「こんなこともできるんだ」——わが子の成長に驚く瞬間は、親にとってかけがえのないものです。
キッザニアは、そんな瞬間にたくさん出会える場所。親の手を離れて職業体験に挑む子どもたちは、いつもよりちょっと大人びた表情で、真剣に仕事に取り組みます。ハラハラしながら見守る親御さんの胸には、じんわりと温かいものが広がります。
では、なぜキッザニアでは、子どもたちがこんなにいきいきと輝くことができるのでしょうか。そこには、子どもたちの「生きる力」を育むための、キッザニアのさまざまな想いと取り組みがありました。
2025年12月に発行された『キッザニア白書2025』。その発行を記念して、子育てのヒントを探りに、キッザニアを企画・運営するKCJ GROUP 株式会社(キッザニア ジャパン)アカデミーラボの岩下好美さん、酒井綾菜さんにお話を伺いました。
目次
“子どもだまし” をしない――リアルさへのこだわり
——まず、キッザニアでどのような体験ができるのか教えてください。
岩下さん(以下 岩下):キッザニアは、実社会の約2/3サイズの街並みでアクティビティとして職業体験をしてもらうエデュテインメント施設です。消防士や警察官、パティシエ、自動車整備士など、キッザニア東京では約100種類のアクティビティがあります。
対象年齢は3歳から15歳。お子さんたちには自分で体験したいアクティビティを選んでいただき、それぞれに設定されたミッションに挑戦してもらいます。消防士なら火災現場での消火活動、花屋さんならフラワーアレンジメントの創作など、その内容は多岐にわたります。
キッザニアには、こんな世界観があります。人々が希望を見失った世界で、「大人にはもう世界を任せておけない」と立ち上がった子どもたちが、世界を変えるための技術や知恵を学ぶために作った『こどもが主役の国』——それがキッザニアです。

キッザニア ジャパン アカデミーラボ 岩下さん
——キッザニアの世界にはどんなこだわりがありますか。
岩下:体験する子どもたちの没入感が大切だと考えており、そのためにリアルであることを徹底しています。子どもは五感・感性が鋭いので「子どもだまし」は通用しないんです。
パビリオンは実物の2/3の大きさですが、本物そっくりに作り込んでいます。ユニフォームも企業ロゴが入っており、本格的な仕様になっています。
ユニフォームを着ることはその職業に「なりきる」うえで役に立ちますが、じつはそれ以上の効果があります。ミシガン大学経営学部のグレゴリー・ローレンス教授との研究で、ユニフォームを着ることで、チームワークにおける自己効力感も増すことがわかってきたのです。
このようにユニフォームを着ると子どもたちがキラキラと輝くことを、私たちは「ユニフォーム・マジック」と名付けています。
また、キッザニアの世界では、スーパーバイザーがアクティビティをサポートしますが、決して子ども扱いせず、ひとりの人間として接することを大切にしています。

子どもを大人扱いする。それだけで子どもの顔つきが変わる理由
――「ひとりの人間として接する」とのお話がありましたが、スーパーバイザーの方々の具体的な関わり方について教えていただけますか。
酒井さん(以下 酒井):スーパーバイザーは、子どもひとりひとりをしっかりと認め、丁寧に接しています。私もスーパーバイザーを4年務めた経験があり、子どもならではの発想があり、当時は毎日教えられることばかりでした。
スーパーバイザーが心がけるべきことは、子どもを「さん」付けで呼び、子ども扱いせず、ひとりの人間として接することのほか、もうひとつ、ポジティブワードでお声がけするということがあります。前向きな言葉で声を掛けひとりひとりの言動を否定しないこと、認めることで、子どもたちの自信、誇りが生まれます。これは研修のときから、徹底して指導されました。
——アクティビティは、設定されたミッションを達成したらそれで終了なのでしょうか。
酒井:いえ、必ずなんらかのかたちで自分たちの活動を振り返るようにしています。たとえば、「花屋」のパビリオンでは、創作したフラワーアレンジメントを発表します。自分たちの活動を振り返ることで、客観的に自分を見直すという設計になっています。
スーパーバイザーからも気づきを促したり、フィードバックをしたりするようにしています。それによって、子どもたち自身の考えを深堀りしてもらえるようになると思います。

キッザニア ジャパン アカデミーラボ 酒井さん
——キッザニアを体験すると、子どもたちに変化はあるのでしょうか。
酒井:はい。たとえば、キッザニア東京には「ぽん酢工房」があり、そのアクティビティを体験して持ち帰った味付けぽん酢を使って、きらいだった酢の物を食べるようになった子もいます。ほかにも好ききらいがなくなったという話はよく聞きます。
岩下:また、キッザニアではアクティビティを体験すると、働いたことになるので、「キッゾ」というキッザニアだけで使える通貨で対価を受け取るのですが、お金に興味をもつようになって、家に帰って、お店ごっこ遊びをするようになる子もいるようです。
料理のアクティビティを経験した子は、家でお手伝いもするようになった、というケースもあります。体験してみたらすごく楽しくて、料理って楽しい、またやりたい、という気持ちが芽生えるようです。

「新しい自分」を引き出す環境づくり
——子どもたちがアクティビティを体験することで「新しい自分」を発見していくというお話がありました。そのために、どのようなことが必要だと思いますか。
岩下:まず、先程も触れた「ユニフォーム・マジック」があります。ミシガン大学経営学部のグレゴリー・ローレンス教授と今年行った研究で、ユニフォームを着ることで子どもたちが「キラキラと輝いて見える」現象を、ユニフォーム・マジックと名付けました。
研究の大筋としては、ユニフォームを着ると、その職業になりきることができ、自己効力感を高めるというものです。外科手術をする医師であればキビキビと動くようになりますし、接客業なら、にこやかに接客するようになる、というお話をよく聞きます。
研究では、ユニフォーム・マジックにはリアルさが大切であり、そのリアルさが子ども達の「できる」という気持ちを引き出すことが見えてきました。そしてユニフォーム・マジックが働くと、子どもたちはみな顔つきも変わり、その仕事への誇りと自信をもつようになるのではないかと考えられます。
――大人の関わり方として大切にしていることはありますか。
酒井:スーパーバイザーが子ども扱いせず、ひとりひとりが自分で仕事をするように見守っています。手とり足とり教えたり、心配しすぎたりしないという環境も、新しい自分になるいい契機になります。
また、子どもがもともと興味をもっている仕事とは違った仕事に、チャレンジする機会をつくることも大人の役目です。キッザニアのアクティビティのなかには、子どもにとって少しイメージがしづらく「どうだろう?」と思うものもあります。そのような時には、子どもにとって身近で、興味をもってもらえそうなアクティビティに関するキーワードを一つ見つけ言葉を掛けることで、チャレンジのきっかけになり、体験後には「すごく楽しかった!」ということもあります。
スーパーバイザーは子どもの「好き」を尊重することも大事にしていますが、新しい興味や気づきを広げるきっかけをつくることも大切にしています。

「こうあるべき」を手放し、見守る――親の距離感が子どもを伸ばす
――新しい発見をしていくなかで、子どもたちは自分のよさだけでなく、お互いの違いにも気づいていくのかもしれませんね。
酒井:スーパーバイザーも、アクティビティの途中や振り返りのときに、自分と一緒に体験した仲間との違いを感じて、人と違っていていい、ということに気づき、深堀りできるように、促しているところはありますね。
フラワーアレンジメントをやっているときの会話で、「これは誰かにプレゼントするもの? それとも自分のものですか?」「どんなことを表現したかったのですか?」という話をしていると、自然と「あ、相手のことをこんな風に思ってたんだ」「自分はこういう理由だから、こういう表現をしたかったのか」と、自分らしさ、その人らしさを見つけるプロセスが埋め込まれていると思います。
岩下:キッザニアは多様性を大切にしていまして、今年の白書のテーマにもなっています。子どもたちって本当に千差万別で、楽しんだり喜んだりするところがひとりひとり違う。子どもたちにとって多様性というのは当たり前のことなんですね。それは「子ども力」とでもいうような力でもあります。
しかし一方で、大人になると「こうでなければならない」がまさって多様性を忘れてしまう。
つまり、多様性というのは、当たり前に存在するのではなく、守らなければならないものでもあると思います。そのため、キッザニアでは、スーパーバイザーの振る舞いはもちろんですが、ユニフォームはジェンダーフリーにしたり、毎週水曜日は「English Wednesday!」として、英語でアクティビティを提供するなどもしています。

キッザニア ジャパン アカデミーラボ 左:酒井さん 右:岩下さん
――子どもの多様性や個性を守るために、親としてはどのように関わるのがよいのでしょうか。
酒井:子どもの成長を願い、「こうなってほしい!」と将来に期待を込めていらっしゃる保護者様の想いは素敵なことだと思います。ですが、ある程度距離をもって見守ることで、子どもにとっても、保護者の方にとっても、新しい発見や気づきが得られることもあるのかなと思います。
岩下:子どもたちを成長させるうえで、リアルさや周囲の本気度がポジティブな影響を与えている可能性があることがわかったので、これからも大人は本気で子どもを支えていかないといけないし、自分も本気で成長しないといけない。それが今回の研究での発見のひとつかと思いますね。

本気で向き合い、受け入れる——親へのメッセージ
——️最後に、教育現場のみなさんにメッセージをお願いします。
岩下:いま申し上げたように、大人はもちろん本気でなければならないのですが、同時に、子どものありようをそのまま受け入れる「幅」のようなものも必要なのではないかと思います。
株式会社コーセー 先端技術研究所との共同研究による価値観調査では、調査に協力してくれた子ども達の価値観が全て1枚の図にマッピングで表現されています。グラフなどにまとめてしまうと傾向が見えるだけになりますが、この図ではすべての子ども達を見ることができます。
あの図の広がりから、子ども達がそれぞれの方向に延びていくのだということを認識し、それを支えていくのが大人の役目なのだと感じました。そこから、キッザニアは微力ではありますが、一緒に頑張らせていただく、という気持ちでいます。
――子育てで悩んでいる親御さんへ、何かメッセージもお願いします。
岩下:なにか問題があって、お悩みになることは日々あると思います。しかし、子どもって、一生そのままの状態ではなくてどんどん変化していくものだと思います。ですから、いまの状態にあまりとらわれすぎず、考えすぎない、というのがよいかもしれません。
むしろ、いま、ここにしかない瞬間を、そんな余裕はないかもしれませんが、できたら前向きに受け止めて、楽しむ。大人もまた、欠点があって成長していく人間のひとりです。そしてまた、子どもも思い悩み、成長しようとするひとりの人間です。できたら、同じひとりの人間同士、一緒に悩み、考えていくのがよいのではないでしょうか。

️️——毎日、いろいろな子どもたちと接し、その笑顔を見つめているキッザニア。アクティビティ、白書のなかには、そこから得られた子育てへのヒントが散りばめられています。子育てに思い悩んだときには、キッザニアに行ってみると、なにかひとつ得られるものがあるかもしれません。
ここで、子育てへのヒントがぎっしり詰まった『キッザニア白書』の内容を少しご紹介します。
『キッザニア白書 2025』

KCJ GROUPでは、大学・大学院などの教育機関や専門家のみなさまと共同研究を実施し、その結果を「キッザニア白書」として 2014 年に創刊以来、発行を重ねています。
2025年版のコンセプトは「多様性」。「ユニフォーム・マジック」「中学生の『価値観』と『自尊感情』にみる、こころのかたち」という2つの研究成果に加え、村雨辰剛さんとの特別対談など、子育てのヒントにつながる内容が掲載されました。
〈ユニフォーム・マジックの研究〉
ミシガン大学経営学部グレゴリー・ローレンス教授監修。ユニフォームの着用が子ども達の自己効力感に与える影響について、来場前後のアンケートをもとに分析を行いました。ユニフォームの着用効果は、「チームワークに関する自己効力感」の要因を説明する統計モデルにおいて、説明力を50%近く向上させることがわかりました。年齢・学年による差も生じません。
「チームワークに関する自己効力感」は職業的自己効力感の一部とされています。それは、キッザニアで大切にされている「なりきり」にも通じます。ユニフォーム・マジックが「なりきり」力を高めて、それが自分の未来を描くきっかけとなっているのかもしれません。
〈中学生の価値観調査〉
株式会社コーセー 先端技術研究所との共同研究。全国の中学生約800名を対象に、価値観と自尊感情についてアンケート調査を実施しました。中学生が重視しているのは1位から順に「楽しさ」「自己決定」「思いやり」。自尊感情にポジティブに関係しているのは「楽しさ」や「自己決定」となっています。また、「対面」は自尊感情とネガティブな関係性があることがみえてきました。
「楽しい」や「自分で選ぶ」といった体験を重ねること、また「恥ずかしさ」への配慮が子ども達の自尊感情を伸ばすポイントと考えられます。これは、自分でアクティビティを選べ、常にポジティブな声かけを大切にするキッザニアが目指す方向と重なっていると思います。
〈特別対談〉
庭師・俳優の村雨辰剛さんとKCJ GROUP副社長の宮本美佐さんによる対談。スウェーデン出身でありながら日本文化に強く惹かれ、庭師としてのキャリアを選んだ村雨さんの経験に基づいた「夢を実現させるためのヒント」が語られています。
〈キッザニア10 Values〉
2025年版に掲載されている10 Valuesは「主体性」「やり抜く力」「創造力」「好奇心」「責任感」「自己効力感」「自己肯定感」「コミュニケーション力」「協働力」「論理的思考力」。時代に応じてアップデートされており、「子どもたちが、自分がハッピーになり、同時に周囲もハッピーにできる、それが『生きる力』」という考え方が根底にあります。
その他、キッザニアの全パビリオン紹介や大阪・関西万博でのアンケート調査など、さまざまなコンテンツが掲載されています。ぜひ公式ページでご覧ください。
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