばん食べやすい環境になります。

今日は食べられなくても、その積み重ねの先に、ふと口に運ぶ日がやってきます。焦らず、比べる遊びを続けていきましょう。

今日の夕食で試せる、ひとつのこと

今夜の食卓で、いつも出している野菜をふたつ並べて、「どっちが甘いと思う?」と聞いてみてください。ミニトマトが2粒でも、きゅうりの切り方でもかまいません。食べるかどうかは、その次でいい。まずは「予想する」という遊びを、ひとつ食卓に足してみましょう。
***
「食べなさい」は、子どもを思う気持ちから出てくる言葉です。その気持ちはそのままに、言い方だけ「どっちだと思う?」に変えてみる。それだけで、明日の食卓がいつも以上に楽しくなります。

FAQ(よくある質問)

Q. 「どっちが甘い?」と聞いても、子どもが食べようとしません。

A. 食べなくて大丈夫です。この遊びの目的は、その日に食べさせることではなく、その食べものを「面白いmの」として印象づけること。予想するだけ、においをかぐだけでも一歩です。眺めたり触れたりする回数が増えるほど、口に運ぶ日は近づきます。焦らず、まずは「比べる」を楽しんでください。

Q. どんな野菜から始めるのがよいですか?

A. まずは子どもが好きな野菜や、抵抗の少ないものから始めるのがおすすめです。ミニトマトの大小や皮の色くらべ、きゅうりの切り方や下ごしらえのちがいなどは、失敗が少なく取り組みやすい題材です。好きなものでやり方に慣れてから、苦手な野菜へ少しずつ広げていくと、子どもも身がまえずにすみます。

Q. 何歳ごろからできますか?

A. 「甘い・すっぱい」などの言葉が少しわかるようになる幼児期から楽しめます。まだ言葉で答えられない年齢でも、触って比べる、においをかいで比べるといった遊びなら取り入れられます。年齢に合わせて、答えを言葉で言う・指さすなど、無理のない形で一緒に楽しんでみてください。

(参考)
*1 Galloway, A. T., Fiorito, L. M., Francis, L. A., & Birch, L. L. (2006)|‘Finish your soup’: Counterproductive effects of pressuring children to eat on intake and affect. Appetite, 46(3), 318-323.
*2 Coulthard, H., & Sealy, A. (2017)|Play with your food! Sensory play is associated with tasting of fruits and vegetables in preschool children. Appetite, 113, 84-90.
*3 Wardle, J., Herrera, M. L., Cooke, L., & Gibson, E. L. (2003)|Modifying children’s food preferences: the effects of exposure and reward on acceptance of an unfamiliar vegetable. European Journal of Clinical Nutrition, 57(2), 341-348.