「夏休み、一日じゅう家にいるあの子と、ゲームや動画のことで毎日言い合いになりそう……」
終業式が近づいてくると、楽しみな気持ちと一緒に、ちいさな不安も顔を出しませんか。去年の夏を思い出して、いまから少し気が重い。それは、きっとあなただけではありません。
朝から「もう1回だけ」、お昼を過ぎても「あとちょっと」、夕方には「いつまで見てるの!」とつい声を荒らげてしまう。そして夜、寝顔を見ながら「また怒っちゃったな」と反省する。あの消耗を、今年はくり返したくない。その気持ち、とてもよくわかります。
そこで今回ご提案したいのが、まだ夏休みまで少し時間に余裕のあるうちに、家庭のルールを子どもと一緒につくっておくこと。親が決めて言い渡すのではなく、「一緒に」がポイントです。その理由を、お母さんの負担が増えない形で、見ていきましょう。
目次
「始まってから」ではなく「始まる前」に決めておくと、もめにくい
夏休みは、それまでの生活リズムや時間の枠組みが、いったんゆるみます。学校という外側の枠がなくなる分、お家のなかの見通しが、子どもの過ごし方を大きく左右することになります。
📖 研究より
オーストラリアの2485人の子どもを対象にした縦断研究では、メディアに関するルールが家庭にあり、それがきちんと運用されていることが、その後の子どものスクリーン時間の少なさを予測する要因のひとつだったと報告されています。(クイーンズランド工科大学、ナイコル・ヘイズ氏ほか)*1
ここで大事なのは、ルールそのものよりも「あらかじめ枠組みがあること」が効いている、という点です。ぶっつけ本番で毎回その場で交渉するのではなく、見通しが先にあるからこそ、お母さんも子どもも消耗しにくくなります。言いかえれば、いまのうちに準備しておくことは、夏のあなた自身をラクにする先回りでもあるのです。

「禁止」ではなく「一緒に決める」。そのほうが、子どもは守ろうとする
ルールと聞くと、「あれもダメ、これもダメ」と制限を並べるイメージがあるかもしれません。でも、子どもに「やらされている」と感じさせるルールは、隠れてやる・反発するというかたちで、かえって親子の火種になりがちです。
📖 研究より
自己決定理論に基づく研究では、親が子どもの気持ちや視点を尊重しながら関わる「自律性を支える関わり」が、ルールの内在化、つまり子どもが自分のものとしてルールを受け入れていくことを促すと示されています。逆に、上から押さえつけるような関わりは、それを妨げる傾向があったと報告されています。(モントリオール大学、ジュリー・ロラン氏ほか)*2
難しく聞こえるかもしれませんが、やることはシンプルです。「ママはこう思うけど、あなたはどう思う?」と、決める過程に子どもを入れてあげる。それだけで、ルールは「押しつけられたもの」から「自分も決めたもの」に変わります。自分で決めたことなら、子どもは守ろうとする力が働きやすくなるのです。
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「ゼロか100か」にしないことが、続けるコツ
ルールづくりでつまずきやすいのが、つい厳しくしすぎてしまうと、夏休み中、守りきるのは難しいもの。守れなかったときに、また叱る材料が増えてしまいます。
📖 研究より
カナダの未就学児を対象にした研究では、視聴時間の上限や見てよい内容を決めておく「制限的な関わり」が、その後のスクリーン時間を適切な範囲に保つことをもっとも予測しやすかったと報告されています。(シェルブルック大学、キャロライン・フィッツパトリック氏ほか)*3
ポイントは、完全な制限ではなく「枠を決めておく」こと。たとえば「午前中の宿題が終わったら30分」「夕ごはんのあとは家族の時間だから動画はおやすみ」のように、ゼロにするのではなく、いつ・どれくらいなら大丈夫かを具体的に決めておく。これなら子どもにも目指すゴールが見え、お母さんも「ここまではOK」と気持ちにゆとりを持てます。
子どもと話し合うときは、こんな順番がおすすめです。
1気持ちをまるごと受けとめる
まず「夏休み、ゲームも動画も楽しみだよね」と、楽しみたい気持ちをまるごと受けとめる。
2一緒に考える側に立つ
そのうえで「でも、ずっとだと目も疲れちゃうし、ほかにやりたいこともあるよね。どんなふうにしたら、お互い気持ちよく過ごせるかな?」と、一緒に考える側に立つ。
3決めたことを見える化する
決めたことは紙に書いて、見える場所に貼っておくと、いざというとき「自分たちで決めたよね」と、おだやかに立ち返ることができます。

ルールは「もめないため」だけのものではない
ここまで、もめごとを減らす視点でお話ししてきました。でも、夏休み前に親子で一緒にルールをつくる時間には、それ以上の意味があります。
「どうしたらお互い気持ちよく過ごせるかな」と一緒に考える時間は、子どもにとって、自分の欲求と折り合いをつける練習の場になります。やりたい気持ちを大事にしながら、でも全部は通らない。その中間を、お母さんと一緒に言葉にしていく。この経験そのものが、子どもが自分をコントロールする力を、ゆっくり育てていきます。
そしてそれは、限られた夏の時間を、叱る時間ではなく、一緒に過ごす時間に変えていくことでもあります。ゲームや動画は、取り上げるべき敵ではなく、夏休みの楽しみのひとつ。そう思えると、ルールづくりの会話も、少し肩の力が抜けたものになるかもしれません。
今年の夏に、できそうなこと
完璧なルールをつくる必要はありません。終業式までのどこかで、子どもと10分だけ、「夏休みのゲームと動画、どうしようか」と話してみる。それだけで、今年の夏は去年と少し違うものになるはずです。
***
決めたルールは、やってみてうまくいかなければ、途中で一緒に直せばいい。「これ、ちょっとむずかしかったね。どう変えようか」と相談できること自体が、子どもにとって大切な経験です。ルールは、親子で育てていくもの。そう考えると、夏のはじまりが、少し楽しみになってきませんか。
FAQ(よくある質問)
ルールを決めても、子どもが守らなかったらどうすればいいですか?
A. まずは頭ごなしに叱るのではなく、「決めたルール、どこがむずかしかった?」と一緒にふり返ってみてください。守れないルールは、たいてい子どもにとってハードルが高すぎることが原因です。時間や内容を子どもと相談しながら現実的なラインに調整していくこと自体が、自分で守る力を育てる練習になります。一度決めたら変えてはいけない、と気負わなくて大丈夫です。
下の子がまだ小さく、一緒に決めるのがむずかしい年齢です。
A. 小さなお子さんの場合は、選択肢を2つに絞って「どっちがいい?」と選ばせる形がおすすめです。「ごはんの前と後、どっちで見る?」のように、決める範囲を小さくしてあげれば、自分で選んだという感覚は十分に持てます。年齢に応じて、選ばせる幅を少しずつ広げていくとよいでしょう。
親の私自身がスマホを見すぎていて、説得力がない気がします。
A. 完璧である必要はありません。むしろ「ママもつい見すぎちゃうから、一緒に気をつけよう」と伝えるほうが、子どもには対等な約束として届きます。親も同じ枠の中にいると示すことは、ルールを上からの命令ではなく、家族みんなのものにしていくうえで、とても効果的です。
(参考)
*1 Hayes, N., White, S. L. J., Berthelsen, D., Burley, J., & Cliff, D. (2025)|Longitudinal associations between child, parenting, home and neighbourhood factors and children’s screen time through 4 to 7 years of age. BMC Public Health, 25(1), 1623.
*2 Laurin, J. C., & Joussemet, M. (2017)|Parental autonomy-supportive practices and toddlers’ rule internalization: A prospective observational study. Motivation and Emotion, 41(5), 562-575.
*3 Fitzpatrick, C., Cristini, E., Bernard, J. Y., & Garon-Carrier, G. (2023)|Meeting preschool screen time recommendations: which parental strategies matter? Frontiers in Psychology, 14, 1287396.









