「先取り学習をしても、小学2年生で差がなくなる」――発達心理学の専門家である大宮明子氏はこう指摘します。では、幼児期に本当に伸ばすべき力とは何か。それが「語彙力」です。
研究によれば、幼児期の語彙力が高い子どもほど、小学校以降の学力が伸びることが明らかになっています。国立大学附属幼稚園が文字学習をいっさい行なわず、「遊びを主体とした学び」を重視するのも、この原理に基づいています。
語彙力は、読解力・表現力・思考力すべての土台です。テストの問題文を正確に理解し、自分の考えを論理的に述べる力は、すべて語彙に支えられています。
本記事では、国語辞典の活用法、親子の会話の質、習い事の選び方など、家庭で今日から実践できる「子どもの語彙を豊かにする方法」を、専門家の知見をもとに紹介します。
目次
語彙を豊かにする方法1:国語辞典を活用する
語彙の少なさによって読解力不足に陥った子どもたちは、「登場人物の気持ちを考えて」と言われても、表現できる言葉を知りません。子どもの語彙を増やすうえで大切なのは、「わからない言葉を調べる習慣」を身につけること。そこで国語辞典の活用を提案するのは、文章力養成コーチの松嶋有香氏です。
【国語辞典活用のコツ】
コツ1:わからない言葉に出会ったら、親子で一緒に辞書を引く
「この言葉、どういう意味だろう?」と子どもが疑問をもったタイミングが絶好のチャンス。一緒に辞書を開いて調べる習慣をつけましょう。
コツ2:辞書をリビングに置いて、いつでも手に取れる環境をつくる
本棚の奥にしまわず、ダイニングテーブルやソファの近くなど「目につく場所」に置くのがポイント。気になったらすぐ手に取れる距離に。
コツ3:親自身が調べる姿を見せて、お手本になる
「お母さんもわからないから調べてみるね」と、親が辞書を引く姿を見せることが何より効果的。子どもは大人の行動をよく見ています。
国語辞典を引いて言葉を知る体験は、「わかった!」という快感を伴い、子どもの知的好奇心を刺激します。さらに、「わからないことをそのままにしない」という姿勢は、生きる力そのものにつながります。保護者の方もぜひ、スマホで調べて済ませるのではなく、子どもと一緒に辞書を引く習慣をつけるように心がけましょう。
語彙を豊かにする方法2:日常会話を大切にする
麻布中学・高校の国語教諭である中島克治氏は「語彙力はドリル学習ではなく、日常生活のコミュニケーションで育つ」と述べています。親子の会話では、共通体験のなかで出会った言葉が記憶に残りやすくなるのです。
【日常会話で語彙を増やすコツ】
コツ1:子どもの疑問にすぐ答えず、「調べる体験」に導く
「これ、なに?」と聞かれたとき、すぐに答えを与えるのではなく「なんだろうね、一緒に調べてみようか」と返してみましょう。考える力も同時に育ちます。
コツ2:子どもの言葉を否定せず、まず受け止める
「そんな考え方もあるんだね」「なるほど、そう思ったんだ」と、子どもの言葉をいったん肯定的に受け止めることが大切。安心感が語彙の定着につながります。
コツ3:親子で出来事を振り返り、気持ちを言葉で共有する
「今日はどんなことがあった?」「そのとき、どう思った?」と、一日の出来事や感情を言葉にする習慣をつけましょう。体験と言葉が結びつきます。
日常の何気ないやり取りが、じつは最高の学びの場です。特別な教材や時間を用意しなくても、日々の会話を少し意識するだけで、子どもの語彙は確実に豊かになっていきます。
語彙を豊かにする方法3:具体的な言葉を使う
「あれ」「それ」といった “こそあど言葉” を多用してしまうと、子どもの語彙はなかなか広がりません。前出の大宮氏は、豊かな会話とは「なるべく具体的な言葉を使うこと」だと指摘しています。
【具体的な言葉で語彙を増やすコツ】
コツ1:「あれ」「それ」ではなく、名詞や形容詞を意識して使う
「あれ取って」ではなく「赤い帽子を取って」と言うことで、子どもは「赤い」「帽子」という言葉を自然と覚え、使えるようになります。
コツ2:家のなかの物や状況を具体的に言葉にする習慣をもつ
「これ片付けて」ではなく「絵本を本棚に戻してね」、「いい天気だね」ではなく「青空が広がって気持ちいいね」など、具体的な表現を心がけましょう。
コツ3:子どもの発言を言い換えて「具体的な言葉」で返す
子どもが「あれ欲しい」と言ったら、「ああ、オレンジジュースが飲みたいんだね」と親が具体的な言葉で返すことで、自然と語彙が身につきます。
研究でも「こそあど言葉」が少ない家庭の子どものほうが、学力が高い傾向にあることが明らかになっています。親自身が日常的に具体的で正確な表現を使うことが、子どもの語彙を増やす第一歩です。
語彙を豊かにする方法4:習い事・体験活動を活用する
子どもの語彙力を伸ばすには、体験活動も有効です。大宮氏によれば、習い事をしている子どもは、していない子どもより語彙力が高い傾向にあると言います。その理由は、先生や友だちとのコミュニケーションにあるのだそう。習い事のなかで自然と交わされる言葉は「生きた語彙」として身につきやすいのです。
【体験活動で語彙を増やすコツ】
コツ1:子どもの興味に合った習い事を始める
スポーツ、音楽、アート、知育など、子どもが「やりたい!」と思える活動を選びましょう。大好きな習い事なら、先生や友だちと積極的に話すようになり、語彙力が伸びます。
コツ2:習い事や体験後に「どんなことをした?」と会話する
「今日は習い事でどんなことを教えてもらったの?」「お友だちと一緒にどんなことに取り組んだのかな?」と質問することで、子どもは一生懸命説明してくれます。説明する過程で語彙が定着します。
コツ3:活動で出会った新しい言葉を一緒に辞書で確認する
習い事で「ドリブル」「アンサンブル」「構図」など専門用語に触れたら、帰宅後に一緒に辞書で調べてみましょう。体験と結びついた言葉は記憶に残りやすくなります。
興味深いことに、語彙力の伸びという点では、習い事の種類ではなく、習い事をすること自体に意味があるのだそう。言葉は実際に使わないと身につかないため、子どもが夢中になって先生や友だちとコミュニケーションをとることが、語彙を豊かにする鍵となります。

よくある質問(FAQ)|子どもの語彙力に関する疑問を解決!
Q1. 語彙力は何歳ごろから伸ばせますか?
A. 幼児期から伸ばすことが可能です。3~5歳ごろは「言葉に強い興味をもつ時期」であり、この時期に親子で言葉に触れる習慣をつけると効果的です。
Q2. 辞書よりもスマホで調べるほうが便利では?
A. スマホ検索も有効ですが、国語辞典を自分で引く体験は「調べる力」を養います。言葉を見つける達成感や偶然の発見が、子どもの語彙力を深めます。
Q3. 語彙力を伸ばすには読書が一番ですか?
A. 読書は有効ですが、それだけでは不十分です。読んで終わりではなく「本の内容を話す」「わからない言葉を辞書で調べる」ことで語彙が定着します。
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語彙力は、子どもの学力や表現力だけでなく、コミュニケーション力や自己肯定感にもつながる大切な力です。国語辞典を活用した調べる習慣、親子の会話、具体的な言葉づかい、そして習い事や体験活動など、日常のなかでできる工夫はたくさんあります。小さな積み重ねが子どもの語彙を豊かにし、学びや人間関係をより深く広げてくれるでしょう。
(参考)
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