教育を考える/親の関わり 2026.7.30

「甲子園ってなに?」は夏だけの魔法の質問。子どもの「はじめての言葉」に親ができるたったひとつのこと

「甲子園ってなに?」は夏だけの魔法の質問。子どもの「はじめての言葉」に親ができるたったひとつのこと

夕方のニュースに、大きな文字が映ります。「甲子園、開幕迫る」。すると隣でアイスを食べていた子どもが、ふと顔を上げて聞いてきました。

「ねえ、こうしえんって、なに?」

高校野球の全国大会だよ、と答えたところで、ふと気づきます。あれ、なんで「甲子園」っていう名前なんだろう。いつから夏にやっているんだっけ。毎年当たり前に見てきたのに、聞かれてみると、意外と知らない。

でもこれ、じつはちょっと面白い瞬間です。子どもの「なに?」をきっかけに、大人の側にも小さな「なんでだろう?」が生まれる。「一緒に調べてみようか」と言いたくなる。そんな入口が、夏の暮らしにはたくさん転がっています。

今日は、そんな子どもの質問とのちょうどいい付き合い方のお話です。じつは、子どもの質問に完璧に答える必要は、まったくないのです。

夏は、子どもが「はじめての言葉」に出会う季節

甲子園、お盆、迎え火、入道雲、土用の丑の日、帰省ラッシュ。

夏の暮らしのなかには、子どもが初めて出会う言葉があふれています。テレビから、おばあちゃんの家の会話から、スーパーの張り紙から。幼稚園や学校では習わない言葉が、生活のあちこちから飛びこんでくる。それが夏という季節です。

だから、夏の子どもは質問が増えます。大人にとっては当たり前すぎて、あらためて説明したことのない言葉ばかり。「うなぎを食べる日ってなに?」と真顔で聞かれて、「え、なんでだったかな」と親のほうが考えこむ。そんな場面が、夏には何度もやってきます。

発達心理学の研究によると、子どもは興味をもって活動しているとき、平均して1分間に1回以上のペースで質問をすることがわかっています。しかもその質問の約7割は、甘えやかまってほしさではなく、純粋に「知りたい」という情報を求めるものだったのです。(カリフォルニア大学マーセド校、心理学者ミシェル・シュイナード氏)*1

質問ラッシュは、困った行動ではありません。子どもの頭のなかで、言葉と世界がつながろうとしている音なのです。

思い出してみてください。去年は素通りしていた言葉に、今年は「なに?」と食いついてくる。それは、この1年でお子さんの世界がぐんと広がった証拠でもあります

公園で帽子をかぶった女の子と男の子が顔を見合わせて楽しそうに笑っている様子

「正確に答えること」より、大切なこと

とはいえ、「せっかく聞いてくれたんだから、わかりやすく説明してあげたい」と思いますよね。その気持ちはとても自然なものです。ただ、頭ではわかっていることを子ども向けに翻訳するのは、意外と難しい。そこで役に立つ研究があります。

2 〜 5歳の子どもが「なんで?」と聞いたあとの反応を調べたところ、子どもたちは、理由や説明が返ってきたときには納得してうなずいたり、さらに質問を重ねたりした一方、説明にならない返事(「そういうものなの」など)が返ってきたときには、同じ質問を繰り返したり、自分なりの説明を考え始めたりしたのです。(ミシガン大学、発達心理学者スーザン・ゲルマン教授ら)*2

注目したいのは、子どもが求めている「説明」のハードルの低さです。「高校生のお兄さんたちが、野球で日本一を決める場所なんだよ」。これだけで、子どもにとっては立派な説明です。甲子園の歴史も、地方大会の仕組みも、タイブレークのルールも要りません。大人が「わかりやすく」と悩んで盛りこもうとする情報のほとんどは、じつは要らないのです。

そして、名前の由来のように親も知らないことなら、なおさらチャンスです。「なんでだろうね、一緒に調べてみようか」。この返事は、手抜きではありません。「わからないことは調べればいい」という、学び方そのもののお手本になります。

子どもの質問の約7割は「知りたい」という純粋な情報探索。そして自分の疑問から得た答えは、深く記憶に残りやすいことも示されています。子どもの「なに?」は、学びの入口がひらいた合図です。

青空の下、草原の坂を元気に走っていく2人の子どもの後ろ姿

文脈のなかで出会った言葉は、忘れない

もうひとつ、夏ならではのよさがあります。

「甲子園」という言葉を、国語ドリルで覚えたらどうでしょう。おそらく、すぐに忘れてしまいます。でも、真夏のリビングで、アイスを食べながら、テレビの歓声と一緒に出会った「甲子園」は違います。ブラスバンドの音、白いユニフォーム、ママとの会話。そうした体験ごと、言葉が記憶に刻まれるからです

考えてみれば、私たち大人が「甲子園」を説明抜きでわかっているのも、同じ理由です。誰かに定義を教わったからではなく、夏のたびに、あの音と映像と空気に触れてきたから。言葉は、意味を教わるだけでは育ちません。「いつ、どこで、誰と、どんな気持ちで出会ったか」という文脈と結びついたとき、初めて子どものものになります

しかもこの学び方には、教材費も送り迎えも要りません。必要なのは、いつものリビングと、いつもの会話だけ。テレビの前のソファが、そのまま教室になります。

ハイタッチする親子

今日からできる、たったひとつのこと

では、具体的に何をすればいいのか。ご提案したいのは、たったひとつです。
最後に、質問が来たときのご提案を、たったひとつだけ。

説明を始める前に「いい質問だね。どんなのだと思う?」とひとこと返してみてください。たとえば、こんな具合です。

こども 「こうしえんってなに?」
ママ 「いい質問だね。どんな場所だと思う?」
こども 「うーん……おっきい公園?」
ママ 「近いかも! 野球場なんだって」

こんな、なんてことのないやりとりで充分です。これだけで、一問一答だった会話が、往復のあるキャッチボールに変わります。子どもは自分の予想を言葉にし、答え合わせをし、また次の質問を思いつく。この往復こそが、言葉と考える力を育てる土壌になります。

質問することは、それ自体が子どもにとって強力な学びの方法であり、知識の隙間を自分から埋めにいく力の表れだとされています。(ボストン大学、発達心理学者サミュエル・ロンファード氏ら)*3

予想が外れていても、まったく問題ありません。「おっきい公園」と「野球場」の距離を自分で埋めた経験が、その子の財産になるのですから。

***
まもなく甲子園が開幕します。リビングに流れる中継の前で、お子さんはきっと、たくさんの「はじめての言葉」に出会うでしょう。甲子園、サヨナラ、アルプススタンド、延長タイブレーク。そのひとつひとつが、魔法の質問の種です。知らないことに出会ったら、親子で一緒に不思議がればいい。この夏、親子の言葉のキャッチボールが、何往復も続きますように。

FAQ(よくある質問)

Q. 同じ質問を何度も繰り返されます。答えているのに、なぜですか?

A. 研究では、説明として腑に落ちる答えが得られなかったとき、子どもは同じ質問を繰り返す傾向が示されています。「そういうものなの」で流していないか、一度ふり返ってみてください。また、納得していても「もう一度あの会話がしたい」という理由で繰り返す場合もあります。

Q. 「どんなのだと思う?」と返すと、「わかんない!教えて!」と怒られます。

A. 無理に考えさせる必要はありません。子どもが答えを急いでいるときは、素直に教えてあげてください。そのあとに「〇〇だと思った?」と軽く聞くだけでも、会話の往復は生まれます。逆質問は「余裕のあるときだけ使う道具」くらいに考えておくと、親子ともに楽です。

Q. 質問が連鎖して「なんで?」が止まらなくなります。途中で切り上げてもいいですか?

A. かまいません。「続きはお風呂で考えよう」「明日おばあちゃんに聞いてみよう」と、次につなげる形で区切れば、子どもの探究心は途切れません。全部に答えきることより、「質問すると楽しいことが起こる」という体験を残すことのほうが、ずっと大切です。

 

(参考)
*1 Chouinard, M. M. (2007)|Children’s questions: A mechanism for cognitive development. Monographs of the Society for Research in Child Development, 72(1), 1-112.
*2 Frazier, B. N., Gelman, S. A., & Wellman, H. M. (2009)|Preschoolers’ Search for Explanatory Information Within Adult-Child Conversation. Child Development, 80(6), 1592-1611.
*3 Ronfard, S., Zambrana, I. M., Hermansen, T. K., & Kelemen, D. (2018)|Question-asking in childhood: A review of the literature and a framework for understanding its development. Developmental Review, 49, 101-120.