「もっと積極的に友だちの輪に入って欲しいのに……」「どうしてちゃんと、あいさつできないの?」などと、なんでも恥ずかしがってしまう内気な自分の子どもに、やきもきする親は少なくありません。
引っ込み思案な子というのは、なぜそんなにも恥ずかしがってしまうのでしょう。今回は、「恥ずかしがり屋」さんの心の中を深く分析しながら、親がとるべき対応策などを紹介します。
「恥ずかしがり屋」とは
精神科医の髙木希奈さんによれば、「恥ずかしがり屋」とは内気で照れ屋な人を指すそうです。「内気」は辞書的な意味でいうと、“おとなしくて遠慮深い、人前でハキハキしない気の弱い性質”。一方の「照れ屋」は、辞書に“すぐ照れる性分の人、はにかみ屋”とあります。
髙木さんいわく、恥ずかしがり屋というのはあくまでも正常な範囲内の性格や気質のひとつであり、精神的な障害ではないとのこと。人の個性のひとつなのです。こうして恥ずかしがり屋の意味を知ると、特に悪いものではないとわかりますね。
とはいえ、我が子が恥ずかしがり屋だと、どうしてもその引っ込み思案でおどおどした様子が気にかかるもの。というわけで、さらに深く恥ずかしがり屋さんを分析してみましょう。
内気な性格は遺伝が3割。残りは……
発達的行動遺伝学を専門とする、キングス・カレッジ・ロンドン教授のタリア・イーリーさんによれば、人が内気(恥ずかしがり屋)な性格になる理由の3割は「遺伝」で、残りは「環境」なのだそう。遺伝子と環境は双方から作用し合っていて、遺伝子がそれだけで内気な性格を決定づけるわけではないのだとか。だからこそ、「内気な性格は変えられる」とイーリーさんは説明します。
その言葉は、発達心理学が専門で聖心女子大学名誉教授の高橋惠子さんによる「遺伝と環境が作用し合えば、生まれ持った気質も変わりうる」という説明に通じます。
高橋さんによれば、赤ちゃんの気質、つまり人が持って生まれる気質は次の4つ。
- いつも機嫌がよいタイプ
- 神経質なタイプ
- 新しいことに取りかかるのに時間がかかるタイプ
- 上の3つすべてをあわせもつタイプ
恥ずかしがり屋で人見知りな子どもは、2番めの「神経質」な気質をもって生まれたことが考えられます。高橋さんいわく、誕生から青年期になるまで追跡し行なわれた大規模な研究により、そのような気質は変化しうることがわかったのだそうです。その理由は、人の発達が「遺伝子」と「経験(体験・しつけ・教育)」の両方で決まるから。
一般に、気質(生まれつきの性質)は変えられないと思われがちです。もちろん「遺伝子」が変わることはありませんが、遺伝に加えて「環境(成長の過程での経験や、そこから生まれた本人の意思も含む)」が作用することで、気質は変化しうるのだと言います。
ということはつまり、恥ずかしがり屋は克服可能だということなのです。
なぜ、そんなに恥ずかしがるの?
ここで、恥ずかしがり屋さんの子どもの “心の中” をのぞいてみることにしましょう。
子どもが恥ずかしがるシチュエーションには、たとえば次のようなものがありますね。
- 人と会っても、恥ずかしくてしっかりあいさつできない
- 発表会など、人前で話すのが恥ずかしい
- 授業で手を挙げて、意見を言うのが恥ずかしい
- 恥ずかしくて、みんなの輪に入っていけない
- 入園・入学直後など環境が新しくなると、自分から話したり遊んだりできない
前出の精神科医・髙木さん、教育コミュニケーション協会代表理事である木暮太一さん、保育士として15年以上保育業務に携わる市川由美子さんらは、子どもがこうした行動をとる原因として、自信が持てず「うまくいくだろうか」と心配になり積極的に行動できないことや、失敗などイヤな経験のせいで「また間違ってしまうのではないか」と不安や恐怖を抱いてしまうことなどを挙げています。また、親があれこれと手出し口出ししすぎるために、「自分は何もできないんだ」という気持ちになって自ら考え行動することをやめてしまう場合もあるのだそう。
つまり、恥ずかしがり屋の子どもの心の中には、「自信がないから、不安だから、怖いから、○○できない」といった気持ちがあるのです。
「恥ずかしがり屋」は悪いことではない
恥ずかしがり屋の子どもの心の中が、自信のなさや、不安と恐怖でいっぱいだとわかりました。こうした感情は、できるだけ和らげてあげたいものですね。
ただし、恥ずかしがり屋を悪いことだと決めつけるのは間違いのようです。最初にお伝えしたように「恥ずかしがり屋は性格のひとつだ」というのもその理由ですが、さらに、恥ずかしがり屋の子を持つ親にとって嬉しくなるような理由もあります。それは、恥ずかしがり屋さんにはいいところもあるというもの。
先に紹介した聖心女子大学名誉教授の高橋さんは、神経質な気質の恥ずかしがり屋の場合、新しい環境が苦手だという性格が不利に働く場面があるとしつつも、その反面、新しい変化に敏感なので、次の点が長所になると述べます。
- 細かいことに気づける
- なんでも慎重に取り組める
たとえば、変化に敏感だからこそ、「元気がない」「嬉しそう」「おもちゃが変わった」というふうに、親や先生、友だち、環境のちょっとした変化に気づくことができます。また、慎重だからこそ、目の前の課題を適当に仕上げるのではなく、失敗しないようじっくり考えながら、丁寧に仕上げていくことができます。
引っ込み思案で消極的なイメージの強い恥ずかしがり屋の子どもでも、これらの長所によって大きな成果をあげうるのです。
「恥ずかしがり屋」の子どもへのOK対応&NG対応
では、これまでの内容を踏まえつつ、専門家のアドバイスを参考に、恥ずかしがり屋の子どもへの対応について紹介します。
1. 子どものタイミングを奪わない
保育士の市川さんによれば、子どもには子どものタイミングがあるのだとか。「さぁ、早くあいさつしなさい」「早くみんなの輪に入りなさい」などと急かしてしまうと、子どもは自分のタイミングを逃してしまうそう。そうなれば、ますます恥ずかしくなってしまいます。親のせっかちな気持ちを抑え、子どものタイミングを待ってあげましょう。
2. 「本当に恥ずかしがり屋ね」などと言わない
教育評論家の親野知可等さんは、「みんなができるのに、なんであなたはできないの?」などと、きょうだいや周囲の子どもたちと比べて叱ることは、絶対に避けるべきだと言います。子どもは親への不信感や、「自分は愛されていない」という感覚を持つようになってしまうそうです。
また、保育士の市川さんは、親が「うちの子は、恥ずかしがり屋なので困ります」などと子どもの前で言ってはいけないと注意を促します。敏感な子どもは、そんな親の言葉にますます自信をなくしてしまうのです。
「できない」「困る」などとネガティブな先入観を植えつけられた子が、恥ずかしがり屋を克服できるわけがありません。ポジティブに「大丈夫」「きっとできる」と声をかけてあげてください。
3. 好きなことに熱中させ、ほめる
市川さんによれば、たとえばお絵かきや、歌、なわとびなど、子どもが得意なもの、好きなことに没頭させることが、恥ずかしがり屋の克服に効果的なのだそう。それを「上手にできたね」とほめるだけでも、子どもの自信はみるみる伸びていくのだとか。その自信に支えられ徐々に行動範囲が広がれば、恥ずかしがらずに行動できるようになるそうですよ。
恥ずかしがり屋の子どもが二の足を踏んでいることを無理やりやらせるよりも、得意なことや好きなことに存分に熱中させてあげましょう。
4. まずはほかの子を眺めるだけでもOK
高橋さんは、恥ずかしがり屋の子は、ほかの子が遊ぶ様子を見ることを目標にするだけでもいいと述べます。子どもというのは、ほかの子どもが何かしているのを見るのが好きなので、たとえば児童館などでの第一歩は“まず眺めるだけ”でもいいとのこと。慣れてきたら、少しずつ他の子たちに近づいていきましょう。
自身も極度の引っ込み思案だったという公認心理師の佐藤めぐみさんも、「恥ずかしがり屋」の子どもは人数が多いほど緊張する傾向があるので、初めは少人数のグループで得意なことをして遊ぶ経験を積むといいとアドバイスします。たとえば小学校に上がる前の子どもなら、最初はママと一緒に遊び、次に同じことが好きな友だちを1人見つけ、そこから2~3人のグループへと広げていく、といった具合です。恥ずかしがり屋は、徐々に克服していけばOKなのだと心得ましょう。
5. 子どもの意見を尊重する
ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さんは、子どもの発言を「へえ、そうなんだ」と認め、なぜそう思ったのか理由を聞いてみることで、子どもの自己肯定感が高まると述べています。
先述のとおり、いつも親が口を出していると、子どもは考えることをやめてしまいます。逆に、自分の考えを尊重してもらえる経験が重なれば、みんなの前でも意見を言えるようになります。「自分の考えを言ってもいい」「どんな意見を言ったって恥ずかしくないんだ」と思えるようになるはずですよ。
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お子さんが恥ずかしがり屋で困っている親御さん、今回ご紹介した「恥ずかしがり屋の克服法」をぜひ参考にしてみてください。恥ずかしがり屋ならではの長所を生かしながら、豊かな個性をもつ子どもに育つといいですね。
(参考)
マイナビウーマン|恥ずかしがり屋の原因と克服法
コトバンク|内気(ウチキ)とは
goo国語辞書|照れ屋(てれや)の意味
BBCニュース|「恥ずかしがりや」を科学する 社交が得意な人、苦手な人
赤ちゃん&子育てインフォ 公益財団法人母子衛生研究会|Q. 2歳の女の子。親と一緒だと陽気にふるまいますが、人の集まる場所が苦手です。 (2016.1)
ベネッセ教育情報サイト|恥ずかしがり屋の子どもへのNG対処法とOK対処法
ベネッセ教育情報サイト|あいさつができない内向的な子ども 「保護者は目をつぶれ」と専門家
All About|子供の恥ずかしがり屋・引っ込み思案な性格を克服・改善する方法
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