教育を考える/学校・園生活 2025.12.17

「どうして教えてくれないの?」保育園で起きたケンカやケガ、加害児の親には伝えない? その背景を知ってほしい|保育士が解説

「どうして教えてくれないの?」保育園で起きたケンカやケガ、加害児の親には伝えない? その背景を知ってほしい|保育士が解説

度々起こる、保育園での子どもどうしのトラブル。保育士に謝罪されただけで終わりのような雰囲気が漂い「加害者の親に伝わっていないのではないか?」とモヤモヤした経験はありませんか?

子どもが噛まれた・引っかかれたのに、当事者である相手の親には伝えていないなんて納得できませんよね。「なぜ名前も言えないの?」「せめて保護者からの謝罪がほしい」と思うのは自然な感情です。

でもじつは、その“伝えない”には、保育園なりの理由があります。保育士歴10年の筆者が見る、保育園でのトラブル対応の背景とは……? 詳しく解説していきます。

ライタープロフィール

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山本あやか

保育士

児童学科で4年間学び、保育士資格や幼稚園教諭一種免許を取得。保育士として約10年勤務。現在、小学生2人を育てながら「働きながら子育てする大変さ」と対峙中。ワーキングマザーが安心して子どもを預けられるよう、さまざまな情報を発信します。

*この記事ではケガをさせてしまった側の子どもまたは保護者のことを加害者、ケガをしてしまった側の子どもまたは保護者のことを被害者と呼んで解説していきます。

保育園でトラブルがあったときの基本的な伝え方

多くの保育園では、子どもどうしのトラブルがあった際に加害者の名前や詳細を伝えない方針をとっています。

たとえば、お子さんがお友だちに引っかかれてケガをした場合、保育士からはこのように報告されます。

◆保育士からの伝え方の一例

💬 報告イメージ

今日、お砂場で遊んでいるときに、お友だちが〇〇くんが持っているスコップを欲しがってしまい、取り合いになった際に手の甲に引っかき傷ができてしまいました。大変申し訳ございません。〇〇くんはビックリした様子で少し泣いていましたが、いまのところ痛みはないようです。しばらく冷やしていたのですが、傷口をいっしょにご確認いただけますか? 園庭では私と保育士2名が見守っておりましたが、目が行き届かず大同申し訳ありません。

このように、加害者の名前については触れずに被害者に報告がおこなわれるのが基本です。

ただし、受診をともなう場合や弁償が必要な場合、今後の関わりに影響しそうな重大なトラブルの場合など、ケースによっては双方の保護者に詳細を伝えることもあります。

では、なぜ基本的には名前を伏せる対応がとられているのでしょうか?

電話をする保護者

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なぜ“伝えない”のか?保育園の視点から見た4つの理由

では、なぜ加害者に詳細を伝えないケースがあるのでしょうか? ここからは、保育園の視点から見た4つの理由を解説していきます。

 保育園でのトラブルは園の責任

保育園で起きたトラブルについて、加害者に詳細を伝えないのはなぜでしょうか。その背景には、「保育園で起きたことの責任は保育園が負う」という基本的な考え方があります。

保育園は、保護者から大切な子どもを預かっている以上、安心・安全に過ごせるよう最大限の配慮をする義務があります。その なかでケガや事故を未然に防げなかったとなれば、それは保育園側の責任です。

そのため、加害者の保護者には知らせず、被害者の保護者には保育士が誠心誠意謝罪するという対応が取られているのです。

💡ポイント

保育園で起きたトラブルのすべての責任は保育園側にあるため、加害者側ではなく被害者側に園が謝罪する

 子どもどうしのケンカは”成長の一部”

特に1歳〜3歳の子どもは、言葉で思いを伝えられず手が出てしまうことがよくあります。このようなトラブルは非常に多く見られますが、保育園では「成長の一部」として捉えています。

子どもは、思いに共感してもらう経験を積み、思いを伝える術を身につけることで、次第にトラブルが減っていきます。このような成長過程を考慮して、ある程度のケンカであれば詳細な報告を避けることもあるのです。

💡ポイント

子どもどうしのケンカは成長過程の一部なので、ある程度は双方温かく見守ってほしい

名前を伝えることで起こる「親どうしのトラブル」

どの保護者も、自分の子どもを一番大切に思っています。だからこそ、わが子がケガをさせられたと知ると感情的になりやすく、相手の名前を知れば知るほど怒りが増幅してしまうケースも少なくありません。

トラブルの捉え方が違ったり、思ったような謝罪が受けられなかったりすると、親どうしの対立に発展します。場合によっては法的トラブルになることもあるため、ある程度のトラブルは保育園側が判断・対応を担うのが最善策なのです。

💡ポイント

名前を伝えることで親どうしのトラブルや法的問題に発展するリスクがあるため、園が対応を担う

 子どもを”加害者”と決めつけないため

子どもどうしのトラブルは、必ずしも誰かが一方的に悪いとは言い切れません。例えば、次のようなケースがあります。

⚖ よくあるケース例

  • 玩具を無理矢理取られてしまい、取り返そうとしたときに引っかいてしまった
  • 順番を抜かされたことに腹を立ててドンッと体を押してしまった
  • 床に物を落としてしまい、そこに来たお友だちが引っかかって転んでしまった
  • 前に並ぶお友だちが急に後ろに下がってきて数名で重なって倒れてしまった

一歩伝え方を間違えれば、どのような背景があったとしても「〇〇くんが引っかいた」「〇〇ちゃんが押した」という極端な捉え方になってしまいます。もしかすると、保育士が見ていないところで別のやりとりがあったかもしれません。

小さなトラブルでも「加害者」のレッテルが貼られてしまうことがないよう、子どもの自己肯定感を守る意味でも配慮が必要なのです

ポイント

安易に「加害者」のレッテルを貼らないことで、子どもの自己肯定感を守る

保育園の子どもたちの画像

じゃあ、被害側は泣き寝入り?

自分の子どもが傷つけられたら、加害者から誠意のこもった謝罪がなければ納得できないという人も多いでしょう。しかし、責任は子どもではなく保育園側。状況説明や見守りの不備を十分に謝罪し、再発防止に努めているとしたらどうでしょうか?

そもそもトラブルに対する考え方はそれぞれで、価値観が異なる保護者どうしだけで解決しようと思うと、それこそ事態が悪化してしまうこともあります。

💭 保護者の感じ方はさまざま

👩保護者1
顔に傷をつけられるなんて黙っていられない。正直、保育園側だけでなく両親揃って自宅に謝りに来ても許したくないくらい。乱暴すぎて同じ小学校に通うと思うと今から不安でいっぱい。

👨保護者2
子どもなんだからケガくらい当たり前元気ならそれでいい。自分の子どもがケガさせられたら「やられたらやりかえせ」と教えているし、謝罪とか親が出ることではない。

👵保護者3
うちの子はわりと手が出るタイプだし、相手の親御さんにも申し訳ないからトラブルがあったら知らせてほしい。やられる分には気にしないけど、ケガをさせてしまったなら謝罪したい。

このように、「どうしてほしいか」は家庭ごとにまったく違うのが現実です。加害者にも丁寧に経緯を説明し、家庭でも振り返ってもらえるよう促していることもあります。

「泣き寝入り」という考え方ではなく、保育園を信頼して任せるという考え方も必要なのではないでしょうか。

保育園の先生と子どもたち

このようなケースは介入が必要! 保護者ができること

ある程度のトラブルは、子どものためにも見守る姿勢が大切です。集団生活の場ですし、成長過程として仕方のない部分もありますよね。

しかし、以下のようなケースは保護者として介入が必要かもしれません。

◆同じ子どもとのトラブルが続く

正直、加害者の名前を知らされていなくても、子どもがある程度話せるようになれば詳細を把握できるようになります。同じお友だちから何度も一方的に被害にあっている様子があれば、保育士への確認・相談が必要です。

◆あきらかに子どもが気にしている

どのようなトラブルでも、子ども本人が気にしていないのであれば保護者が前に出てトラブルを大きくする必要はありません。

しかし、被害にあうことで「保育園に行きたくない」「〇〇くん怖い」などの反応がある場合は問題です。心の傷を癒やすことができるよう、その様子を保育士に伝える必要があるといえるでしょう。

◆保育園が対応していない

トラブルを保育園が把握してくれていなかったり、報告が曖昧だったりする場合も、今後のために確認が必要です。

💬 保護者が確認してよいポイント

・どのような対応をしているか
・相手の保護者にも伝わっているのか
・今後、似たトラブルを防ぐためにどんな工夫をする予定か

トラブル相手についての詳細を聞き出すのではなく、「対応の方針」を丁寧に聞くことに問題はありません。感情的にならず、あくまでも信頼していることを前提とした相談を心がけましょう。

泣いている子ども

***
保育園が加害者の名前を伏せる理由、それは「子どもを守るため」「親どうしのトラブルを防ぐため」です。園で起きたトラブルの責任は園が負い、再発防止に努めています。

また、子どもの責任にしないためにも、加害者の名前を伏せる対応が基本です。これは、

  • 子どもを「加害者」「被害者」とレッテル貼りしないため
  • 親どうしの対立や感情的なトラブルを避けるため
  • 園全体で子どもを守るという姿勢を貫くため

という目的があります。

ただし、被害を受けた保護者として不安になるのは当然のこと。不安なときは一人で抱え込まず、園に相談しながら、「誰かを責める」のではなく「みんなで子どもを守る」という視点で関わっていけるといいですね。