教育を考える 2025.6.3

子どもの論理的思考力を育てる家庭習慣|親の声かけ・辞書・アート体験で伸ばす「考える力」

編集部
子どもの論理的思考力を育てる家庭習慣|親の声かけ・辞書・アート体験で伸ばす「考える力」

「質問にすぐ答えられない」「なぜそう思うのか説明できない」──子どものそんな様子に、モヤモヤしたことはありませんか?

いま子どもたちに本当に求められているのは、ただ答えを覚える力ではなく、「なぜそう思ったのか」「どう考えたのか」を伝えられる論理的思考力です。論理的思考力は、中学受験や探究型授業などの教育の現場はもちろん、これからの社会で「自分の言葉で考えを発信する力」としても非常に注目されています。

教育専門家5名の意見をもとに、小学生のうちから家庭で育める「論理的思考力」の伸ばし方を丁寧に紹介していきましょう! 辞書を活用したり、親子の会話にひと工夫を加えたり、日常のなかにちょっとしたヒントを取り入れるだけで、子どもの「考える力」はぐんと育ちますよ。

小学生に論理的思考力が必要な理由とは? いま注目される背景

社会の変化にともない、「正しい答えを素早く出すこと」よりも、「自分の考えをもち、それを言葉にして伝えること」が重視されるようになってきました。教育現場でもこの流れは強まり、中学受験では「思考型入試」と呼ばれる記述式・探究型の問題が増えてきています。

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、「論理的思考力こそ、これからの社会で生き抜くための土台」と語り、聖徳学園小学校校長の和田知之氏も「論理的に考える力は、時代に左右されない本質的な学力」と強調します。つまりいまの小学生たちには、暗記だけではなく、「筋道を立てて考える力」が求められているのです。

とはいえ、「論理的思考力ってどう育てればいいの?」「難しい勉強が必要なの?」と、不安になる方もいるかもしれません。でも、難しく考えなくて大丈夫。日々の会話や遊びのなかで、「どうしてそう思ったの?」「どんなふうに考えたの?」と問いかけるだけでも、論理的思考力を育てるトレーニングになります。

次項から、5名の専門家の意見をもとに「家庭でできる論理的思考力の伸ばし方」について解説していきましょう。

論理的思考力を伸ばす02

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家庭で育てる「伝える力」も含めた論理的思考力の伸ばし方【ボーク重子氏】

グローバル社会で活躍するためには、「自分の考えをしっかり伝える力」が求められます。ただ考えるだけではなく、「なぜそう思うのか」を筋道立てて説明する力。それこそが論理的思考力の本質です。

ライフコーチのボーク重子氏は、アメリカの教育現場で重視されている「リベラルアーツ教育」に着目していると言います。リベラルアーツとは、“問いを立て、考え、自分の言葉で表現する” 力を育む教育であり、日本でもこの力がますます重要になってきているのです。

家庭においても、親が子どもの話にじっくり耳を傾けながら、「あなたはどう思う?」「なぜそう考えたの?」と問いかけることで、論理的に伝える力が育まれます。また、一緒にニュースを見て「この問題について、お母さんはこう感じたよ」と意見をシェアするのもおすすめです。親が自分の考えを言葉にする姿を見せることで、子どもも自然と「自分の考えをもつ・伝える」習慣が身につきますよ。

何より大切なのは、子どもが話し始めたら、途中で遮らずに最後まで聞くこと。丁寧に話を聞いてもらった経験は、子どもに「自分の考えを大切にしていいんだ」という安心感を与え、表現力の土台を築きます。

【論理的思考力の伸ばし方】

  • 子どもの話に「それってどういうこと?」と優しく問い返してみる
  • 親子でニュースや本の内容について「あなたはどう思う?」と意見を交わす
  • 夕食後の団らんタイムに、今日の出来事を “理由つき” で話す習慣を

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論理的思考力を伸ばす03

算数で伸ばす論理的思考力|筋道を立てる力の育み方【黒澤俊二氏】

「論理的思考力は、算数からも育てられる」と話すのは、元立教大学特任教授の黒澤俊二氏です。算数と聞くと、「計算が速い」「ひとつの答えを導き出す」ことが重視されがちですが、大切なのは「なぜその答えになるのか」を自分の言葉で説明できること。実際に、文部科学省の指導要領でも、「筋道を立てて考える力」の育成が明確に掲げられています。

そのためにも、親は「どうやって考えたの?」と声をかけ、正解よりもプロセスをに焦点を当ててフィードバックするのが効果的です。「〇〇だから△△という答えを導き出したんだね」と、子どもが答えにたどり着いた過程を理解したうえで、
「考え方を教えてくれてありがとう」「そこに気づけたのはすごいね」と、プロセスを認める声かけを。

たとえ間違っていたとしても、「どこで考えが変わったのかな?」「どうしてそう思ったの?」と一緒に振り返ることで、思考のプロセスを深めることができますよ。

宿題の時間だけでなく、買い物での計算やお金のやりとりなど、日常のなかでも論理的に考える場面は多いもの。親のちょっとした声かけによって、子どもの「考える力」はぐんぐん育っていくでしょう。

【論理的思考力の伸ばし方】

  • 子どもが出した答えに「どうしてそう考えたの?」と理由を聞いてみる
  • 間違いも「いい発見だったね」ととらえて、一緒に考え直す姿勢を大切に
  • 算数の文章題は、一緒に図や表で整理して考えると理解が深まる

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論理的思考力を伸ばす04

5W1Hで論理的思考力を育てる! 家庭でできる会話の工夫【柳沢幸雄氏】

何気ない日常会話のなかにも、論理的思考力を育てるヒントはたくさんあります。北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏がおすすめするのは、子どもとの対話において「5W1H」を意識すること。

5W1Hとは、「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって」という、話を整理するための基本の型です。たとえば、「今日の学校はどうだった?」の問いを、「何をしたの?」「誰と?」「どうしてそれを選んだの?」と深めていくことで、子どもの思考がどんどん整理されていきます。

「どうして?」と聞かれる経験を重ねることで、子どもは自然と「理由を考える」ようになります。さらに、自分の考えをもう一度振り返ることができ、「伝わるように話す」ことの大切さを知るきっかけにもなるでしょう。

忙しい日々のなかでも、夕食時やお風呂の時間など、ちょっとした “会話の時間” を意識的にとってみてください。目を見てうなずきながら聞いてあげるだけでも、子どもは「ちゃんと聞いてもらえている」と感じ、考えを話すことが好きになっていきますよ。

【論理的思考力の伸ばし方】

  • 「何をしたの?」「どうしてそうしたの?」と会話のなかで5W1Hを取り入れる
  • 夕食・朝食時や寝る前など、短くても親子で会話する時間を大切にする
  • 子どもが話し始めたら、目を見て最後まで聞くことを意識して

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小学生の論理的思考力を家庭で育てる! 声かけ・遊び・習慣の工夫【小川大介氏】

「語彙が増えると、思考の幅も広がる」と教育家の小川大介氏が指摘するように、論理的に考える力は「言葉の力」と深くつながっています。

語彙を増やすには、辞書を身近に置いておくのが効果的。子ども部屋ではなく、リビングやダイニングなど、手に取りやすい場所に辞書を置き、日常的に「これはどういう意味かな?」と親子で一緒に調べる時間をもちましょう。テレビを見ていてわからない言葉に出会ったとき、「一緒に調べてみようか」と声をかけることで、言葉への興味が育まれます。

また、ゲームや絵本の読み聞かせのなかでも、「この言葉、初めて聞いたね。どういう意味だろう?」「この登場人物はなぜこうしたのかな?」と問いかけることで、自然と思考が深まっていきますよ。

「うまく話せない……」と感じている子の多くは、語彙の量が少ないことが原因になっているケースも。家庭でのちょっとした言葉のやりとりが、考えを言語化する土台になっていくのです。

【論理的思考力の伸ばし方】

  • リビングに辞書を置いて、わからない言葉はすぐに調べる習慣をつくる
  • 「いまの気持ちを一言で言うと?」など、遊び感覚で言葉への理解を深める
  • 日常の場面で「これはなぜ必要なんだろう?」と親子で問いかけ合う

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子どもの「話す力」はアートで育つ! 論理的思考を伸ばす鑑賞の工夫【三重野一氏】

「論理力」と「感性」は、一見すると正反対に思えるかもしれませんが、じつはアート鑑賞には思考を順序立てて説明する力を育む要素が詰まっています。アート・プロデューサーの三重野一氏が注目するのは「対話型鑑賞(VTS)」という手法です。

VTSでは、絵や作品を見ながら「何を感じたのか」「なぜそう思ったか」を言葉にして伝えることが求められます。そのプロセスのなかで、子どもは自分の考えを整理し、他人に伝えるスキルを自然と身につけていくのです。

「芸術的センスがないから……」と気後れする必要はありません。大切なのは、“正しい答え” ではなく、“自分なりの見方” を言葉にすること。美術館に行かなくても、図鑑や絵本、チラシなど身近なアートを使って、親子で「どこが気になった?」「それはなぜ?」と対話してみましょう。

抽象的で一見難解なアート作品なら、「この絵はどんな人が描いたのかな?」「どんな気持ちを表現したかったのかな?」と考えるヒントを与えてあげるのも◎。思考力だけでなく、表現する楽しさも一緒に育てられますよ。

【論理的思考力の伸ばし方】

  • 芸術に触れる機会を意識的に増やし、親子で芸術鑑賞を楽しむ
  • 家にある絵や図鑑を見ながら「どこが気になった? それはどうして?」と問いかける
  • 感じたことを「3つの理由」で説明するゲームをするなど、自分の考えを順序立てて話す練習をする

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明確な答えがない時代を生きる子どもたち。今後、どんな力が求められているのでしょうか? 「観察力」「推論する力…

よくある質問(FAQ)|論理的思考力の育て方

Q1. 論理的思考力とはどんな力? 子どもに必要なの?

💡 A. 論理的思考力とは、「なぜ?」「どうして?」を考え、筋道を立てて説明できる力。自分の考えを整理し、相手にわかりやすく伝えるためにかかせない力です。
💡 ポイント:
・答えだけでなく「考え方のプロセス」を大事にする
・グローバル社会で求められる「伝える力」の土台になる

Q2. 家庭で論理的思考力を育てるには何をすればいい?

💡 A. 日常のなかで「なぜそう思うの?」「どうしてそうしたの?」と問いかけたり、子どもの話をじっくり聞いたりすることが大切です。
👪 家庭でできること:
・親子の対話を増やす(買い物、料理、ニュースなどが題材に)
・「どう思った?」「なんでそう考えた?」と問い返す習慣をつける
・辞書を引いたり、言葉の意味を一緒に調べる

Q3. 小学生でも論理的思考力は身につく?

💡 A. もちろんです! 特に小学生は、遊びや表現を通じて自然と論理的な思考の土台が育ちます。
🧒 年齢別のヒント:
【低学年】「もし○○だったら?」という仮定の話で会話する
【中学年】読書後に感想を聞く →「なんでそう思ったの?」と深掘り
【高学年】時事問題について意見を聞き合う、ディベート風のやりとり

Q4. 論理的思考力を伸ばす教材や習い事はある?

💡 A. 正解がひとつではない教材や、考えて→発表する機会のある活動が効果的です。
📚 具体例:
【教材】ロジカルシンキングの本、読解力を高めるワーク、図鑑など
【遊び】ボードゲーム(オセロ・将棋・ナインタイルなど)
【習い事】ディスカッション系教室、アート教室、プログラミング教室

Q5. なぜいま、子どもに論理的思考力が求められているの?

💡 A. 知識を覚えるだけでなく、「自分で考えて説明する力」が、これからの社会でますます重要になるからです。
🌏 社会の変化と必要性:
・AIやテクノロジーが進化するなか、「人に伝える力」が差になる
・探究学習やプレゼンの機会が増え、「説明力」が求められる
・海外でも通用する「伝える論理力」はグローバル時代の基礎力

***
論理的思考力は、将来の進学や学力に直結するだけでなく、子どもが自分の頭で考え、自分らしく生きるための土台になります。親のちょっとした声かけや、辞書を使ったり、アートに触れたり、対話を楽しんだり……。そんな日常の工夫が、子どもの「考える力=論理的思考力」を育んでくれるでしょう。

文/野口燈

(参考)
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