6月26日の朝8時、サッカー日本代表がワールドカップのグループリーグ最終戦でスウェーデンと対戦します。金曜の朝、登校や登園の準備に追われながら、テレビをちらりと気にかける。そんなあわただしい時間帯かもしれません。
たとえ試合をリアルタイムで見られなくても、相手国のことを少し知っておくと、夜に子どもと結果を話すときの楽しみが増えます。
スウェーデンは、じつは子育ての分野でも世界から注目されてきた国です。とはいえ「北欧の子育ては理想的」と聞くと、なんだか自分の毎日と比べてしまって、少し気が重くなる方もいるかもしれません。
でも今日お伝えしたいのは、まねをしてがんばろうという話ではありません。スウェーデンの考え方のなかに、いまの肩の力をふっとゆるめてくれるヒントがある、という話です。
目次
「ちょうどいい」を大切にする国
スウェーデンには「ラーゴム(lagom)」という言葉があります。「多すぎず、少なすぎず、ちょうどいい」という意味で、暮らしのあらゆる場面で大切にされている感覚です。完璧を目指すのではなく、その人にとってほどよいところで満足する。そんな価値観が、子育てにも自然と流れこんでいます。
たとえば、日本では「もっとやってあげなきゃ」「まわりの子はできているのに」と、つい自分を追い立ててしまう瞬間がありますよね。送り迎えに、習い事に、宿題の声かけ。気づけば一日中、子どものために動き続けて、夜にはくたくた。それは、あなたが子どもを大切に思っているからこそ生まれる疲れです。その気持ちは、まず何より尊いものです。
そのうえで、ラーゴムの発想をひとつだけ足してみると、少しだけ呼吸がラクになるかもしれません。「全部を完璧にやらなくても、わが家にとってちょうどいいところでいい」。そう思えるだけで、肩の荷がひとつ下りる感じがしないでしょうか。

外で過ごす時間を、特別なことにしない
スウェーデンの子育てを語るうえで欠かせないのが、自然のなかで過ごす習慣です。寒くて暗い冬が長い国にもかかわらず、子どもたちは驚くほど外で過ごします。
実際、スウェーデンでは1歳から5歳の子どものおよそ85〜95%が幼児学校(プレスクール)に通っており、屋外で過ごす時間が一日のなかに当たり前のように組みこまれています。そして子どもたちは、室内にいるときよりも屋外にいるときのほうが活発に体を動かすことが、客観的な計測でも確かめられています。(イェーテボリ大学、アンドレアス・フローベリ研究員ら)*1
ここで大切なのは、彼らが特別なプログラムを用意しているわけではない、ということです。スウェーデンの幼児学校では、屋内外での自由な遊びが活動の中心を占めています。決まった課題をこなすのではなく、子どもが自分のしたいことを見つけて夢中になる。その時間そのものが学びになると考えられているのです。(メーラルダーレン大学、エヴァ・オーレマルム=ハグセール教授ら)*2
これは、忙しい毎日を送る私たちにとって、むしろ朗報かもしれません。必ずしも立派な道具も、完璧な計画もいりません。近所の公園に行って、子どもが砂をいじったり、葉っぱを拾ったりするのを、ただそばで見ている。それだけで、子どもにとっては充分に豊かな時間になっているのです。
大人の目には「ただ遊んでいるだけ」に見えても、子どもの内側では小さな発見と試行錯誤がくり返されているのです。
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「見守る大人」がいることの意味
スウェーデンには、もうひとつ世界に知られた子育ての歩みがあります。1979年、この国は世界で初めて、家庭も含めたあらゆる場面での子どもへの体罰を法律で禁止しました。叩いてしつけるのではなく、言葉で向き合い、子どもをひとりの人として尊重する。そうした姿勢が、自然のなかの関わり方にも通じています。
とはいえ、「外で遊ばせればいい」と放っておけばいい、という話ではありません。スウェーデンの研究では、園庭の広さや屋外で過ごす時間だけでなく、そばにいる大人自身がどう関わるかが、子どもの活動量と結びついていることが示されています。(カロリンスカ研究所、ダニエル・ベリンド研究員ら)*3
ここでいう「関わる」とは、あれこれ指示することではありません。子どもが「見て!」と何かを見つけたとき、スマホから顔を上げて「ほんとだ、おもしろいね」と一緒に驚く。たったそれだけで、子どもは安心して世界を探検していけます。大人は、教える人ではなく、同じ景色を一緒に眺める人でいい。スウェーデンの自然のなかの子育ては、そんなことを教えてくれます。

「子どもといる大人」が、ママだけではない国
もうひとつ、スウェーデンの子育てを語るうえで欠かせないのが、父親が子育てに深く関わる文化です。平日の昼間に、ベビーカーを押す父親や、公園で子どもと過ごす父親の姿が当たり前に見られる ―― そんな光景がよく知られています。
これは自然にそうなったわけではなく、長い時間をかけて社会が整えてきたものです。スウェーデンは1974年、世界で初めて父親も取得できる育児休業制度を導入しました。
けれど、制度をつくっただけでは父親の取得はなかなか進まず、1990年代に「パパ・クオータ」と呼ばれる仕組みが加わります。これは両親が分け合う育休のうち、一定の日数(現在は各親90日)を「相手に譲れない、その親専用の期間」として割り当てる制度です。
父親が取らなければ、その分の権利は消えてしまう。この仕組みが後押しとなり、いまでは父親の育児休業取得率は9割前後に達しています。
給付の手厚さも特徴で、両親あわせて取得できる480日のうち、最初の390日間は収入のおよそ8割が保障されます。経済的な不安が小さいことが、父親が休みを取りやすい土台になっています。(スウェーデン政府公式サイト)*4
特別な場所へ出かけなくても、明日の散歩のとき、子どもが立ち止まった先に、少しだけ目を向けてみる。そんな小さな一歩から、試してみてはいかがでしょうか。試合の夜、結果を子どもと話しながら、相手の国の暮らしに思いをはせてみるのも、いいかもしれません。
「ちょうどいい」を、わが家のかたちで
今回、ご紹介したスウェーデンの考え方は、どれも特別な道具もお金もいりません。ラーゴムも、外遊びも、見守る姿勢も、すべて「完璧でなくていい」というポイントでつながっています。
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6月26日、日本代表はそんな国を相手にピッチに立ちます。試合の前後に、子どもと「この国ではね、お父さんも一緒に子育てするんだよ」とスウェーデンの暮らしのことを少しだけ話してみる。対戦相手の国を入り口に、世界には色々な家族のかたちや生き方があると知ること。それは子どもにとって、ずっと長く残る学びになります。
FAQ(よくある質問)
Q. 共働きで、毎日たくさん外遊びをさせる時間がありません。
A. 毎日長時間でなくても大丈夫です。スウェーデンでも、家庭ではなく幼児学校での屋外時間が大きな役割を果たしています。週末に少し公園に立ち寄る、保育園の送迎で遠回りして葉っぱを拾う。そんな短い時間の積み重ねでも、子どもにとっては意味のある体験になります。
Q. 「ラーゴム」を意識すると、子どもに手をかけなさすぎになりませんか?
A. ラーゴムは「手を抜く」こととはちがいます。あなたにとって無理のない範囲を見つける、という発想です。何が「ちょうどいい」かは家庭ごとに異なります。まわりの基準ではなく、わが家のペースを軸に考えてみてください。
Q. 外遊びのとき、親はどこまで口を出すべきでしょうか?
A. 道路への飛び出しや、お友だちとのトラブルなど、危険がともなう場面では、もちろんすぐに止めて大丈夫です。そのうえで、安全が保たれている場面では、指示や手助けは最小限でかまいません。子どもが何かを見つけて伝えてきたときに、一緒に驚いたり面白がったりする。その応答があるだけで、子どもは安心して遊びを深めていけます。「教える」より「一緒に眺める」を意識してみてください。
Q. スウェーデンのように、夫婦で育児を半分ずつ分けないといけませんか?
A. きっちり半分にする必要はありません。スウェーデンでも、育休を平等に分け合う夫婦はまだ一部で、現実にはさまざまな分担のかたちがあります。大切なのは「母親ひとりが背負うのが当たり前」という前提を少しゆるめること。送りはパパ、寝かしつけはママ、というように、わが家にとって無理のない分け方を見つけられれば十分です。
(参考)
*1 BMC Public Health|Outdoor physical activity in traditional and newly designed preschools: a cross-sectional study.
*2 Cogent Education|‘There are plenty of opportunities for play and learning’ – Swedish preschool teachers’ perspectives on using the outdoor environment as a pedagogical resource.
*3 PLOS ONE|Preschool environment and preschool teacher’s physical activity and their association with children’s activity levels at preschool.
*4 sweden.se(スウェーデン政府公式サイト)|Parenting in Sweden.









